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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
213/369

エルフたちの里



エルフ族ほど排他的ではなかったドワーフ族だが、暗黒時代の陰惨な経験から完全なる引きこもりとなり果てていた。

お祭り好きで陽気だったドワーフたちは、酒に酔うと不機嫌そうな顔になる。

ドワーフたちの洞窟住居には、笑顔がなかった。


どんよりとした諦めムードが、ドワーフ族を支配していた。

どこにも明るさがない。


そこに居るだけで息が詰まり、どうしようもなく辛い。



クリスタはドゥーゲルに案内されて、ドワーフ族の施設を見てまわった。


「どうだよ。すげぇーだろ」

「なんちゅー、無駄な兵器を…。呆れたねぇー」

「ドワーフ族自慢の魔道具だ」

「こんなものを作る余裕があるなら、自分たちの生活をなんとかしなよ」


「ふんっ!」


ドゥーゲルは、力なく鼻を鳴らした。


「それが出来りゃなぁー」


ドワーフ族は外部からの攻撃に備えて、強力かつ巨大なゴーレムを何体も建造し、脅威の魔法兵器まで山頂に設置していた。

それなのに着るものは粗末で、食事さえ満足に取れていない。


「本当ならヨォー。オマエなんぞに、ぜぇーったい見せねえんだけど…。もう動かねぇから、どうでもいーや!」

「この設備が、動かないのかい?」

「おうよ。こんな場所で、おらたちと心中させるのは心苦しいってな…。妖精たちは、強引に概念界へ送り返した…。もう百年近くも、昔の話だ。妖精に力を貸してもらえなければ、おらたちの魔道具はガラクタよ!」

「そんな…。アンタたちが居れば、妖精も消滅はせんだろうに…」

「ここは寒すぎてな…。どんだけ世話を焼いても、子供が育たん。もうドワーフ族には、爺婆しかおらんのよ」


元々、ドワーフ族が住みついたハルフォーン山脈の中腹は、暮らしやすい気候だった。

それが寒くなる一方で、気がつけば見渡す限り氷に閉ざされていた。


「おらたちは、性根が頑固だからなぁー。ちと我慢しすぎた」

「暖かくなるのを待っているうちに、赤ん坊が育たなくなったのかい?」


自分が我慢できるから、子供も平気だろうとタカを括っていたらしい。

その結果が、ドワーフ族の高齢化である。


「子どもが育たなけりゃ、ドワーフ族に未来はない…。もう、お終いだぁー」

「確か…。アンタらは、地熱を利用する設備を持っていただろう?」


不安になって、クリスタが訊ねた。


「ご先祖さんが拵えた、環境温暖化設備か…?そんなもん、地下に熱源がなけりゃ意味なんぞねぇ!」

「魔法石は…?魔法石があれば、魔道具を動かせるだろ」

「もちろん、とっくに使い切った。ここいらは、何処を掘ったって魔法石なんざ見つからねぇ。雪と氷をはがせば、地面は採掘の穴ぼこだらけだわ」

「………はぅ!」


クリスタは言葉に詰まった。


「オマエが精霊樹の苗を持って来てくれたことには、感謝する。よくもまぁ、おらたちのことを覚えていてくれたもんだ。ありがとな…。けんど、ここじゃ樹木を育てられねぇ…。苦労させた上に、すまねぇ。ガハハハッ」

「………くっ!」


笑い事ではない。

ドワーフ族の困窮具合は、クリスタが想像したレベルを遥かに超えていた。


種族滅亡の、一大事だった。


「こりゃあ…。二の姫だけじゃ、精霊樹を育てられないよ。メルの助けが必要だね」

「んっ?メルってなんだ…」

「妖精女王陛下だよ」


クリスタは『天の声』を使って、メルとの交信を試みた。




◇◇◇◇




斎王ドルレアックはエルフ族の第一陣を纏めて、恵みの森に分け入った。

先導するのは、幼児ーズの面々である。


風の妖精に助けられ、エルフたちの移動速度はとても速い。

森もまた、エルフたちが得意とするエリアだった。


「都をつくり、平地で暮らすようになったが、一族の血はエルフが住むべき土地を忘れていない」

「まさに、斎王さまの仰る通りですな…。ここに来て、生き返ったような心地ですぞ」

「それにしても、メルさんたちは…」

「妖精女王陛下は、ともかくとして…。あの子らは、本当に人族なのですか?」


あの子ら…。


メルを先頭にして、幼児ーズは木から木へと空を舞っていた。


「モモンガァー(ゼッツ)!」

「ういうい…。チョー、楽しい」

「この可愛いヘルメット。ちょっと、チビ(吉祥鼠フォーチュンラット)に似てるよね」

「メル姉、こんなの隠してるなんてズルい」

「隠しとらんわ。最近になって、完成したんじゃ!」


モモンガァー(ゼッツ)は、飛翔スーツである。

ユグドラシルの異界研究所が、和樹(メルの兄)から送られてきた動画をもとに作製した魔法具だった。


スカイフライングに使われる、ウイングスーツだ。

本物と違って、滑空だけではなく離陸できる。


素のままではメルを宙に浮かせるにも気苦労(加減が難しい)が絶えない風の妖精たちだけれど、モモンガァー(ゼッツ)さえあれば自由自在。

ケガをさせる心配なく、速やかに幼児ーズの身体を空高くまで運べる。


メルと幼児ーズは大の字になり、手足の間に張られた皮膜で風の力を受けとめる。

手足の肉球には吸着の魔法が施されていて、簡単に枝や幹をつかめた。


加速も減速も、超高空飛行でさえ思うがままである。

スーツのパワーに守られて、風圧による呼吸困難など起きようもない。


高度による気圧低下にも対応していて、体温管理も抜かりなし。


ただし、おしっこをしたいときには、着陸しなければならない。

間に合うように高度を下げるのは、なかなかに大変である。


そこのタイミングは、経験から学ぶしかなかった。



「ユグドラシル王国国防総省(ペッタンコ)の指示によれば、この先に目的地があるはずデス」


斎王ドルレアックの近くに着地したラヴィニア姫が、進行方向を指さした。


ラヴィニア姫の横に、メルも舞い降りる。


「それらしきものは、見えないが…」

「さいおーさま。エルフのご先祖さまは、樹ぃーの上に棲んでおったと婆さまに聞いた」

「ええっ。わたしも幼いころに、エルフ族の歴史で学びました」


斎王ドルレアックは、モモンガの衣装を着たメルに頷いて見せた。


背中は茶色で、お腹が白い。

頭に被っている帽子のようなものは、ネズミの頭とよく似ている。

小さな幼児ーズがモモンガァー(ゼッツ)を着ていると、子熊のようで大層可愛らしい。


「古い資料を基に…。ユグドラシルの技術開発部が、エルフさんたちの住居を用意しよった」

「ほぉーっ」

「そんでもって、バッチリ結界も張られとるデェー。外からでは、なんも見えんのじゃ!」

「そうなんですね」


「もう、目と鼻の先じゃ。結界が無ければ、こっからでも見えとる」


斎王ドルレアックの疑問に答え、メルはフワリと飛翔した。


ラヴィニア姫がメルに続いた。


「本当に、ありがたいことです」

「ここまでの道中、まったく魔獣に遭遇しませんでしたな」

「あの子たちは、わたしたちより狩りが巧いのデショウ」


エアバーストやエアブレッドで危険な魔獣を追い払うのは、幼児ーズの役目だった。

殺すことなく追い払っているだけなので、また戻ってくるだろう。

それらの魔獣は、エルフ族が狩って食料にすればよい。


幼児ーズがガイドと護衛をするのは、エルフ族を居住区に送り届けるまでの話だ。

大人だけでなく、子供や老人も移動させるのだから、安全確保は欠かせない。


泊りの仕事だけど斎王ドルレアックの威光か、幼児ーズの同行にストップは掛からなかった。

ファブリス村長からの依頼と言う形で、それなりにお小遣いも貰える。


タリサやティナは、大喜びだ。

ダヴィ坊やに至っては、メルに抱きついてチューをする勢いだった。


だって、空を飛ぶなんてサイコーじゃないか。

それに泊りがけでキャンプが出来て、お小遣いまで貰える。


幼児ーズに、否やはなかった。


「イェーイ!」

「わんわんわんわんわん…」


ラヴィニア姫とハンテンも、楽しそうに樹々の間を飛んでいく。


ハンテン…。

ハンテンとチビは、羽根もないのに空を飛んでいた。


ハンテンはラヴィニア姫を追いかけて走っているうちに、自分も飛べると気づいたらしい。

相変わらず、どこか間抜けな犬である。


チビは…。

チビはハンテンの頭に、ちゃっかりと座っていた。


チビにとってハンテンは、乗り物だった。


「見えたどぉー!」


幼児ーズは結界を抜けて、古代樹の群生地帯へと突入した。


「うぉーっ。でっけぇー」

「なんて見事な樹かしら…」


ラヴィニア姫が古代樹を見て、感動の言葉を漏らした。


霊妙な森の大気が濃く、生い茂る草花の色は鮮やかだ。

結界の中央には大きな泉があり、そこから小川が流れている。

泉の傍には、エルフに加護を与えた水蛇(ヒュドラ)ザスキアのトーテムポールが祀られていた。


小川は途切れることなく、タルブ川へと繋がる。


「木と木の間に、つり橋が架かってる」

「ホントだ。太い幹に、素敵な家が張り付いてる」


タリサとティナも、古代樹の周囲を飛びまわる。


頭上から小鳥たちのなき交わす声が、聞こえてきた。

美しくも荘厳で、幻想的な風景だった。


「エルフの里じゃ。それっぽくて、絵になるノォー」

「ねえねえ…。斎王さまたち、こんな場所に住めるの…?すごく綺麗だけど…。なんだか…。とっても、住みづらそうだよ」


ラヴィニア姫が、心配そうに言った。


「エルフじゃけぇー。イヤだって言っても、ここに棲んでもらうわ…。樹上生活しとるエルフを見るんが、わらしの夢じゃ!」

「まぁーた、そうやって滅茶クチャなことを言う。斎王さまたちを困らせるのは、良くないヨォー」

「ラヴィーさん。世間では住めば都、申しますねん。石の上にだって、三年いれば暖まる。タダで住まいを貰うんですから、それくらい我慢しよ」

「……メルちゃん、ヒドイ」


古代樹の根元にも、ちゃんとした家がある。

妖精女王陛下なりに、多少はエルフたちの事情も考えているようだ。


多少は…。


「心配いらんデショ。落っこちたら、風の妖精さんが助くるよって…」

「オレは、ここに住みたい。メッチャ楽しそうだ」

「ほれ、デブは分かっとるネェー」

「ダヴィーだよ。メル姉…。ダヴィーって言えるようになったんだから、デブ言うなや!」


「すまぬ、デブ…。はわわわっ…。アカンわぁー。また、デブ言うてしもた」


ギュッとハグして、お詫びのチューだ。

情熱のベロチューだ。


「んっ」

「んんーっ」


モモンガが二匹、大樹の枝に座って抱き合う。

色気はない。


「アナタたち、仲良しさんですね」


ラヴィニア姫の視線が、ちょっと冷たい。

嫉妬とかではなく、メルとダヴィ坊やのチューに品がないので、遠い目になった。



幼児ーズを追ってきた斎王ドルレアックとエルフたちが、結界を越えた。


「メルさん。えっ…。これはぁ………」

「なっ。ここは、なんですか…?」


そして視界に飛び込んできた景色に、呆然とした。

古代樹を見上げて、プルプルと震えている。


それはエルフたちの魂に訴えかける、原初の風景だった。


「あーっ。すごい」

「ここ…?ここが、俺たちの里…?」

「そうじゃ。今日から、ここがエルフの里じゃ!」


メルがモモンガの姿で、得意そうに古代樹を指さした。


「「「「「「うわぁぁぁぁーっ!!」」」」」」


エルフたちから歓声が上がった。






donさん、素敵なレヴューをありがとうございます。


誤字修正ありがとうございます。

感想もありがとうございます。


頑張れたら、今年中にもう一本載せます。

頑張れなかった場合のために、皆さん良いお年を…。

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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

カバーイラスト


こちらは2巻のカバーイラストです。

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ミケ王子

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― 新着の感想 ―
[一言] >頑張れなかった場合のために、皆さん良いお年を…。 作者様も、メルも、幼児ーズ達も、エルフ御一行様も、クリスタさんも、良いお年を。
[良い点] モモンガァZ良いですね 精霊さんも幼児ーずも楽しそう [一言] メジエール村では晴れた日に雨が降ったので モモンガァZスーツの村での使用は 禁止されたという噂が有りますね(≧∇≦)
[一言] ついにベロチューまで… 邪念ゼロでここまでやる幼女ズに感服します。 よいお年を
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