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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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メルの覚悟



エミリオ家の客間で、メルはアビーに持って来てもらった背嚢(デイパック)を覗き込んでいた。

前世の入院当時から付き合いがある背嚢(デイパック)だけれど、エルフ女児に転生してからは樹生(いつき)であった頃の大切なよすがだ。


更に言うなら、メルの背嚢(デイパック)は魔法の袋っぽい何かに変わっていた。


「出てこぉー!」


常に背嚢(デイパック)は空っぽで、欲しいものを強く心に念じないと取りだすことができない。


「た、た、た…。たぶれっと、かもぉーん!」


不思議な袋である。



アビーはメルの行動をじっと眺めていた。

メルを観察していると、驚くような事ばかり見せられる。

それでもうるさく追及しないのは、森の魔女さまから忠告されていたからだ。


『精霊の子を邪魔するんじゃないよ!』と。


メルに手を差し伸べて、何くれと助けるのは良い。

その小さな身体をギュッと抱きしめて、愛情を伝えるのも良い。

だけど不思議なことを目にして、いちいち口うるさく追及するのはダメだった。


『そんな真似をしておったら、頭がおかしくなるぞい!』


魔女さまの言う通りだった。

そもそもメルは不思議の塊りなのだから、あれこれと気にしていたら何も出来ずに一日が終わってしまう。


いまもメルは、空っぽの背嚢(デイパック)から黒い板を取りだして見せた。


(絶対に空っぽだった。私が手渡したんだもん、間違いない。それなのに…。なんで、あんな板が出てくるのぉー?)


非常に気になるところだが、気にしたら負けだった。


メルはカワイイ娘だ。

それだけで満足すべきなのだ。


アビーはメルを溺愛していたけれど、スルー能力は高くなかった。

やっぱり気になるものは、どうしても気になってしまう。


「メル…。それはなに…?」

「んー。タブレットパソコンだォ」


「……っ!」


訊ねてみても意味がなかった。


メルと並んで板を覗き込んでも、アビーにはモニターに表示された画像が見えない。

魔法のタブレットだから。


メルにしか操作できないし、見ることも叶わない。

そもそも貧弱なタブレットPCの電源が、どうして尽きてしまわないのか…?


そこは、メルにも分からなかった。


メルは真剣な表情で、モニター画面を見つめた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




【ステータス】


名前:メル

種族:ハイエルフ

年齢:四歳

職業:掃除屋さん

レベル:4

体力:16

魔力:60

知力:45

素早さ:5

攻撃力:3

防御力:3


スキル:無病息災∞、女児力レベル9、料理レベル5、精霊魔法レベル6。

特殊スキル:ヨゴレ探し、ヨゴレ剥がし、ヨゴレ落とし、ヨゴレの浄化。

加護:精霊樹の守り


バッドステータス:幼児退行、すろー、甘ったれ、泣き虫。


【装備品】


頭:猫耳ナイトキャップ

防具:幼児用パジャマ

足:なし

武器:なし

アクセサリー:なし


花丸ポイント:1600pt


【友だち】



クロ:バーゲスト。犬の妖精。魔女の使い魔。

ミケ:ケット・シー。猫の妖精。猫の王族。

タリサ:人間の女児。雑貨屋の末娘。


(友だちはナビゲーション画面から、パーティーメンバーに組み込むことが可能です)


【イベント】


ミッション:厨房を穢れから守る、食料保存庫を穢れから守る、畑を穢れから守る。

新たに『ブタさんを救え!』が、スペシャル・イベントとして加わりました。


(成功報酬は、『マジカル七輪』となります)


マジカル七輪:R4指定の安心安全な加熱調理器具です。暖炉やコンロの代わりとして大活躍するコトでしょう。

使用妖精。火の妖精×1。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




レベルが四になり、ちょっとだけパラメーターが上昇していた。

とくに変化が著しいのは、精霊魔法レベルだった。


「えべ()(にぃ)が、六になっとぉー」


水の妖精たちと遊んだことが、精霊魔法の上昇に繋がったのだろう。


(精霊と妖精たちが同根なのは、説明されるまでもなく分かったよ。あの子たちは、精霊さまの一部なんだ)


精霊の存在は、妖精たちを構成素として成り立っていた。

精霊の樹が、その最たるものである。


「そえにしても…。わらし、ヒンジャクだわぁー。もうちっと、つよぉー、ならんかのォ?!」


メルは基礎パラメータを指で突いて嘆いた。

素早さ、攻撃力、防御力の三数値が、頑として低いまんまだ。


エルフなのに(のろ)いとか、恥ずかしすぎるじゃないか。

こんな攻撃力じゃ、狩りも出来ないでしょ!

エルフ失格やん。


メルは悲しそうに首を振った。

だが女児だけに、気を取り直すのも早かった。


「いかん…。わらし、元気でガンバル!!」


メルがいきなり叫んだので、そばにいたアビーはビックリして仰け反った。

ビクッとしたアビーにつられて、メルもひっくり返る。


「うぉー。めんちゃい…。シツレイしますた」

「ちょっとビックリしただけですよ。私のコトは、気にしないで続けて…。病気のブタさん、助けるんでしょ?」


アビーの手が、やさしくメルの頭を撫でた。


「うん…。わらし、ちゃんとす()ぅー」


メルが頑張らなければ、アビーだって『酔いどれ亭』に帰れないのだ。

そうしたらフレッドは、ひとりで店を切り盛りしなければいけない。


女児の散漫さで、とりとめもなくステータスを眺めていたら日が暮れてしまう。

時間を無駄にしたら、フレッドやアビーに申し訳なかった。

救えるブタまで、死なせてしまうかも知れない。


「シュウチュウ、シュウチュウだ…」


メルはタブレットPCのモニターに、視線を戻した。


更に追加部分を調べていくと、【友だち】の項目が増えていた。


「ともだち、できた…。けど、タリサかぁー?」


そこは全く納得できないが、取り敢えず横に置いておこう。

友だちのことは後で考えればよい。


じっくりと…。

タリサが友だちかどうかも。


すごく気になるけれど、ブタの治療には関係ない。

関係のない項目は後回し…。


いま大事なのは、新イベントと成功報酬だった。


いや、そこは攻略のヒントだろ。


『マジカル七輪』って、ナニ…?


(R4って…。調理器具にまで、R指定するなし…!)


またもやメルの関心がズレた。


女心と秋の空。

女児の好奇心は移ろいやすく、留まるところを知らない。


「ううーっ。こども、バカにすうなぁー!」


実は花丸ポイントで購入できるはずの調理器具が、レーティング指定されていて購入できない。

どれだけタップしても、ストレージに落ちて来ない。


メルが購入できた調理器具は、魚焼き網と小さなフライパンだけだ。

メルとしては、是非とも包丁が欲しいところだった。

強力な武器になるし。


年齢制限が、十二歳以上だけど。


これまでにメルが手に入れた魔法道具は、掃除用具ばかりだった。

マジカル雑巾にマジカル・モップ、聖水の湧き出る木桶。

聖なるハタキと魔法幼女の箒。


どれも何処かしらピンク色なのが、微妙にムカつく。


縞々のピンクとか、水玉のピンクとか。

メルが女児だと(あなど)って、デザインを手抜きしているのではなかろうか…?


魔法幼女の箒は、跨っても飛べなかった。

ただの優れた掃除用具だった。

ちゃんと試した。


期待はしていなかった。

職業が掃除屋さんなので、仕方ない。


だけどメルは、フレッドやアビーみたいな料理人になりたかった。

美味しいものを作って、自分で食べたかった。

サービスとか知らないし、興味もない。


ずっと入院していた樹生(いつき)なので、『おもてなし』の心なんてある筈がない。

美味い(ご馳走)か、不味い(病人食)かだけが問題なのだ!


(まあ、今回はR4だ。(メル)は4歳だから、確実に入手できる。てか、絶対にゲットしてやるぜ…!)


攻略のヒントはなかったけれど、やる気は漲った。

そしてメルの場合、やる気が霊力を左右する大きなファクターだった。


要するに、やる気さえあれば何とかなるのだ。


「ムッシュメラメラ(死語)…。ゴリ押すどぉー!」


メルはベッドの上に、ひょこりと立ち上がった。


コツコツと買い集めた、マジカルな掃除用具の出番がやって来た。

黒いヤツらを殲滅するための掃除用具だった。


「いつやうの…?いまれしょぉー!」


興奮して喋ったので、ろれつが怪しかった。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


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