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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・序章
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第112話 おじさん、ファンデット黒澤をぶん殴る

 私が謎修羅場からそっと距離を置いたのを見て、ナターシャさんは咳払い。

 あー、あー、と喉の調子を確かめてから話し始めた。


「先に言うが、夜見ライナをランキング一位にしたのは敵を捕らえるための罠だ」

「敵、とは」

「シャインジュエル争奪戦の影の立役者――私怨霊(ファンデット)だよ」

「――ッ、皆さん! 戦闘態勢を取って下さい!」


 ミロちゃんの言葉で中等部一年組はマジカルステッキを取り出す。

 不機嫌だった狐耳さんも、狂ったような笑みを浮かべながらマジカルステッキを取り出し、舌なめずりをした。


「おい前女王、攻略難易度は?」

「単騎・通常集団戦闘なら特S級。ただし夜見ライナが特攻持ちだ」

「なるほど初遭遇補正(イベントボーナス)か。ピンク髪の一年!」

「は、ひゃい!?」

「これからお前を呪い倒しているファンデットを顕現させる! 捕獲したら思いっきりぶん殴れ! そしたら今回の件は不問にしてやる!」

「えええ!?」

「ほかの魔法少女も私に協力しろ! ――はぁぁぁぁああああッ!」


 ゴウ――と黒い「何か」が湧き出し、狐耳さんの周囲に渦巻く。

 不快で底意地の悪い、どす黒い悪感情だ。思わずステッキに手をかけた。

 これがダークエモーショナルエネルギー……!?


 もぞもぞ……ぴょこ。

「夜見さんに説明し忘れていたことがあるモル」

「わあダントさん?」

 するとオレンジのモルモットが胸元から顔を出した。

 赤城先輩やナターシャさんも私を守るように集まる。


「シャインジュエル争奪戦が、なぜ争奪戦なのか。それは梢千代市に入り込める私怨霊(ファンデット)の数に限りがあるからモル。その総数は過不足なく年間108体」

「煩悩の数と同じですね。でもどうして市内に入れるんですか?」

「ファンデットとは怨念。実体を持たない負の感情。すなわちダークエモーショナルエネルギーの結晶体だ」

「な、ナターシャさん?」

「それを魔法少女の力、正しい感情の心で浄化すればどうなると思う?」

「赤城せんぱ……もしかしてエモーショナルエネルギーになる!?」

「半分正解だね。正確には質の高い、A等級以上のシャインジュエルになる。数値にして五万エモ以上。梢千代市は敵の数と種類を絞ることでエモ力の収量と質を安定させ、今日に至るまでの発展を遂げたの。さあ夜見ちゃん、初めてのお仕事だよ……!」

「が、頑張ります! やるぞぉ!」


 ゴゴゴゴ――

『グウオオオオオ、ハナセエエ――――!』

「根源を捕まえた! 顕現させるぞぉぉぉ!」

 狐耳さんが空中に手を突き出す。背後にはのたうち回る黒い悪感情。

 彼女は意に介さず両手の人指し指と親指をL字にした。

 そのまま風景を切り取るように構える。


「伝承、開眼! 名は――」


 そこでちらりと私を見た。


「一年! こいつの名前は何!?」

「あ、黒澤です! ファンデット黒澤!」

「名はファンデット黒澤! 他人を苦しめ生を感じる邪悪なり! 我が前に姿を表わせぇぇぇ!」


 指が合わさり、四角い枠が作られる。

『グ、オオオオ!? ヤメロォォ――――』

 その瞬間、悪感情――ダークエモーショナルエネルギーが狐耳先輩の前に引きずりだされ、不定形な概念から実体へと強制的に練り上げられていく。

 更に、待ってましたとばかりに撮影用ドローンが周囲から湧き出した。

 全て緑腕章を付けた男性スタッフたちが操作している。まず一人が声を上げた。


「異常存在第一号の発生を確認! 出現カウント行きます! 五秒前!」

「対応に当たる魔法少女は変身してください!」

「「「――変身!」」」

「四、三、二――」

「わああ!? へ、変身!」


『魔法少女プリティコスモス! 正式礼装(フォーマルコーデ)!』

「よ、よし!」


 みんな手慣れすぎてて驚くしかない。

 私は緊張でマジカルステッキを握りしめた。


「こ、これが梢千代市……!」

「――ゼロ! 衝撃に備えて!」





『オノレ、オノレ夜見ライナァァァ――――!』




 怒り狂った男性の声とともに、ドグォンと地雷でも踏んだかのような爆発が起きる。周囲は粉々に吹き飛び、穴の空いた天井から光が差し込んだ。

 スタッフも含め、その場にいた全員は魔法防壁(シールド)によって守られたので無事だ。

 光が差し込む爆心地にはスーツ姿の美男子が現れる。


「……私を無理やり呼び出したのはお前たちか?」


 センター分けのショートボブヘアーにゆるめのパーマーをかけたような黒髪。蛇のような赤い瞳孔。常に不機嫌でありながらも絶対的な自信に満ちた表情。


「忌々しいメス猿ども。万死に値する。今すぐ頭を垂れてひれ伏せ」


 そして生きとし生けるものすべてを見下しているかのごとき口の悪さ。


「黒澤……!」

 間違いない。あれは黒澤本人だ。

 彼は日差しを避けるようにして動いたかと思うと、私を睨む。


「いや、元凶はお前だな夜見ライナ。忌々しい夜見治の親族め。貴様の復讐劇に付き合うほど私は暇ではない。さっさと息の根を止め、元いた場所に戻らせてもら――」

『捕獲開始!』

「レプリカ! モード・プリティコスモス!」


 狐耳さんからの号令がかかり、ためらいもなく飛び出したのはヒトミちゃん。

 ギフテッドアクセルの超加速で黒澤に接近、彼の背後に触れた。


「貴様いつの間に」

「忍法、影縫い!」

「何――ぐうう!?」


 彼女の手から伸びた黒い糸が、黒澤をがんじがらめにした。

 地面に固定されまいと黒澤が藻掻くほど、糸は強固になっていく。


「こ、この程度の拘束など……!」

「絶対に逃しません! お前だけは絶対に! 夜見お姉さまの華やかなる人生の礎となりなさい!」

「ふざ、け」

「はぁぁぁっ!」

「グアアアアアア――――!」


 ヒトミちゃんは足元の影から追加の糸を出し、黒澤を身じろぎ一つ取れなくさせた。あまりにも早い騒動の決着に、狐耳さんや中等部一年組もぽかんとしている。

 私も同じ気持ちだ。私をコピーしたヒトミちゃんが強すぎる。


「お姉さま!」

「は、はい!?」

「ファンデットへの初撃は、すべて拳と決まっています。覚悟はいいですね」

「……もちろんです」


 赤城先輩とナターシャさんに間を通してもらい、ファンデット黒澤の前に立つ。

 相手はまるで磔の刑に処されたキリストみたいだ。

 私の固く握りしめられた右拳を見た黒澤は、薄ら笑いを浮かべる。


「それがお前の手か? 軟弱だな。水仕事の一つでも覚えたらどうだ」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ――――!」

 ゴンッ!

「ぐほっ!?」


 その忌々しい顔面を容赦なく思いっきりぶん殴った。同時に、薄いガラスを叩き割るような感触を感じる。黒澤は白目を剥き、うめく。


「おの、れ」

「ふー、ふーっ」

 黒澤の顔から私の拳が離れると同時に、相手の頬がびしりとひび割れ、首筋に向かってバラバラと土塊のように崩れ落ちていく。最終的にできた穴からコトン、と本物のリンゴと見まがうほど大きな赤い宝石――シャインジュエルがこぼれ落ちた。

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