1 魔法省の中
ロータリーを抜けてエントランスに向かうと長髪を一つに結った細身の男性がこちらに駆け寄ってきた。
「おはようございます、筒崎奏さんですね!」
「は、はいっ!よろしくおねがいします!」
ぴしっと姿勢を正してお辞儀をすると、相手も少し笑ってからスーツのネクタイを軽く締め直して丁寧にお辞儀した。
「僕は魔法少女たちのサポートをしている佐野杏利と申します。ご案内いたします」
佐野さんに促され自動ドアを抜けた先はショッピングセンターだった。お洒落な服や雑貨が店の奥まで続いていて若い年齢層のお客さんで賑わっていた。
「魔法省の中はショッピングセンターになってるって本当だったんだ…」
「遠くから来た方は皆、知っていても驚かれます。魔法"省"とまで言っている国家機関の建物がこんな風になってるなんて予想つきませんしね」
佐野さんはふふ、と笑うとフードコートの近くにあるエレベーターのボタンを押して、鍵のような物をタッチパネルにかざした。
するとタッチパネルにきらきらと文字列が現れ、それを軽やかに操作する。
「今から向かうのは3階です。一般の方が入れるのは2階までで、3階より上は魔法省の関係者のみとなっております」
エレベーターに乗り込み3階へ到着すると、大きな光の柱が目に飛び込んできた。
光の柱を近くで見ると、小さな発光する粒が巨大な筒状の膜の中を浮遊しているものだった。
「これ、もしかして『ポース』ですか…?」
「よく勉強されていますね、魔法少女が集めたものがここに貯蔵されているのです。
後ほど詳しく説明しますので、どうぞこちらに」
佐野さんに促されるまま私は椅子に座った。
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「まずは魔法少女に必要なアイテムを支給します」
座った席には「筒崎奏 様」と名前がかかれたプレートが立っていて、その隣には鍵とガラスのキャンディーポットのような物が置かれていた。
「と、その前に魔法少女についておさらいしましょう。『ポース・マーザ』のことはご存知ですね」
佐野さんは資料に描かれた大きな宝石を指さした。
「は、はい…50年前に、何故か砕け散った希望の石のことですよね」
「そうです、砕けた破片は世界中に何億と散らばりました。その砕けた破片のことを『ポース』と呼びます」
私は頷いて資料を眺める。佐野さんは資料のページをめくり話を続けた。
「ポースは触れた人間の恐怖心や悪い心に反応して『ドロモス』と呼ばれる怪物に姿を変えます。それに対抗できるのは魔力を扱えるものだけです」
ふと、ポース・マーザの写真の下に書かれた記述に目が止まる。
「…6人の偉大な魔法使いはこれをどう回収するか悩んだ末に、希望した人間の少女達を『魔法少女』にしてポースの回収を任せる事とした…?、魔法少女は老若男女誰でもなれると聞いたんですが…」
「最初は少女だけだったんです。偉大な魔法使い『創設者様』は5つの魔法流派を作り、そこに人を集めました。
しかし少女だけではポース回収も追いつかない上に魔力を得るということは、人間でなくなるのと同義ですからそれが嫌で魔法少女にならない人も多かったんです」
人間でなくなる、事前にもらった資料に記載されていたのを思い出す。
たしか魔法使いは一定の年齢から歳を取らない人間とは別の生き物だ。魔法少女になるということは、魔法少女という生き物になるという意味だった。
「まぁ、現在は老若男女問わず誰でも魔法少女になれますし、魔力を貰ったからといって必ず前衛にでる必要はありません。ドロモスからの自衛のために魔法少女化の需要が高まっています」
佐野さんは資料をトントンと整えてすみに退けると置き去りにしていた鍵とキャンディーポットを手に取った。
「さて、アイテムを支給しましょう」