表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
118/369

走れハンテン

ホゲダヌキさまからレヴューを頂きました。

ありがとうございます。

これからもメルの応援をよろしくお願い致します。



メルは異界ゲートの扉をくぐって、勝手知ったる封印の石室に足を踏み入れた。

ここには精霊樹の守り役である三姫を筆頭にして、悪魔王子(デーモン・プリンス)やカメラマンの精霊が常駐していた。

殺風景な石室は豪華な指令室へと姿を変え、室内の調度品も中々に豪華である。


「みなさん、おハロー♪」

「おはようございます、女王陛下。ご機嫌麗しゅう…」

「我ら、妖精女王陛下のおいでを心から歓迎申し上げます」


「おはよぉー。おかぁたま…」


カメラマンの精霊だけが、礼儀もわきまえずにすり寄ってくる。

ドローンっぽい黒いボディーをクネクネさせながら、メルの周囲を飛びまわる。


まるで、巨大化したハエのようだ。


「おまぁー。ウザイわ!」

「だって、ぼく寂しかったんでチュー」

「ウヒャァー、キモイわ。あっちへ、行かんかぃ!」


メルが生みだした精霊なのだから、どうしようもない。

その性格もまた、メルのせいなのだから…。


責任は創造主(メル)にあった。



いつものように挨拶をしたメルは、さっそく帝都の浄化を済ませて帰ろうとした。

ところがそこに、精霊樹の守り役たちから『待った!』の声が掛かった。


「女王陛下、暫しお待ちを…。少しばかり、お時間を頂けませぬか?」

「我らの声に、耳をお貸し下さいませ」

「メルさま。お願い致します」


「えーっ。なにヨ?」


メルが足を止めて、姫たちに向き直った。

するとメルの足もとに三姫が額づいて、口々に陳情を始めた。


「このようなこと、妖精女王陛下に申し上げるのは、甚だ情けないのでございますが…。お願いの儀が、ゴザイマス!」

「我らの殿が行方知れずになり申して、既に二十日余りも過ぎてしまいました。帝都なれば我らも手が届きます故、あちらこちらを探し回りました。それこそ貧民窟の裏路地から、皇帝の寝所まで…」

「それでも足取りがつかめず…。恥ずかしながらメルさまの助けをお借りしたいと、こうしてお願いする次第にございます」


顔のない姫たちが、額を床に擦りつけた。


「はぁーっ。トノって、だれヨ…?」

「メルさま…。殿とは、屍呪之王(しじゅのおう)にございます」

「えーっ。シジュは、死によったどぉー」

「いいえ…。メルさまが精霊樹の枝を植えたので、屍呪之王(しじゅのおう)は生まれ変わったのです」


「マジか…?」


メルは呆然として言葉を返した。


屍呪之王(しじゅのおう)は忌まわしき呪いから解き放たれ、精霊樹の加護を受けて生まれ変わりましたぞ。ピンク色のすべすべとした、それは愛らしい御姿でございます」

「ハンテン…。我らは殿をハンテンと、お呼びしております」

「おーっ、はんてん…」


メルは天井を見上げて、ポツリと呟いた。


あのピンク色をした肉塊が生きていた。

最高に喜ばしい知らせである。


(よし。よぉーし。僕は殺していなかった。それだけ分かれば、もう充分だ!)


もし仮にいま死んでいたとしても、それはもうメルがクリアした強制イベントと関係ない。

ハンテンが馬鹿だからいけないのだ。


そこはキッチリと、精霊樹の守り役からラヴィニア姫に説明して貰いたい。


「良い知らせ。わらし…。ムネのつかえ、おりた…。おまぁーら、デカシタ!」

「はぁ?」

「それでは、帰ゆ。わらし、いそがしヨ♪」


「おっ、お待ちください。そのような冷たきことを仰らず、我らの殿を探してくださいませ!」


一の姫と二の姫が、メルにしがみついて帰らせようとしない。

妖精パワーで突き放すことも出来たが、そんな真似をすれば本当に冷酷非情なように見えてしまう。


それにラヴィニア姫を喜ばせたいのなら、やはりハンテンと再会させるのが一番だった。


「グヌヌヌヌッ。メンドォーくさいけど、やむなし…」


メルが悔しそうに項垂れた。


「フンッ…。お前たちは犬コロ探しで、妖精女王陛下の御手を煩わすつもりか…?少しは、身の程を弁えたらどうだ!」

「おうっ、デーモン。そぉーやって、イジメゆな…」

「しかし女王さま…」

「三のヒメ。すぅーぐ泣くから、やめれ…。わらし…。ピーピー泣かれゆの、好かん!」


「畏まりました。出過ぎた真似をして、申し訳ございません」


悪魔王子(デーモン・プリンス)が深く腰を折って、謝罪した。


「おい。かめら…!」

「はぁーい。おかぁたま」

「おまいさん、ブーン飛んでぇー。ちょっと、見つけてこい!」

「………ちょ!」

「そんくらい、できんの…?」


「今のままですと、無理かなぁー」


カメラマンの精霊が、すごく悔しそうに言った。


「どォーしたら、ムリでなくなゆ?」

「それはモォー、おかぁたまに祝福して頂ければ…」


『祝福』と聞いて、悪魔王子(デーモン・プリンス)と精霊樹の守り役たちがピクリと反応した。


「ムーッ。なんね、キミたちは…?」


メルはにじり寄る精霊たちの様子に、尋常ならざる意気込みを感じて後退りした。


「畏れながら、『祝福』して頂けるのであれば我らも…」

「なんと浅ましい女どもよ。女王さまのお情けを頂くに相応しいのは、この地を守護する我であろう…!」

「あーたは、何を言ってるんですかぁー?ご使命を賜ったのは、ぼくですよ!ちょっと皆さんは、引っ込んでいてください」


「おまぁーら、やかましワ!」


メルが一喝した。


結局は平等に全員を『祝福』する事になった。

地下迷宮の守備力が上がるのであれば、瀉血を使用するのもやぶさかではない。


(だけどさぁー。目を血走らせて僕の血を欲しがるのは、どうかと思うよ…!)


『祝福』してもらいたがる精霊たちを前にして、メルはドン引きになった。




◇◇◇◇




ハンテンはチビを連れて、ペテルス丘陵地帯を進んでいた。

ハンテンの治癒魔法で傷が癒えたチビは、兄貴分の後ろから離れようとしない。


チビに懐かれたハンテンは、とても満足だった。


「わんわんわん、わん…!」

「きゅっ、きゅっ、きゅぃーっ♪」


二匹そろって楽しそうだ。


目的地は遠いけれど、仲間がいれば寂しくない。


タルブ川に沿って進む二匹は、飲み水に困ることがなかった。

お腹が空けば自生している芋を掘ったり、木の実を食べたりして満腹になる。

暑い日中は岩陰などに隠れて休息し、涼しい夜になると西を目指してせっせと走った。


そして縄張りを主張する強敵と出会えば、けだもの王を決めるバトルの開始だ。

退屈する暇などない。


ハンテンは向かうところ敵なしだった。

大蜘蛛だろうが、凶暴な鎧クマだろうが、ヘッドバットの一撃で黙らせた。


屍呪之王(しじゅのおう)であったときの殺戮衝動は、キレイに消え失せていた。

だからハンテンが、意図して敵を殺すことはなかった。

飽くまでもバトルは、優劣をつける勝負である。


「わぉーん!」

「ブヒヒィーン。ブルルルルゥーッ!」


その日もまたバイコーンの巨体に頭突きをかまして、草原に転がした。

二本角の黒い馬が、恨めしそうにハンテンを睨んでいたけれど、まったく気にしない。


売られたケンカは買う。

それがハンテンの、けだものライフだった。

敗者に異議を唱える権利など、ある筈もなかった。



だが楽しい時間は、あっという間に過ぎ去っていく。

苦あれば楽あり、楽あれば苦ありが、この世の常であった。


それは草原を吹き抜ける風が、何とも言えず心地よい昼下がりのこと…。

ハンテンたちのイケイケな日々に終止符を打つべく、千切れ雲が流れゆく丘を越えて、黒いヤツは現れた。


「ピーッ、ピーッ。ターゲット、発見。ターゲット、発見。コチラ、探索機八号。ペテルス丘陵地帯の外れにて、ピンク色の肉塊を捕捉!」


黒いヤツが、ハンテンの頭上で騒ぎ立てた。


撃墜すべく飛び跳ねてみるが、黒いヤツは素早く身を躱すのでどうにもならない。

ピーピー騒ぎながら付きまとう黒いヤツに、ハンテンはストレスを感じた。

だから隙を見てやっつけようと考えた。


ハンテンと黒いヤツの追いかけっこが始まった。

ハンテンは夜昼問わず、黒いヤツの後ろを追いまわした。


疲れさせてから仕留める作戦だった。


移動速度が、これまでの倍に跳ね上がった。

チビはハンテンの背中に乗せられて、必死にしがみついた。


だが先に疲れて倒れ込んだのは、ハンテンの方だった。

いくら付け回しても、黒いヤツは平然としていた。

少しも体力の衰えを見せない。


それどころかハンテンとチビが疲れ切って動けなくなるまで、黒いヤツは挑発を止めなかった。

食べて休んで目を覚ませば、又もや頭上でピーピーと騒ぎ立てる。

低空を飛び回り、誘うように身体を揺らす。


そして襲い掛かると、牙が届く寸前を見切り、飛び去ってしまう。


もう旅は楽しくなかった。

怒りで頭に血が上ったハンテンは、息を切らせながら走り続けた。


「ハァハァハァ…。わん、うぉーん!」

「ピーッ、ピーッ。ばぁーか。バカ犬。のろまぁー」


「グルルルル…。ワンワン、ワンワンワン!」


ハンテンは、勝てない勝負が面白くないコトを学んだ。

付き合わされたチビも、ヘトヘトになっていた。



ペテルス丘陵地帯の魔獣たちから、ピンク色の悪魔と恐れられたハンテンは、メルが生みだしたカメラマンの精霊に敗北を喫した。


「ピーッ、ピーッ。おまえ、雑魚。雑魚ドッグ。悔しい?ふぅーん。ザコのクセして、悔しいんだぁー」

「わんわん!」


「おらっ、もっと急げよ。走れ、犬っころ。メジエール村まで、休むんじゃねぇぞ!」


疲れ切ったハンテンに、情け容赦なく言葉のムチが振り下ろされる。


カメラマンの精霊は、うら若き乙女にしか優しくなかった。

中身がグラビアカメラマンなので、仕方なかった。






誤字報告をして下さる方に感謝です。

ありがとうございます。

いつも感想を下さる読者さまにも感謝です。

励みにしています。

ありがとうございます。

これからも、よろしくお願いします。 (´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

カバーイラスト


こちらは2巻のカバーイラストです。

カバーイラスト


こちらは1巻のカバーイラストです。

カバーイラスト
カバーイラストをクリックすると
特設ページへ移動します。

ミケ王子

ミケ王子をクリックすると
なろうの書報へ跳びます!
― 新着の感想 ―
[一言] カメラマンの精霊・・・ あとでメルにしばかれそう(*´-`)
[良い点] カメラマンの精霊良いキャラしてるなぁw ハンテンと姫との再開楽しみにしております(*´∀`)♪
[一言] カメラ精霊は、一見ヘイトがうまれそうだけど、いいキャラ感を出してる。 全部、いいキャラだと物語に深みがでないので、このままいって欲しい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ