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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺に惚れ薬を盛ろうとする奴がいたので幼馴染(♀)に身代わりになってもらった結果

作者: らんシェ

「ミリエット様が惚れ薬を入手したようです」


 ジェイミーの言葉に思わず聞き返す。


「惚れ薬?」

「はい」

 

 それ、俺に盛る気だろ……。

 冷たくあしらっても動じず、毎日気を引こうとするミリエット嬢。俺に応じる気は全くない。頼むから放っておいて欲しい。


 いや、そうは言っても、決して彼女は嫌な人間というわけではない。だから突き放す事が出来ないのだが。


 ジェイミーに身辺調査をさせたが彼女の実家も素行も成績も、何の問題もない。聞いたところ彼女は誰彼構わずではなく、俺にだけあのように迫ってくるらしい。それに、時々手の込んだ料理やお菓子を作ってくるのだが、元々趣味だったわけでも、実は家の料理人に作らせているわけでもなくただ俺に好かれようと始めたらしい。なんとも健気だ。


 それでも俺が靡かないのは、単純な話、見た目がタイプではないからだ。


 しかし彼女はついに薬まで手に入れて、そうまでして俺を手に入れたいのか?

 惚れ薬といってもよく耳にするのは3日ほどの効き目だ。たったそれだけの期間だけでも俺の情を手に入れたいということか。もちろん、大人しく飲んでやる気はない。


「どうなさいますか? 気付かれないように奪っておいた方が……」


 ふむ。

 どうにか諦めてもらうには、これはいい機会なのかもしれない。


「いや、放っておいて構わない」

「ですが……」

「心配するな。決して口にはしない」


 ☆


「エドワルド様! 今日はクッキーを作ってきましたの! 食べていただけますか?」

「ありがとう」


 今日はクッキーか。彼女の手は令嬢らしくなく、いつも絆創膏が貼られている。それを見て眉をひそめる者もいるが、不器用ながら努力したのだろう。好感が持てるほどだ。柔らかい金色のふわふわしたくせっ毛をぴょこぴょこと跳ねさせながらついてくる姿は小動物のようで、可愛いと思う。異性の付き合いと言われれば違うが、見ている分に楽しいくらいには好感があると言っておこう。

 可愛らしいピンクの包み紙を受け取る。食べ物を渡してくることは初めてではない。念の為に毒見をさせてからいただくが、今までは特に問題なく美味しかった。が、今回は違うだろう、お前が何を隠し持っているのかを知っているんだぞ。と、内心で警戒していたが、


「あの、私、最近コーヒーを淹れるのが趣味で。よろしければ飲んでいただけませんか?」


 考えれば、ただ渡すだけでは俺がちゃんと薬を飲んだのか判断できない。自分の目で飲むところを見届けたいのは当たり前か。


 そうだ、いい事を思いついたぞ。これで彼女は諦めてくれるかもしれない。少なくとも薬が効いている間は俺に近付いては来ないだろう。


「コーヒーは好きなんだ。是非いただこう。……そうだ、俺の幼馴染が友達を欲しがっていたんだ。彼女もコーヒーが好きだし、誘ってもいいか?」

「もちろんですわ」


 2人が友達になれたら、俺に構ってる暇なんてなくなるかもしれないしな。



 ✩.*˚



「パティ」

「エド、どうしたの急に。ミリエットさんは2人きりで居たかったんじゃないの?」


 パティは幼馴染。親は結婚させる為に会わせたようだが、お互いその気はないことは確認済みだ。負けず嫌いですぐ信じる素直な奴。

 きっと彼女なら少し煽ればカップを交換しても疑うことなく飲んでくれるだろう。

 ちなみに今ミリエット嬢は冷めるのを待っていたという焼き菓子を取りに席を外している。


「お前、そろそろブラックも飲めるようになったらどうだ?」

「なんで? 別に困らないしいいじゃない」

「いつまでも舌がお子様だなと思ってな」

「なにー?」


 砂糖をたっぷりといれていくパティにわざと呆れながら言う。


「これを飲めたらお前の好きな店を今度奢ってやろう」

「ほんと? 本当に? 言ったね? 絶対だよ?」

「ああ」

「じゃあ、新しくできたお菓子のお店のケーキ全制覇したい! すっごく美味しいらしいの」

「いいだろう」

「よっしゃ!」


 まんまとカップを入れ替え、パティは疑いもせずカップに口をつけた。


「あれ? これ、本当にブラック? 甘いというかフルーティというか……すごく飲みやすい」


 薬に味があるのか? 興味が無いから今まで知らなかった。


「趣味と言っていたがミリエット嬢はよっぽどコーヒーをいれるのが上手なんだな」


 適当に相槌を打つ。これで、俺の難は去ったな。

 きっと数日後には惚れ薬に懲りて寄ってこなくなるだろう。

 パティには巻き込んでしまって申し訳ないが、彼女の言う新しい店のケーキ全制覇でチャラにしてもらおう。


 その後、戻ってきたミリエット嬢の前でこれでもかというほど甘いコーヒーを飲んだ。


「ありがとうミリエットさん、とっても美味しかったわ!」


 コーヒー好きの幼馴染、というのも嘘でなくなり、バレることなく無事にお茶会を終えて俺は部屋へと戻った。

 あの2人は寮まで道が同じだし、ずいぶん楽しそうに話していた。これから何が起こるのだろうか。




✩.*˚



「エドー!! どうしよう〜」


 来たな。


「どうした?」

「昨日あの後、ちょっと……とにかくミリエットさんに謝りたいだけなのよ私。でも避けられちゃって」


 惚れ薬は媚薬のような体に害があるものでは無いのだが、一体何があったのだろうか。


「ほんとに、今日になって目が覚めてびっくりしちゃって。ほら、ミリエットさん可愛いから、調子に乗っちゃってさ〜」


 今の様子から見ると、もう効果は切れているのか? 数日どころかたった1日とは。術師の腕がよく無かったんだな。


「結局のところ何があったんだ?」

「それは……言えないけど。あ! ミリエットさん!!」


 こちらの様子を伺っていたらしいミリエット嬢が、パティに呼ばれるとギクリと肩を震わせパタパタと走って行く。


「ミリエットさん〜待ってー!! 取って食ったりしないからぁ〜」


 言えない程のこととはなんなのだろう……。



 ✩.*˚



 数日後。

 俺の目論見通り、ミリエット嬢は俺に近付くことがなくなっていた。


「何かあったか?」

「それが、お2人はここ数日授業終わりに会っているみたいです」

「場所は?」


 2人が人気のない場所で会うようになったらしい。パティのことだから喧嘩はしないだろうし、上手くいっているのだろうが巻き込んだのは俺なので念の為見届けておこう。


「…………よし。明日は俺も行く」


 仲良くなってくれて良かった良かった。などと軽い気持ちでいたのだが、翌日目にしたのは衝撃的な光景だった。

 パティが、建物の柱にミリエット嬢を押し付けるような形でキスをしていたのだ。


「あ、あの、パティさん、昨日で最後だって言いましたよね?」

「正直に言うとクセになっちゃったんだよね。ミリーも、なんだかんだで来てくれるから同じじゃないの?」


 影からじっと2人を見守る。女子にしては高身長でキリッとした顔のパティと、可愛らしいミリエット嬢の2人が一緒に居るのはなんだか絵になるな。


「そ、そんなこと無いです!」

「エドに迫ってるって聞いてたけど、ミリーは押しに弱いんだね。かわいい」


 素直に可愛いと口にするパティにミリエット嬢は耳まで顔を真っ赤にしている。


「最初は可愛いなーって、思わずキスしちゃったのも申し訳ないと思って謝るだけのつもりだったけど」


 ミリエット嬢もパティが惚れ薬を飲んだことを分かっているだろうが、一般的な薬の効果は3日。それをとっくに過ぎていることの意味に気付いているはずだ。


「すぐ顔を真っ赤にしちゃって。可愛くて抱きしめたくなっちゃうの仕方ないよね。唇も綺麗で柔らかくて、キスも止められない。舌、入れたらどうなるんだろうね?」

「だ、ダメですっ! こんなところで……!」

「こんなところじゃなければ良いってこと? じゃあ私の部屋行こっか。女の子同士でお部屋に泊まるのはお咎めなしだしね」

「ち、ちが! そういうわけじゃなくって、待って!」


 少し強引にミリエット嬢の手を引っ張って2人はそのまま去っていった。


「……いいな」


 あの2人お似合いだな。ディープキス、見てみたさがあるが流石に部屋に押しかけられないし、そこまで踏み込むのは良くない。2人が一緒にいるのを遠くから見守っていくこととしよう。


「坊っちゃま! ついにご婚約の決心がつきましたか! これで将来も安泰ですね!」

「何を言っているんだお前は」


 ジェイミーの言葉に不快を隠せない。


「はい?」

「あの2人の邪魔をするなんて無粋なことが出来るわけないだろう。俺はただ見守りたいだけだ。帰るぞ」


 ミリエット嬢が俺に惚れ薬を盛ろうとしたので、幼馴染のパティに身代わりになってもらったが、結果として2人は恋愛関係になった。


 パティに奢ると約束した店には、後日ミリエット嬢も誘って3人で行った。もはや友情を超えた仲の良さを隠そうともせず、そんな2人を俺は空気となり見ていた。

 尊い。自分の存在が邪魔で仕方ない。次からは2人で行って来いとお金だけ渡すことにしよう。それを離れた席から見るくらいのことは許して欲しい。


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