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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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お風呂ギライ



メルの目に映るメジエール村は、こぢんまりとした農村だ。

だがそれは、飽くまでもメルが見て回れる範囲での話だった。


実際のメジエール村は、メルの想像より遥かに大きかった。


村の中心部は、余所者たちを受け入れる宿場のような役割を果たす。

『酔いどれ亭』の食堂だけでなく、行商人や季節労働者が泊まれる宿も建っていた。


農作業に従事する村人は、各々の耕作地に住居を持っている。

そうした農民たちが必要とする農具や雑貨なども、村の中心部にある集落で用意された。


だから集落には雑貨屋や道具屋がある。

薬師や魔法使いの工房も、集落の中に含まれた。

それ以外にも仕立屋の衣料品店や、大工の作業場があったりする。

小川の近くには鍛冶屋があり、大きな水車小屋では小麦が挽かれていた。

村の北に広がる恵みの森の近くではブタを放牧していたし、すこし森に分け入れば炭焼き小屋や、狩人の狩猟小屋も見つかる。


だけどメルは、メルの樹が生えている広場から離れてはいけないと、教えられていた。

はっきり言えば、何処かへ行かないように大人たちから見張られていた。


(チビだからしょうがないよね。ちっさいからね…)


そうなるとメジエール村の全貌など、分かるはずもない。

それにメジエール村の小麦畑は、子供が歩いて回れないほど広かった。


メルは取っ手付きのポットを持って、村の中央広場をトボトボと歩いて回る。

文字も読めなければ会話も怪しいレベルなので、暇をつぶすには黒いやつと闘うくらいしかなかった。

あとはフレッドを手伝って、豆の莢を剥くとか…。


(くっ…。またしても黒いヤツが、葉っぱを齧ってる。懲りないヤツだなぁー)


メルは鼻をフンフン鳴らしながら、畑に足を踏み入れた。


メルが村の畑だと思っていたのは、『酔いどれ亭』の野菜畑に過ぎなかった。

食堂でつかう季節の野菜やハーブが、ちんまりと植えてある畑だ。


ことほど左様に、メルの世界は狭い。

まあ、推定年齢四歳相当の女児なので致し方がない。




「メル…。お風呂だよぉー」

「………ハッ!」


アビーがメルを呼んだ。

布のお人形さんを弄っていたメルが、ピクリと耳を動かした。


「キレイにして上げるから、おいでェー」


だが実のところ、アビーはメルが呼ばれて来るなどと思っていない。

声を上げたのは、フレッドに向けた合図である。


すかさずフレッドがメルを捕獲して、風呂場で待つアビーに手渡す。

この時点でメルの衣服は手際よく剥かれて、スッポンポンの裸ん坊だ。


「ありがとぉー、あなた」

「ハハッ。逃がしゃしないっての!」


メルは全裸のアビーに抱えられて、顔を真っ赤にした。


メルの頬っぺたに柔らかくて大きなアビーの胸が、ムニューッと押しつけられる。

お風呂で温まった膨らみが、ぬくい。

そしてツルツル。


(やめてェー!)


お風呂タイムは苦手だった。

実のところメルは、エルフ女児になってから何度もアビーとお風呂に入っていたが、邪な欲望に駆られたコトなど一度たりとてなかった。


それでも高校一年生の樹生が…。

アビーとの入浴を全力で拒絶していた。


なのでお風呂の気配を感じ取ると、メルは必死になって逃げだす。

だが残念なことに、逃亡に成功した例がなかった。


メルは足が遅かった。

モチャモチャと走ることしか出来なかった。

どう頑張っても、脱兎の如くとは行かないのだ。


(むしろカメ…?)


前世でも今世でも、運動能力には縁のないメルだった。


「さあ…。ママと一緒に、湯船につかって温まろうね」

「やぁー!」

「ウチはお料理を出す店だから、メルちゃんも清潔にしていないとダメでしょ?」

「やぁー!」

「ほら、頭とか汚れてるし…。くさいくさいですヨ」

「やメェー!」


いつも通り、お風呂タイムは賑やかだった。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


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