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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第六章 フロイライン・ダブルクロス編『Aランク帯 樹怪魔境・裏梢千代市』 第一週
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第149話 おじさん、遠井上家で日常を味わう

 それから一晩明けた朝。

 寝起きの私は、遠井上家の自室で寝癖直しをしながら下着の選定だったり、気分を入れ替えるために髪型を変えようか、などと考えているとドアをノックされる。


 コンコン。

『ライナ様、執事の佐飛でございます。お時間はございますかな?』

「あ、はーい。今行きまーす」


 ドアを開けると執事服(タキシード)を新調した佐飛さんがいた。


「わ、タキシードを新調したんですねー」

「ふう、ようやく遠井上家のお方に分かっていただけました。ライナ様の目が肥えたようで何よりでございます」

「いえいえ。それでどういったご用事で」

「梢千代市の外の状況について話しておきたいと思いましてな」

「何か大事件が?」

「いえ、散発的に発生していた悪魔絡みの事件が、長野県に向けて一極集中し始めました。おそらくは……」

「新たな頭領が生まれた、もしくは生まれるかもしれないということですか」

「そうでございます。ところでライナ様、何かSNSはお使いになられておりますか?」

「ええと……」


 マジスタのことだろうか、それとも世間一般で使われているツイッター、いや今はエックスだったかと考えていると、佐飛さんは折りたたみ式携帯を取り出した。

 ポチポチとボタン操作で一つのサイトを表示する。


「エモーショナル茶道部のサイトにコミュニティー機能が追加されましたぞ」

「わあ凄い……会員制掲示板だ」


 私も自分のピンクマジタブを取り出し、サイトにアクセスした。

 ミニブログ型SNSを作れるオープンソースソフトウェアを使用し、エモ茶道部の部員になった子は誰でも楽しめるフリートーク広場になっている。

 会話に混ざることが苦手な子も「エモいね」ボタンで同意することが可能だ。

 サイトトップには部長であるいちごちゃんのコメントがあり、


「怖い人の集まるインターネットから自分たちの身を守るために作ったエモーショナル茶道部専用のSNSです。優しい子には優しく、厳しい子には厳しく運営します」


 と作成経緯と運営理念が書かれている。

 アナログで藻掻いていた私よりも、遥かに先を見据えた行動をしていたのか。

 自分がいかに中等部一年組を子供扱いしていたか思い知らされる。

 木っ端のIT企業でインターネットの過渡期や黎明期を過ごしてきた私と違い、彼女たちはデジタルネイティブ世代。

 正しさの中心が「自分第一」だと分かっていた。


「はあぁ、自分がいかにダメダメで時代遅れな人間か思い知らされます……」

「ようやくお気づきになられましたかな?」

「はい」


 言い訳もせずにしょぼんとする。

 完全に自分の目が節穴だったからだ。

 分かりやすく言うなら、私は遠回りかもだけど簡単なルートがあるよと教えてくれる仲間が近くにいるのに、話も聞かずに最短ルートを突き進んでいた。

 結果的に断崖絶壁のような人生の壁にぶち当たり、途方もない時間を浪費した。

 それだけの時間を掛けて得られた経験則は、簡単なルートを進んだ仲間と同じ位置に立てただけ。夜見治は本当に無意味だった。

 だから佐飛さんは「目が曇っている、耳を使え」と称したのだ。


「反省です。私の頑張りは無意味でした」

「ふむ、どうしてそのようなことをおっしゃられるのですかな?」

「え?」

「よく思い返してくださいませ。ライナ様は常人には不可能な道のりを歩みきったのです。その答えが「こっちはとても大変で、とても頑張らなくてはいけない道」と判明したのですから、それは世紀の大発見でございますぞ」

「そう、ですかね?」

「そうでございます。自分と同じ苦難の道を歩める者は、今後誰一人として存在しない。自分は唯一の人間。そうお考えになられるとよいとこの佐飛は思います」

「あはは、私ってば第一人者だ……」


 佐飛さんにフォローを入れられて、えへへと照れる。

 ちょっと都合のいい解釈かもだけど、頑張ったんだから自信を持っていいんだ。

 私という人間がようやく一歩、大人のレディに近づいたのが分かった。


「ともかく、ライナ様は再び始発点にたどり着いたところです。これからですぞ」

「心機一転がんばります」

「いい心がけです。では、師匠として新たな言葉を与えましょう」

「はい!」

「友との交友をさらに深めなされ。ライナ様の身近にいるご学友の方々はとても優秀です。自分にない物を学び、友に無い物を自分が与え、一生の友を得るとよいかと」

「分かりました! もっと仲良くします!」

「遙華様とともに応援しております。では、こちらを」


 佐飛さんが懐から取り出したのは、紫の巻物。

 ポンと手渡される。


「これは?」

「口寄せの巻物でございます。口寄せの技法を学ばれたと知り、お作り致しました」

「わあ……」


 そう言えば佐飛さんって忍者だった……


「これは何が出来るんですか?」

「今は十二月中旬。ライナ様に騎士爵が授けられることが決まったのは九月初旬で、肝心の七光華族会議まであと二ヶ月ほど。それまでに光の国ソレイユに訪れたことがないとあっては、遠井上家の名折れでございます」

「つまり?」

「巻物はただの通行許可証(パスポート)でございます。春休みは光の国ソレイユへ旅行に行きますぞ。異国情緒を楽しみましょう」

「やったー!」


 嬉しくてぴょんぴょんと子供っぽく跳ねた。

 それではお楽しみに、とその場を去る佐飛さんを見送り、私は元気ルンルンで朝の支度を終え、久しぶりに勢ぞろいした遠井上家の家族みんなで朝食を食べる。

 朝の会話は旅行という共通の話題で盛り上がり、とても楽しかった。


「ごちそうさま! 行ってきまーす!」

「いってらっしあーい!」


 美味しいロールパンをもぐもぐ頬張る遙華ちゃん、普段と変わらず落ち着いた雰囲気の願叶さん、凪沙さんに見送られて自室に戻り、女学院直通のドアで登校する。

 登校に時間がかからないって楽だなぁ。


『あ、僕はここでいいモル』

「分かりました」


 ペットケースに入ったままのダント氏を寮の自室に残し、一足で十数万円もするオーダーメイドのローファーを履いて寮を出た。

 朝の聖ソレイユ女学院・更衣室棟の廊下は、それぞれの朝のルーティーンを行う女学生で溢れている。

 あとそれぞれが付けている香水とか、部屋のいい香りが混ざって鼻がもげそう。

 私は頑張って耐えながら廊下の合間を縫うように進み、教室を目指した。

 そして到着し、黒髪の美少女――いちごちゃんの姿が見えたので、抱きつく。


「わーいちごちゃーん」

「ふええ!? なになになになになに!?」

「我慢しないことにしました」

「そ、そうなの? 良く分かんないけど、夜見が積極的で嬉しい」


 彼女は困惑するも、優しく受け入れてくれた。

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