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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・序章
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第115話 おじさん、女学院に閉じ込められる

 ゴリラたちの乱痴気騒ぎは止まらず、私のためにと木組みの玉座が作製され、そこに座らされた。手前には貢ぎ物のバナナが奉納されていく。

 話を聞くと、どうやらほぼ全ての聖獣に「相手を尊敬し、信頼できる者を褒め称え、認めた者には仕える」という本能があるらしい。

 武力での制圧はなく話し合いでの共存、他種族との共生を数万年単位で行った結果としてそうなったようだ。理想の民主主義国家かもしれない。


「逆に言えば本能レベルに刻まないと人類も分かり合えないってことですね」

「悲しい話ですが、そういうことになります」


 私はもうどうにでもなれーと思っているので、ローランド氏から差し出されたバナナを貰い、皮を剥いて食べた。これがなかなかに美味しい。

 一口ごとに心の中のゴリラから歓声と歓喜のドラミングがあがる。


「――話を戻しますけど、果樹園を作るのに足りないものがあるんですか?」

「ええ。食料は自給自足できますし、耕作や農具の自作もできますが、果樹の元となる種――大粒のシャインジュエルだけは、現実世界にいる異常存在を浄化させることでしか入手できません。夜見様にはぜひとも協力して欲しいのです」

「ひとつ……じゃ足りないんでしたね」

「はい。女王様は百株ほどお求めになっています」


 私は騎士爵の証明として貰った木製の杖の先――真っ赤で大きなシャインジュエルを見た。

 これは先ほど討伐したファンデット黒埼のドロップアイテムだ。

 食べるだけ、売るだけじゃなく、磨き上げることで宝石のように使えるらしい。

 ちなみに時価総額は五兆円。唯一の有形資産だから大切にしたい。


「はあ、大変な依頼です。ダントさんどうしましょう?」

「まず仲間集めが必要だと思うモル」

「仲間集めですか」

「人として信頼できるのは当然のことモルから、次は戦力として期待できる仲間を大勢見つけるべきモル」

「たしかにそうですね。……もう仲良しこよしじゃいられないかぁ」


 私は中等部一年組の顔を思い浮かべて、袂を分かつ日が来たんだなと悟った。

 ローランド氏も察したような雰囲気になる。

 そこで赤城先輩がゴリラたちの宴から抜け出してきた。

 彼女は私の顔を見るなり苦言を言う。


「夜見ちゃん、その顔は流石に中等部一年組を甘く見すぎじゃない?」

「わ、分かるんですか?」

「魔法少女歴が長いからね。友達と縁切りしようとしてる顔でピンと分かる」

「……でも、みんなをまた危ない目に巻き込むわけには」

「その思考が甘く見すぎってこと」

「そう、ですかね?」

「逆に聞くけど、どうして友達を信じられない感じ?」

「約二名の喧嘩で心労が深まるところとか、そもそも中等部一年組同士で仲良くしちゃいけないって担任の先輩に言われてるとことかが、心に引っかかってて……」

「うーんそれを言われたら否定できない」


 赤城先輩も縁切りは妥当かも、という結論になる。

 ダント氏、ローランド氏も同意を示したところで、焼きバナナを持ったナターシャさんが現れた。


「まあまあ待ちなよ。彼女たちはそもそも魔法少女試験に合格していない。活躍のチャンスをまだ与えられてないんだ。縁切りするかどうか決めるのは、そのあとでいいんじゃないかな?」

「簡単に言われますけど、耐えるのはそろそろ限界なんですよ」

「ならこう提案かな。クラス替えだ」

「クラス替え?」

「君の心の平穏のために、まずは全員をバラバラの組に分ける」

「それはそれで寂しいというか……」

「あ、君の妹――ヒトミちゃんと一緒の組にするだけじゃだめな感じ?」

「サンデーちゃんと、おさげちゃんとは、一緒にいたいです」

「なるほど。その二人は信頼してるんだね?」

「はい」

「信頼できる理由も聞かせてくれるかな?」


 ナターシャさんは私の前に跪いて、真剣な顔で聞いてきた。

 私も真面目に答える。


「サンデーちゃんは揉め事があったときには何かと気を利かせてくれますし、好戦的ですし。おさげちゃんは、その、最初の友達なので」

「分かった。残り二人が信頼できない理由も教えて欲しい」

「いちごちゃんは「実戦経験がない」と本人が言ってましたし、ミロちゃんは何を考えてるのかちょっとよく分かりません」

「その二人には不安要素を抱えてるわけだ」

「はい、そういうことになります」

「だそうだ赤城。ちゃんと他にも共有しておけ」

「はーいごめんなさーい」


 赤城先輩は手早くマジタブを操作し、しゅぽぽぽ、と沢山のメッセージを送った。

 すぐさま返事が帰ってくる。


「なになに~?」


 先輩はそれを読んでにっこり笑った。


「やったね夜見ちゃん。強化合宿の日程が決まったよ」

「強化合宿?」

「聖ソレイユ女学院に泊まり込んで、ライバルとともに高め合うの」

「いいですね。どれくらいの期間ですか?」

「三年」

「三年!? そんなに長く学校に泊まり込むんですか!?」

「うわ。夜見さん、このニュース見るモル」

「は、はい」


 ダント氏が見せてくれたのは「《緊急速報》聖ソレイユ女学院、明日から全寮制に移行と発表。怪人被害の影響か」という見出し記事。

 私はナターシャさんや赤城先輩を見て、こう不安げに言う。


「ど、どこまでが想定通りなんですか?」

「おや、ナターシャさんの魔眼を忘れたかい? 全部想定どおりだよ」


 元女王様を舐めてもらっちゃ困るね、と彼女は答える。

 私は魔眼の力を恐ろしく思いながらも、友達と一緒に寮生活を送る日々を想像し、それもあんがい悪くないかもと思った。


 ……ともかく。

 ローランド氏含むゴリラたちには果樹園の開拓を任せ、私は聖ソレイユ女学院での寮生活に向けた準備をするため、赤い扉を通って現実世界に帰還する。

 体育館に出てみれば改装工事中だったようで、土建屋の服装をした高身長マッチョの美女軍団に驚かれた。謝罪しながら外に出て、日がまだ高いことを知る。

 少なくとも半日ほど滞在していたはずだが、マジタブの時計を確認したところ、三十分しか経っていない。

 光の国ソレイユとこちらでは時間の流れが違うようだ。


「だ、ダントさん」

「とりあえず佐飛さんに連絡したモル。家に帰って家族と遙華ちゃんに説明するモル。そのあとで荷物の準備モル」

「分かりました」

「あー夜見ちゃんごめん!」

「なんです!?」


 どうやら赤城先輩も寮生活に向けた準備があるとのことで、一度別れる。

 ナターシャさんもそちらについていった。

 私は佐飛さんの送迎車を待つため、正門前に向かう。


 ……しかし出ることは叶わなかった。

 なぜなら梢千代市から聖ソレイユ女学院につながる連絡橋が崩落していたからだ。

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