街
森に覆われた街道。木漏れ日の中を走る。
街まで五百メートルほどに近づくと、遠目に城塞都市のような高い外壁が見えてきた。目立つことを避けるため、俺は速度を落とし止まるのだった。
「悪いんだが、この移動方法のままでは目立つと思うんだ。だからここから歩く。しかしここまで意外と時間がかかったな」
「マサヨシ、馬車だったら何倍もかかっているわよ? だから十分に早いの」
俺にはこっちの常識がわからない。俺がクリスを下ろすと、
「こっちは慣れるまで大変だったんだから! ずっと力を入れていたから体が凝っちゃったじゃない」
と、愚痴を言いながらクリスは軽く柔軟を始めた。
「俺は前の世界でこれくらいの速さは体験していたから余裕だったけど、この世界で生活してきたクリスのことまで考えられなかった。申し訳ない」
俺は頭を下げ謝った。
「でっ、でもね、マサヨシに抱かれていると安心できた」
クリスはフォローしてくれたのかもしれない……。
「ありがとな。さて、ドロアーテに行こうと思うんだが、この格好で問題ないか?」
「ええ、問題ないと思うわ。服がちょっと奇抜だけど大丈夫じゃない」
ふむ、スーツが珍しいのか。
「ありがとな」
そう言って軽くクリスの頭を一撫ですると、二人で入り口の門に向かって歩きだした。
「でかいな」
俺は、威圧感のある街壁を見上げる。
街を囲むような壁を見たことが無いから余計だ。
呆然と立ち止まっていると、
「手続きに時間がかかるから早く行くわよ」
クリスに手を引っ張られる。
「すまん」
俺はクリスとともに門へ向かうのだった。
手続きを待つ長蛇の列が見えてきた。
長っ……。
仕方ないので、俺とクリスはそこに並ぶ。しかし、門番の事務処理が思ったより早くサクサクと進む。そして俺の番になった。
「お前、名前は?」
と、事務的に言われたので、
「マサヨシと言います」
と、事務的に返した。
「身分証明は?」
「森の中でずっと魔法の修業をしていたので持ち合わせておりません。冒険者ギルドに登録して、ギルドカードを作ろうかと思っております」
街に入る時の定番な回答だ。そこそこ大きな町だ。だから俺みたいな人間も多いのだろう、門番は気にせず手続きを進めた。
「珍しい服だな」
俺が着ているのは彼にとって異世界の服だ、珍しいだろう。だが、
「魔法使いは魔力を上げるための服を着ますから。奇抜なものもあります」
と、適当なことを言っておく。
「まあいい。仮の証明書を出すから3日以内に冒険者ギルドに登録して返しに来てくれ。それまでに返さないと更に銀貨2枚の罰金になる。注意してくれ。入街税と仮の証明書作成手続きで銀貨5枚だ」
「はい、丁度」
俺は五枚の銀貨を門番に渡し仮の身分証を受け取った。
俺の方が早かったのでクリスが終わるのを門の傍で待っていた。
クリスが
「お待たせ」
と言って軽く手を上げ近寄ってくる。
「全然待ってない気にするな」
デートの待ち合わせのような会話が久々で、新鮮だった。
二人で町を歩く。メインストリートなのだろうか、両側には店が並ぶ。中世ヨーロッパの街並みに近い。ただ、周りには人だけでなく尻尾や耳の付いた獣人。ずんぐりむっくりなドワーフ。そして傍らにはエルフ。いろいろな種族が歩いていた。
俺はふと、檻を載せた馬車に気付いた。中には数人の子供が身を寄せている。クリスが着ていたような薄汚れた貫頭衣のような服を着ていた。
「あれが奴隷?」
クリスに尋ねると、
「そう、奴隷。私もあの子たちと一緒の運命が待っていたの。私の場合はもっと酷い性奴隷……。『処女だから高く売れる』とあの商人も言っていたし、あのままだったら私にはどんな運命が待っていたか……」
クリスはそう言いながら震えていた。性奴隷になった運命を想像していたのかもしれない。
「もう気にするな。今は俺のパートナーだからな」
俺はクリスを抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫でる。するとクリスはコクリと頷き、俺の胸に顔をうずめてきた。




