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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第六章 フロイライン・ダブルクロス編『Aランク帯 樹怪魔境・裏梢千代市』 第一週
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第151話 中等部一年組、樹怪魔境に遠征する

 体育館での戦闘開始を合図にして、四名の中等部一年生が連絡橋を通って裏梢千代市に入る。

 いちご、おさげ、サンデー、ミロ。夜見ライナの友人たちだ。

 それぞれが攻略難易度D「エダマ演習場」にて鳥型ロボットを召喚できる「バードデコイ」という物をポイント交換でゲットし、従えている。

 ドバトのガワを被った鳥ロボ群だ。現実のものと体高や見た目もほぼ同等。

 立ち止まった少女たちの周囲で餌を探して地面をほじくり返している。


「ねえミロ、このバードデコイがいれば無敵だって言ってたけど、本当なの?」

「ただのハトやん。地面ほじくり返して枯れ草みたいなん食べてるし」

「本当です。夜見さんの情報と、フロイライン・ダブルクロスを運営しているエダマ社が想定していたであろうイベントでの遊び方を考えれば妥当でした」

「どういうことですの?」

「ロボットを倒してポイントを稼ぐ攻略法はブラフ。想定されていた遊び方はエダマ演習場で好みの鳥ロボを選び、C-D部隊演習場でそのロボットを特訓・強化し、裏モードの「樹怪魔境」に持ち込んでクリアするのが正規ルートだったんです」

「「「そうなの!?」」」


 ハモる三人。

 夜見に代わって仮説を立てたミロは、承認欲求が満たされる喜びで少しだけ微笑み、それでも嬉しさを隠しきれずにドヤ顔をした。


「まあ? これでも中等部の中間テストで学年一位なんでこれくらいは分かります」

「「「おおー」」」

「ただ、問題は山積みですよ。フロイライン・ダブルクロスが始まったのは今から三年ほど前ですから。それまで一度も正規攻略されていない」

「つまり三年分の負債が溜まっているんですのね」

「やっと分かったわ! せやから裏梢千代市が荒廃してしまったんやな」

「ちょっとー、私を差し置いて勝手に納得してんじゃないわよ。説明してくれる?」


 いやなんとなくで分かるやん、というおさげの不服そうな顔を見て、いちごは背後を指差す。そこには緑陣営のドローンが飛んでいた。視聴者がいるという暗示だ。

 おさげはため息をつく。その上で毒づいた。


「魔法少女は梢千代テーマパークのキャラクターやないでー!」

「本質情報ね」

「ですわ」


 それぞれマジタブを開き、エモーショナル茶道部専用のSNSで共有する。

 部員の総数に当たる1800エモいねがついてバズった。


「これで総意ね」

「平穏という停滞に不満を感じるのは人間のサガやしな」

「皆さん、話の途中ですが樹怪獣です」


「GRUUU……」

 そしてタイミングが良いのか悪いのか、夜見ライナが初配信で出会ったのと同じタイプの樹怪獣が一体だけ現れ、少女たちの侵入を阻む。


「たかが一体? 私たちも舐められたものね」

「夜見さんの活躍が目覚ましいから仕方ないですが、これは流石に……」


 久しぶりの出番を甘く見積もられたものだと彼女たちはいきどおる。

 梢千代市に魔法少女が集まっているのは「強くなるため」であって、聖ソレイユ女学院も「現場で指揮を取れる魔法少女を育成する」ために設立された学校だ。

 ファンや一般人と触れ合い、応援してもらうのが目的ではない。

 しかし、魔法少女ランキングで判断されるのは「魔法力」「学力」「人気度」の三つのみ。実戦での「戦闘力」は加味されないのだ。

 そのルールの抜け穴を利用してランキング上位に駆け上がり、認知度と影響力を得る三流どころか無能のゴミが大勢いて、現場で大量の犠牲者を出している。

 真面目に世界平和を考え、日々勉学と訓練に励んでいる自分たちがバカにされているようで、聖ソレイユ女学院に通う彼女たちは我慢ならないのだ。

 さらに彼女たちのマジタブには、高等部生徒会風紀部の「州柿井鶴」からのコメントが表示される。


『越えちゃいけないラインが私たちのスタートラインだよ♡ まずは存分に怒り狂え。愛に目覚めるのはその後でいい。イメージは後から作れる』


 魔法少女にあるまじき言動だが、そのために作られたSNSだ。

 善人すぎて使い潰された、他人に成果を横取りされた、会社を買収されて乗っ取られた……最後には会社の不祥事を押し付けられて一族郎党死ぬしかなくなった絶望を、彼女たちは親兄弟を通して味わったことがある。

 そういった、人間の力ではどうしようもない現代社会の業が生み出す、ありとあらゆる理不尽から救うために手を差し伸べてくれるのが魔法少女なのだ。

 背負うものの重みを知り、我慢の枷から解き放たれた少女たちは揺らがない。


「バードデコイ!」

『クルッポー!』

「GA!?」


 指示を受けた瞬間、ドバト型のロボ群は野生を取り戻す。

 樹怪獣を「餌」として認識し、金属製の鋭い足爪で襲いかかったかと思うと、クチバシを使ってまずは危険な部位である首を落とし、生きたまま捕食し始めた。


「GA、A」


 樹怪獣は捕食の意味を知らない。

 意味もなくバトルデコイを食べ、マズいから吐き出し、代わりに美味しい土と水を飲んで日光を浴びて過ごしてきた。

 負ける時はいつも、自身がどうしてマズくて固い小さなものどもに囲まれて、自身の肉を啄まれて死ぬのか、意味も分からずに生涯を終える。

 これは理由なく人を殺す悪人と、復讐する弱者の構図に当てはまる。

 怪人と人間の価値観はこれほどまでに違うのだと中等部一年組は知っていた。


「まずは一体」

「この調子で裏梢千代市に溜まった負債を返済しますわよ」


 急に懐き始めたドバトロボを、肩や頭に乗せながら怪獣退治に乗り出す四人。

 中等部一年組が夜見ライナと合流するのはそのあとだ。

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