宿屋にて……
俺たちは、ガントさんの店から木漏れ日亭に帰った。食堂で夕食を食べ部屋に戻る。
「さて、装備も不十分なまま、盗賊を討伐したんだが、十分な装備を宝物庫らしきところでいただきました。で、まずは装備の充実をしたいと思います」
俺は、収納カバンのリストを確認する。
「クリス、精霊装備の一式がリストにある。精霊のレイピア、鎧、バックラー、ブーツ、兜。これっていい物?」
「えっ、ええ!! エルフが使える装備では最上位よ!」
「じゃあ、これはクリスだね」
装備を出す。
クリスは精霊装備を見ながら震えていた。結構高いの?
「えーっと、フィナは、重い鎧と軽い鎧どっちが良いんだ?」
「私は軽いほうが良いです。軽くて防御力があるのが一番なんですが……」
「フェザードラゴンの鎧? そんなドラゴン居るんだ」
「マサヨシ様、フェザードラゴンはドラゴンの中で防御力は低いですが、魔物の中では上位です。魔物の中で一番早く飛ぶため、素早さが上がると言われています。ドラゴン系ですから、魔法に対する防御力も高いので、問題ないかと」
「鎧はこれだね」
黒い鱗の鎧を出した。フェザーなのに鱗? ちょっと疑問である。
「剣は、両手持ち? 片手持ち?」
「両手持ちがいいですね」
「血桜? 太刀? なぜに日本刀? カッコいいから使うか」
「あとは、兜、ブーツ、フェザードラゴンあったわ。これでいい?」
「大丈夫です」
血桜……おっと、赤い刀身と、フェザードラゴンセットを出す。
「さて、アイナだよな。聖女ってんだから、そのまま聖女のローブ、あとは法皇の杖、慈愛サークレット。全部回復系の能力が上がる奴だが、こんなところかな?」
コクコク
「指輪要る? 指輪で何かなかったっけ? ああ、防御力が上がる奴と魔力が上がる奴がある。これも着けるか。そのもの、防御の指輪と魔力の指輪だが」
コクコクコク。
「ホイっと」
聖女のローブ、法皇の杖、慈愛のサークレット、防御と魔力の指輪ね。
「つけて」
アイナが防御の指輪を渡してくる。
「おう、で、なんで左手薬指」
「ココがいい」
「まさか、この世界でも、結婚指輪を左手薬指に入れるとか?」
アイナが目をそらす。
俺を落とそうと一番考えているのがアイナのような気がする。
「クリスとフィナを納得させられるなら、着けてあげましょう」
三人が輪になって集まる。しばらく話をする。
おもむろにアイナが、
「話がついた。全員に防御と魔力の指輪を」
「「私も薬指に指輪が欲しい(です)!!」」
藪蛇だった……。
「あー、わかったわかった、クリスとフィナは防御の指輪と力の指輪になるがいいかい?」
「「はい(です)!!」」
仕方ないので、それぞれの左手薬指に防御の指輪を付けた。そういや、嫁との結婚式以来か。
「えへへ」
「えへへです」
「ん」
それぞれが指輪をじーっと見ている。
「結婚指輪じゃないんだけどな」
「気分よ、あなたに大事にしてもらってるって」
「そうです」
「そう」
三人が言う。
「そうか、まあお前らのオヤジだからな。大事にするぞ?」
そのあと三人にジト目で見られた。
「俺の装備どうしよう。ほとんど三人に使ったからな。別に俺の魔法の杖とか要らないし、多分攻撃受けても、鎧は切られても地肌で止まりそうだしな」
「指輪だけは着けてね。じゃないと、私たちバカみたいじゃない」
「そうです」
コクリ。
「だったら、お揃いの防御の指輪か」
「うんうん、左手薬指ね」
「です」
コクリ。
なんか敷かれだしてるよな。
俺は、最後の防御の指輪を左手薬指に入れる。それを三人はじっと見ていた。青い石が入った控えめな指輪、そういえば、嫁が死んでからは、指輪をつけていなかったな。嫁が生きてる時は、あるのが当たり前だったんだが。
三人とも、自分の指輪を見てウットリしている。何の妄想でもしているんだ?
まあ、でも、こいつらが、俺より先に死ぬようなことが無いようにしないとな。などと、今更ながら思った。
結局、リストの中で一番硬い剣を持つことにした。鉄製? じゃないよな。分厚く黒い二メートル近くある剣。地割りの剣と銘が打ってある。これって、ベルセ○クの○ッツが使ってた剣みたいじゃん。まあカッコいいから良いか。ガッ○に習って、背中に背負うとカッコ良さそうだった。
今日も一日よく動いた。
「さて風呂に入ろう。アイナはクリスとフィナと一緒に入ってくれるか?」
ブンブン
「だめか?」
コクリ。
「「私だって一緒に入りたい(です)」」
「ダメだって、考えてみろ、俺に裸を見られるんだぞ?」
「裸を見られる……」
「見られたいです」
ゴクリ。
恍惚とした表情……。あっ、地雷だ。
「何にしろ一人で入る。入ってくるなよ!」
俺はさっさと風呂に入った。
ありがたいことに、風呂は奇麗に掃除されている。魔石に魔力を通し湯を張る。
「ふう、風呂は良いねぇ。アイナは別として、クリスとフィナが来たら、我慢できるかどうかわからない。今んとこ反応してないが、あの裸体を見せられたら……無理だろうな」
ジェットな風呂にして、目をつぶりくつろぐ。ふと、真っ黒な視界の右上に三つの点が動く。寝ている以外は、レーダーは活かしている。おっと、風呂の前室に入ってきたぞ。ん? 扉が開く? 扉のほうを見ると、すでに全裸の三人が居た。
「入ってくるなっていうのは、入ってこいってことって聞いたことがあるわ」
「そうです」
コクリ。
「どこの芸人だ、そんなことを言ったのは! 俺は風呂でくつろぎたいの! そんな体見たら、ゆっくりできないだろ?」
「見るのが嫌ってわけじゃないんでしょ?」
「クリス、俺も男だからな。クリスやフィナ、アイナは……もう五年かしたら、綺麗な体を見たいとは思う」
「だったら見ればいいじゃない。あなたは私たちの主人なのよ?」
「見てください。私は恥ずかしくない。マサヨシ様に見られるのなら」
「見ていい」
クリスたちの意志が固い。でも、アイナ、俺はロリコンじゃない。お前はもうちょっと先だ。ん?考えろ、逆に三人居たら、それぞれが抑えになるかも。三国鼎立。
「はあ、一緒に風呂に入るだけだぞ」
俺は折れてしまった。意志弱いなぁ。
「「はい(です)!!」」
コクリ。
結局四人で風呂に入ることになった。
ふう、疲れた。
気疲れだ。あんな環境で風呂に入ったことは無い。
「ん」
アイナがヘアブラシを持ってくる。
「はいはい」
俺はアイナの髪を漉きながら温風で乾かす。ん? 視線?
クリスとフィナがじーっと見てる。
「お前らして欲しいのか?」
コクリ。
コクリ。
お前ら、アイナの真似をするな。
「アイナの後でな。洗面台からコップ持ってきな」
ドタドタと二人はコップを取りに行く。戻ってくるとコップを差し出した。それぞれのコップに冷水を注ぐ。
「これでも飲んで待ってろ」
「冷たくて気持ちいいです」
フィナの尻尾がゆっくり揺れている。
「マサヨシが先に飲んで、はい」
ヘアブラシを置き、水を飲む。
「ありがとな」
冷水を足し、再度アイナの髪を乾かす。
「間接キス。昨日はフィナに取られたからね」
してやったりの顔だ。
「子供か!! ほい、アイナ終わったぞ? バレッタも着ける?」
コクリ
「わかった、持っておいで」
アイナはバレッタを取ってきた。髪を整えようと、アイナに近づいたとき。唇に感触があった。
「「あーーーー」」
アイナは二人の声を無視して唇を押さえている。
「「ずるい(です。)アイナ」」
「私は、間接キスしてない」
何気にアイナが一番考えているのかもしれない。
「何、八歳に焼きもち焼いてるんだ!!」
アイナは両手をぐっと握って、
「私のキスじゃ、マサヨシは動揺しない。でも、クリスやフィナがキスしたら、マサヨシは動揺する。ずるい」
「それは……ねえ?」
「そうですねぇ」
「アイナ。今のアイナは俺の娘。でもな、そのうちお前にキスされたら、俺が恥ずかしくなる時が来る。上の二人は、先に生まれたんだから仕方ない。先に成長するからな。お前はそんなこと言わなくてもいいんだ」
俺は何を言ってるのやら。
「手を出してくれる?」
「んー、この世界って一二歳で成人?」
コクリ
「それまでは、手を出さない……」
「それ以降は?」
「まあ、もう主人の書き換えもできないし、責任は取るよ」
コクリ。
「今はそれでいい」
アイナは安心したようだった。
「私たち三姉妹は、マサヨシの嫁確定なのよ、安心して」
便乗でクリスが言う。
「そう、指輪ももらったんですからね」
フィナお前もか!
「「ねっ」」
声を合わせて俺を見る。二人の威圧に負けた。
「そういうことにしておこう」
その後、フィナ、クリスの順に頭を乾かし終わると、不貞腐れて寝た。




