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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
30/369

妖精猫族の王子さま



梅雨どきを迎えると、メルのレベルが八に上がった。

ジメジメとした季節のせいか、黒いヤツがわんさかと湧いてくる。

これを見かけるたびに退治していたら、いつの間にかレベルが上がっていたのだ。


だけどタブレットPCのモニターを見つめるメルの表情は、冴えなかった。


(何だか、新しい項目が増えてるけど…。ちょー、嬉しくないんですけど…!)


タブレットPCをつかんだメルの手に、ググッと力が籠った。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




【ステータス】


名前:メル

種族:ハイエルフ

年齢:四歳

職業:掃除屋さん、料理人見習い、駆けだしダンサー、あにまるドクター、妖精隊長。

レベル:8

体力:32

魔力:100

知力:60

素早さ:5

攻撃力:3

防御力:3


スキル:無病息災∞、女児力レベル∞、料理レベル8、精霊魔法レベル∞。

特殊スキル:ヨゴレ探し、ヨゴレ剥がし、ヨゴレ落とし、ヨゴレの浄化、領域浄化(小)、妖精との意思疎通(念話)。

加護:精霊樹の守り。

称号:かぼちゃ姫。


バッドステータス:幼児退行、すろー、甘ったれ、泣き虫、指しゃぶり。


【妖精パワー】


身体に取り込んだ妖精さんたちが、能力数値を上方修正してくれます。


地の妖精さん:防御力、頑強さを上昇させます。

水の妖精さん:回復力、治癒力を上昇させます。

火の妖精さん:運動能力、攻撃力を上昇させます。

風の妖精さん:判断力、敏捷性を上昇させます。


(注意事項)

能力の上昇に伴い、霊力(オド)の消費が激しくなります。

精霊樹の実を摂取して、霊力(オド)の補給に努めましょう。


【装備品】


頭:ゴブリンのナイトキャップ。(アゴまで引き下ろすと、ゴブリンマスクになります。後ろから忍び寄って、お友だちをビックリさせましょう!)

防具:幼児用パジャマ。(半袖バージョン。風通しが良くて、寝心地バツグン!)

足:お知らせサンダル・ひよこ。(歩くとカワイイひよこの鳴き声がして、お子さまの居場所を教えてくれます)

武器:ミスリルのスプーン。(絶対に、こぼれません。こぼしません!)

アクセサリー:妖精の角笛。(吹くだけで、小さな妖精さんたちが集合します)


花丸ポイント:650pt


【友だち】


クロ:バーゲスト。犬の妖精。魔女の使い魔。

ミケ:ケット・シー。猫の妖精。猫の王族。

タリサ:人間の女児。雑貨屋の末娘。

ティナ:人間の女児。仕立屋の娘。

ダヴィ坊や:人間の男児。宿屋の息子。


(友だちはナビゲーション画面から、パーティーメンバーに組み込むことが可能です)


【重要:メルの王子さま候補】


ティッキー:豚飼いの少年。幼馴染的なポジションから、メルを狙う。生真面目で堅実な、庶民派の王子さま。

ミケ:『精霊の子を探しだして、お妃に迎えろ!』と父王に命じられ、猫妖精の国から追いだされてしまった王子さま。精霊の子は見つけだしたが、尻尾のないメスとの恋愛に抵抗を感じている。心に葛藤を抱えた、イケメン猫の王子さま。


【イベント】


ミッション:厨房を穢れから守る、食料保存庫を穢れから守る、畑を穢れから守る。

スペシャルミッション:囚われの妖精さんを探しだし、封印を解除しよう。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




いつからティッキーが、メルの王子さま候補になったのか…?


それとミケ…。

ミケの正体については、近いうちにハッキリさせなければなるまい。

オス猫なのは分かっているけれど、妖精猫族の王子さまとか納得できない。

魚の干物をねだる、ノラ猫にしか見えないのに…。


宿なし猫の癖して、『王子さま』って何なのさ…?


メルはムギギ…ッ!と、奥歯を噛みしめた。


(恋愛フラグとか、マジで勘弁してくれよ!メルは四歳児だし、僕は男の子だよ。身体は、女児だけどさぁー。四歳で王子さまとか…。幾らなんでも、まだ早いでしょ…。それと地味に気になるんだけど…。『かぼちゃ姫』って、何ですか?称号が、おかしくないですか…!)


突っ込みどころがあり過ぎて、もうステータス数値どころではない。


断固として抗議したい。

だが、どこに抗議文書を送りつけたらよいのか…?


(そういえばさぁ。ステータス数値もアレだよね。最初は嬉しくて、はしゃいでたけどさ…。自分のステータスしか調べられないって、意味なくないか?)


メルは能力を示す数値について、片言でフレッドに訊ねたコトがあった。


『わはは…っ。個人の能力を数値で示すって、そんなバカげた話は聞いたこともないよ。比べるのが、ものすごく大変じゃないのか…?何処かの王さまが、武闘会でも催すのかな!』


思いきり笑われた。

腹の底から力強く笑われた。

恥ずかしくないのに、真面目な話なのに、何だか顔が赤くなった。


冷静になって考えてみれば、個々人の能力を数値化するために比べるのは、それはもう大変な作業になるだろう。

と言うか、絶対にムリだと思う。


要するに、この世界には能力値なんて存在しない。

だから他人の能力値も調べられない。

見れるのは自分のだけ。


(これじゃ、どっちが強いか分かんないじゃん!)


どうやら己の優位を確信してから闘うことは、許されていないようだった。

ガッカリである。


メルはタブレットPCをシャットダウンして、背嚢(デイパック)にしまった。




長く降り続いた雨があがり。

雲間からは、久しぶりにお日さまが顔を覗かせていた。


メルは泥濘(ぬかるみ)を避けて、『酔いどれ亭』の店先にマジカル七輪を置いた。

今日のオヤツはメザシだ。


「ミケ、来るかの?」


雨の間…。

ミケは何処へ避難したのか、メルの前に姿を見せなかった。

たぶん、お腹を空かせている筈だった。


暫くすると、メザシの焼ける匂いが辺りに漂いだした。

食欲を刺激する良い匂いだ。


(あっ…。姿を現したな!)


マジカル七輪でメザシを炙っているメルの横に、そろりとミケがすり寄ってきた。


「おう、ミケ…」

「ミャァー」


現れるなりの催促である。


右前脚で、メルの右腕をムイッと圧す。

すべすべの肉球が、ひんやりとして気持ち良かった。


(うふふっ…。ノラ猫の振りをしたってダメさ。キミの正体は、もうバレているんだからね。今日こそ、化けの皮をひん剥いてやるぞ…!)


メルはミケのために、焼き上がったメザシを冷ましながらほくそ笑んだ。




妖精猫族の王子は、お腹を減らしていた。

正直に白状すればペコペコである。


いやいや…。

今にもパタンとひっくり返ってしまいそうなほど、お腹が減っていた。

眩暈がして、行き斃れそうだった。


(雨の日が、狩りに向いていないと初めて知ったよ!)


そもそも妖精猫族の王子は王族なので、大嫌いな雨の日に外へ出かけたりしない。

ゴハンは召使たちが用意してくれた。

何と言ったって偉いのだ。


妖精猫族の王子は『精霊の子』を探す旅に出て、やっと家来たちの苦労に気づいたくらい、箱入りの王子さまだった。


(生のネズミなんて、オェーだよ。あんなの、食べられたもんじゃないね!)


王族なので口も肥えていた。

プライドも高い。


だから長雨が続いただけで、直ぐに飢えてしまった。

ノラ猫の方が、ずっとマシである。


(メルのくれるゴハンは美味しいなぁー!生き返るよ…)


王子はメザシをムシャムシャと食べた。

美味しすぎて涙がでそうだった。


(メル…。もっと、ミケにちょうだい!)


精霊の子は、周囲の人族から『メル』と呼ばれていた。

真名ではない。


王子もメルに『ミケ』と呼ばれていたが、真名ではない。


真名は隠しておくべきモノだ。

(みだ)りに真名を口にしたり、他者に教えたりしてはならない。


だから王子は自分がミケと呼ばれることに、少しも抵抗を感じていなかった。


(メルがくれた名は、ボクの体色を表すらしい。ちょっと誇らしい気分になれる。ミケって、覚えやすいし、嬉しい名だよね…)


ただ精霊の子が人族に酷似した外見を持つ点については、些かなりの抵抗を感じていた。


(メルは可愛いよ。でも、妖精猫族の妃には出来ない。だって…。身体中、ツルツルにハゲてるじゃん!)


そう…。

妖精猫族からすれば、メルは皮膚病を患ったメス猫より問題があった。


(第一、シッポがないよ。妖精猫族の娘は、ユラリユラリと蠱惑的にシッポを揺らしてなきゃ…)


妖精猫族にとって、尻尾は大切な道具である。

異性に魅力を振りまいたり、さまざまな感情を表現したり、バランスを取ったり…。

とにかく大事なのだ。


ところがメルには尻尾がない。

人族としては愛らしいが、妖精猫族と外見が異なるのだ。


(ハゲなだけなら、ボクも我慢するさ。でもシッポが無いんじゃ、お嫁さんにはできないよ)


王は王子が妃を連れてこれないなら、王国に戻るなと命じた。

だからミケは妖精猫族の国へ帰れないで、メジエール村に居座っていた。


(父上は、ときどきムチャをご命じになるからなぁー。中でも今回のは、滅茶クチャが過ぎるよ。どうせ精霊の子が、どんな姿をしているかも知らなかったに決まってる。所詮はネコだからなぁー)


ミケは自分も猫なのに、妖精猫族の王をネコだと馬鹿にした。


(ボクも妖精猫族だから知ってるけど、ネコって夢中になるとバカなんだよね)


高いところに登って、降りられなくなる。

隙間に挟まって、抜けなくなる。

肥溜めに嵌る。


そんな経験は、ミケも散々してきたのだ。


そしてミケは、いま夢中になってメザシを食べていた。



〈ミケさん。ミケさん。応答してください…!〉

〈ダレ、煩いよ。今ねぇー。ボクは四日ぶりに、ゴハンを食べてるんだ。何処のどなたか存じ上げませんけれど、邪魔しないでくれませんか?〉

〈メザシ…。美味しいですかぁー?〉

〈んっ。この魚のことかい…?すごく美味しいよ。でも、分けてあげないよ。これはボクんだからね〉


〈そう…。それじゃ、ゆっくり食べてくださいね…〉


ミケはハッとして顔を上げた。


〈これって念話…?〉

〈はい…。念話ですよ、ネコの王子さま!〉

〈メルなの…?〉


〈はい。メルです〉


メルがニヤニヤしながら見ていた。

ガッツリと目が合っている。


〈ニャァー!〉

〈手遅れじゃないですかぁ?〉


〈にゃ…〉


ミケは正体を見破られてしまった。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

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こちらは2巻のカバーイラストです。

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こちらは1巻のカバーイラストです。

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ミケ王子

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― 新着の感想 ―
[良い点] のどかで安心して読めます。とても面白いです [気になる点] 姫が媛になってるところがあるので直した方がいいと思います。
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