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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
144/369

今年もやって来た精霊祭

Bulldozerさまにレヴューを頂きました。

とっても嬉しいです。

ありがとうございました。

えへへ、励みにして頑張るぅー。(*´▽`*)



「裸らららぁー。カボチャ姫の~、ダンス♪」


メジエール村の中央広場を横切る小母さんが、タケウマに乗るメルたちを眺めながら口ずさんだ。


幼児ーズの女子四人は、ピクリと反応して腰を突きだした。

そしてプリッと可愛らしく、お尻を振る。


「やっ、やめてんか!その歌…」

「そうよ、そうよ…。つい、うっかり、お尻を振っちゃうでしょ!」

「サビーネ小母さん。わたしたちで遊ばないでください」


「ハズカシイ…」


メジエール村の女児たちは元気すぎるほどに元気なので、全員参加でカボチャ姫のダンスを練習させられた。

精霊祭を控えた季節の恒例行事である。


タリサやティナは勿論のこと、ラヴィニア姫も例外ではなく、メルたちは精霊祭実行委員会の小母さんたちに拉致されて、強制的にかぼちゃダンスを覚えさせられた。

もう知っていると駄々を捏ねても、一年たてば忘れてしまうのだからと不参加は認めてもらえない。

むしろ覚えているのならと、小さな子たちの指導係を押し付けられる。


因みに参加者は、もれなくお菓子とカボチャの髪留めを貰った。

ちょっとした参加賞である。


指導係ともなれば、カボチャの髪留めが立派になる。


そこは精霊祭実行委員会の小母さんたちも、手抜きをしたりしない。

ご褒美を貰えなくて悲しくなるのは、子供の心理である。

だから最終的には、全員参加となるのだった。


身体の髄まで滲み込むほど繰り返されたダンスの振付けは、メジエール村の女児たちがメロディーを聞かされただけで反応してしまうレベルに達していた。

もう、駅で電車待ちをするサラリーマンが、傘を手にしてゴルフの素振りをしてしまうような状態だった。

樹生が幼少の頃には、そんな小父さんをチラホラと見かけたモノである。


ダヴィ坊やだけが、メルたちを笑って見ている。

男児はカボチャ姫のダンスを習わないから、一向に平気なのだ。


樹生の前世であれば、性差別として問題視されたかもしれないけれど、ここは大らかな異世界。

カボチャ姫のダンスは、メジエール村の女性に限定された黒歴史である。

おそらくは、これからも大切に共有されていくことであろう。


是非はともかくとして…。



カボチャの収穫を感謝し、来年の豊作を祈願するとされるカボチャ姫のダンスは、男たちを誘惑するための露骨な仕草を取り入れていた。

カボチャだけでなく、メジエール村の子孫繁栄を祈るダンスなのだ。


だから、大人であろうとするメルたちは、なんとなく気恥ずかしかった。

なんとなれば、そのような仕草をする成人女性は、付近に一人も居なかったからデアル。


「こども、バカにすぅーな!」

「そうよ、そうよ…」

「真面目な踊りなのに、ふざけたらダメです」


「だって、可愛いじゃない。それに…。アンタたちがお尻を振れば、来年もカボチャが豊作だよ!」


そう言って、サビーネは笑いながら立ち去った。


このようにして幼児ーズを揶揄(からか)うのは、近所の小母さんたちの挨拶みたいなモノだった。

なにも、サビーネに限ったことではないのだ。


幼児ーズだけでなく、他所の地域で暮らす女児たちも、挨拶代わりにお尻を振らされていた。


「わらしら、ずぅーっとからかわれとゆ…」

「すっごく悔しいよね」

「何で、お尻を振っちゃうんだろう?」


「ハズカシイ…」



ラヴィニア姫に至っては、赤面モノである。


〈みんな、騙されてると思うよ…!〉


でも、それを口にだして、詳細に説明することは憚られた。

実年齢が三百才のラヴィニア姫は、実体験の有無に関係なく男女のホニャララを知っていた。


長い長い軟禁生活の間に、そのような描写がされた書物もたくさん読んでいたからだ。

もちろん極彩色の挿絵入りである。


宮廷ロマンス物の、えぐいヤツだ。


樹生の知る薄い本と、本質は変わらない。


そこら辺は、エルフの開けっぴろげな文化が関係していた。


性的衝動が希薄で繁殖力も低いエルフは、ヒト族のような貞操観念を持たない。

従って閨房の知識でさえ、生物学や調理技術などと扱いが変わらなかった。


エルフの社会が女王を頂点とする母系制度であるのは、母親にも夫を識別できないからだ。

そんなエルフに教育されてしまったラヴィニア姫の記憶には、ちょっと変態ちっくなアレコレも収納されていた。


ラヴィニア姫に与えられる知識は、封印の巫女姫であることも考慮されて禁忌がなかった。


ユリアーネ女史に悪意があった訳ではない。

ユリアーネ女史には、『実用書』と言う概念さえなかった。

だから異国のハーレムで女性たちが愉しむ艶本も、知識のネタだとしか思わなかった。



〈こうなってみると、余計なことは知らなきゃ良かったって思います〉


とにかく恥ずかしい。

息が荒くなるほど恥ずかしい。

他人事であれば、どうというコトもないエロ知識が、生々しく我が身に影響を及ぼす。


ほんと、何とかして欲しかった。


〈好奇心は身を亡ぼすって言うけれど、コレのことなのね…!〉


全く違うけれど、状況的には間違っていなかった。


ラヴィニア姫は貴族の娘として、人族の貞操観念も身につけていた。

まして封印の巫女姫であったときには、成熟した女性の機能を持っていたのだから、アレコレと生理的に反応してしまう。


思い起こせば、『ムフーッ!』とか言いながら、艶本に没入していたモノである。


その記憶が残っているので、ちいさな幼女としてのやり直しは、ラヴィニア姫にとって結構ハードだった。


まあ、要するに、ラヴィニア姫はスーパーおませさんなのだ。

この点では樹生でさえ、ラヴィニア姫の足もとにも及ばなかった。



一方…。

メルの前世は、途轍もない奥手男子であった。

病院は封印の塔ほど、性知識に大らかではなかった。


それだけでなく、とうの樹生自身に思春期特有の情熱がなかった。

病弱ゆえに性的にも未成熟であった樹生は、タブレットPCに設定された年齢制限を外す努力さえしなかった。


樹生の経験としては、兄の和樹が隠し持っていた薄い本をコッソリと盗み見た程度である。


それも魔法少女の同性愛モノという、どうしようもなくマニアックな路線だった。

『何だコレは…?』と言うのが、樹生の正直な感想であった。


女児になって初めて、『あーっ。ココは、こうなっていたのか!』と言うレベルなのだ。


こうした特殊な事情があって、性別こそ変わってしまったけれどメルの女児生活は、比較的イージーモードでスタートを切った。

男児のアレが存在しない身体にも、すっかり馴染んでいた。


だから真っ赤に染まってクネクネとするラヴィニア姫の姿は、メルにとって些か滑稽な見世物でしかなかった。


まだまだメルは、男どもから言い寄られて困惑するような年齢に至っていない。

慌てるには、ちょっとばかり時期尚早と言えよう。


メルがラヴィニア姫を笑っていられるのは、今のうちであった。




◇◇◇◇




結論を言うと、今年の精霊祭も大盛況のうちに幕を閉じた。


開催式で妖精女王のメルが精霊の子を務めるラヴィニア姫に精霊樹の枝を渡すと、もう割れんばかりの喝采である。

世間で見ることができないミドリ色の髪は、メジエール村の人々に精霊の子として受け入れられた。


ラヴィニア姫とピンク色の犬は、メジエール村の人々にありがたがられた。


ハンテンも拝まれて、満更ではなさそうだった。

少なくとも、おとなしくラヴィニア姫と山車に乗っていた。



メルが屋台で売り出したタコ焼きも、人気大爆発だった。

気持が良いほど売れまくり、メルは二日でタコ焼き屋さんを放りだした。

作るのが間に合わなくて、列に並ぶオッサンたちから怒鳴られ、すっかり嫌気がさしてヤサグレタのだ。


この際、隣で応援していたミケ王子は、ちっとも助けにならなかった。

失敬したタコの脚を齧っているだけだった。

鰹節も美味しかった。


そんな訳で、タコ焼き屋さんは店を閉じた。


幼児とネコなので、仕方がない。


屋台を引くトンキーは、どこ吹く風である。

メルが屋台でブタの焼き串を売ったりしなければ、トンキーに不満などなかった。

『ぶーぶー』言いながら、指示された場所まで屋台を運ぶだけである。


報酬はサツマイモとメルのハグだった。

其れさえあれば、幾らでも頑張れると言うモノだ。



翌日からメルは、精霊樹の実を水飴でコーティングしたフルーツ飴の販売に踏み切った。

りんご飴を真似て作った、お祭り用の商品だ。


これまた爆発的に売れた。

何を売っても売れそうなので、逆に張り合いがなかった。


焼き物で敗退したのが痛い。

何を試みたところで、メルの準備不足は否めない。


(食べもの屋台の数が、少なすぎるんだよ。焼きそばなんて、絶対に無理です…!)


メルには素早く数をこなせないのだから、どうしようもなかった。

それに適切と思える容器がなかった。


メジエール村は、使い捨ての消費社会ではないのだ。

都合の良いプラスチックのケースを花丸ショップで用意しても、それらは自然に還らないゴミとなる。


そこだけは、ちゃんと回収したいメルだった。



森の魔女(クリスタ)さまが、メルの屋台でフルーツ飴を買ったあと、しみじみとした様子でボヤいた。


「これを村の連中に食べさせて、ホントに大丈夫なのかい?死にかけの爺婆が、蘇っちまうだろ!」


霊力(オド)を凝縮した精霊樹の実である。

効果に関しては、アンチエイジングの霊薬など比較にならない。


しかも、どうやら賢くなる成分まで含まれている。

トンキーが二けたの足し算引き算をこなせるようになるのだから、村人だって賢くなるのは間違いない。


王侯貴族や著名な魔法使いであれば、不老不死の霊薬として金貨を積み上げる品だ。


それがたったの五十ペグ。

大銅貨五枚で買える。


「はぁー。もう、どうでも良いよ。お祭りだからねェー」

「婆さま。毎度ありぃー♪」


文句を吐きながら、クリスタは四本ばかりフルーツ飴を購入した。

それで丁度、精霊樹の実が一個分であった。


森の庵に隠遁して、魔法学をおさらいしているクリスタは、このところ脳に栄養を欲していた。


(これを食べれば、肩こりと片頭痛も治るじゃろ…♪)


ありがたい話だった。

だから、メルにお説教するのは止めた。



豚飼いのティッキー少年も、メルの屋台でフルーツ飴を購入した。


「あの()…。ラヴィニアって、メルちゃんの友だちだよね。すっごく可愛い」

「あい。ラビーはカワイイけど、それがどうかシマシタカ…?」


「精霊の子って言われたから、『祭りの衣装が似合ってるなぁー!』と思って…。まあ…。可愛いと言えば、妹のシャルロッテが一番だけどね」


ティッキーを警戒する必要は無さそうだった。


ティッキーは妹に夢中で、どうやらラヴィニア姫どころではなかった。


メルは同性と言うハンディキャップだけで充分だった。

恋のライバルは要らない。


(不安だ。未来に、不安しか感じないぞ…。くっそぉー!)


幼児の初恋なんて、線香花火みたいなモノである。

煙になってお終いだ。


しかも、オンナノコ同士なんて…。

あり得なかった。



メルのステータス一覧に、お姫さまの項目はなかった。

伴侶となりそうな、王子さまの名前は表示されているのに…。



精霊祭は最終日を迎えて、ラヴィニア姫とハンテンを乗せた山車が妖精たちの集う広場に到着した。


ストーンサークルを思わせる広場で出迎えるのは、メルが扮する白い祭礼服を身に纏った妖精女王さまだ。

本物であることは、何とか秘密にされていた。


山車から助けおろされたラヴィニア姫は、青い祭礼服の裾を捌きつつ、ハンテンと共に妖精女王のもとへと歩み寄った。


「精霊樹の枝をお届けに上がりました」

「コレヘ…」


メルは両手で精霊樹の枝を受け取ると、ラヴィニア姫を促して精霊の石塔へ向かった。


可愛らしい二人の幼女が手をつなぎ、篝火に照らされた古代遺跡のなかを静かに進む。

周囲を飛び交う無数のオーブが、幽玄な空間を演出した。


メルとラヴィニア姫は、二人して石塔に精霊樹の枝を供えると、祈りを捧げた。


「メジエール村に繁栄を…」

「村人たちに健康と幸せを…」


「「精霊さまに、お祈り申し上げます…」」


新月の真っ暗な空に、星が流れた。


また一つ、そしてさらに一つ。


やがて空は流れゆく星で、キラキラと輝いた。


「うぉー。今年も流れ星だ」

「ラヴィニア、万歳!」

「メルー。来年も、よろしくなぁー!」

「よい、お祭りだね」


村人たちの歓声が上がる。


この後は、問題のかぼちゃダンスが待ち構えていた。

村中の女児たちが、準備万端で控えている。


メルたちも、さっさと着替えなければいけなかった。



皆が夜空を仰ぎ見ているとき、ラヴィニア姫はメルをギュッと抱きしめた。

驚いたメルが固まった。


「メル…。わたくしを助けてくれて、アリガトウ」

「……あぅ!」


流星雨が降り注ぐ下で、ほっぺにチュー。

最高のご褒美だった。






誤字報告をありがとうございます。

物凄く助かっています。

もう、絶対に自分では見つけられないよ。w


それと、今回の掲載分で幼児編はオシマイです。

次話から子供編に突入の予定なのだ。

飽くまでも予定ね。


それでは、今後も応援を宜しくお願い致します。(≧▽≦)

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【エルフさんの魔法料理店】

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[気になる点] 話数を重ねていく事に増え続ける黒歴史はバッドステータスが消えたらどうなるんですか。そもそも消えるのか、消えたら精神面はメルか樹生かどっちに傾くのかとか、他にも気になることが良い意味で多…
[一言] 第一部完 というところでしょうか? 姫とハンテンも合流したし、今のところ大団円だな 父ちゃんは帰れてないけど
[良い点] 最後が尊い。 [気になる点] 冷し飴は飲み物なので、リンゴ飴みたいな食べ物なら「精霊樹の実飴」になるのでは? [一言] 「幼児編」は笑って楽しませてもらいましたので「子供編」も楽しみにして…
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