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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
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河原でゴハン



キャッキャとはしゃぐタリサたちの周囲で、水の妖精たちが舞い踊っている。

泳ぎが得意でないラヴィニア姫も、水の妖精たちに助けられてご満悦だ。


「よぉーし。魚釣りはお終いじゃ!」

「おっ、おう」


ダヴィ坊やは、既に食べきれないほどの魚を釣り上げていた。


「わらし、ちっこいのが三匹よ」


メルが悔しそうに言った。


「そうだね…。そこまで小さいと、串にさして焼くのが難しくないか…?」

「ムカついたで、この手で大きいの捕まえたるわ!」


メルはフォックス・スーツを脱いで、水着姿になった。

水中ゴーグルをつけて、本気モードだ。


「ヌォォォォォォォォォーッ!」


そして大岩の端っこから、身を躍らせた。


着水音に遅れて、派手な水しぶきが上がる。


「メル姉は、釣りに向いていないかも知らん」


ダヴィ坊やがポソッと呟いた。


このポイントで、小魚三匹はヘタクソ過ぎだった。

しかも餌のコケ丸くんを取られてばかりいる。


「もしかして、鈍い?」


そう…。

妖精パワーに圧倒されて見過ごされがちだが、メルの身体能力はポンコツである。


特に反射神経がボロカスで、どれだけ集中していても魚のアタリに合わせられない。

飛んでくるカブト虫を額で受けるのも、避けられないからだ。


そんなメルだけど、水中で見つけた獲物にデコピンを放って捕まえるコトができる。

テッポウエビも吃驚のプラズマ衝撃波で、狙った魚を失神させる。


ターゲットが回避運動を開始する前に、ビシッとデコピンを放つ。

離れた位置から発射されたプラズマ衝撃波が、見事に魚の意識を刈り取る。


何もかも、妖精たちに頼った攻撃である。

メルは身体能力がポンコツなだけに、妖精パワーの応用に長けているのだ。



『ゴン、ゴン!』と、水中から怪しい音がした。


「何よ、何の音なの…?」

「いやぁー。変な音が聞こえます」

「あーっ。気にしなくても、大丈夫。直ぐに終わると思うよ」


危険なデコピンの音だ。

多分おそらく、メルが魚釣りに失敗したのだろう。


ラヴィニア姫はニヘラと笑った。




◇◇◇◇




ダヴィ坊やが薪を積み上げて、火を熾した。

釣って来た魚に粗塩を振り、格好よく竹串にさす。


「頭が下で、尾っぽが上やで…」

「分かっとる」


メルはマジカル七輪を置いて、ラヴィニア姫が収穫した茄子を焼いた。

焼きあがった茄子は、氷を浮かべたバケツに放り込む。


女子組は、粗熱が取れた茄子の皮むきだ。


「メルちゃん。焼きナス用のおろし生姜は、このくらいで良いかな?」

「うん。エエよぉー。湯が沸いたで、ミソ汁を作ります」


トンキーが居ないので、味噌汁の具材は豚肉だ。

豚と長ネギだけの、シンプルな豚汁である。


トンキーはエルフの里で避暑を満喫している。

開墾の助けになると、エルフたちから喜ばれていた。


ご褒美が極太キュウリなので、当分は帰って来そうになかった。


(ブタさんは、野菜が好きだからなぁー)


焚火から少し離して、魚を刺した串が並べられていた。

十本近い串が地面に突き立てられているので、見ごたえがある。


「わぁーっ。美味しそうな匂い」

「うん。お腹がすいちゃった」


遠赤外線で、こんがりと焼けてくる。

ポタポタと油が垂れて、皮がパリッとしたら焼き上がりだ。


「デブが頑張って釣った魚じゃ。美味いに決まっとる」

「メルちゃんは…?」

「わらし、こっちの二尾…。潜って捕まえました」


「他のと、種類が違うみたい」


それは鮎っぽい魚だった。

コケしか食べない、鮎っぽい魚だ。


「エエですか…?わらしの、食うたらアカンで…」


二尾しかないので、分けて上げることはできない。

釣り上げた小さな魚は、リリースした。


沸騰したナベから豚肉の灰汁を取り除き、刻んだネギを投入。

ナベを火からおろして、適量の味噌を溶かせば、豚汁の完成である。


「ミソ汁、でけたどぉー」

「「「「うぇーい!」」」」


タリサがテーブル代わりの大きな岩に、人数分のランチョンマットを敷いた。

ティナは、お皿やお椀などの食器を配って回った。


「オレも手伝う」

「ダヴィは、座ってなさいよ」

「そうそう…。もう充分に働いたでしょ」

「ほらっ。ダヴィが釣ってくれた魚、美味しそうだよ」

「ダヴィくん、ありがとうね」


「うっ。どういたしまして…」


照れていても、ちゃんと返礼する。

ダヴィ坊やは紳士だった。


「メル、それはナニよ?」

「椅子…?」

「まぁーた、アンタだけなの…?!自分だけ椅子に座って、楽ちんなんだ」

「タリサも使います?」


「当然デショ。最初から、皆の分を出しなさいよ!」


タリサに叱られて、メルは人数分の折り畳みイスを花丸ショップで購入した。


「本当に気が利かないんだから…」

「あーた。それ言うなら、あーたが用意したらいいデショ!」

「馬鹿ね…。こんなに便利なものがあるなんて知ってたら、ちゃんと用意してるわよ」


「…………そう」


タリサの言い分にも一理あった。


この世界では、アウトドア用の折り畳み椅子なんて売っていない。

騎士団とかは野外で使っているかも知れないが、たぶん特別注文だろう。


メルは、時々ウッカリさんである。


「ありがとう、メル」


タリサが姿勢を正して、椅子の礼を口にした。


「しゃがんでいなくても良いので、とっても楽です。ありがとう、メルちゃん」

「メルちゃん、凹むな」

「メル姉、誰だって気がつかないときはあるさ」


「やかましいわ!わらし、ヤイヤイ責められるのイヤじゃ。欲しいなら、椅子ちょうだいって頼めや、カス!」


メルが駄々をこねた。


「ガキね」

「……っ!」


メルは淑女(レディー)になれなかった。


他人から椅子をせしめておいて、『ガキね!』と言い放つタリサの図々しさには、どうやっても勝てやしない。

してあげたのに(なじ)られるって、間違っていないかと思う。


それなのに、反論の言葉が思いつかない。


泣きそうになり、スンと鼻を鳴らす。

泣いたら次は、赤ちゃん扱いだ。


「ゴハンは、枝豆のおにぎりデス」

「「「「うぇーい!」」」」


何とか持ち直した。


「では、頂きましょう」

「「「「うぇーい!」」」」


「わんわんわん…!」


ベイビーリーフ号で寝コケていた駄犬が、起き出してきた。


「ハンテン、居たんか?!」

「もぉーっ、ゴハンのチャンスは逃さないんだから…。誰に似たのかなぁー?」

「ワンワン吠えても、ハンテンの魚はないぞ」


「犬には、犬ゴハンをあげよう」


メルはおにぎりを置いたドンブリに、豚汁をかけた。


「メル姉…。犬にネギを食わすと、具合が悪くなるらしいぞ」

「ハンテンは、犬のようで犬ではないからな」

「えっ。じゃあ、ハンテンはナニ?」


メルがダヴィ坊やの耳元で、ゴショゴショと囁いた。


「まじか?!」

「うん」

「やべぇ」


ダヴィ坊やが顔を引きつらせた。


不細工な駄犬の正体は、屍呪之王(しじゅのおう)だった。

そんなもの、トップシークレットだ。


ハンテンは、メルに貰ったゴハンをガツガツと食べだした。


メルは取り皿の上に載せた魚から、慎重に竹串を抜き取った。

ついでヒレを頭の方から順番に毟っていく。


尾びれまで毟ったら、魚を縦にして背中の方からムイムイと圧す。

最後に頭をつかみ、身と離れた骨を引き抜く。


全ての骨が、背骨にくっついて抜ける。

キレイに取れた。


「ウヘヘッ…。頂きます」


こうすれば、皮と身を丸齧りにできる。


「うまぁー」


身は淡白で、こんがりと焼けた皮が香ばしい。

内蔵のほろ苦さも、味わい深い。


鮎っぽい魚にスダチは要らなかった。

粗塩のみでバッチリだ。


焼きナスが、これまた美味しい。


こんがり焼いて皮を剥いた茄子は、淡い緑色をしている。

そこに生姜を載せて、甘めのダシ醤油に浸す。

パックリと頬張る。


「ふぉーっ」


おにぎりも枝豆の食感がアクセントとなって、モグモグ食べられる。


そして熱々の豚汁を啜る。


「ぷはぁー」


水遊びで冷えた身体に、豚汁が嬉しい。


「メルとダヴィは、二人だけでこんな美味しいものを食べてたの…?」

「ずぅーっと二人で、魚が釣れる場所を探しとったんじゃ」

「それにさぁー。試食しなきゃ、美味しいかどうかわからないだろ」


「まぁ、そうね…。アンタたちの言う通りだわ」


何かといちゃもんをつけるが、引き際も早いタリサである。


欲張りティナは、食べるのに夢中だ。


「わんわんわんわん、わん!」


ハンテンが吠えた。


「オカワリか?」

「オカワリなの…?」


メルとラヴィニア姫が、ハンテンを見て顔を顰めた。


駄犬の癖して、よく食べる。

しかも早食いだ。


「ラビーさん。こいつをエルフの里に捨てるのは、どうでしょうか?」

「イヤよ!」

「そうですかぁー」


メルはハンテンのオカワリを用意しながら、ため息を吐いた。


何でも食べる駄犬は、人が食べている物を何でも欲しがるのだ。

非常に面倒くさいヤツである。




◇◇◇◇




メルたちが河原で焼き魚パーティーをしている頃、マリーズ・レノア中尉は窮地に陥っていた。


「中尉、魔動船の出力が低下しています」

「こいつは、壊れたな」

「動力ディスクの破損か…」


虚仮の一念。

塵も積もれば山となる。


昼夜を問わずに続けられた猛魚(バトルフィッシュ)たちの体当たりは、ついに閉鎖系動力ディスクを破壊するに至った。


「帆を張って、風魔法を使うしかあるまい」

「ポラック兵長、やれそうか?」

「風ですか…。ぶっ通しだと無理です。休みながらなら…」

「構わん。ポラック兵長が休憩している間は、オールを使おう」

「レノア中尉、舟をこいだ経験はありますか…?」


「……ない」


前途多難である。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に美味しそうです。 そして皆デイブに優しくてほっこり。 前話のメルの気遣いも良かった。 こういう心を大切にする所がこの作品の良さなんだよなあと、しみじみ思いました。
[一言] ハンテンには駄犬でいてもらわねば。
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