1話 家での一幕
引き続き読んでくれたら幸いです。
「……っ」
そうか、さっきの衝撃で気を失ってたんだ。
リビングを見ると突っ張り棒が効いたのかそこまで酷くない。佳奈の飲んでいたコーヒーカップが落ちて割れたぐらいだ。
「いたたたたたた」
体を起こして時計を見ると起きてからまだ三十分ぐらいしか経っていない。
気を失ってたのはせいぜい五分ぐらいか。
そういえば佳奈は!
「佳奈、大丈夫?」
出せる限りの声で叫ぶが佳奈のいるであろう玄関からは返事がない。
まだ少し痛む体で玄関にいくと佳奈はドアの前で倒れていた。
「佳奈、佳奈」
耳元で名前を呼びながら体を何度も揺らす。
「う、う〜ん」
「佳奈、佳奈!」
「う、うん? にい? 嘘、私……」
「よかった、佳奈が無事で」
「にい、冗談だよね?」
「どうみても冗談じゃないよ。その証拠に佳奈だって気を失ってたわけだし」
「嘘、嘘でしょ?」
佳奈は今にも泣き出しそうだ。
まぁ、それもそうか。地震なんてたいして経験したことないもんな。
「どこか痛いとことかない?」
「にい、自分でやってそんなこときくの?」
佳奈はそう言うとお腹の辺りをさすり、遂には泣きはじめた。
「ひぐぅ、にいの馬鹿、変態、最低、死んじゃえ」
「え? 佳奈、いくらなんでもその言い方はないんじゃないかとお兄ちゃん思うんだけど」
「もう話しかけんな、私の、私の大切な初めてを奪って」
あ、あれ?〈初めて〉?
「ごめん佳奈。今のもう一度いって」
「……だから、にいが私の大切な処女を」
う〜ん、なんでそういう考えに至るのかな。
いくら僕が変態だからって近親相姦するような人ではないんだけどなぁ〜。
「あのね、佳奈。お兄ちゃんが大切な妹にそんなことするような人にみえる?」
「みえる」
……即答だった。
そうか、そうだよね、やっぱりそうみえるよね。
しょうがない、論理的に説明するか。でも、妹に強姦の無実を説明する兄妹ってどうなんだろ。
「佳奈、落ち着いて聞いてね。佳奈が玄関にいってからまだ十分くらいしかたってないよね? 佳奈はお兄ちゃんが本当にこの短い間に服を脱がして、ヤッて、また服を着せたと思う?」
「そういえば」
佳奈はおもむろに服を見ながら言った。
「そうでしょ、だからお兄ちゃんは時間的に考えて無理なんだよ」
「ひぐぅ、よかった……」
そんな顔で喜ばれると精神的にキツイからやめてくれるかなぁ。僕もある意味涙が出てきそうなんだけど。
「じゃぁ、にい。なんで私、気なんか失ってたの?」
「さっきの大きな衝撃があったでしょ。僕もそれで気を失ってたから、多分佳奈も同じだと思うよ」
「そういえばすっごく揺れたような。にい、地震かな?」
「そうだろうね」
火事はありえないし、土砂崩れはあるかもしれないけど、ここは住宅街のど真ん中だもんね。
「とりあえずお隣さんも心配だし外を見てくるね」
ガチャ
ドアを開けると色とりどりの果物や野菜を持つ人、馬車が目の前を通り過ぎる。
うん、見た感じだと大丈夫そうだね。
……うん? 馬車? それになんだあの耳や向かいの家は。
「どうしたの、にい? そんなとこで止まってて」
「い、いや、今日ってレイヤーのイベントとかこの近くであったっけ?」
「あるわけないじゃん。ここ、住宅街のそれもど真ん中だよ」
「そうだよね、ここ住宅街だよね。じゃ、じゃぁ、なんで馬車なんか走ってるんだろ」
「は、にい、ついに頭までイカれた? そんなわけ--」
外の景色を見た佳奈はフリーズした。
「だよね、お兄ちゃんの頭、まだしっかりしてるよね」
「に、にい、私までおかしくなっちゃったのかな」
「いや、その可能性を信じるよりかは目の前の現象を信じる方が正しいんじゃないかな」
「だ、だよね、よかった、にいと一緒にならなくて」
冷静なのはいいけど、なんでいちいちディスってくるんだろ。僕はそういうの嫌いじゃないからいいけど、他の人だったらお兄ちゃんやめてるんじゃないかなぁ。
さて、どうしよっか、これ。
さすがにSiriでもバカらしくて答えてくれないよね。
「異世界に来ちゃいました。どうすればいいですか?」
なんて。そもそも、ここオフラインだと思うし。
「ねぇ、Siri、助けて。私、変なところに来ちゃった」
佳奈が涙目になりながら愛用のスマホに言う。
うん、よかった。段々佳奈が妹なのか自信なくなってきたけどちゃんと僕の妹だ。
「Siriは利用できません。インターネットに接続してください」
「Siri、なんでも答えてくれるんじゃないの? 裏切ったの? もういいよ、真之さん」
スマホに怒っても仕方ないんじゃないかな。
てゆうか、スマホに名前つけてたんだ。
……いくらなんでも真之はちょっとなぁ。
「にい、これからどうするの?」
いつもじゃ考えられない弱々しい声できいてきた。
「そうだなぁ、こうして焦ってても仕方ないしまずはシンプルに寝ようか」
「にい、顔見せて」
「なん--」
頰にドッという鈍い音とともに激痛が走った。
佳奈に飛び蹴りを食らわされた。
「にい、痛いでしょ?」
「もちろん! 痛かったよ!」
僕は今できる精一杯の笑顔で答えた。
「笑顔で答えられると余計に腹が立つんだけど」
「ごめん、ごめん。……けど、痛かったてことは現実として受け入れるしかないってことだよね」
「……そっか、そうだよね」
今にも消え入りそうな声で答えた。
そうだよな、この僕でさえテンパってるんだから佳奈はもっとだよな。
僕がどうにかしないと。
「よし、佳奈。気が落ち着いたらここを出てみようか」
「出る? ……大丈夫なの? 何もわからないのに」
「大丈夫、お兄ちゃんにまかせて」
「これっぽっちも信用できないけどわかった。早く出発しよ」
「いいの? 休まなくて」
「うん」
「わかった。じゃぁ、いこうか」
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回はいよいよ街にいきます。
お楽しみに。