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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・急章
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第128話 『開幕』

 夜見ライナが第一実技試験「的あて」に挑もうとする時。

 とある敵役(ヴィラン)の物語は動き始める。



「いつ来るかなァ、プリティコスモス」


 「C-D部隊駐屯地」のとある一角。崩落したビルの下で。

 一体の怪人ボンノーンが瓦礫の山に暇そうに座っていた。

 個体名は越前後矢。

 朔上警備隊とアームズの追跡捜査から逃れるため、保身のために仲間の怪人を切り捨て、裏切り、騙し討ちし。

 ()()の死体までも偽装して生き延びた彼は、コキコキと首を鳴らす。


「あー、仲間も部下も散々奪われたが……今の俺は気分がいいから許してやるよ。賢人どもがどう足掻こうとも、ここで俺を殺せないと詰みだからな」


 すると彼の足元から風が吹く。

 彼がじっと待機している場所は、梢千代市と聖ソレイユ女学院を繋ぐ地下鉄道――梢千代トンネルの真上に位置しているのだ。

 気分次第でいつでも崩落させられる地面を見ながら、彼はニヤリとほくそ笑む。


「俺に生徒の命を握られてる気分はどうだ、ソレイユの賢人ども。ええ?」



(ッ、越前後矢ぁ……!)


 それより少し前の時刻。

 彼の居場所と思惑を感じ取ったZ組の長谷川先生は恐怖に震える。

 彼女は賢人だ。千里眼を極めた魔女であり、聖ソレイユ女学院の先生でもある。

 平凡で軒並みだと自分で言っているし、職員の間でもそういう扱いを受けている彼女だが、察知能力だけは一級品。

 夜見ライナを魔法少女試験にむりやりねじ込んだのも、これと同種の嫌な予感がしたからであった。


(ま、まずい……! 何とか解決しないと……! 生徒に危険を伝えなきゃ……!)


 今は筆記試験を初めてから三十分ほど経過したタイミング。

 慌てて教室を眺め、伝えるべき生徒を探る。

 その時点で、中等部一年組の五人全員が情報の問題用紙の裏に書かれた魔法陣に気づいていた。

 特に一名――夜見ライナは魔法陣を解読したのだろう、裏チャンネルへの行き方を実践している。

 嬉しさで少しだけ口角が浮かぶのを感じた。


(さ、さすがは中等部一年組でもトップクラス! じゃ、じゃあ……)


 先生は夜見ライナにテレパシーを送る。まずは褒めるところから。


『夜見さーん、長谷川先生です』

『わ、先生?』

『よく気づけましたね。とっても偉いです。100pt加点!――』

『わあー』


(よ、よし。つかみはいい! このまま実技試験に誘導しつつ、他の子も解読出来るようネタバラシしてもらって……!)


『じゃあさっそくですけど実技試験を始めますので、まずは手を挙げて静かに退室してくださいねー。あ、クラスのみんなにはまだ内緒ですよー? 教えていいのは退出した人だけですからねー?』


 しかしこの一手が致命的な認識のズレを生んだ。


『はーい』


 夜見ライナは言われた通りに挙手をする。

 うんうん、偉い子だ。

 前フリもちゃんと出したし、バラす役目をこなしてくれるだろ――


「どうぞー」

「――(静かに立ち上がる夜見ライナ)」


(……ん?)


 スッ、サッサ――

「――(そのまま無言で教室の出入り口に向かう)」


(!?!?!?!?!?!?)


 気づいた時には遅かった。

 夜見ライナは一言も発さず教室の外に出てしまう。

 ここまで生真面目な生徒とは思わなかったのだ。


 コロロロ、パタン。

「あ、あ」

 教室のドアが閉じた瞬間に、先生の脳裏にこの世の終わりがよぎる。

 何もかもが崩れ落ちて壊れてしまう地獄絵図だった。

 視界が闇に閉ざされ、心に絶望が満ちていく。


 バタッ、コトコト。

「せんせー、その看板ってなんですかー?」

「えっ!?」


 そこでありえないはずの声を聞いた。

 目の前にいたのはストロベリーの髪留めを付けた黒髪の女の子。

 ふと足元を見てみれば、看板を持ったまま気絶している自分の姿が見える。

 あまりのショックに、自身ともっとも血縁の近い生徒を心理領域に呼び込んでしまったようだ。

 ……天は彼女に味方した。

 そしてもう他に方法がないので、先生は預言者として振る舞う。


「……ど、どうやら君は魔法陣の完全解読に成功し、先生の心理領域に入れたようだね。これはとても凄いことだよ」

「そうなんですか!?」

「ああ。だから君に魔法少女が目指すべき真の使命を伝える。魔法少女プリティコスモスにすら出来ない大偉業だ」

「わ、私に!?」

「まずは君の名前を教えて欲しい」

「私の名前は――」


 あだ名はいちご。本名は黒瀬玲香。

 魔法少女フォーチュンクッキー。

 偶然か、運命か。彼女に世界の命運が託された。



 一方その頃、夜見ライナは第一試験「的あて」を開始。

 ファンとわーきゃー言いながら飛び回る風船を追いかけていた。

 遊んでいるわけではない。

 いちごちゃんが先生から使命を受ける瞬間を今か今かと待っている。

 全て聖獣ダントの作ったスケジュール通りだ。


「ダントさんこれでいいんですよね?」

「そうモル。もう少しだけまだ待つモル」

「分かりました。まてー!」


 実はモルモットの聖獣ダントは、夜見ライナのエモ力を借りた斬鬼丸の行動――世界を救った余波により、「起こりうる未来の可能性」の全てを把握させられている。

 その中でも特に重要な、薄氷の上を歩くように可能性の光を辿る人物。

 夜見ライナと対になる「人間の限界」を突き詰めたような魔法少女――黒瀬玲香に「天才」のお手本を見せなければならないのだ。


 そうすることで黒瀬玲香に「焦り」が生まれ、たどり着くべき未来に近づける。


 ゲンさんや先輩聖獣との話し合いでそのことに気づいた彼は、スケジュールを組み上げることで、少しだけ強引に物語を動かすことにした。


(最初の種は撒いたモル。うう、僕だけやる事が多くて辛いモル……)


 しかし、半分くらいは自業自得なので彼に拒否権はない。

 願うべきは「最初の終着駅」への早い到着。

 そこは可能性が収束し、休息の取れるポイントとなる。


「ダントさん、なんだか辛そうですね。無理してませんか?」

「今さらモルよ」

「まあたしかにそうですけど」


 今は、ひたすらに我慢。仕事だから。

 黒瀬玲香が教室を飛び出たのはそれから一分にも満たないタイミングだ。

 彼女が中庭に現れた瞬間から、再び夜見ライナの視点によって物語は紡がれる。

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[一言] 限界社畜聖樹獣ダントさん。
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