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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・序章
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第106話 おじさん、修理されたマジカルステッキを貰う

 次の日の朝は、肩の荷が降りたような気持ちいい目覚めだった。

 当然だろう。今日から私は一週間もの長期有給休暇を取るのだから。

 ぐっと背筋を伸ばすと、ダント氏も目を覚ました。


「おはようモル、夜見さん」

「ダントさんもおはようございます」

「ふぁ……ふ、早速モルけど、昨晩から出かけてるゲンさんからテレパシーモル」

「なんですか?」

「アリスちゃんが編入試験に落ちたモル」

「あらら……」


 とても残念な話だ。

 悪魔だから仕方ないのかな。


「悲しい話ですね」

「? ……ああ、違うモル。聖ソレイユの教員採用試験に合格したから不合格モル」

「教員試験の方に合格したんですか」

「そうモル。保健体育の先生に選ばれたらしいモル」

「わあ……」


 淫魔サキュバスの、それも七つの大罪の一人が、保険体育を教えるなんて。

 考えただけで風紀が乱れそうだ。女学院は何を考えているんだ、まったく。


「女学院がやばいことになりそうですね」

「……エモ力の上昇はそろそろスルーするモルけど、どうするモル?」

「とは?」

「一週間は家で自堕落に過ごしてもいいし、普通に学生として過ごしてもいいモル」

「んー……ダントさんはどうしたいですか?」

「僕はご飯食べてお昼寝してたいモル」

「じゃあ私もそうします」


 それはそれとして、魔法少女として過ごした二ヶ月は思っていたよりキツかった。

 ほどほどに休みを取らないと心も体も持たないなあ、と思いながら、私は再びベッドに横になった。今日は中間テストだけどパス。一週間ほど休学だ。

 あれだけ頑張ったんだし、それくらいの融通は効くだろう。



 学校を休んで一週間後、梢千代市にも冬の寒空が近づいてきた。

 私は市内にあるマジカルステッキの修理屋さん「梢千代」で修理された品を受け取ったあと、いくつかの注意を受ける。


「君のマジカルステッキね、ちょっと良くない力が混ざってたね」

「良くない力?」

「光でも、闇でもない、混沌の力。魔力だね」

「んー……エモ力ではない、別の不思議な力、ということですか?」

「その二つが混じり合った力が魔力だね。強力だけど、使えばその身を滅ぼすね」

「うわ、外せませんかそれ」

「そうだろうと思って、取り除いておいたね。ほら」


 修理屋さんが渡してくれたのは、青い炎の灯ったランタン。

 見覚えは、少しだけある。私の感覚――エモーショナルセンスを信じるなら、おそらく斬鬼丸さんの力だ。あまり良くなかったらしい。


「具体的にどう良くないモル?」

「運が悪くなるね。厄介事を引き込むね。なぜなら、光の国ソレイユでも、ダークライでもない、秘密結社の長が取り戻そうとしている力だからね。特に、この世界の魔力は神に呪われているね。深い理由でもない限りは使わないほうがいいね」

「モルル、夜見さん」


 ダント氏は困った顔でこちらを向いた。私はすべてを理解した顔で微笑む。


「それ斬鬼丸さんの力ですよね」

「そうモル。でも、これを外したら夜見さんの腕前が最強じゃなくなっちゃうモル」

「大丈夫ですよ。あの人の剣術はすべて覚えました。もう学べることはないです」

「ほんとモル?」

「ええ。信じてください」

「……分かった。信じるモル。これはポーチの中にしまっておくモル」


 必要になったら言って欲しいモル、とランタンは彼のポーチに収納された。

 他にも、マジカルステッキと聖ソレイユ女学院の制服が紐づいていた機能不備(バグ)を直してくれたらしく、規格外品が渡っちゃってごめんね、と謝られた。


「副会長が言ってた規格外品、ってああいう意味だったんですかね」

「僕に聞かれても……」


 その後、通学しながら、新しくなったマジカルステッキを見る。

 ステッキの先が星型からピンクの蕾に戻ったのは寂しいが――やれやれ。

 これで自分の力でコツコツ頑張れる実感が湧くというもの。

 光子先輩に指摘された通り、借り物の力で強者ぶるのは私も窮屈だったのだ。


 ――そも、弟子とはいつか師匠から離れて旅をする存在。

 自分で道を切り開いて、トライアンドエラーで学び直してこそ、知識は身につく。

 私は彼から教わった剣術と、魔法を組み合わせて最高の魔法少女になるのだー、なんてね、と、ちょうど近くに止まった通学バスに乗り込んだ。


 車内は混み合っているものの、普段より静かで、なんというか落ち着く。

 私に関する噂話がなくなったから、おさげちゃんと一緒じゃないからかな、などと思考を巡らせていくうちに、バスは女学院への連絡橋を通過していく。


「今日は静かですね」

「みんな慎まやかさを覚えたんだモル」

「どうして?」

「保健体育の授業で、人との正しい接し方を覚えたからカメ」

「うわあ!?」


 横からいきなり年老いた男性の声がしたので、そちらを向けば、異次元ポータルから体を乗り出した亀の聖獣、ゲンさんの姿があった。

 彼はいくつかの書類をダント氏に手渡す。


「ダントくん、待たせたカメ。要望どおりに何名かの知り合い聖獣との顔合わせと、意見交換会の約束(アポ)を取ったカメ。授業中に済ませようカメ」

「ありがとうございますモル。助かりますモル」


 ダント氏は書類を見ながらマジタブに情報を記入し、今後のスケジュールを立てていく。ゲンさんはじゃあ次の根回しに移るカメ、とポータルの中に戻った。


「ゲンさんも、ダントさんも優秀なんですね」

「改めて言うモルけど、これはツインエフェクターの副次作用――夜見さんがもともと持ってる職務能力を僕が借りたから出来ているだけモル。本人には負けるモル」

「え? えへへ」


 急に褒められて嬉しくなる。

 そっか、私も偉いのか。みんな頑張ってて偉いんだ。

 ダントさんも、ゲンさんも、私も優秀なんだ。


 ピー、バタン。

『聖ソレイユ女学院前。御出口は、前側です。足元に――』

「あ、着きましたね」

「肩借りるモル」

 通学バスが女学院の前に止まったので、降りた。

 両頬を軽く叩いて気合を入れ直し、金の正門を通過していく背の高い私。

 それに少しだけ背丈の追いついた中等部一年組が、待ってましたと正門の影から飛び出して、後ろから私に抱きついた。

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