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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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家族でカレーライス



とうとう、カレーライスが完成した。

食堂のテーブルに、料理の皿が並べられる。

横にはアビーが作ってくれた、温野菜のサラダもあった。

普段であればアビーのドレッシングで食べるのだが、今日はメルがマヨネーズを用意した。


まろやかマヨネーズ。

メーカー名は、ピクシー・フーズである。

聞いたこともなかった。


『うまうまカレー』が花丸食品なのだから、深く考えても意味はない。


風の精霊さんが頑張ってくれたラッシーのグラスも、置いてある。

粉々に砕かれた氷と白桃が、トロリとしたラッシーに爽やかな涼味を与えている。


チョットだけ味見してみると、甘くてひんやり。


「うまぁー」

「こらっ。頂きますが先だろ」

「メルちゃんてば、お行儀が悪いぞぉー」

「いたらきます…!」


「「いただきます!」」


フレッドが、スプーンでカレーライスを口に運んだ。


「うめぇ!こりゃあ、すごいぞ…」


フレッドの顔が、一瞬で驚きの表情に変わった。


「うん。辛いけど、とても美味しい…。ここまでくると、魔法だね。これは魔法のお料理だよ」


アビーも驚愕を隠せないようだった。


とても四歳の女児が作ったとは思えない。


「牛だと思うんだが、プリプリだな…。やべぇ、こりゃバカ食いしちまうわ」

「ハンスとゲラルト親方は、きっと我慢できなかったんだね」


フレッドとアビーは、メルの料理を褒めちぎった。


「だけど、これって服に付いたら落ちなくない?」

「シチューよりヤバそうだな…」

「ちょっとメルちゃん。脱いでおこうか」


「あうっ?」


結局メルは、かぼちゃパンツだけに剥かれた。

跳ね散る料理のときは、いつだってスポポンにされてしまうのだ。


「あーっ。そういうことか…」


フレッドが納得したように、パンと手を打ち鳴らした。


「なになに、何なのよ?」

「いやさぁ…。ハンスの話だよ。店に入ったらメルが裸だったって…。気候が暖かくなって来てから、オマエがメルを脱がすだろ」

「だって…。このワンピースしか、着てくれないんだもん。洗濯のときにも、脱がせるでしょ。ハダカで放置してるのとは違うんだよ。メルちゃんが、着替えないで逃げるんだから…」


アビーは不満そうに言った。


「いやっ、そこはどうでもいいから…。つまりだ…。メルは汚すと叱られると思って、食べるまえに服を脱いだのさ」

「なるほどねぇー。メルー。他所で食事をするときは、脱がないでね!」


「うむっ…」


メルはカレーライスを掻き込みながら、アビーに生返事をした。


美味しすぎて、カレーを運ぶスプーンが止まらない。


(肉が美味い。このプリプリ感が堪らん。そして、シャキッとした食感が残るパプリカ。しんなりと柔らかいナスも、非常によい仕事をしている。マッシュルームの仄かな香りと歯ごたえも、アクセントとして最高だ。あーっ。懐かしい、カレーの風味。炊き立てご飯の味わい。感動で、涙が溢れそう…)


メルは押し寄せる歓喜の波に、瞳を潤ませた。


女児には少しばかり辛すぎるカレーが、プニプニお肌に汗を滲ませる。

そこに冷たくひえたラッシーをストローでチューッと吸う。


「うまぁー♪」


アビーの温野菜サラダも、めっちゃ美味しい。

ごろっとしたおイモや、赤いニンジン、ブロッコリーに似た緑色の野菜。

茹で加減はバッチリで、モリモリと食べられる。


マヨネーズのまろやかさが、カレーの辛さで痺れた舌をやさしく癒す。


そうして再び、カレーライスを掻き込む。


転生して良かったぁー。

エルフっぽい女児になっちゃったけれど、ゴハンが美味しいよォー。


死んだまんまでは、味わえなかった幸せだ。


メルには喜びを表す言葉が無かった。

只々、いまこの瞬間を与えてくれた、偉大なる何かに感謝を捧げたい。


「ありあとぉー!」


そっと小さな声で感謝を述べる。


ちらりとフレッドとアビーを見れば、二人とも汗だくになっていた。

ダラダラと汗を流しながら憑りつかれたように、カレーライスを食べ続けている。


「それにしても暑いな。汗が止まらん…!」

「美味しいけど、これはお風呂に入らなきゃだね」

「ああっ…。喰い終わったら、俺が風呂の用意をするよ」


「うふぅー!」


大人は汗だくになっても、服を脱げない。

スポポンは、幼児だけの特権だった。


別に威張るような事ではないけど…。



「ゴチソウサマ…。とても美味かった。俺が間違っていたよ。済まなかった…。以上!」


フレッドがメルに頭を下げた。


「んっ?」

「パパはメルちゃんを心配して、『厨房に入っちゃダメだヨ!』と言ったけれど、余計なお世話だったかなぁー?って、考えているのね」


アビーがフレッドの心理を解説してくれた。


「まあ…。未だに心配してるのは、変わらないけどな。厨房は危ないから、ケガでもしたら大変だろ」


「おう…。わらし、わぁーた」


メルは素直に頷いた。


「だから、パパかママが居るときだけね…」

「なかぁー入って、エエの?」

「俺が許可する」


「フォーッ!」


メルが喜びの声をあげた。


ものすごい譲歩を勝ち取った。

これからは、料理をさせてもらえるのだ。

シシャモやスルメだけでなく、ハンバーグだって食べられる。


炊き込みご飯やチャーハンにピラフ…。

食べたいものは山ほどあった。


カレーうどんにスパゲッティ、ラーメンやお蕎麦も食べたい。


なにも有名店で売られている、本格的な味でなくともよい。

生麵でなければ嫌だなどと、贅沢は言わない。

乾麺だって構わない。


思い出の味に浸りたいのだ。


メルの中に沸々と、やる気が湧いてきた。


「わらし、リョーリニン。なるぅー!」


メルは子供らしい素直さで宣言した。


『ルンタカタァ~♪』


かぼちゃパンツで、喜びを表す創作ダンスだ。

嬉しいが溢れだして、止まらない。


「なれなれ…。料理人の天辺を目指しちゃいな。一生懸命に頑張って、修業しろ!」

「うん…。わらし、ガンバゆー!」


「えーっ。私としては、メルちゃんにお姫さまを目指して欲しいんだけどなぁ」


アビーの台詞に、フレッドとメルが目を丸くした。


メジエール村には、王子さまなんて居ない。

遠くから訪ねても来ない。


どうやって、王子さまに見初めて貰おうというのか?

招待もされていないのに、こちらから舞踏会へ行けと…。


タリサと同レベルの乙女チック発言に、父娘の腰が引けた。


フレッドとメルは、『無茶言うなよ!』と胸の内でぼやいた。






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【エルフさんの魔法料理店】

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