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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・序章
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第109話 おじさん、自身の死の謎に迫る

 彼女――ヒトミちゃんの影からは、たぬき聖獣のぽんきち?という子も出てきて、同じように止めに入った。


「そうです! 正義の味方同士で戦うなんて無益でありまする!」

「「――」」


 はあ、と疲れたようなため息をつき、ナターシャさんは青い球体を消す。

 私もステッキを降ろしたものの、ちょっと気分が穏やかにならなかった。


「どうしてそう、何のためらいもなく暴力を振るうんですか。可憐な乙女なんですよ。傷物にしないよう大事に扱ってください」

「うーむその様子だと、上手く手加減できたらしいな。耐えられて偉いぞ私」

「手加減?」

「私の突発的な行動に心当たりは? 思い出せないか? 梢千代市に()はさんざん受けてきただろう、と神が言っている」


 思い当たる節はあった。いや、それしかなかった。

 夜見治だった頃に散々受けたパワハラのそれと同じだ。


「ッ、黒崎……――」


 あのモラハラ、セクハラ三昧で何をするにも自分が優先で、私や、私の会社を金稼ぎの消耗品として利用しつくした指名手配犯のクソ野郎、猿渡木(さるわたり)が連れてきた腰巾着の一人「黒崎」が、「正義」と称してやってきた暴力と同じだ。

 ふつふつと煮えたぎるような怒りに、脳が焼かれるのを感じる。


「おい……それを、私に思い出させて、あなたは一体どうしたいんですか……?」


 ついに耐えきれず、ぶっ殺されたいんですか、と迫るような瞳で相手を睨んだ。

 相手はそれでもなお冷静に、淡々と答える。


「よし。これからお前……の叔父。夜見治の死の真相を伝える」

「!」

「場所を変えよう。あまり人聞きのいい話じゃないんだ、これは」


 ナターシャさんは体育館の外に出る。私も後を追った。

 それをダント氏が全身で引き止める。


「待つモルッ、夜見さん!」

「っ、ダントさん……ダントさんは、魔法少女試験の説明を、聞いてきてください」

「いいからシャインジュエルを食べるモル!」

「もぐご」


 今度はシャインジュエルを口の中に突っ込んできた。

 この甘さを感じる気すら起きない。邪魔だ。ムカつく。思いっきり噛み砕く。


 バリバリ――ゴクン。

「何するんですか、いきなり」

「いいモル? 怒るときは冷静に怒るべきモル。明鏡止水の心モルよ」

「……どもです、気をつけます」

「話し合いには僕もついて行くモル。夜見さんを巻き込んだ責任は、僕も取る」


 彼の言葉に、少しだけ冷静さを取り戻した。

 私は薄暗いけれど賑わいのある体育館の中と、静かで寒い、太陽の光でサンサンと輝く体育館の外のどちらを優先するか悩んだあと、それでも殺されなければならなかった理由が知りたくて、ナターシャさんのあとを追った。


「よ、夜見お姉さま!」

「ヒトミちゃんは説明を聞いておいてください! あとで教えてね!」

「は、はい! 全部覚えますっ!」

「ぽんすけくんごめんモル! 君の研修はゲンさんが引き継ぐから3分待つモル!」

「は、はいなー!」


 この平和な日常を失うのだとしても、私は理由が知りたい。

 限界社畜おじさんのまま魔法少女になれなかった真相。

 それさえ分かれば、自分がこれから歩むべき道が見えると思うから。



 ナターシャさんが訪れた場所は、白亜の校舎。

 その一階にある自販機で、彼女はいちごミルクを買ってくれる。

 さっきの詫びだよ、と同じジュースを飲みながら彼女は言った。


「昔から相手との距離感が掴めなくてね。試行錯誤の日々なんだ。ごめん」

「それで、夜見治――いえ、私が死んだことになった」

「落ち着きなよ。これから順に説明するから。ジュースでも飲みながら聞いてくれ」

「……はい」


 言われた通りにストローを指し、いちごミルクの甘ったるさを味わう。

 ナターシャさんは電光掲示板を懐かしむように見ながら、話しだした。


「……まずは、魔法少女にならなかった君がどういう人生を辿っていたか、について語ろうか」

「どうなってたんですか」

「次の日。会社に向かった君は、君を呼び出した上司に殺害されていた」

「……な、なんで」

「端的に言えば、君がどこかで選択肢を間違えたからだ。私はアドベンチャーゲーム現象と勝手に呼んでる」

「アドベンチャーゲーム現象」

「勝手に、と言っただろう。私はそういうルート分岐の見える魔眼を持ってるんだ」

「便利ですね……」

「そうでもない。で、次は私がいきなりアイアンクローをしかけた理由だ。実はね、君の上司の黒澤とかいう男が、君にどうしても苦しんでほしくて私に生霊を飛ばしてきた」

「生霊」

「他にも何人か、黒澤の怨念に惹かれた生霊が君に取り憑こうとしている。今は……私怨霊(ファンデット)と命名されていたっけか」

「ファンデット」


 新しい用語がたくさん出てくる。


「私は魔法が大の得意だが、霊力への耐性がなくてね。軽く操られかけた。ごめん」

「怖い話モル……」

「ね」


 人に乗り移って好き勝手に動かそうなんて、とんだ最低野郎だ。

 生かしちゃおけない。おのれ黒澤。


「それはそれとして、私が魔法少女になった理由なんですが」

「聞いたろう。ダークライの策略。もっとも、ダークライは実在しないけどね」

「そこがよく分からないんですよね。斬鬼丸さんは否定したんですけど、他のみんなは実在する想定で話してるから……」

「ああ、正史から語るべきだったか。敵対勢力の名前が分からないのさ」

「名前?」

「ちょっと長めの説明に入るよ。いいね?」

「あ、はい」


 じゅぞぞ、といちごミルクを吸った老齢の貴婦人ことナターシャさん。

 気合が入ったのだろう、改めて語り始める。


「……世界を滅ぼそうとしている勢力が確実にいるのは分かっている。それに乗じて成り上がろうとする、怪人(ボンノーン)欲魔(ヨクボーン)のほか、テラーのような新参悪魔たちがその勢力に加担しているのも分かっている。だけども、敵の拠点を強襲して文章を読んでも、捕縛した欲魔や悪魔を尋問しても、敵対勢力の本当の名前が出てこないんだ。だから便宜上の名として「ダークライ」と命名された」

「秘密結社って感じですね」

「あー、だから今回の争奪戦の敵は秘密結社ってことなんかね。呼び出された理由に納得がいった。さんきゅーのハイタッチ」

「え? ああ、はい」


 パチン。

「イエーイ」

「い、いえーい」

 ハイタッチを求められたので、なんとなく対応してしまう。

 距離感がすごく近い人なんだなぁ。


「まあそれはそれとして、君が魔法少女に選ばれたのは単純に才能があったから」

「あ、はい」

「梢千代市に住めているのは、今もファンデットを飛ばしてる黒澤とかの悪縁を、才気あふれる君から断ち切ろうと動いた人たちがいるからだね」

「あはは、良い縁があってよかったです」

「いやほんと、その良縁ほんとに凄いよ。一生大切にしておけ。そいつらお前を幸せにすることしか眼中にないから。なんならファンデット黒澤よりも執念やばいよ」

「ふふっ」


 ファンデット黒澤。面白いあだ名だ。

 次からはそう呼んでやろう。


「それでええと、その、誰から順番にありがとうと言えばいいんでしょうか?」

「え? 全員まとめてに決まってるじゃないか。……配信者とか興味ある?」

「えええー……」


 距離の詰め方が凄い。私はたじたじとしてしまう。

 その隙を逃すものかと手を上げたのは、ダント氏。彼はこう言った。


「夜見さん」

「はい」

「そろそろ配信業を始めるべきモル」

「だ、ダントさんもそっち側ですか……!?」

「やろうモル」

「ああ、やるべきだ」

「「君は世界一になれる」」

「えええー……そんなー……あはは」


 二人に圧をかけられ、私は作り笑いを浮かべるしかなくなってしまった。

 あわわ、どうやってこの場から抜け出せば。


『――ちょっと、ナターシャさん!』

「あ! この声!」

 すると校舎の外に人影が現れる。赤城先輩だ。

 相当慌てていたのか、少し息が荒い。


「はぁー……夜見ちゃんをいじめないでください。契約切りますよ」

「その言葉、一言で論破してやろう。配信者になった夜見ライナを見たくないか?」

「え!? めちゃ見たーい! 契約続行ー!」

「手のひら返しが早い!」


 赤城先輩はまばたきをする間もなく、私の目の前にテレポートしてくる。


「いいじゃーん、夜見ちゃん配信者になってよー、ねぇえー毎日コラボしよー?」

「うう……っ」


 ……援軍は絶望的だ。

 もし来たとしてもおそらく裏切るだろう。

 私は覚悟を決め、静かに頷いた。

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