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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・破章
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第123話 おじさん、裏梢千代市で買い物する

 ガタンゴトン、ガタン――

 電車が地下を通り抜け、地上に出る。朝日が温かい。

 ヒトミちゃんも撫でられているうちに落ち着いたのだろう、私の膝に頭を乗せたまま、すうすうと寝息を立て始めている。

 だから「ここしかない」と思い、私は勇気を振り絞った。


「――その、州柿先輩」

「ん、何?」

「赤城家が私を嫁入りさせるために夜見治……おじさんを殺したんですか?」

「え? あ、いや違う。それはまた別件。詳しく言うとね?」

「はい」


 先輩曰く、当時の赤城先輩はほぼ引退状態だった。

 生徒会の会計職も降り、卒業するまで転校しながら東京を彷徨っていた。

 そんなある日。たまたま訪れた公園で悪人に立ち向かう私の姿に感動して、再び聖ソレイユ女学院に復帰する勇気が湧き、ついでに結婚したくなったそうだ。

 どうやら私の生死とは関係ない話らしい。


「なんだ、そういうことでしたか。早とちりしました」

「ごめん勘違いさせちゃった。お詫びにパフェ奢るから許して♡」

「パフェ……あ、前に奢ってくれる約束してましたよね?」

「大丈夫分かってる♡ 別々の味のパフェを頼んでぇ、食べ合いっこすれば二つ♡」

「はあ、州柿先輩……」


 私は大きなため息をついた。感動したのだ。


「天才ですね」

「でしょ? いろんな味を楽しみたいけど、一個丸々食べるの大変じゃない?」

「めちゃくちゃ分かります。すぐお腹いっぱいになっちゃいますよね」

「分かってくれる!? やっぱ夜見ちゃんは心の友~!」


 意見が一致した私たちはヒシッと抱き合う。

 実は、女の子になってから少食気味で困っていたのだ。

 今では醤油ラーメン一杯食べきるのでも一苦労。

 前にダント氏が立てた「固有魔法中に食事すればずっと加速できる」理論も、「私の胃の容量が小さいから無理」で結論づいてしまい、途方に暮れた記憶がある。

 全部休学中の話だ。


「こういう悩みってなかなか言い出しづらいですよね」

「うんうん。私もごめん少食なの~って言ったら裏掲示板で「ぶりっ子」「胃がザコ」とか書かれたことある。体質なのに酷いよね!?」

「ね。とっても酷い人たちです。そう言えばなんですけど」

「何? どしたの?」

「ずっと気になってたんですが、その、裏掲示板って何なんでしょう?」

「わ、知らないんだ。フィトンチッドっていう匿名の掲示板サイト。通称は森」

「森」


 ◯ちゃんねるとか壺とかではないんだ。ちょっと安心する。


「命名の由来は草原に咲くひまわりの対義語だかららしいよ」

「へえー」

「気になるならURL教えよっか?」

「えー? 風紀委員なのにそんなことしていいんですかー?」

「ふふ、いいこと教えてあげる♡」

「はい」

「掲示板でイキってるアンチこと私怨霊(ファンデット)はね、パッショントーカーっていう指輪型の特殊なアイテムで「アンチドート」っていう怪人体として呼び出すことが出来るの♤ この意味は分かるよね?」

「……な、なるほど!」


 ハッとした私は、手をぽんと叩いた。


「呼び出したアンチ怪人を倒せばスッキリするし、シャインジュエルが稼げる!」

「そういうこと♡ 裏掲示板は誹謗中傷で心が折れるリスクがあるけど、立ち直ってアンチをボコればシャインジュエルを稼げて気分もスッキリする一石二鳥の場♤ バトルは配信映えもするし一石三鳥♡ バズれば加賀百万石♡ 積極的に活用してね♡」

「なんだか急にインターネットの闇に触れたくなってきました!」


 そうと決まればとURLを聞く。

 州柿先輩は手書きのメモで渡してくれた。丸文字が可愛い。

 でも、どうやら学校支給のマジタブはIP規制されていてアクセス出来ないらしい。

 ダント氏もそれに困っていたようだ。私も納得してうなずく。


「だから州柿先輩の力を借りたかったんですね」

「そうモル。夜見さん」

「は、はい!」

「これから裏梢千代市で新しいマジタブを買ってもらうモル。スケジュール通りの本格的な活動を始めるのはそれからモル。いいモルね?」

「当然です。悪い人は悪い場所にしかいませんからね。浄化しなきゃいけません」

「わ、現金な性格なんだ♡ そういうとこも好き♡」

「秒で五億稼ぎたい、そんな理由があります」


 リズールさんは明確な悪役(ヴィラン)になるために橋を崩落させるような人だ。

 借りた金を帰さなければ、どうなるかわかったことではない。

 ……それにだ。中等部一年組のみんなにこのことを伝えれば、エモーショナル茶道部としての活動方針も決まるし、私以外の部員も魔法少女試験にも合格しやすくなるし、何よりマジカルスポーツチャンバラでの勝負を挑む理由になる。


 他にも、梢千代市を滅ぼそうとするファンデット連合軍への対策とか、あの撤退から一度も発見報告がないボンノーン越前後夜への対策とか。

 兎にも角にもシャインジュエル、つまりは金が必要な問題が多いのだ。


「……! そういうことだったんですね」

「何モル?」


 ああ、だからだろう。

 リズールさんが王道でも覇道でもなく、魔導に従えと強く言っていたのは。


「もう少し早く、身近な闇に興味を持つべきでした。導きはそこにあった」

「何の話モル?」

「いえ何も。マジタブってどこで買えるんですか?」

「そのことモルけど――」


 ダント氏から話を聞く。向かう場所は裏だけにある「ジーニアス」という電気屋。

 どうやらシャインジュエルでのみ購入出来るらしい。

 値段はエモ力換算で一万エモほど。円換算で一兆円。ぶっ飛んだ価格設定だ。

 他にも私の強化アイテムとして、エモーショナルクラフトと呼ばれるものを買いたいとのこと。理由は分かりやすく「配信・SNS映え」するから。


「本格的に配信に備えてますねえ」

「今はこの世の全てがインターネットに集まる時代モル。ネットを断ったままじゃ、プリティコスモスの人気にも限界が来るモル。積極的な配信活動は大事モル」

「そうですね、アンチ退治配信をしっかり頑張らないといけませんね」


 キキー。プシュルルルル――ピー、ガタン。

『梢千代市、梢千代市です。出口は左側です。足元に――』

「わ、着きましたね」

 タイミングよく電車も止まった。

 ドアが開き、紺腕章を付けた上級生たちが一斉に降り始める。

 私たちも降りなければ。


「おーい、ヒトミちゃーん」

「むにゃ……」

「起きてくださーい。出発しますよー?」

『はいな~!』

「え?」


 一向に目を覚まさないヒトミちゃんを起こそうとすると、彼女の影から「ぽんきち」というタヌキの聖獣(ダント氏の後輩)が顔を覗かせた。


「おはようございまするダント殿!」

「ぽんすけくんおはようモル。ヒトミちゃんを夜見さんの影に移してくれるモル?」

「え?」

「お安い御用です! せいやっ!」

「うわあああ!?」


 ぽんきちさんはぐっすり熟睡モードのヒトミちゃんを両手で掴み、私の影にズルズルっと引きずり込んだ。

 チャポン、と音を立てて静かになる。ちょっと不安。


「うわー……だ、大丈夫なんですかね?」

「目が覚めたら勝手に出てくるモル。それより今はマジタブ購入が第一モル」

「! そうでした、アンチ退治配信しないと――」

「話はそこまで♡ 早く降りて♡ そろそろ背中が痛い♤」

「あ、はい! ごめんなさい!」


 急いで電車を降り、改札を出て、裏梢千代市に入る。

 自動ドアを物理的に止めてくれていた州柿先輩には感謝だ。

 風景は表の梢千代市と変わりない感じだったけど、どことなく古びた感じがする。

 古都っぽい雰囲気という意味ではなく、戦闘後という感じ。廃墟があるし。


「ここで何があったんでしょう?」

「逆。何もないから、が正しい。手入れされてないから朽ちていってるだけ。表が華やかになればなるほど、裏は忘れられて朽ちていく」

「悲しい世界……」


 表と裏、二つの世界観(チャンネル)の違いはこうして出るのか。

 ちなみに電気屋「ジーニアス」は駅から五分の場所にあった。二階建ての建物。

 入り口のある一階付近は紺陣営の上級生たちで賑わっている。

 人気の理由はカプセルガチャだ。景品は……ドラゴンキーホルダー。お土産?


「裏の世界は気になるものが多いなあ……」

「今回はマジタブとエモーショナルクラフトの購入だけモル。観光は後日モル」

「は、はい!」


 人流に身を任せて入店し、カウンターで呼び鈴を押す。

 出てきたのはエダマ演習場で見た青い鳥型ロボットで、ダント氏がマジタブ(ピンク色)を購入したい旨を伝えると、タブレットを取り出し、電子契約書を表示した。

 クチバシだけで器用だなあ。

 ダント氏は料金一万エモを一括で支払い、サインする。

 すると鳥型ロボットはカウンター下から丁寧に梱包されたマジタブを取り出した。


『新しいマジタブだっピ』

「喋った!?」

「この定型文だけは言えるんだ♡ この鳥ちゃん」

「へえ、可愛いですね」


 続いてダント氏はエモーショナルクラフトを購入したい旨を伝える。

 鳥ロボはタブレットを操作し、別の電子契約書を表示した。

 今度は料金八万エモ(日本円で八兆円。とんでもない金額だ)を支払い、契約書にサインすると、USBメモリーのようなものを渡される。


『新しいマジタブだっピ』

「あ、これもマジタブなんだ……」

「この定型文だけは言えるの、この定型文だけは」


 だからかマジタブ鳥――略してマジ鳥くんと呼ばれているらしい。

 みんなに愛されているようだ。

 人生に余裕が出来たらUIと言語を解析してアップデートしてあげたい、なんとなくそう思った。ダント氏は購入品をすべてポーチに収納する。


「よし、僕の用事は済んだモル。州柿先輩さんどうぞモル」

「りょーかい♡ ねえ夜見ちゃん、パフェはまた今度食べる感じでいい?」

「あ、はい。先輩に任せます」

「決まりだね。エモ技研に帰るよ♡」


 梢千代駅に戻り、電車に乗ってエモ技研に帰る。

 車内で「あっちは特別に強い魔法少女が特訓する場所」だったと思い出し、真意を問いただしたけれど、「それは高等部になってからの話だね♡ 夜見ちゃんはまだまだ雑魚♡ ざこざこざーこ♡ 私と特訓しようなんて百万光年早い♡」と煽られた。


「むう」

「……ま、本当は終わったからだけど」

「何か言いました?」

「夜見ちゃん、魔法少女は恋をすると強くなるからね。覚えておくように」

「ああ、はい」


 その「恋」とはどういう意味なんだろうか。説明してほしい。

 女学院で電車を降り、口寄せの技法で表のチャンネルに戻ったあと。

 エモ技研の外に出た私は、「また遊ぼうね♡」と楽しそうに去っていく州柿先輩の後ろ姿を見ながらそう思った。


「恋か。恋ってなんでしょうね」

「命モル」

「やっぱりグッター線?」

「ゲ、だモル。それより――」

「はいはい?」


 現在の時刻は午前八時。

 ダント氏曰く「今日はクラス替えの日」らしいので、Z組の教室に向かう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 設定的にいうと、ジェダイ(スターウォーズ)みたいな禁欲生活するか、央華封神TRPGの道士(プレイヤー)みたいに悪業(あくごう)を清徳(せいとく)に変えながら天地と共に生きる生活しないといけな…
[一言] タイラントシルフ(作者:ペンギンフレーム)みたいに黒心炉(不幸をエネルギーにするシステム)持ちの魔法少女がいたらどうなるのでしょうね?
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