四歳児には難しい
梅雨ですね。
肌寒くて、寝たら起きれません。
ゴメンナサイ。
昨日は更新をさぼりました。
でも梅雨がいけないんだと思います。
酒場の幼女と豚飼いの少年。
晴れ渡った冬空のもと…。
白い雪が降り積もった農場で、互いに駆け寄るふたり。
「メルー!」
「てぃっきー!」
エミリオの農場に着くなり馬橇から飛び降りたメルは、家畜小屋を掃除していたティッキーに飛びついて、熱い抱擁を交わした。
「しばらくぶりだねェー」
「ゆきぃー降ると、イエ出られんもん!」
「だよねー。会いたかったよ、メル」
「わらしも…」
感動の再会である。
幼児ーズとばかり遊んでいるメルなので、年上のティッキーは色々と世話を焼いてくれる有難い兄貴分だった。
一緒に居て心地よい。
メルは年上から構ってもらえて、程々に尽くされるのが好きである。
どちらかと言えば、冷凍マグロ系のヒメだった。
もとが男子高校生なので、年上男子に対する乙女チックな憧れや恋心など、メルには望むべくもない。
体育会系の上下関係から学ぶ礼儀作法も、当然ながら持ち合わせていない。
だから妹分の位置に立つと、遠慮せずにねだり始める。
まったく当人に自覚がないけれど、メルは明らかに甘えん坊である。
ナチュラルなまでに、欲しがるイモウトだった。
ツンデレなうえに、構ってちゃんなのだ。
おんなのこ一年生なので、仕方がなかった。
またティッキーも、この緩い関係を好ましく思っていた。
なのでメルがカマクラを要求すると、シャベルを持ってきて説明された通りに、雪のドームを作り上げた。
ご褒美は、メルが焼いた磯辺モチだった。
マジカル七輪をカマクラに設置したメルが、慣れた手つきでモチを炙る。
醤油に浸し、海苔を巻いてから、また軽く焼いて仕上げる。
「うまぁーど。イソベー」
「うん…。おいしそうな匂いがするね!」
「ショーユの焦げる匂いヨ…」
メルは醤油タレを絡めた海苔モチで、ティッキーの労をねぎらった。
「要するにメルちゃんが言うカマクラって、雪洞だったのかぁー」
「ううむ、カマクラ…。カマクラですヨ。わらし…。セツドォー、ヨォー知らん」
樹生は雪洞を知っていたが、こちらでの名称が分からない。
もちろん、こちらの世界にカマクラなどと言う名称はない。
だからカマクラを雪の家だ、とティッキーに説明した。
「まぁ、ちゃぁー飲め。モチ、食え」
「ありがとぉー。いただきます」
ティッキーは大好きなメルと狭い空間で寄り添い、美味しいノリ餅を頬張った。
「うわぁー。しょっぱくて芳ばしい。おいしいねぇー」
「たくさん焼く」
「あちちっ…。チーズみたいに伸びる…」
この未来は想定されていたのだから、『もうちょっと、ドームを小さめに作れば良かった…!』と、反省するティッキーであった。
ドームの中が狭ければ、自然とメルにくっついて座れるからだ。
「ちょっと、張り切り過ぎちゃったか…」
「んーっ?」
「何でもないよ…。雪の家って、楽しいねっ!」
「わらし…。カマクラ、はじめてヨ♪」
はしゃぐメルを見て、ティッキーは頑張って良かったと思った。
メルはマジカル七輪に、とっておきのタン塩を並べていた。
ノリ餅のつぎは焼肉だった。
◇◇◇◇
翌日になって、メルは迎えに来た森の魔女と恵みの森に入った。
以前と変わらず、然して歩くことなく魔女の庵に到着した。
「おおっ…!」
「ビックリしたかい?」
「わらし、おのろいたわ…」
メルは魔女の庵に雪がないので、目を丸くした。
「ミドリたくさん。ここだけ、ナツかぁー?」
「季節的には混在しておるが、まあ冬ではないねぇー」
「フシギ空間…」
メルは緑が生い茂る暖かな庭を見て、ウキウキとした気分になった。
荷物と外套を脱ぎ捨て、陽気なダンスのステップを踏む。
忽ち妖精たちがメルの周囲に集まって来て、転びそうになる小さな身体を支える。
色とりどりのオーブに助けられながら、メルは可愛らしいダンスを踊り終えた。
「随分と上手じゃないか…」
「わらし、だんさーヨ。ステータスのショクギョウに、だんさー書いてあるます」
「ステータスねぇ。それも、よく分からない魔法だね」
「わらし、あたぁーしいスキルもろた。シャケツと…。ゾォーケツ。アブねぇー、スキウよ。わらし、スキウためす。ババさま、わらし助くる…」
メルはデイパック(小)から、デイパック(大)を取りだし、お土産の瓶詰をテーブル代わりの切り株に並べていった。
「ほぉー。こりゃ凄い。精霊の実かい…」
「ババさまに、オミヤじゃ。わらし、こさえた。あまぁー、オヤツ」
「ありがとよ。あたしゃ、とっても嬉しいよ。精霊の樹は精霊の子にしか、果実をくれないからねぇー」
「そうなの…?!」
今更ながら、メルは真実を聞かされて驚いた。
「そうだよ。精霊樹の実は、とぉーっても貴重なモノなのさ。魔法使いに売りつければ、金貨がざくざく貰えるよ。いや…。王侯貴族に売れば、木の実ひとつで金貨百枚はイケるじゃろ。もっとも売買が成立した試しも無いから、値段など付けようもないけれどね」
「ほぉー。そうなんか…?」
メルは金貨がザクザク貰える木の実をトンキーにバクバク喰わせていた。
反省はするが、まったく後悔していない。
だけど木の実を他人に売ろうとは、思わなかった。
霊力の補充に必要な果実であるから、勝手に値段など付けられては堪らない。
更にいえば、果実をくれる精霊樹に申し訳ない気がした。
「こえから、気ぃーつけゆ…。ミィーは、ヒトに見せん」
「それが良い。因みに帝都なら…。精霊の子も、高額で売れそうじゃな…」
「おおおぉぉ…っ。わらし、売りもんチャウでェー。イヤァー!」
森の魔女は、先ずエグイところから、メルの常識を補強しにかかった。
「メルよ…。事程左様に、人の欲とは際限のないモノじゃ。メジエール村の外は、危険に満ちておる。帝都など、その最たるもの…。精霊の子が、物見遊山で足を運ぶ場所とは言えん」
「うぅーむっ!」
「やめとくかい?帝都に行くの…」
「そうは、いきませぬのデス。わらし、シメェーあるでヨォー」
「なんだね、それは…?」
メルは片言で、強制イベントについて説明した。
「なるほどなぁー。精霊の子に生まれると言うのは、お役目を負うってコトなのかね。何と言ったらよいのか…。この世に災厄のタネを蒔いた愚か者としては、頭が下がる話さ。ホンニ申し訳のないことじゃ」
「サイヤクのタネ…?」
メルは話について行かれず、首を傾げた。
「むかぁーし、あたしらの世界に大きな戦争があった。人とエルフの醜い争いじゃ。愚劣で野蛮な殺し合いを続けながら…。人とエルフは、しょーもない邪霊を次々と創り上げた。自分たちで制御できぬほど、強力な魔法術式じゃ。そんなものを使って戦争をすれば、世界が滅びる…」
「すんまぁーせん。ババさま…。センソーって、なんぞ?」
メルが気まずそうに、おずおずと訊ねた。
「くっ…。其処からかい…?」
ここで森の魔女は、ようやく過去を説明する難しさに気づいた。
これが料理であれば、手順を示しながら言葉の解説を加えれば良い。
用語に対応する現物が、目のまえにあるのだから簡単だ。
だが過去の出来事を説明するために、過去を見せることは出来ない。
しかも森の魔女は、メルが前世で用いていた言葉を知らない。
だから翻訳辞書を使うような具合には行かなかった。
概念を言葉で説明しなければならない。
説明のための説明のための、説明をしなければならなかった。
「むむーっ。これは…。如何ともしがたい厄介な壁じゃな。やむを得ぬ。オマエさまには悪いが、泊りで勉強してもらうとしよう…」
「はぁー?」
「あたしが言葉を教えると言っとるんじゃ…!」
相手は小さなメルである。
それは気が遠くなるほど困難な作業に思えた。
たらちり鍋が食べたい…。
冷たい雨がうざいので、買い物だって億劫ですよね。
今晩は近所で豆腐を買って、シンプルに湯豆腐でも良いかなぁー。








