契約
俺とクリスはテントの柱にもたれ、ベッドに寝かされている少女を見ていた。
二人目の奴隷、何で戦ったんだろう。
「自分の力を確かめるため?」それとも「彼女が欲しかった?」
俺はわからない。
しばらくして少女は目覚めると、半身を起こして、キョロキョロと周りを見まわす。
「ガントさん、私どうなった?」
少女は状況が理解できていないようだった。
「お前は負けた。もう戦わなくていい。ほら、そこにいる人が、お前に勝った人だ」
ガントさんは優しく少女に声をかけた。
「すまないね、痛くないかい?」
俺が言うと、少女は体を手のひらでパタパタと触り確認し、
「はい、痛くないです」
と答えた。
そして少女は俺を上目遣いで見ると、
「私のご主人様ですか? 私はフィナです」
少女の名前を教える。
破壊力がすごい、容姿が整っているからか? うーん、クリスの目も痛い。
「勝ったからご主人というなら、そうなるかもしれないね。主人が俺で良いというのなら契約を進めようと思うんだが、どうする?」
「私はそれでいい、あなたは私のご主人様です」
フィナはベッドを降りると、俺に抱きついてきた。
「ああ、いい匂い」
ん? 気になるセリフ。とりあえずまあいい。
「ガントさんこういうことらしいので、契約をお願いします」
フィナは俺に抱きつき、クンカクンカと俺の匂いを嗅いでいた。やっぱクリスの目が痛い。
「わかった、二人ともここに来てくれるか? 俺は魔法書士だから今すぐ行うぞ?」
アームレスリングの台のようなところ(契約台というらしい)に呼ばれる。台の上には魔法陣があった。
俺はさっさと、フィナは渋々台に向かう。
そんなに俺の臭い嗅ぎたい? 加齢臭だぞそれ。
「向かい合って立ってくれ。それじゃ契約を始める」
台を中心に、俺とフィナが向かい合うように立った。ガントさんが呪文のような物を唱えると台とフィナが光りだす。しばらくすると光が収まった。
「はい終わり」
肩に着いた隷属の紋章を確認すると、満足げに
「これで、フィナはあんたの物だ」
ガントさんは、腕を組ながら満足げに言った。
「よろしくな、フィナ」
俺が言うと、
「はい、ご主人様」
フィナはもう一度俺に抱きつき、臭いを嗅ぎ始めた。
「あんた奴隷は初めてか?」
一応の取り扱い説明してくれるのかな?
「いいや? そこのエルフもそうだ」
何か気になることがあるのだろうか、ガントさんが顎に手を当て考えている。
「エルフって……。そういや、今回の目玉はエルフだって聞いていたが、まだこの街に来たって話を聞かないな」
ガントさんはちらりと俺を見た。
何か疑ってるかな?
「エルフが目玉って、知らなかったよ」
俺は当然とぼける。わざわざ「クリスが奴隷市の目玉だった」と言う必要はない。ただ、エルフがどういう評価なのか気になって、ガントさんに聞いてみた。
「ガントさん、エルフって目玉になるぐらいだから奴隷として価値が高いのか? 俺はたまたま手に入れたから価値がわからないんだ」
「たまたまエルフの奴隷を手に入れるなんて幸運を今まで聞いたことないぞ。でも、もし、商品としてのエルフの奴隷が居るのなら、最低でも白金貨一枚はするんじゃないか? 今回は処女の奴隷ってことだから十枚は堅いだろう。まあ、そういう好き者が居るってわけだ」
ガントさんは、苦笑いしながら言った。
十億円て……高っ。
「それだけ高いのには理由がある?」
「あぁ、エルフは年を取り辛い、つまり若さが継続するんだ。やっぱり男って若い女としたいだろ?だから若さを持ったエルフに需要があるわけだ。しかし、エルフは森に棲んでて外に出てくるものが少ない。更にその中から奴隷になる者も少ない。そのせいで希少性が高い。貴族や商人の間では、エルフの性奴隷を持ってるだけでステータスになるってわけだ。その希少性から、商人によっては捕えて強引に隷属の紋章をつけるらしいが……」
最後の一文でガントさんの顔が曇る。
言いたくないところなのだろう。
まあ、話の内容だと、クリスは捕らえられて強引にってところか……。
「さて、続きだ。知っているとは思うが、奴隷は主人を傷つけることや殺すことはできない。あと、主人が言ったことは絶対に拒否できない。お前が言ったことが枷になるから、命令するときは注意してくれ」
俺はそれを聞くとすぐに、
「だったら、クリスにも言ったことだが、奴隷にならないでください」
俺は頭を下げて真剣に頼む。
「ご主人様とか無理に呼ばなくていいぞ? 俺の言うことが間違っていると思ったら注意してくれ。これは命令だ。いいかな?」
「おいバカ、そんなことしたら奴隷の意味が無いじゃないか」
ガントさんが注意してきたが、
「意味が無くて良いんだよ。俺は奴隷を奴隷として扱えるほど慣れてない。だから、フィナがフィナらしければいいよ。わかったかい? フィナ」
「はい。でも、ご主人様の呼び方をどうしましょう。そうですねー」
首を傾げ考えるフィナ。
「マサヨシ様でいいですか?」
フィナは嬉しそうに言った。
考えた割には捻りは無かった。捻られた変な呼び名でも困るが……。
「さて、長居しても仕方ない、それじゃ行くとするか。フィナ、荷物は?」
「あっ、いつでも出られるようにまとめてあります。これ1つだけですけど」
フィナは奥からカバンを持ってきた。
そしてガントさんの前に立つと、
「ガントさんお世話になりました。私幸せになります」
フィナはうっすらと涙を浮かべてい言った。結婚する父と娘の別れのようだった。
「……おう、フィナは長い間俺と居たから娘のようなものだ。おいお前、フィナをよろしくな」
ガントさんは俺の肩をドンと叩いた。
「ああ任された」
俺はそう言うとガントさんにヒラヒラと手を振り、クリスとフィナを連れてテントを出るのだった。
クリスが黙って俺の右手にしがみ付いてくる。
店の中では放置だったからかな?
すると、フィナも負けじと左手にしがみ付いて俺の臭いを嗅いできた。
「あっ、俺の自由が無くなっていく」そんな予感がした。




