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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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☆メルの掃除屋さん



エミリオとティッキーは、メルの不思議ちゃんぶりを目にして黙り込んだ。


荷馬車でゲボしたときには、この子の何処が『精霊の子』なのか?と首を傾げたけれど、空っぽの背嚢(デイパック)から取りだされる掃除用具を見れば、エミリオも拝まずにいられない。


『酔いどれ亭』のメルは、耳がおかしなだけの女児ではなかったのだ。


「なんで…。袋よりデカいもんが入ってるんだ…?」

「んー。わらし、分からんもん。よぉー、セツメーせんわ」


「そうなの…?」


モップとか木桶、棕櫚(しゅろ)の箒などは、どう見ても背嚢(デイパック)におさまり切らない。

小振りな木桶だけならまだしも、柄の長い箒やモップはどうしたってはみでる。


しかも足もとに置かれた木桶には、並々と水が入っていた。

エミリオが見ている間に、木桶の底からコポコポと水が湧きだしたのだ。


(これは尊い精霊さまの御使いだ…!)


そう結論したエミリオは、息子のティッキーと雁首を揃えて、メルの足もとに跪いた。


「おまぁら、ナニしとォー?」

「へぇ?いや…。ほらっ、ありがたい精霊さまだから…」


「アソんどらんで、ぶたー助く()どぉー」


メルは残念そうな目つきでエミリオを眺めてから、病気のブタが隔離されている畜舎へと向かった。


「えーっ。信者に祝福とかないんですか?」

「ないーッ!」


メジエール村の精霊信仰など、メルのあずかり知るところではなかった。

メルにはエミリオたちが、ふざけているようにしか見えなかったのだ。


「エミリオさん、ティッキーくん。さあ、行きましょ!」

「あっ、ああっ。済まない」


「ねぇ、父さん。メルって、何なの…?」


ティッキー少年の疑問は尤もだった。


「いや、何だか分からんけど…。うちのブタどもは、助かるかも知れん」


何よりも、そこが重要だった。


エミリオはアビーに促されて掃除用具を抱えると、メルの後を追った。


「信じとらんかったこと、メルちゃんに謝らにゃいかんな…」


メルが黒いヤツを浄化しても、エミリオには見えないので意味が分からない。

言うなれば、奇妙なパントマイムを見せられているようなモノだ。

カワイイけれど、有難くはない。


ブタを助けてもらっている実感が、欠片も感じられないのだから。


(オレも、まだまだ信仰が足りねぇ。奇跡を目にするまで、精霊さまを信じられなかったんだからな…)


さっきまでは、メルのしているコトに不審しかなかったエミリオだが、不思議な背嚢(デイパック)を目の当たりにしたら、一気に天秤が傾いた。

信じる方へ、ガタンと…。


(メルちゃんは、本物だぁー!)


精霊の子は実在したのだ。




メルが聖なるハタキを構えると畜舎に爽やかな風が吹き抜け、黄色のキラキラが舞い降りてきた。

黄色く光っているのは、風の妖精たちだった。


「天井のハリに、黒いのお()けぇ。叩き落として、くれん…?ヨーセイさん、いっけぇー!」


メルの号令で解き放たれた風の妖精たちは、嬉々として天井付近を飛びまわった。

埃が舞い、木っ端が飛び散り、梁から剥ぎ取られた黒いヤツが弾き飛ばされた。


下で待ち構えていたメルが、落ちてくるヤツを魔法幼女の箒で打ち据える。

魔法幼女の箒は浄化作用を持つようで、叩かれた黒いヤツが灰色の塵を撒き散らしながら縮んでいった。


そして漸くつかめるほどのサイズになると、メルが握りつぶして止めを刺す。


「うい、やぁ、たぁーっ!」


畜舎内を旋回する風の妖精たちも、ヤンヤの喝采である。


「うっしゃぁー!ばんばん、行こかぁー」


昨日とは違い、バッチリ装備があるので効率よく除染が進む。


乾草の陰に潜んでいた黒いヤツも、風の妖精たちに吹き飛ばされてメルの足もとに。


「このぉー。くらえ!くらえ!くらえぇー!」


魔法幼女の箒で痩せ細らされ、エルフ女児の小さな手に握られて。


「これで止めじゃぁー!」


ブチッと浄化。


午前中は畜舎のあちらこちらに隠れていた黒いヤツらが、このパターンで一掃された。


「はぁはぁ…。しんどいわ。こんなん、ジドォーギャクタイ、ちゃうんかい…?」


飛ばし過ぎてヨレヨレになったエルフ女児が、地面にへたり込んだ。

大人たちには黒いのが見えないので、ちっとも助けにならない。

メルを手伝ってくれるのは妖精たちだけだった。


「わらし、ひとりかぁ…?もぉー、ムリ…」


まだ、ブタが四頭とも手つかずで残っている。


(ちょっと休ませて…。キミたちが苦しいのは分かってるけど、休憩しないと死んじゃうよ…。お昼休みね。ごはん、ごはん…)


第一ラウンドが終了した。

燃料切れである。


メルはアビーに抱っこされて、お昼ご飯を食べに行った。



お腹いっぱいに食べたら、お昼寝タイムだ。




しっかりとインターバルを挟んで、メル(vs)ケガレの第二ラウンドが始まった。


「ぶたー。いまから、助く()でよォー!」


メルは聖水でべちょべちょになったマジカル・モップを構えて、小山のようなブタに突進した。

ブタの腹を覆い尽くすように広がった黒いヌルヌルに、マジカル・モップを押しつけてグイグイとこする。

すると黒いヤツが『グゲゲ…!』と苦悶の声のようなものを上げて、白い湯気を噴きだした。


「おおお…!」


初めて何某かの現象を目にしたエミリオが、感動の声をあげた。


黒いヤツはマジカル・モップから逃げようとするが、メルも『そうはさせじ!』と追いすがる。


「助けぃ。おっちゃぁー。手ぇーが、とどかん…!」

「おう。任せろや!」


ここに来て、ようやくエミリオの出番となった。

マジカル・モップが届かない場合、メルを抱き上げて指定された場所に移動する。


力尽きていたブタも、ティッキーの指示で身体を起したりと実に協力的だ。


こうして日没を迎える前に、一頭目のブタが除染処置を完了した。




結局、メルが全てのブタを治療するのに、エミリオの訴えを聞いてから、六日間を要した。

毎日のように顔を合わせるメルとブタたちの間に、仄かな信頼関係みたいなものが芽生えた。

助けられたブタは鼻をスリ寄せて感謝の気持ちを伝え、メルもまた大きなブタに抱きついたり、背中によじ登ったりしてみた。

ブタが好む野菜をエミリオに手渡され、自らの手で与えたりもした。


四歳のエルフ女児には過酷な仕事であったけれど、メルが得たモノも大きかった。

何よりもメルの心を満たしたのは、ブタの命を救った達成感だった。


黒い犬のときにはアクシデントだったけれど、今回は依頼を受けてチャレンジしたのだ。


(僕だって、頑張ればやり遂げられるんだ。嬉しいなぁー!)


それは間違いなく、メルの傷ついた心を癒した。

涙を堪えきれない感動の体験だった。


メルは一頭のブタも死なせずに、ミッションをクリアした。

そして褒賞のマジカル七輪と、ボーナスの皮むき(ピーラー)を手に入れた。


「やったぁー!」


銀色のピーラーはミスリル製で、無駄に高級感を漂わせるピカピカの調理器具だった。

これさえあれば小さな女児でも、安心安全にイモの皮を剥ける。


料理人への第一歩だった。


挿絵(By みてみん)

あニキ様より、素敵な挿絵を頂きました。




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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

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こちらは2巻のカバーイラストです。

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こちらは1巻のカバーイラストです。

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ミケ王子

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― 新着の感想 ―
[一言] そのブタさん・・・後に肉になるよなあ・・・
[良い点] 本の13話の挿絵にしませんか?子供がおもちゃに囲まれたワクワク感がとても良いです。 コッソリすぎて見逃していました。 病気だった前世からの続き、救われドリアードになった姫達、子供の成長など…
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