2 なんだかおかしい魔法少女
私は佐野さんが持った二つのアイテムをまじまじと眺めた。
「こちらの鍵は『ポースクレイス』といいます。でもみんな鍵と呼んでいますね」
ふふ、と笑って佐野さんは私に鍵を手渡した。
「これはポースを回収する時にも使うし、更には個人の能力や集めたポースの数も全てこの鍵に記録されるので肌身離さず持ち歩いてください」
私は大きく頷いてその鍵をきゅっと握りしめた。
「今はまっさらな鍵ですが、所属する流派によって見た目が変化します。筒崎さんの希望は『魔術派』ですね?」
「…はい!魔法、使ってみたいけど他の流派の衣装はみんな可愛らしすぎて恥ずかしくて…」
「たしかに、魔術派ならローブだけですもんね。同じ理由で魔術派を希望された方は過去にも沢山いました」
佐野さんは手元の資料を見ながら優しく頷いた。そして、次はキャンディーポットを持って話を続ける。
「こちらは『ポースコレクト』といいます。ポースを回収するときに必要なアイテムです。ポースが触れた人の心に反応して魔物化する、というのは先程説明しましたね」
はい、と頷いて返事をした私を見て佐野さんはよしよしと頷き返した。
「アイテム支給と説明は以上になります。さっそく変身なさいますか?」
「はい!!」
魔法少女になれる、胸の高鳴りを感じた。鼓動が収まらないほどに気持ちが踊っていた。
佐野さんに言われるがまま鍵を両手で握って上に掲げる。
綺麗なローブを羽織り魔導書を持って美しく杖を振る魔術派に…!!
「…あれ?」
「えっ、」
強い光を感じた後に目を開くと予想とかけ離れた姿になっていた。
宇宙柄のバルーンスカートのようなドレス、背中にはとてもかわいい大きなバックリボン。挙げ句の果てに髪の毛はスライム状のプルプルに変化していた。
「なっ、な、なにこれぇ!」
思わず大きな声が出て、周りの魔法少女たちが振り返る。佐野さんも私の姿と資料と見比べながら口をぱくぱくさせていた。
「これは、どういう…、」
佐野さんは目を見開いて立ち上がった。
たしかに申請書には「魔術派」と希望した。しかしこれは「宇宙派」だ、事前にもらった資料で見た特徴とまるで同じだった。
「少々、お待ちください、確認してきます」
手で待てのポーズを取っていそいそと席を外しスマホを取り出した佐野さん。様子を目で追っていると、今までの温厚な喋りからは想像できなかった声色で電話の相手に喋り始めた。
「あーもしもし、まのん?魔術派希望の新入りさん変身させたら宇宙派になったんだけど、どうなってんだ?今すぐシステム調べてくれ、…は?…ドラマ見てるから無理…?今すぐ!!」
まったく、と呆れている声を漏らして佐野さんはこちらを向いた。なんともいえない表情で戻ってくる様子に私は戸惑いながら声をかけた。
「あ、…あの、今のは」
「見苦しいところをお見せしてすみません…話していたのは衣装の縫製や変身に関するシステムを開発している『都市派』のエンジニアです」
なるほど、エンジニアに連絡をしていたんだ。システムのバグでこうなったならそのうち直してもらえるかもしれない。
そう思い、ほっと胸を撫で下ろした。
その矢先に、
「佐野さーーーーん☆☆」
シリコン素材の水色の固形の髪にきらきらなお目々の女の子が勢いよくこちらに走ってきた。またしても周りの魔法少女たちの視線がこちらに向いた。
「ツミキさん!?」
ツミキと呼ばれた女の子に体当たりされよろめきながら机に手を付いた佐野さんはとても困惑した顔をしていた。