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第103話 おじさん、催眠魔法を攻略する②

「っ、ぐっ」


 白衣と聖ソレイユ女学院の制服を失い、大事な水着礼装(コスチューム)すら半壊させられた屋形光子は膝をつく。

 周辺の鳥型ロボットだった鉄くずもボンッ、と白煙を上げて壊れた。


「勝負あったでありますな」

「な、なんだと」


 斬鬼丸さんは残心を解く。光子は彼をキッとにらんだ。


「貴公の事情は知らぬ。しかし、剣聖を名乗ったにしては力不足であります」

「何を言うかと思えば……! 私たちの勝負に割り込んで、邪魔をしておいて! おまえ一体何様のつもりだ!」

「? 不思議なことを聞く。貴公と拙者は面識があるはず」

「喋る西洋甲冑なんて見覚えがないねえ!」

「……はて?」


 どういうことだ、と私は眉をひそめる。

 少なくとも一度は出会ったことはあるはずだ。

 ――ああ、いや、待て。そういえば光子先輩、斬鬼丸さん本人には会ってない。

 あのときの斬鬼丸さんは私に憑依していた。


「ダントさん」

「うう、何モル?」

「白衣先輩って斬鬼丸さんと面識ありました?」

「僕と夜見さんの知っている範囲ではないモル」

「やっぱり。斬鬼丸さん!」

「おお、夜見殿。いかがなされた」

「その人、あなたとまだ会ってないと思います! 私が知ってる限りなら、今日が初めての対面です!」

「なんと!」


 大げさに驚いた斬鬼丸さんは、これは失敬、辻斬りをするつもりはなかったであります、と屋形光子に手を差し出す。


 ペシンッ!

「さっきのお返しだ。あまり私を見くびるなよ」

「なんとォ……!? く、ぐう……」

 しかしお返しとばかりに頬を叩かれていた。まあ、当然の塩対応だ。

 相当ショックだったのか、斬鬼丸さんはガクリと膝をつき、四つん這いになったかと思うと、兜のスリットから流体のような青い炎――おそらくは涙をポロポロと流しだした。かなり効いたらしい。


「悪いねえ、夜見くん。邪魔が入った」

「!」

「仕切り直しと行こうか」


 そんな彼に目もくれず。

 傷だらけの屋形光子は、マジカルステッキを握って私の前に立つ。

 とうに魔法障壁(シールド)はなく、自慢のコスチュームすら破れかけの姿で。

 何が彼女を突き動かすのか。

 私には分からない。だからか、自然と言葉が漏れた。


「どうしてですか」

「? 何がだい」

「どうして、あなたは戦えるんですか?」

「生まれつきそうだったからさ。君だってそうだろう、プリティコスモス」

「私にはまだ分かりません」

「そうだね、ただ、魔法少女に選ばれる子というのは、みんなこうなのさ」

「みんなが?」

「ああ。――――――意地があるんだよ、女の子にも!」


 ゴウ、と光子の体からエモ力の奔流が起き始めた。

 私も一度だけ起こしたから分かる。これから始まるのは、本心の発露だ。


「ノブリス・オブリージュだの、愛と平和を胸にだの、争わずにみんな仲良く過ごそうだの! 他人の語る正しさや道徳なんてわかった上で! 私は分かるわけにはいかないんだよ! ムカつくやつはぶっ飛ばしたいし、ウジウジしたやつは引っ叩いてでも走らせたいし、私より強いやつには勝ちたい! 全部っ、全部お前のことだ夜見ライナァァ――――!」


 愛や勇気ではなく、怒りが頂点に達した魔法少女が起こす、急激なエモ力の上昇。

 例えるならそう。(スーパー)サイヤ人のようなものだ。

 あまり刺激を与えないようにしよう。冷静に。


「それが先輩の本音なんですね」

「ああそうさ! 才能に恵まれた君が嫌いだ! そこの斬鬼丸とかいうのに借りた力でつわ者ぶる君が嫌いだ! 私のちんけな催眠魔法で騙される素直な君が大嫌いだ! でもねえ、もっと嫌いなのは! っ、嫌いなのは……!」

「私を追い出そうとする梢千代市そのもの、とかですか」

「違うっ! 君を散々巻き込んでおいて、ご……っ」


 先輩はなにかを言おうとして、口をつぐむ。

 大粒の涙をこぼしながら顔を歪ませ、苦虫をすりつぶしきったあと、顔を伏せた。


「君にごめんなさいの一言も言えない自分が、一番嫌いなんだ……っ」

「言えたじゃないですか」

「っ……」


 その一言で彼女はしおしおと萎びていく。

 どうやら落ち着いたらしい。

 斬鬼丸さんと同じように膝から崩れ落ち、嗚咽を上げだした。


「……本当は、もっと早く言うべきだった。でも、君を見たとたん、戦ってみたいと思う気持ちを堪えられなかったんだ。君や聖獣くんの心を操ってでも」

「まだやりますか?」

「いや、いい。今回は私の負けだよ」

遊戯時間(ゲーム)は終わってませんよ」

「ハハ、君は、私を刺激するのが上手いねえ。――――じゃあ、この一撃だけ付き合ってくれ。もし耐えられたら、負けを認めてやる」

「分かりました」


 カチッ――

『マジカリブティスシューター!』

 光子先輩はマジカルステッキを私に向け、まずは武器機能を使用。

 剣形態(ショートソード)ではなく、槍というか、錫杖(しゃくじょう)という煩悩を払うための杖のような見た目へと変化させた。


「剣以外にもなるんですね」

「ああ。ステッキの横についているボタンと、底のボタンを同時押しすると射撃特化の長杖形態(ロングステッキ)になるんだ。覚えておくといい」

「参考になります」

「……さて、これは君も知っていると思うけど。魔法少女の代表的な必殺技といえば、敵を一撃で消し去るほどの極大ビーム攻撃だ。覚悟はいいかい」

「待ってました!」


 カチカチッ――

『エモーショナルタッチ! マジカリブティス・ブレイカー!』

 先輩は容赦なく底のボタンを二連打した。

『チャージ開始! 三、二――』

 杖の先端に青いエモーショナルエネルギーの球、いわゆるエモ玉が収束していく。

 ダント氏は悲鳴を上げた。


「夜見さんやめるモル! 避けてモルぅ!」

「ダメです。受けます」

「どうしてモル!?」

「これが一番手っ取り早いからです」

「なんの!?」

「横綱相撲らしく私の箔付けと、相手の格を示せるからですよ。それに――」


 私は笑顔でこう言った。


「一度は受けてみたかったんですよねぇ、魔法少女の必殺ビームを!」

「うわあ狂人モル!」

『――ゼロ! チャージ完了!』

「これが私の全力だ! 耐えてみせろプリティコスモス!」

「頑張ります!」

「マジカリブティス、ブレイカァァ――――ッ!」


 ドウッ、ギュオオオオオ――――

「モルううううう!?」

 私はエモーショナルエネルギーの本来の使い方を、その身をもって味わった。

 長く、心が浄化されるような熱い熱を浴びたあと、目をぱっちり開ければ、すべてを出し切って気絶した光子先輩と、私の腕に抱かれながら白目を向いて失神しかけているダント氏、そして。


『――謎の女学生Xが戦闘不能となりました。夜見ライナ様の勝利です』

「ふう……負けて勝つ作戦、成功です」

『ゲームを終了します。清掃ロボットはすみやかにR地区28に集合してください』


 魔法障壁(シールド)を全損、コスチュームの七割を失いながらも、相手を傷つけることなく無力化した私の姿があった。

 斬鬼丸さんの鎧に映るピンク髪の美少女の私は、ギュッと拳を握る。

 一か八かの賭けだったけど、耐えられた。

 これで、うん。きっと今回のような面倒ごとには巻き込まれなくなるだろう。


「はは、あ~すごく痛かった~。でも現実だって実感できる~」

『夜見ちゃん!?』


 ペタンと尻もちをつくと、二人の魔法少女がどこからともなく現れる。

 片方は赤城先輩、もう片方はまさかの生徒会長だった。

 ふたりとも戸惑いを隠せていない。

 それに、私と同じくらいコスチュームがボロボロだ。

 今は高難易度イベントの真っ最中らしいし、先手を打ってくれていたのだろう。


「夜見ちゃん!? 大丈夫!?」

「赤城先輩~、終わりましたよ~勝ちました~!」

「マジ? えらたにえん。あとでご褒美あげちゃお」

「やった~」

「その、夜見くん。正気か?」

「屋形先輩の魔法で騙されまくったので、ホントに正気かどうか確かめてみました」

「……ああ、自己流のショック療法だったというわけか。原始的だが効果は確実だ。土壇場でよく思いついた」

「えへへ」


 生徒会長は怒るでもなく、私を優しく撫でてくれる。

 次は気絶した光子先輩を見つめたかと思うと、「すまない、急用ができた」と言って、彼女を背中におぶり、その場から去っていった。私と赤城先輩は肩をすくめる。


「生徒会長は何を思いついたんでしょうね」

「まあ、私に分かることといえば、夜見ちゃんや魔法少女の待遇が良くなるよう動いてくれてる、ってことだけだよね」

「だったらいいなあ」

「も、モル……ここは現実……?」

「あ。おはようございますダントさん」


 いろいろと想像はできたが、頭がこんがらがるのでやめた。

 私は脳筋信仰を高める方向で生きようと思う。

 やはり脳筋、脳筋が全てを解決する。


「じゃ、そろそろ外に出よっか。清掃員さんに見つかったら怒られるし」

「ですね。……あ、斬鬼丸さんは」

「もう駒に戻ったよ。ほら」

「わあ早い」


 赤城先輩の手にはチェスの駒が握られていた。

 今度は黒から灰色に変わっている。

 理由を聞けば「クールタイムに入った」とのこと。

 いわく、黒いバトルデコイは何度でも使える代わりに、一日二回までの使用制限があるらしい。

 入手方法も特殊で、一定のエモ値以上のシャインジュエルと現物交換することでしか手に入れられないようだ。


「――説明は以上だけど、これかなり高いよ? しかも呼び出せるのが……えーっと、たましい?の縁が深い人だけだし、私はあんまりオススメしない。私だから使えてるような代物だし」

「そうなんですねぇ」

「ま、積もる話はあとあと。まずはボロボロになったコスチュームを修理しに行こうよ。ついでにデミグラッセでパフェらない?」

「いいですね。奢ってください」

「いいよ。でも、今日だけだからね」

「はい!」


 ともかく目的は達成したので、赤城先輩のテレポートで外に出る。

 駐屯地の外ではヒトミちゃんがオロオロしながら待っていて、おっかなびっくり私達を出迎えてくれた。

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