哀愁のフレッド
レヴューを頂きました。
シンヤさま、ハルカさま、ありがとうございます。
作者の『あらすじ』より信用のおける作品紹介を書いていただき、感謝に堪えません。
『あらすじ』より読者さまのレヴューを読んでねって、話ですわ…。
まったく…。(´-ω-`)
メルはレアンドロとワレンに、孤児たちを託した。
こうした仕事は、立派な大人でなければ任せられない。
フレッドが率いる傭兵隊であれば、決して孤児たちを悪いようにはしないと、信じることができた。
何と言ってもフレッドは、精霊樹に生っていたメルを引き取ってくれたのだ。
メルにしてみれば、フレッドを信じるのは当然であった。
それに異界ゲートを使って孤児たちをメジエール村まで連れて行くのは、気が進まなかった。
もし仮に、子供好きなアビーが引き取るとか言い出したら、目も当てられない。
『チルの方が良い子ね♪』とか、アビーに言われたら、どうする…?
メルにとっては、発狂レベルの大問題である。
メルは大らかで気前の良い幼児だった。
だけど誰かとアビーの愛情を分け合うつもりは、毛頭なかった。
「おれはレアンドロに引きずられて来たんだけどよ。その子供らを探してたんだ。そう言うことだからさ。おれたちが、三人を引き取るのは問題ない」
「もとはと言えば、フレッドがこの子たちを心配していましてね…。ワレンが部下に尾行させたら、ここから地下に降りたと言う話になったのです」
「それで…。地下はヤバイからあきらめろって、おれが言ったんだけどよぉー」
「申し訳ありません…。わたしが押し切って、死にかけました!」
レアンドロは真面目な顔で、ワレンに謝罪した。
「アタイたちが地下に降りたから、オジサンたちは探そうとして大変なコトになっちゃったんだね。本当にごめんなさい」
「わたしたちを心配してくれて、ありがとうございます」
「オレらも、黒ずくめの連中に襲われてヤバかったんだ。探しに来てくれて、ありがとう!」
レアンドロたちが面倒を見てくれると知った三人の孤児は、迷惑をかけた件について頭を下げた。
チルは言動が乱暴で下品だけれど、他人の善意を蹴とばしたりしない。
それはセレナやキュッツにも言えることで、過酷な環境に暮らしながら捻くれたところがなかった。
気の良い妖精たちに助けられてきた三人は、基本的に素直な性格の持ち主だった。
チルたちの経験からすれば、『世の中には良いヤツも居れば、悪いヤツも居る!』と言うコトになる。
全てが悪ではないのだ。
それは救いだった。
「ところでメル。おまえも一緒に、事務所まで来るんだろ?」
「はぁー?わらし、ゲンカク(幻覚)でしょ。オトォーにまで、会わんヨ。もう帰りマシュ!」
「えーっ。帝都まで来ておいて、フレッドさんに会わないんですか…?」
「エエか、おまぁーら。分かってへんようだから、もっかい言うとくどぉー。わらし、居ません。ここに、おらん。ヒミツよ。ダレにも言うたら、アカンでぇー!」
メルがしつこく繰り返した。
「秘密ねェー」
「分かったか?」
「はい…。仰ることは分かりましたけど…」
「そえでは、サラバじゃ!」
メルは調理器具や食器を突っ込んだ背嚢を背負うと、地下迷宮の奥へと走り去った。
「あっ…。わたしも、失礼いたします!」
三の姫とミケ王子が、慌てた様子でメルの後を追いかけた。
「おいっ。大丈夫なのかよ」
「なんでメルさんたちは、平気なんでしょうか?」
「えーっ。オジサンたち、何も知らないの…」
「理由があるんか…?」
チルの発言に、ワレンが食いついた。
「メルちゃんが言うには、屍呪之王を倒したから此処は自分のナワバリなんだって…。『わらし、ダンジョンのぬしヨ!』って、得意そうだったよ。安心安全なんだってさ」
「おいおい…。マジかよ、クソったれ!」
「それじゃあ…。わたしたちはメルさんのダンジョンで、死にかけていたんですか…?」
「ちょっと許せねぇ…。いや、絶対に許さねぇぞ。次に会ったら、ケツが赤くなるほどひっぱたいてやる。あの、悪ガキがぁー!」
ワレンは握りこぶしを突き上げて、メルを罵った。
チルの迂闊な発言が、心ならずもメルを窮地に陥れてしまった。
だけどチルは、レアンドロとワレンがメルの台詞を訂正しなかった事に、ショックを受けていた。
レアンドロとワレンは、メルが屍呪之王を倒したと言う話に、少しも反応を示さなかった。
それどころか、メルがダンジョンの主であるコトも、否定しなかったのだ。
(メルちゃんって、屍呪之王より強いの…?)
魔法の袋から生まれて、屍呪之王を滅ぼすエルフって…。
あどけない幼児なのに、勇者さまか…?
それとも魔王。
ミッティア魔法王国の特殊部隊から救出される前も、された後も、チルはメルの活躍を見ていなかった。
いや…。
見てはいたのだけれど、何が起きているのか全く理解できずにいた。
(あり得ない…)
チルは頭を左右に振った。
ショートボブに切り揃えられたチルの赤毛が、激しく跳ね踊った。
(あんな可愛らしい子が、おっかない屍呪之王をやっつけたなんて…)
チルの脳ミソが、当然の如く拒絶反応を起こしていた。
フレッドの事務所で保護されたチルたちは、ヨルグに連れられて小さな部屋を与えられた。
贅沢な調度品などはないけれど、良く手入れをされた快適な部屋だった。
窓から差し込む日差しは明るくて、心地よい風が吹き抜ける。
「なんて素敵なのかしら…」
「夢みたいだな」
「コレは、メルちゃんに感謝だね…。もちろん、オジサンたちにも感謝だけどさ」
地下室の暗さと閉塞感に辟易としていたチルたちは、自分たちが与えられた新しいネグラに喜びを隠せなかった。
一方レアンドロとワレンは、これまでの経緯を説明するよう、フレッドから命じられていた。
「それでェー。オマエらは三日間も、何処をほっつき歩いていやがった…?」
「いや…。子どもたちを見つけるのに、色々と大変だったんだ」
「それはもう、あっちこっちを探し回ったんです」
「嘘つくんじゃねぇぞ…!俺は見習いの若いモンに案内させて、オマエらが地下へ降りた場所まで行ったんだ。地下へ降りる穴は、塞がってた…。消えちまってた…。いったい、何があった?」
フレッドの追求に、レアンドロとワレンは気まずそうな顔で黙りこくった。
どうしてもフレッドを騙せるような、上手い話を思いつかない。
寝不足と栄養不足で頭が働かないし、孤児たちと口裏を合わせるヒマもなかった。
そもそも、どうして嘘をつかなければいけないのか…?
それは正直に答えれば、メルと会ったことを隠せなくなるからだ。
(あのガキに、口止めされたんだよな…)
ワレンは秘密にしろとメルから言われたコトを思いだして、どうでも良くなった。
それは、黙っている理由にならない。
少なくとも、あのダンジョンがメルに所属するなら、ちゃんと報告すべきだった。
フレッドは全ての情報を把握していなければならない。
傭兵隊のリーダーなのだから…。
「よし、正直に話そう…。実はヨォー。地下に降りたら、アソコはダンジョンになってやがった。ビンビンに、活性化したダンジョンだぜ。フレッドも、キロス砂漠の古代遺跡を覚えているだろ。あれよりヤバイ臭いがした!」
ワレンは身振り手振りを交えて、語りだした。
「ちょっと、ワレン…。それを話したら…」
「うるせぇ!おれはぜーんぶ、ぶっちゃける」
「えーっ。あんなに、口止めされたじゃないですか…」
「屍呪之王を封じていた地下迷宮が、地下通路の全域に拡張されちまったんだぞ。これは報告しておかなきゃ、ヤバいだろ…。それとなぁー。悪ガキにお仕置するのは、オヤジの役目だ。おれには、メルを折檻できねぇからな!」
幾ら長閑なメジエール村と言えども、他家さまの娘を勝手に折檻すれば当然のことながら問題となる。
ワレンがメルのかぼちゃパンツを剥いて、思いきり尻を叩く訳には行かなかった。
子どもの火遊びを叱るのは、親の務めだ。
(幼児がダンジョンを所有するとか、絶対にダメだろ…。何がどうなっているのやら、おれには見当もつかねぇけど…。危ない遊びは、きっちり叱って止めさせるべきだ!)
こうした義務感に駆られて、ワレンはメルが秘密にしろと言ったコトを一切合切フレッドにぶちまけた。
「聞けやフレッド…。おまえの娘がやらかしたせいで、おれたちゃ死にはぐったんだ!」
「おっ、おう…?」
いきなりワレンに顔を突き付けられて、フレッドは仰け反った。
「メルのやつはなぁー。帝都ウルリッヒの地下迷宮を支配する、ダンジョンマスターさまだぞっ!」
「わたしたちは、メルさんに助けられました。地下通路で、メルさんと出会ったんです」
「食料も水も、持ち合わせがなくてな…。暗闇の中で、ずっと身動きも取れず。『もうダメだぁ!』と思ってたところに、ヒョコリと顔を出しやがって…。あの、ちみっ子がヨォー!」
「まじか…?」
フレッドが呆けたような顔になった。
『幾らなんでも…!』と、二人の話を否定することは出来なかった。
何しろメルは精霊の子であり、不思議ちゃんなのだ。
この瞬間。
幼児のヒミツは、公然のヒミツとなった。
「メルさんは、孤児たちを連れていたんです。おそらく、わたしたちに引き渡そうとしたのでしょう…。それで…。お昼ゴハンを食べるとか言う話になって、わたしたちに美味しいスープを御馳走してくれました」
「あー。なんだか、ありそうな話じゃないか…。レアンドロとワレンの情けないツラが、目に浮かぶようだ」
「スープかぁー。メルちゃんの手料理、オレも食いたかったな…」
「おい、テメェら…。スープの話は、どうでも良いだろ!」
ワレンはウドとヨルグを怒鳴りつけ、レアンドロの頭を殴った。
「おまえたち…。メルと会ったなら、どうして事務所に連れて来なかった?」
フレッドが残念そうに言った。
メルと話す機会を逃してしまったのが、とても悔しかった。
遠くに離れて暮らすアビーの様子だって、聞かせて欲しかった。
「誘ったんですよ。ちゃんと…。イヤだって、即座に断られました。コレは、言いづらいのですが…。メルさんに、避けられているのではないでしょうか?」
「なにっ、避けられてる…?この俺が…!」
レアンドロの台詞に、フレッドは動揺を隠せなかった。
「フレッドは、ガサツだからヨォー。カワイイ娘に、嫌われるような真似をしたんじゃねぇか?」
「まじかよ…」
フレッドの身体が、事務所のソファーに深く沈み込んだ。
フレッドにしてみれば、メルに嫌われているなんて絶対に認めたくなかったけれど、不安を退けることが出来なかった。
それはメルのオネショを揶揄ったり、でっかい虫を手に持って面白半分に追いかけ回したりと、フレッドにも心当たりがあったからだ。
(俺は…。嫌われてたのか…?)
由々しき事態デアッタ。