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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
237/369

BBQでウェーイ!



「メル姉。オレも乗りたい」


ダヴィ坊やは男の子だ。

メルが三輪バギーを運転していれば、自分も乗りたくなる。


我慢なんて出来ない。


「なによ、あんなの…」

「スカートでは乗れませんね。でも便利そう」


本当はタリサとティナも、乗ってみたかった。

だが、三輪バギーに跨ってスカートが捲れるのは、よろしくない。


10歳ともなれば、自然と少女たちは恥じらいを覚える。

メルはTS(ニセ)少女だから、平然としていられるのだ。


「メル…。アンタはカボチャパンツを丸出しにして、恥ずかしくないのですか…?!」


苛々とした様子で、タリサがメルを詰った。


「ちっとも…」

「いつも思っていたんだけど…。スカートも穿かないで、大きなカボチャパンツを見せて…。どう考えても、破廉恥だと思う」

「んなもの、偏見デス。コレは半ズボンとおなぁーし。ココ見てみぃ―」

「なによぉー?」


「ポッケついてますやん。カボチャパンツには、ポッケないっしょ」


メルが両サイドのポケットに、手を突っ込んで見せた。

プゥーッと風船ガムを膨らませる。


メルの横で、ディートヘルムも風船ガムを膨らませた。


「くぅーっ。なんか、腹が立つ」

「そんなに乗りたいのなら、タリサもメルちゃんと同じ王子パンツを穿けばいいでしょ」


ティナはタリサに王子パンツを勧めた。


「欲しいなら、すぐに用意してあげる」

「ぐぬぬっ…」


王子パンツは、メルから注文されてティナの母親が作った。

何点か作ったのだが、売れ行きは芳しくない。


と言うか、メジエール村で王子パンツを穿いているのは、メルだけである。

タリサが買ってくれるなら、ティナの母親も喜ぶ。


「友だち価格で、2割引きにしてあげるよ」

「2割引きかぁー」

「3枚セットなら、半額でいいかな」


だからティナは、親友のタリサに王子パンツを猛プッシュした。

自分で穿くつもりはない。


「うほほぉぉぉーぃ!」


ダヴィ坊やはメルに運転を習い、ライトニング・ベアを走らせていた。

(はた)で見ていると、実に楽しそうである。


「値段じゃないのよ。プライドの問題よ。恥ずかしいのよ。メルと同じ格好をしたら、乙女の立場が危ういわ!」


タリサは地団太を踏みながら、悔しそうに言い放った。


暑すぎる夏なら仕方ないが、三輪バギーに乗りたいからと言って王子パンツを穿く勇気はなかった。


「タリサは、分かっておらん。わらし、オサレです」


メルが腰に手を当て、反り返った。


「違うわ。メルちゃんのは、オシャレじゃありません!」


ティナが首を横に振り、強く否定した。


皆と同じ格好をして、ちょっとだけ違うのがオシャレだ。

それは少女たちにとって個性の演出と認識され、可愛らしければ持て囃される。


基本から皆と違う恰好をしたメルは、ただの奇抜な子だった。




中央広場に、ラヴィニア姫のベイビーリーフ号が停車した。


「なに、あれ?」

「ラビーさんのトラック」

「とらっく?」

「そそっ、ベイビーリーフ号デス」


今日はタリサとティナにとって、驚くことが多い日だった。


「メルちゃーん。待った?」

「ううん、今来たところぉー。そんなに待ってないヨォー」

「えぇーっ?ネェネは、ずっとここに居たでしょ」


ディートヘルムが、訝しげにメルを見た。


「デートの挨拶で、そう言うのが礼儀なのデス」


メルが、でたらめを口にした。


「ふぅーん」


ディートヘルムは、納得したように頷いた。


「あのね、ディー。アンタの姉さんは、呼吸するように嘘を吐くんだから…。騙されたらダメヨ」


タリサがディートヘルムのオデコを(つつ)き、小声で注意を促した。


「うん」


ディートヘルムは、再び納得したように頷いた。


「ネェネは、ウソつきだよ」

「そそっ」

「ボク知ってるよ。いっつもネェネは、ボクをだまして行っちゃうの…。それで夜おそくなっても、帰ってこない」

「そっ、そうなんだ」


とても気まずい話題だった。

他人の姉弟事情に、口を挟むべきではなかった。


タリサは反省した。



「本日は、河原にてバーベキュー大会を催します」

「「「ウェーイ」」」

「タリサとティナ。それにまぁまとディーは、ラビーさんが運転するトラックに乗ってください。わたしとデブは、ライトニング・ベアに乗って行きます」


ディートヘルムが助手席に乗り、残る三人は荷台に座った。


トンキーは荷物運びだ。

バーベキューセットと食材が、トンキーの背中に積まれている。


「二人乗りは、ちと窮屈だけど」

「むぅ。オレが運転したい」

「ええよ」


メルがライトニング・ベアに跨り、背もたれの方に身体を移動させた。

ダヴィ坊やも、狭くなったシートに跨る。


何とかタンデムは可能だけれど、二人の身体が圧着状態である。

メルの吐息が、ダヴィ坊やの耳朶を擽った。


「やばい。これ、ちょっと危ないかも」

「んっ。デブ、どうかしたん?」

「いいや、何でもない」


ダヴィ坊やはメルをぴったりと背中に貼り付けて、ムラムラボーイとなった。


「では、行ってきます!」

「メルちゃん、ダヴィをよろしくね」

「気を付けてなぁー」


ダヴィ坊やの母親オデットとビンス老人は、見送りだ。


中央広場で、いつまでも手を振るビンス老人の姿が、妙に哀れを誘った。




◇◇◇◇




河原に設置したバーベキューセットは2台。

肉用と海鮮用だ。


そもそもメルがバーベキューをしようと思いついたのは、タニシもどきを食べたからだ。


実を言うと、あのタニシもどきはディートヘルムに評判が悪かった。

珍味も珍味なので、仕方がないコトではある。

子供の口には合わない。


だがメルは、それで納得しなかった。


貝は美味い。

絶対に美味いのだ。


ディートヘルムに分からせねばならない。

貝は美味いと…。


そんな訳で、本日のメインは浜焼きだった。

またもや花丸ポイントで、どっさりと高級な食材を購入した。

ハマグリにサザエ、ホタテにカキ、大きなエビにタラバの足も用意した。


ヒラメの一夜干しやホッケ、クジラのベーコンまで揃えてある。

既に下拵えも済ませ、あとは金網に載せて焼くだけ。


「肉の方は、まぁまに任せます」

「了解だよ」

「そんじゃ、ジャンジャン焼きまっせ!」

「オレも手伝う」

「お手伝いは、軍手を着けてな…。貝が割れて跳ねよるから、気ぃーつけや!」


「ウェーイ!」


幼児ーズは新鮮な海産物を次々と金網に並べていく。


「ホタテ、フタが開いた。焼けたどぉー」

「うぉーっ、美味そう」

「うーん。何これ。貝って、見た目が不細工ね」


トングを手にしたタリサが、ブーブーと文句を言った。


「ほんなん、慣れですわ」


メルはホタテにバターを落とし、醤油を垂らす。


立ちのぼる匂いに、タリサも黙る。


「ほれ…。焼き過ぎないように、端から取って!あっちぃーからな。火傷に気をつけな、アカンで」


メルはホタテを皿に取り、ディートヘルムに見せた。


「美味しいよ」

「うん」

「おねいちゃんは、ウソ言わんよ」

「うん。知ってる!」


ディートヘルムは皿を受け取り、フォークで貝柱を突き刺した。


「あっつぅー。ほいしぃ(美味しい)」


ディートヘルムが、目を丸くして叫んだ。


「ウホッ。何これ。メッチャ美味しいんですけど!」

「コレは海で採れるものなんですね。メジエール村で、普通に食べられたらいいのに…。ハマグリと言うのも、味が濃くて美味しいです」

「汁がうめぇー。硬いけど、うめぇー。だけど、パンに挟んで食うのは無理だな」

「こっちも、お肉が焼けるよぉー。野菜も食べてね」


タレに浸け込んだ肉は、ジューッ!と言う音を立て、周囲に美味しそうな匂いを漂わせる。

ピーマンに玉ねぎ、カボチャの薄切りも金網に載せられていた。

トウキビや椎茸もある。


トンキーが怒るので、豚肉はない。


「トーストが欲しいなら、あたしに任せて…」

「オレ、パン食べたい」

「わたしも、お願いします」


「こっちは、エビとサザエ行くで…」


イセエビを真っ二つに切り、殻を器にして焼く。


サザエは生きた状態で、身を取り出した。

油断しているところを見澄まして、蓋と殻の間にスプーンの背をこじ入れ、グリンと回して穿りだす。


「サザエの肝は、帰ってから料理に使います」


肝は大人の味なので、取り外してある。

ディートヘルム対策だ。


肝を食すなら、生でわさび醤油。

もしくは、ガーリックオイルでさっと炒める。

塩コショウして、お好みでレモン汁などを搾れば、立派な一品料理だ。


さて、取り出した身は食べやすいように刻み、同じように刻んだカマボコと和える。

切り揃えた三つ葉とエノキも混ぜて、殻へ戻して焼く。


ブクブクと泡立ってきたら、醤油を一垂らしして完成だ。


決して焼き過ぎてはならない。

身が硬くなるから。


この用意して来たサザエを金網の上に並べる。


贅沢だ。

滅茶クチャ贅沢だ。


「堪らん。わらし、ゴハンいきます」


メルは背嚢(デイパック)から、炊き立てゴハンを取り出した。


おかずはヒラメの一夜干しだ。


「メルちゃん。これ、すごく美味しい」

「それはホッケですね。干したお魚です」

「わたしもゴハン欲しい」

「あい。ラビーさんの分デス」


「ありがとぉー」


メルはラヴィニア姫に、大きなドンブリと箸を渡した。


「えーっ。大きい茶わん」

「ドンブリです。おかずを載せて、食べれます。野外だと、お皿を持って、茶わんも持ったら、お箸が持てませんから」

「確かに…」


折り畳み式のテーブルや椅子も設置してあるのだけれど、バーベキューセットに吸い寄せられてしまうので、器が大きいに越したことはなかった。


メルとラヴィニア姫は、ドンブリゴハンに焼けた干物を載せ、パクパクと食べた。

幸せである。


「エビ、うまぁー」

「お姫さまになったような気分です」

「ティナってば、お姫さまはこんなの食べないよ」

「そうなんでしょうか?」

「だってさぁー。お行儀が悪いじゃん」


「お姫さま、詰まらないですね」


タリサとティナは、バーベキューが気に入ったようだ。


因みに汁物は、ハマグリのお吸い物だ。


「プギィー。ブッブッブッ…」


トンキーも焼けた野菜をたくさん貰って、幸せそうだった。


アビーは缶ビールをゴクゴク飲みながら、肉を焼いていた。

ちっとも酔わないので、酒豪と言ってよい。


「野菜も食べたい」

「タレの味もゴハンに合う。わらし、サザエを食べてから焼肉にチャレンジします」

「メル姉、玉ねぎが美味いぞぉー」

「わらしは、ネギ焼き行きます」


幼児ーズは食べ盛り。

お腹がポンポンになっても、まだ食べるのだ。


だがおそらく、食材はドーンと余る。

どう考えても買いすぎだった。


「ちっ。しゃあないわぁー。次は中央広場で、やりましょ」


メルがポソッと呟いた。

それをアビーは聞き逃さなかった。


「メルちゃん、偉い。ビンスさんを気遣って上げるのね」

「ややっ、そんな訳ないデショ。ワラシは、非情な教主さまですから」

「ほっぺが、赤くなってるぞぉー」


アビーがメルを捕まえて、頭を撫でまわした。


「違う。違うってば…、まぁま。河原まで来るのが、面倒くさいだけデス!」

「まぁーた、また、また。メルちゃんの、嘘つき」


ツンデレTS少女は、非情になり切れない。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、ビンスさん図々しいけど基本的にいい人だからね…
[一言] サザエ、子供の頃海辺のお店で頼んだ時内臓着いたままで出てきて見た目のエグさに食べられなかった記憶が…。 大人になった今もちょっとあれはな…みたいな感じが拭えません。
[良い点] BBQ····お腹が空きましたです。
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