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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・破章
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第116話 新機能『エクステンション』実装

 ざわざわ……

 東京湾を見ながら、困ったね、どうしようと途方に暮れる女学生たち。

 それは私も同じだった。

 体育座りで海の向こうの梢千代市を見つめている。

 気持ちの整理がつくまでしばらく動けない。


「あの日の夜見さんもこんな感じだったモルね」

「魔法少女って辛いなあ」

「そうでもないモル。いいニュースもあるモルよ。ほら」


 ダント氏が見せてくれたのは、聖ソレイユ女学院からのお知らせメッセージ。

 内容を分かりやすく言うと「全寮制に移行した理由」の説明だ。

 梢千代市にボンノーンやダークライの敵幹部が現れたことに強い危機感を持ったらしく、治安が改善されるまで全ての国との国交を断絶するとのこと。約三年。

 まあ誰だってそうするだろう。

 ただ、ダント氏が強調したのはその次の情報だった。


「エモーショナルシステム――マジカルステッキの大規模アップデート……機能拡張(エクステンション)の追加?」

「そうモル。現行のエモーショナルシステム、つまりマジカルステッキのことモルけど、ブラックボックス化していた内部構造がついに判明して、どうやらエモーショナルエネルギーの大容量蓄積装置が中に――」

「すみません一行でお願いできますか」

「マジカルステッキにエモ力の貯まった乾電池が入っていたと判明したモル」

「ステッキに乾電池が入ってたんですか」


 言葉に釣られてマジカルステッキを見る。

 本格的に玩具じみてきたなぁ。


「ということは、どうすればいいんでしょうか?」

「真ん中のボタンを押しながらマジカルステッキの柄を先端に向けて強く押すモル」

「こうかな。えいっ」


 カシャンとステッキの蕾が開いて、ピンクの花が咲いた。

 中央には雌しべがあり、周囲は十一本の雄しべで覆われている。その中にプラスチックのような感触の白い雄しべ――ダント氏曰く絶縁シート(まるで縁切りの暗喩みたいだ)が刺さっていた。


「これを抜くんですね」

「先に諸注意を言うモル。どうやら絶縁シートを抜くと、電池に溜まっているエモ力により強い自信が生まれ、闘争心が高まるらしいモル。覚悟はいいモル?」

「とっくの昔に出来てますよ」


 私は絶縁シートを指でつまむ。

 軽く引くと、今までの出来事が走馬灯のように浮かんだ。

 梢千代市に来る前の報われない人生、魔法少女になった喜び、なるために背負った哀しみ。聖ソレイユ女学院に通うことを決めた決意。

 魔法少女のみんなと競い合えると、大人ながらにワクワクとした童心。


 そしてシートを引き抜いた瞬間――ああ、これだよと。

 私の心の歯車が、かちりと音を立てて動き始めた。

 ずっと足りなかった私というパズル、その最後のピース。闘争心。


 本当は誰よりも強く、賢く、優秀な人間になりたかった少年時代が、長い年月を過ぎて戻ってきた気がする。今度こそ上手くやろうと。

 同時に、私の青い瞳からツウ、と一筋の涙が流れ落ちた。


「夜見さんが泣いちゃったモル」

「あはは、違います。年甲斐もなく興奮してるだけです」

「十三歳なのにモル?」

「そうでした。てへ」


 ダント氏と軽い冗談を交え、次はどうしようかなと立ち上がる。

 闘争心が強まった影響なのか、周りにいる女の子たちがとても魅力的に見えて仕方がない。

 ふと気になって触れた前髪の一部は、ピンクから紫色になっていた。


「まさにエクステだ」

「おーい夜見ちゃーん」

「!」


 呼びかけられて振り向く。赤城先輩だ。

 サラサラとした黒髪を潮風になびかせる、モデル顔負けの美人黒マスク女子高生は、その黄色い瞳を驚愕で見開いたかと思うとニッコリ笑った。


「なんかいい目になってるじゃん。どしたの?」

「ステッキの絶縁シートを抜いたら元気になりました!」

「マジ? エモ電池のパワーすごいね」


 ――いや、彼女たちは最初から魅力的だったのだ。

 聖ソレイユ女学院は日本屈指の美少女率を誇っている。数値にして驚愕の100%。

 私の審美眼は現代社会の闇にずいぶんと曇らされていたらしい。


「早くみんなと競い合いたいです!」

「めっちゃおもろ。とりま記念にツーショット写真撮ろーよ」

「はい!」


 写真を撮る。中の私は普段の三倍は元気いっぱいだった。

 これは私だけのやつと赤城先輩は「大切なもの」フォルダーに入れた。

 さてさて、と先輩は言う。


「これで試用期間(チュートリアル)は終わりって感じだね」

「まだ本番じゃなかったんですか?」

「うん。これから実戦に向けた本格的な訓練が始まるよ。聖ソレイユ女学院が全寮制になったのも、マジカルステッキの安全装置を外したのも、ぜんぶ計画どおり」

「誰のですか?」

「ではヒントをあげよう。ソレイユとはお日様のこと。光の国は正しい国ってこと。じゃあ、正しいお日様の国ってなーんだ?」


 赤城先輩は指を立てた。

 私は少し考えた末にピンと閃く。


「……まさか日本?」

「ピンポーン大正解。光の国ソレイユとは日本政府の裏の顔。梢千代市は日本の第二の首都として設計された街。そして――」


 赤城先輩が制服の胸ポケットから取り出したのは警察手帳。

 桜の代紋――警察の象徴である旭日章を見せながら、彼女はこう言った。


「聖ソレイユ女学院とは。警視庁公安部直属の異能力特殊機動部隊――魔法少女を育成するための警察学校だったのでした。今まで黙っててごめんね」

「こんな伏線回収の仕方があるんですね……」


 だとすれば納得できる節が多いな、と私はうなずく。

 ヤケに秘密主義なのも、説明されないのも。

 国名そのものが旭日章を表していた、これは言われなくても気づくべきだった。


「ちなみに夜見ちゃんは公安第四課・異常現象対策室に内定ね。室長は私」

「わあすごい」

「じゃあネタばらしも済んだことだし、これから住む寮に行こっか!」

「わ、分かりました!」


 おいでーと言う赤城先輩の後ろに続いて、正門を通る。

 どうやらエクステンション実装による闘争心の上昇はかなり大きいらしく、学院内ではマジカルスポーツチャンバラの野試合が始まっていた。

 ちゃんと体操服に着替えてから行っている辺りに理性を感じる。


「そうそう。そう言えばさ」

「はい?」


 それらを見て赤城先輩が思い出したように漏らしたことだが、中等部一年組のいちごちゃんが私と戦いたくて仕方ないらしい。私も同じ気持ちだ。

 寮前で待っているらしいので、少しだけ急ぐ。

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