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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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妖精パワーだよ



森の魔女が長年にわたって頭を悩ませてきた問題は、精霊樹の導きによって精霊の子に託された。


メルには使命を引き受けた自覚などサラサラ無かったが、封印されて苦しんでいる妖精たちを見れば、その手で解き放つに決まっていた。

森の魔女は妖精たちを苦しめる悪い魔法使いの存在と、封印魔法の解き方をメルに伝えることで、己の務めを果たしたのだ。


メルの身体に宿った妖精たちも、やがて心強い味方となることだろう。



今メルはアビーの膝に抱かれて、家路についたところだ。

エミリオが走らせる荷馬車に揺られて、眠たそうな顔をアビーの胸に埋めている。

メルの可愛らしい唇が、チューをするように突きだされていた。


疲れて、寝ぼけているのだ。



「もぉー、メル。メルってば…。なんか、この子。だんだん、赤ちゃんぽくなってない?」

「ぶははっ!そりゃ…。おっぱい欲しい顔かぁー。?!」


アビーとエミリオが、ウトウトしているメルを見て笑った。


琥珀色をしたメルの瞳は、ナニも見ていなかった。

ボーッとして焦点が合っていない。


ときおり耳がピクリと動くけれど、アビーたちの話を理解しているようには思えなかった。

薄目を開けて、眠っていた。



「寝てるよね。これ…」

「ああっ…。魔女さまの手伝いで、さぞかし疲れたんだろ!」

「メルは、赤ちゃんだ!」


「………」


アビーはメルからの異議申し立てがないので、寝ているモノと判断した。



メルの幼児化は、ユルユルと進行していた。


欲望の赴くまま、花丸ポイントで食べ物や調理具を買いまくり、幼児退行防止アイテムを後回しにしたツケである。


また見方を変えるなら…。

男子高校生である森川樹生(もりかわ いつき)が、メルとして異世界で生きるコトを受け入れた証でもあった。

女児である自分の境遇に、少しずつ抵抗を感じなくなっているのだ。


コクリコクリと舟をこぎながら、メルは唇を鳴らす。

チュッパ、チュッパと。


「どう見ても、おしゃぶりが必要な顔だぁー!」


御者台から後ろを眺めて、エミリオが断言した。


「何だかなぁー。おとな扱いを要求する癖に、指シャブリとかしたら許さないぞ!」

「まあまあ…。可愛いんだから、良いじゃないか」

「んーっ。そうなんだけどねぇ」


寝ぼけているメルはアビーが差しだした指を咥え、チューチューと吸った。


「ねぇ、見てよ…。吸ってる。吸ってる!」

「あははっ…。おっぱいチューチューだな」


吸ってしまったのがアビーの指なので、メルとしてはセーフだけれど…。


もし…。

もし仮に、これが指やおしゃぶりでなかったとしたら。

哺乳瓶でもなかったとしたら。


由々しき事態であった。




◇◇◇◇




翌日の朝。

メルはベッドで伸びをすると、タブレットパソコンを起動させた。


フレッドとアビーの姿は、既になかった。

二人とも朝の仕事に取り掛かっているのだろう。


メルはジッとモニターを見つめた。


(昨日の苦労は、ステータスに反映されているのかなぁ…?)


森の魔女から依頼されて、妖精たちを助けた。

だけど、黒いヤツを退治した訳ではない。


倒した敵が経験値に変わる仕組みだとすれば、指を血塗れにしてまで頑張ったけれど、ステータスとは関係なかったかもしれない。


そこのところを是非とも確認したかった。


「おっ…。えべる、あがっとぉー!」


レベルが、六に上がっていた。

しかも、『妖精パワー』なる新項目が追加されていた。


頑張った甲斐があった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




【ステータス】


名前:メル

種族:ハイエルフ

年齢:四歳

職業:掃除屋さん

レベル:6

体力:24

魔力:80

知力:50

素早さ:5

攻撃力:3

防御力:3


スキル:無病息災∞、女児力レベル∞、料理レベル6、精霊魔法レベル8。

特殊スキル:ヨゴレ探し、ヨゴレ剥がし、ヨゴレ落とし、ヨゴレの浄化。

加護:精霊樹の守り。


バッドステータス:幼児退行、すろー、甘ったれ、泣き虫、指しゃぶり。


【妖精パワー】


身体に取り込んだ妖精さんたちが、能力数値を上方修正してくれます。


地の妖精さん:防御力、頑強さを上昇させます。

水の妖精さん:回復力、治癒力を上昇させます。

火の妖精さん:運動能力、攻撃力を上昇させます。

風の妖精さん:判断力、敏捷性を上昇させます。


(注意事項)

能力の上昇に伴い、霊力(オド)の消費が激しくなります。

精霊樹の実を摂取して、霊力(オド)の補給に努めましょう。


【装備品】


頭:猫耳ナイトキャップ

防具:幼児用パジャマ

足:なし

武器:なし

アクセサリー:なし


花丸ポイント:300pt


【友だち】


クロ:バーゲスト。犬の妖精。魔女の使い魔。

ミケ:ケット・シー。猫の妖精。猫の王族。

タリサ:人間の女児。雑貨屋の末娘。

ティナ:人間の女児。仕立屋の娘。


(友だちはナビゲーション画面から、パーティーメンバーに組み込むことが可能です)


【イベント】


ミッション:厨房を穢れから守る、食料保存庫を穢れから守る、畑を穢れから守る。

スペシャルミッション:囚われの妖精さんを探しだし、封印を解除しよう。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




「むっ、むむむっ…?」


新しい項目があった。

どう見ても、注目すべきは『妖精パワー』だった。


(これさえあれば…。まったく上昇しない素早さ、攻撃力、防御力の三要素が、完璧にカバーできるじゃないか!)


そうメルは考えた。


「んーっ?」


だが、発動のさせ方が分からない。


お腹に力を入れてグッと息んでみても、何かが変わったようには思えなかった。


「レーリョク…。おど、ないとダメ?」


正直なところ。

疲弊しきった妖精たちは、メルに力を貸せる状態になかった。

是非とも霊力(オド)の補充が必要だった。


「セイエージュに、ミィーもらう」


善は急げだ。


メルはベッドから飛び降りて、パジャマを脱ぎ捨てた。

かぼちゃパンツだけの、あられもない姿で靴下を着け、頑丈な革靴を履く。


前世と違ってズボンを穿かないから、靴が最初でも問題なかった。



「ミィー、おいしいかな?」


メルの口中に、ヨダレが溢れてきた。


昨日はエミリオの家から帰るときに寝てしまい、不覚にも晩御飯を食べ損ねた。

だから、お腹がペコペコだ。


フレッドが朝食を用意するには、まだ少し早い。

朝食まえに精霊樹の実を食べるのは、悪くない考えだった。


(だけど、メルの樹に実なんて生ってたかな…?)


先ずは、そこを確認しなければなるまい。



メルは手早くシュミーズを身に着けてから、いつものワンピースを纏った。


因みに、新しいワンピースはピンク色なので、あまり着たくなかった。

リボンとフリルがヒラヒラして、うざいし。

オシャレで恥ずかしい。


仕立屋に可愛らしいワンピースを注文したフレッドは、メルが喜ばなかったので悲しそうだった。


(ごめんね、フレッド。パパの気持ちは分かるけどさ。僕もオトコとして、譲れない線があるんだよ。自分からのオシャレは、ちと勘弁してください)


慣れでしかないのだが、慣れだけに色々と難しい。

アビーの抱っこにも慣れたのだから、そのうちオシャレにも対応できるはず。


多分、おそらく、きっと…。


『それまで、待っていてください!』と、メルは心の中でフレッドに頭を下げた。



村中を旅してメルのもとにやって来たクタクタのワンピースは、地味なブルーグレーで、リボンなどの装飾も失われていた。


草臥(くたび)れているけれど、そこが良い。


古参兵と同じで、何とも言えぬ風格がある。

歴戦の女児服だった。


メルは姿見に映るエルフ女児の姿を見つめ、ニカリと笑った。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

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