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人だかり

 しばらく歩くと広場に出た。

「強さに自信がある方、この少女に戦って勝つことができたなら、この娘を差し上げます。この子が要らないなら、金貨十枚でもいいですよ?」

 奴隷商人らしき男が大きな声で呼びかけている。


 おっと、ドラ〇クエのき〇んどうしそっくりだ。胴長短足、ドワーフなのか?

 見ると十代前半だろうか、まだ幼さが残る少女が奴隷商人の傍に立っていた。俺より頭一つ低いぐらい。百六十センチあるかないか。ポニーテールってこっちにもあったんだ。端正な顔、でも犬鼻や髭はなく普通の人の顔。ただ、銀髪の間から犬?の耳が出ており、あと尻尾もついている。銀色の毛並みが触ると気持ちよさそうだ。モフモフって奴か?


「ただし、一回に付き金貨一枚ですよ? そこの筋肉自慢そうな冒険者さんどうですか?」

 皮鎧を着た屈強な男に声をかける。

「俺か? まぁ、負ける気はしない。やってみよう。金貨1枚だ」

 男は奴隷商人に金貨を渡した。

「はい、確かに。これが武器になります」

 剣を男に渡す。そして男は色々な方向から剣を確認した。

「刃引きをしてありますが当たると怪我をすることがあるのでご注意ください」

 奴隷商人は注意を促す。

「わかった」

「それではフィナ、この人と戦いなさい」

 フィナと呼ばれた少女は広場の中央に行く。その後を男が続く。

 間合いを取りそれぞれ剣を構えた。


「はじめ!!」

 奴隷商人が声を上げると同時に男は間合いを詰め一気に終わらそうと剣を振る。……が、少女はギリギリで避ける。それでも、男は冒険者らしい素早い攻撃で攻め込み、少女に攻撃を当てようと何度も攻撃をした。しかし少女はそれを見切り、華麗に避ける。ことごとく躱す。

 しばらく経つと、男に疲れが見え始めた。剣にひきずられるように体が泳ぐ。

 疲れに焦り勝負を決めてしまおうと大振りになる攻撃。そんな攻撃を避け、男の脇を少女がすり抜けると、男は脇を押さえてうずくまった。

「そこまで!」

 奴隷商人が止める。

 少女の圧勝だった。

 人生の半分が終わり身体能力の低下していた俺。しかし、本来見えるはずのない二人の戦いの全てが見えた。

 ん?何でだ?


「あの子結構強いよな。クリス勝てる?」

 ふと、クリスに聞いてみた。

「そうねSTRなら私、AGIは一緒くらい? まあ、魔法を使えば勝てると思う」

 クリスは勝てるらしい。

 俺はどうなんだろう?クリスの能力を上げるほどの能力が本当にあるのだろうか。

 どうしても気になってしまった。

「俺、戦っていいかな?」

 俺はクリスに問う。

 俺の意志なんか決まっているのに……。

 そんな俺を見て、

「やりたいのね。がんばってらっしゃい」

 クリスは優しい目で送り出してくれた。


「次の方はおられませんか?」

 フィナは奴隷商人の横で無表情のまま立っていた。

 勝つのが当たり前のような顔。

 戦闘には興味がないようだ。

 俺はトボトボと冒険者の男に近づき治癒魔法をかける。

「おぉ、助かった。あの少女あんなに強いとはな」

 そう言うと男は去っていった。意外とさばさばしている。金貨1枚って百万円だよな。俺だったら悔しがりそうだが……。


「俺が次でいいかな」

 男が去るのを見届けると、奴隷商人に声をかけた。

「金貨一枚ね」

 金勘定をしているのか、下を向いたまま機械的に言ってきた。

 俺は奴隷商人に近づくと金貨を一枚渡す。

「毎度ありー」

 今まで結構儲けているのだろう。商人はしたり顔である。そして俺を見た瞬間、

「お兄さん、そんな体で大丈夫ですかい?私ゃ金が入れば問題ないんですがね」

 と心配されてしまった。

 ああ、そういえば、俺はメタボな体のままか。

 運動能力など皆無に見えるこの体である。

「お前みたいなのが勝てると思ってるのか?」

「金の無駄だよ」

 周りからヤジが飛ぶ。

 まあ、この外見じゃ言われても仕方ないか。だろうな。

 そんな俺を見てクリスを見ると苦笑いしていた。そして指をサムズアップする。勝つと思っているようだ。


「ああ、やらせてもらうよ」

 奴隷商人に返事をすると、俺は少女に近づき、すれ違いざまに治癒魔法をかけた。少女は目を見開き驚く

「なぜ?」

「うーん、なんでだろう」

 俺は、腕を組んで考える。

「なんとなくじゃダメか? 強いて言えば、君と万全の状態でやりたいからかな。君にとっては余計なお世話かもしれないけどね」

 俺は剣も持たずに広場の中央へ進んだ。


「あんた、素手でいいかね?」

「ああ、素手でいい」

 俺は握り拳を作った。

 奴隷商人は両者の間合いを確認すると、

「では、はじめ!」

 と、開始の声をかけた。すると今度は少女の方から攻撃を仕掛けてくる。銀色の髪が揺れる。さっきの冒険者なんて比にならない速さだ。獣人ってすごいんだなぁ……と、少女の動きを見ながら思った。

 そして、その速さについていける俺自身にも驚いていた。

「さっきと全然違うね。でも、これが君の本気? まだまだ強いんでしょ?」

 俺ってどんだけ強くなってるんだろ? これくらいなら十分避けられる。でも、彼女の攻撃はこんなもんじゃない気がするんだ。

 しばらく避け続けると少女の気配が変わった。感じたことはないが殺気って奴かな?


「フッ」

 彼女の息を吐く音が聞こえると、更に速くなる。

 俺の脇を通り一撃、躱したら更に背後から一撃。どんどん死角に入り攻撃を重ねてくる。俺はその気配を感じ避ける。

 俺ってこんなに動けたっけ? 五分も走れば息絶え絶えだったはずなのに、もう三十分以上避け続けている。

 もうヤジはなく、ただ静かだった。

「フーフー」

 少女の呼吸が大きくなる。少女の方が先にスタミナ切れを起こし始めたようだ。しかし少女の気配が変わる。ギアを上げるって奴かもしれない。


 少女は今までで一番の速さで俺の背後に飛び込んできた。返しで背後から切りつける。俺は気配を察し、少女の攻撃に合わせ剣を避けると、カウンターを入れた。

「ぐっ」

 静かな会場に少女の呻くような声が響く。

 俺の拳は少女の鳩尾に埋まり、少女は崩れるように気を失った。

「ごめんなー」

 脱力した少女を抱き上げ、謝りながら治癒魔法を施す。そして、少女をクリスに渡すと、

「あなたが勝つと思ってた」

 クリスは俺の耳元で囁いた。


「うぉーすげー、一撃だ」

「こんなの見たことない」

「デブすごいぞぉ」

「デーブ! デーブ! デーブ!……」

 野次馬から俺の勝利を称える声が上がった。

 しかし嬉しくない。


 俺は奴隷商人の前に行き、

「勝ったから彼女貰うぞ? 手続きは?」

 しかし、奴隷商人は唖然としていた。

「えっ、あいつはAGIがSだぞ? そこら辺の冒険者なんて相手にならないはずなんだ。なんでこんなことに!」

 試合結果が信じられなかったようだ。

「うーん、俺にもわからんよ。今の自分自身のことさえ俺は詳しくないからな。ただ、理由は簡単だろ? 俺は彼女より強かったんだよ」

 まあそうとしか言えないよな。

「とにかくこの子に勝ったんだ。あんたが言った通り彼女を貰うから早く手続きしてくれ!」

 デブコールが鬱陶しいので、俺は奴隷商人を()かした。


 奴隷商人はガントという名だった。

 俺は犬の獣人かと思っていたが、少女は銀狼族という獣人族だそうだ。ガントさんは、「銀狼族は希少価値があるし、少女も器量良しだから高く売れるだろう」と思って購入したということらしい。

 しかし、銀狼族は自分より強い者しか主と認めない。つまり、少女より強いものに惹かれるのだ。しかし、なかなか彼女より強い者は現れず契約までに至らなかった。

 仕方ないので少女を景品に辻試合をして稼いでいたという。

 強い奴も探せるし金も稼げて一石二鳥って奴だったらしい。

 そのせいで、逆に戦いすぎて経験を得た少女が更に強くなってしまったらしい。

 ガントさん曰く、

「フィナが強すぎて主人が決まらなかったせいで、購入額よりも儲けちまった。ガハハハ」

 ということらしい。

 奴隷市はある意味小さな祭りのようなものということだ。

 まだ育ちきっていない体に弱さが見える少女。器量良い。簡単に手に入ると思って挑戦する者が多かったのかもしれない。


「俺は主人と奴隷が納得しないと契約しないんだ。あんた強いな。あんただったらフィナも主と認めるだろうて」

 そう言うと、ガントさんは「ガハハ」と笑いながら商売用の仮設テントの中に入っていった。

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