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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
240/369

ダヴィ坊やが付いてきた



夜になりメジエール村の中央広場で、メルとミケ王子が合流した。


「待った、メルゥー?」

「ううん。今来たところぉー」


「オマエたちは、何をしてるのか…?」


ミケ王子とメルのデート・コントに、ダヴィ坊やがツッコミを入れた。


「なんで、ダヴィが居るのさ?」

「デブも来るんだって」

「それって不味くない?」

「オレを置いてったら、アビー小母さんにチクる。今からでも、呼んでくるからな!」


「グヌヌヌッ…。なんて卑劣な」


ミケ王子が呻いた。


「オレも行く。コレは絶対だ」


ヒミツの冒険だ。

男の子だったら参加したい。


仲間外れは御免だった。


「おかしいわぁー。どうしてバレたのか、ちぃーとも分からん」

「メル姉、そんなことはどうでも良かろう。さっさと、出かけようぜ!」

「デブさん…。遊びに行くんと、ちゃうデェー。そらもう、あっちは戦争じゃ。戦争は、大人のケンカじゃ。○○が、ゴロゴロと転がっとるかも知れん」

「オレは、一向に構わん。危険な場所へ行くなら、それこそメル姉だけでは心配だろ」


「ダヴィ…。ボクが居るよ」


ダヴィ坊やは、尻でミケ王子を突き飛ばした。


「こんなネコ。ちっとも役に立たん!」

「ヒドイ」


ミケ王子が尻尾を太くして怒った。


「そんなことより…。眠りの魔法をつこぉーたのに、なんで起きとるん…?」

「たぶん…。幼児ーズに、その手の魔法は効かん」

「はぁー。わらし、調子に乗りました。おまぁーらを強化しすぎたわ」


「そうだよ。強化するなら、ボクを先に強化しなきゃ!」


幼児ーズの強化は、必然だった。

メルと一緒に遊んでいれば、否が応でも強化される。


そのうえダヴィ坊やはメルとケンカをするので、邪妖精まで率いている。

ミッティア魔法王国の魔法使いが相手でも、びくともしないだろう。


カール爺さんの納屋が壊されたのは、仕方のないことである。

メルとダヴィ坊やは、小さな怪獣なのだ。


そこでミケ王子は…?と問えば、ちんけな猫だった。

二本足で歩き、人間の言葉を巧みに操り、ちょっとだけ風魔法が使えるネコ。


王子は単なる肩書に過ぎなかった。


メルとダヴィ坊やが、ミケ王子を見下ろす。

じっと見つめる。


「なっ、なに…。そんなふうに、ジロジロと見ないでよ」

「ステータス・オープンじゃ!」


何となく、ミケ王子の強さを鑑定。


「ヨワァー。ミケ、最弱ぅー。トンキーにも、鼻であしらわれるレベルじゃ!」

「ふんっ。王子のくせに、どうしようもなく雑魚(ザコ)いな」


「もぉーっ。二人とも馬鹿にしないで、ボクを強くして…!」


妖精猫族(ケット・シー)のミケ王子は、曲がりなりにも精霊だ。

妖精女王陛下のメルなら、ミケ王子の強化が可能なはずだった。


悪魔王子(デーモンプリンス)とカメラマンの精霊は、祝福で強化できました。ミィーケも、祝福すればエエんちゃう?」

「だったらさぁー。そいつをしとけば…」

「そんなん、現地ですればエエよ。どぉーせ、向こうで妖精さんたちを祝福するんじゃ。二度手間は、かったるいわ」

「そっか…」


「えーっ。ボク、早く強くなりたいんだけど…」


ミケ王子の訴えは、メルとダヴィ坊やにより却下された。


「ではショクン。出発する」

「「オーッ!」」


二人と一匹は、『メルの魔法料理店』に設置されている異界ゲートで跳んだ。




◇◇◇◇




「うぉ、ここはどこだ?」

「何だか、波の音が聞こえるね」


「ここは地図にない火山島。モルゲンシュテルン侯爵領のルデック湾にほど近い、竜が棲む島デス!」


メルが風竜(ゼピュロス)を使い、密かに精霊樹の苗を植えた島だ。

ドラゴンたちの居留地である。


因みに支配度は9だ。


「シマ…?シマって、何だ?」

「海面に突き出た、狭い土地デス。広大な海に、こうポツンとな…」

「ウミ…?ウミって、何だ?」


「はぁー。ダヴィは、なぁーんにも知らないんだね。フフッ…。まあ、田舎の子供だから仕方ないか…。いいですかぁー。海と言うのはですね。大きな大きな水たまりです。その水は川と違って、すんごく塩っ辛いから飲めません。んっ?むぐぐぐっ…!!」


ダヴィ坊やはミケ王子を睨み、口を押さえて黙らせた。

教えてもらいたい気持ちはあるのだけれど、偉そうにされるのは違った。


「この猫、喋るようになったら生意気だぞ」

「デブさん。その猫は喋らんときも、今と変わりませんでした。ずっと偉そうです」

「だけど、なんか腹立つわ!」


「慣れましょう。ミィーケは、わらしたちの仲間デス」


メルは鷹揚に頷きながら、ダヴィ坊やの手からミケ王子を救出した。


「いちいち…。小さなことで腹を立ててはなりません」

「いや。メル姉の言ってることは分かるけど、猫如きに、もの知らずを笑われたんだぞ。メッチャ悔しいんだから、怒ってもいいだろ?」

「いけません。アータは強いのですから、仲良しが大事です…。他人さまからみたら、デブはネコ虐めをする悪い子デス!」


「くっ…。そうなのかぁー?」


ダヴィ坊やが不満そうな顔で、近場にあった岩を蹴とばした。


岩がバックリと割れた。

妖精パワーに守られた靴は、壊れない。


「ミィーケも、悪気が無いんは分かるけど…。知識をひけらかすヤツは、えろぉー嫌われるで」

「ごめん。ボクって、ほら。王子さまだから…」

「知っとぉーよ。魔法王さまなんか、婆さまやアーロンまで採点しよった。魔法王さまは、魔法の教師役を止められんのだろ…。精霊って、融通が利かんからのぉー」

「おいおい。もしかしてミケは、王子さまだから偉そうにしか出来ないのか…?」


「その通りデス!」


ダヴィ坊やには、広く優しい心を持ってもらいたい。

自らも失言が多いメルは、防衛本能から心の広さをアピールしたのだ。


あからさまな自己顕示欲は、弱点となる。

何とかして克服すべき問題だった。


「わらしは、タリサたちを見習わんとな…」


出会った頃は、あれほどマウントばかり取っていたタリサが、手習い所へ通う間に『威張りん坊』と思わせない会話テクを身につけてそつない。

今では幼児ーズのまとめ役で、議長さまだ。


そして結果的に我を通す。

頭が良くて、とても辛抱強い。


『女の子ってスゴイ!』とメルは思う。


外見は美少女でありながら、どうしてもタリサやティナのように、そつなく振る舞えない。

頑張ってみても、どこかしらガサツなのだ。


ここぞという場面で、『オレがぁー!』となってしまうのは、男児の(サガ)である。


ガサツさでベン図を括ると、メル、ダヴィ坊や、ミケ王子は、同じサークルに収容される。

ダメな男の子グループだ。


これではいかんと思いながら、今日も通常運転である。


メルはピィーッ!と指笛を鳴らした。


「こっからは、ゼピュロスに乗っていく」

「ぜぴゅ…。それは、何だ?」

「ドラゴン…。風竜じゃ!」


「メメメ、メメッ、メッ…。めるぅー。本当にドラゴンが来たぁー!」


星空から舞い降りた風竜(ゼピュロス)の勇姿を見て、ミケ王子が腰を抜かした。


「でかぁー」

「うむっ。ドラゴンだから、『酔いどれ亭』の裏庭で飼う訳にいかん」

「カッケェーな」


「ギョェェェェェェェェェェーッ!」


ダヴィ坊やに褒められて、風竜(ゼピュロス)は上機嫌だ。


「デブさん…。わらしとおまぁーは、モモンガーZに着替えデス。ほい、コレ…。おまぁーの、モモンガー・スーツね。新型じゃ」


背嚢(デイパック)から取り出したモモンガー・スーツをメルがダヴィ坊やに手渡した。

ついで自分のモモンガー・スーツも、ずるずると引きずり出す。


「おうっ、わかった…。って、おいコラ。そこで服を脱ぎ始めるな!」

「んっ?なんぞ、問題でも…」

「夜だって、バッチリ見えてんだぞ。男のまえで、ハダカになるなよ。恥ずかしいだろ」


「デブ…。おまぁーは、男じゃないデショ。まだまだ、子ろもよ」


メルは鼻で笑いながらスパーンと衣服を脱ぎ捨て、モモンガー・スーツに着替えた。

メルの身体も、まだまだ子供だった。


「尻尾から、頭の方へ登ります。翼の先辺りが、乗り心地よいデス」

「おう、サイコーだ。ドラゴンを見ただけで感動なのに、背中に乗せてもらえるんか…。ついてきて良かったぁー」

「イヤだ。ボク、こんなのに乗りたくない。ドラゴンから落ちたら、ペシャンコになって死んじゃうでしょ。メル怖いよ…。移動手段は、他にないの…?あるんでしょ!」

「ミィーケは、風魔法を使えるデショ。落ちたら、風の妖精さんが助けてくれます」

「そんな…。ボクの風魔法は、大したことないんです。高いところから落ちたら、死んじゃうよ」


「もう本当に、臆病なネコちゃんですねぇー。怖いのは、最初だけですよぉー」


メルが悪魔チビの顔で、ほくそ笑んだ。


「やめてェー!」


ミケ王子は激しく嫌がったけれど、メルにぶら下げられて逃げられない。

メルこそ、カワイイ猫を虐める悪い子だった。



風竜(ゼピュロス)は二人と一匹を背中に乗せて、夜空へと舞い上がった。


「目的地は、モルゲンシュテルン侯爵領領都ルッカ。到着後ゼピュロスは、わらしが戻るまで上空にて待機セヨ」

「キュイ(了解)!」


メルにとって初の夜間飛行であるが、風竜(ゼピュロス)に不安はない。

昼であろうと夜であろうと、風竜(ゼピュロス)が方角を間違えるコトはなかった。


概念界に存在する黒鳥ブラックバードから、時々刻々と正確な位置データーが送られてくる。

風竜(ゼピュロス)の頭脳は、黒鳥ブラックバードと繋がっていた。


風竜(ゼピュロス)は上昇気流を捕らえて、一気に高度を上げた。


「うぉー。はえぇー。ドラゴン、すげぇー」

「………ヒィ」


はしゃぐダヴィ坊やに、ピクピクと震えるミケ王子。


なかなかに良いリアクションを得られて、メルは満足だった。

あとはモルゲンシュテルン侯爵の居城に降下して、魔導甲冑の倉庫を発見すればよい。


「虫だけが心配じゃ!」


世界樹であった時の記憶は消えず、未だに悪夢を見る。

少しずつ自分が喰われていく不快さは、どんなホラー映画より怖かった。


「メル姉…。目的地には、でっかい虫がいるんだろ?」

「はぁ?」

「ブツブツと、虫の話をしてたじゃん」

「わらし、そんなことをしていましたか?」


「心配いらないぜ。オレが、ぜぇーんぶやっつけてやる!」


ダヴィ坊やは、メジエール村の昆虫博士(ファーブル)だった。


「おまぁー。それで、付いてくると喧しかったのか…」

「おうよ。虫なら、俺に任しとけ」


「アリガトウ…」


メルが呆けたような顔で、礼を言った。


(こっ、こいつ、昆虫採集のつもりだ!)


そう。

虫について悩むメルの独り言を耳にしたダヴィ坊やは、昆虫採集をしに来たのだ。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ダヴィ君は昆虫採取で、メルは(妖精たちの救出と)ジャンクロボの採取ですかww [一言] 続きが楽しみです。
[良い点] 子供っぽさの描写がとても好きです
[一言] ダヴィ坊、まだまだ恋より昆虫採集かッッッ
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