布ができた
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております
ノルフォシ村の住民は俺んちに移住した。
ノルフォシ村の住民が移住してきたことで、一気に住人が増えた……と言っても五十人程(又は)しかも五十人以上。その中には年寄りもいれば子供もいる。
とはいえ百人前後だったものが、百五十人程度まで膨れ上がったのは確かである。
村の子供たちも、午前中は孤児院の学校で勉強するようにしてもらった。
ノルフォシ村の識字率は低く、計算もできない。交渉事があれば、村長が代理で行っていたということだ。
理由は読み書き計算を教える者が居なかった(村長は忙しくて教える暇がない)うえに、貧しい村のため子供のころから親の手伝いとして働き、勉強をする暇などなかったためだ。
フィナが字が読めるのは奴隷商人のガントさんがフィナの将来のために教えてくれたおかげ。
「このままではよろしくない」と思い、村長に提案すると。
「字が読めて計算ができるだけで、なれる職業が増える。騙されることも少なくなる。あの子たちの将来には必要です。ぜひお願いします!」
という事で編入が決まった。
そういや、ノルデン侯爵領の孤児の件もノーラから話があったな。
俺は村の男たち用に畑を作る。
相談の上、適度な畝も作っておく。
男たちは、大豆の種を植えるということだ。
収穫した後には、調味料を作ると言う。
ん? 調味料? 味噌? 醤油? ちょっと期待だ。
何とか頑張ってもらいたい。
レッドヴェッチとホワイトヴェッチ、おっとレンゲソウもマメ科、実になって落ちるモノも出てきているが、これはシュガーアントたちがせっせと巣に持ち込んでいた。
餌にするらしい。「魔力だけでいいんですがたまには……」とミヤが言っていたな。
大きさは、鞘で一升瓶ぐらい。内部のマメはソフトボールぐらいあった。
これで味噌はできるんだろうか……。今度作ってみよう。
村の男たちにお願いした事……それは養蜂の手伝いである。
と言っても、まだ、巣はできていない。
鋭意制作中……だと思う。
ダンジョンの四十二階に小さな部屋を四十ほど作り、それぞれの部屋にアグラに頼んでハニービーの女王バチを一匹とそれに付随する働きバチ五百匹を入れた。
ハニービーは隷属化した時にワームズのように進化はしなかったが、体が二回りほど大きくなっていた。
女王バチとはいえ身長十センチメートルのミツバチって怖い。
まあ、人は襲わないように言ってあるので問題ない。
これでハニービーの数が増えれば蜜も手に入る。
その蜜の回収を村の男たちに依頼、販売はカールに頼む。
実際に忙しくなるのはもう少し先だろう。
糸を紡ぐのは、孤児院の子供に任せる。そして村の女性陣には孤児院の子を指導しつつ機を織ってもらった。さすが経験者。みるみる布が出来上がり、数日のうちに反物が出来上がった。
シルクワームの布は真っ白。マジックワームの布は若干虹色に輝く。
「カール、布ができた。見てもらえないか?」
出来上がった布をカールに渡すと、
「これは美しいですね。コレなら何にでも仕立てられる。こちらがマジックワームの布でしたね」
と言っておもむろに布を広げ、ナイフで切りつけた。
ナイフで切った跡はのこるが、切れたりはしていない。
「あっ、ナイフの刃がダメになりました。さすがマジックワームの布ですね。これなら十分防具として通用します。わざわざ単価の高い服として仕立てなくても下着として下に着て防刃服にしてもいい、裏地に使うだけでも十分な効果がありそうだ。まあ、完全な魔法防御まで求めるなら仕立てた方がいいのでしょうけども」
「コレなら売れるか?」
「そうですね問題ないですね。ただマサヨシ様、染色ができるのであればもっと売れると思います。単色でいいので、赤、青、黄、緑、黒などがあればいいですね」
染色かぁ。確かにいろいろな色の布がある方がいいよな。そう言えば糸を染めて模様を出すような織り方もあったな。爪掻だったっけ? 爪で織るやつもあった。白い布を直接染色する方法もある。糊で模様を描いたりするのもあったな。何がいいんだろ……。
「話には聞きましたが、ドランさんにオリハルコンの裁ちばさみも作ってもらったとか?」
「そうしないと、布や糸の裁断もできないだろう?」
「確かに、この布の強さなら普通の鉄のハサミでは切れないですね。刃がダメになります」
「そう、だからドランさんにオリハルコンの針も依頼してある」
「普通のところでは『針にオリハルコンを使おう』なんて言うところは無いんですけどね」
呆れ顔で溜め息をつきながらカールは言った。
カールに言われた通り「染色」しておけば人気が出るだろうな。
どうすっかなあ……。
などと染色の事を考えながら、カールの支店から家へと歩いている途中で、椅子にもたれて紐のような物を作る腰が曲がった銀狼族の婆ちゃんが居た。
婆ちゃんは悩みながら歩く俺を見ると、
「そんな歳から悩み過ぎたらハゲるぞ」
と話しかけてきた。
「そりゃ悩まなくていいなら悩まないさ」
「ふん、年の功だ。村の者もあんたには世話になってる。儂が話を聞いてやろう」
と上から目線で婆ちゃんが聞いてきた。
確かに年の功ってのはある。
「布や糸の染色の方法が知りたいんだ」
と、打ち明ける。
「そんなことかい? 変なことに悩むんだね」
「そんなことでも悩むんですよ。俺んちを発展させたいからね」
「染色ってのは簡単さ。色の木を探せばいい。その木の実の種からは赤色、黄色、青色の染料ができるんだ。その三色を使えば、色なんて思いのままさ」
正式名称ではないようだが、そういう木があるようだ。三原色を色の木の実で作れってことなんだろうか?
「村が寂れてからは使ってはいなかったが、村に色の木が植わってるはず。付き合ってやるから、あんたの扉で儂を村に連れていけ!」
俺は、ばあちゃんに言われるがままノルフォシ村へ向かうのだった。
「じいさんの墓参りに行っていいかい?」
上目遣いで俺に聞いてくる婆ちゃん。
「ああ」
「息子に言われ、村を捨てては来たが、やっぱり墓参りぐらいはしたいからね」
そう言って、近くにあった石に向かって目をつぶる婆さん。
「うちの村は知っての通り貧乏だろ? だから名前が彫ってあるような墓石はないんだ。まあ、儂も字も読めないしな。場所と形を覚えてないと転がってる石でしかない。儂ら年寄りが死んだらもう誰もここには来ないだろう。来ようって思ってもあんたの手助け無しでは来れない。そのうちあんたのところが銀狼族にとっての故郷になるんだろうね」
「あんたのところが、銀狼族の故郷になる」と言われたとき、別に責任を感じていなかったわけではないが改めて責任と言うものが俺の肩に「ズン」とのし掛かってきた気がした。
「さて、儂のしたいことができた」
「墓参りのために俺を使ったのか?」
「それもある……いいだろ、色の実を採るついでだ。次はあんたの悩みの解決といこうか。確か………」
そう言って杖をつきながら婆さんは村のなかを探し始める。
俺もレーダーで探す。婆さんの進行方向に十何本か固まっていた。
「………おお、あったあった。これが色の木だ」
そこには見た感じ普通の木が立っていた。
その下には実が多く転がる。
「人間はおろか魔物さえ殻が固すぎてこの実は食べないと言われているが、コカトリスだけはどういうわけか食べるんだ。胃腸が強いのかね? そして糞の中に種が出てくる。儂はその種をいただき染料とする」
「俺んちにはコカトリスが居るから問題ないだろって?」
「そういうこと、この村の周りに居るコカトリスは人に慣れていない。見つかったらいつ石にされるかわからない。あんたのところのコカトリスは人に危害を与えないから安心して種を手に入れられる」
実を一つ拾った。
「この実が固いんだな」
拾った実を握りつぶすと「バキッ」と言う音がして、実が割れた。
「握力だけで、実を割るのを初めて見たよ。ハンマーでも割れないんだ」
婆さんは驚いていた。
中には白い果実が甘い匂いを出していた。
指についた果実を舐めると……。
あっ、甘い。
全部食べてしまう。
「果実を食べる者も初めて見た」
婆さんは呆れ顔だ。
俺は残った種を取り出した。
婆さんはその種を見て、
「ああ、それは赤色が出る種だね。ちょっと赤みがかっているだろう?」
と、教えてくれる。
「ほう、見た目で色が判別できるのは助かる。婆さん、赤い色の種を使えば赤い色の種が入った実がなる?」
俺は婆さんに聞いてみた。
「そんなの知らないよ。儂はコカトリスの食べたあとの種しか見たことがないからね。そんなに重要な
ら自分で探せばいいだろ?」
「そりゃそうだな、調べてみるよ。とにかく助かった、ありがとう。婆さんのお陰で染料を手に入れることが出来る」
俺は婆さんに頭を下げた。
「よせやい。儂らは人間の役人に無理やり作物なんかをとられるだけだった、儂は人間に頭など下げられたことはないんだ。だからむず痒いじゃないか」
そう言って鼻の頭を掻く婆さん。そして、
「儂に感謝してくれるなら、儂の息子や孫、村のみんなを良くしてやってくれ」
と言って逆に俺に頭を下げてきた。
婆さん曰く「色の木」であるものを、クレイに言って根っこごと引き抜き、キングたちの居る牧場の近くに十本ほど植え替る。
種もあるだけ回収しておく。
「なにやってんの?」
って感じで、色の木を植え替えしているときにキングが来た。ついでに念話で話す。
「おう、元気か?」
「おかげさまで。ご主人様の群れも増えましたね」
キングは口角を上げニヤリとした
「ご主人様、いい匂いがします」
色の実の匂いなんだろう。
俺は全然におわないが、コカトリスには匂うのかもしれない。
「コカトリスが好む実らしいからお前らで食べていいぞ。ただこの木の実を食べたら、同じところで糞をするようにしてくれるか?」
「ご主人様、何でですか?」
「木の実の種が染色に使う染料になるんだ。種を回収するのにバラバラだと困るだろ?」
「わかりました、群れの物に周知しておきます」
そう言うと早速キングは群れの方へ走っていった。すぐにドドドド………という音がすると、何十と言うコカトリスが群がり実を食べ始める。
まあ、ここに漂う魔力だけで生活しているので色の木の実を食べて糞をしても、別のものは混じらないから種が採りやすくて良いか……。
あっという間に実は無くなったが、俺の魔力のせいかひと月もすれば実が再びなるのだった。
婆さん指導のもと、染料作りを行う。
色の実の中にある色素は濃く、たらい一杯に色の実の種を三つほど擂り潰して入れれば赤、青、黄色の染料が出来上がる。
「ちなみに、黒はあのコカトリスの糞を使う」
ニヤリと笑って婆さんが言った。
既にこんもり盛り上がった、色の木の実のためのコカトリスの便所。
確かに黒い。
とりあえず、シルクワームの糸とマジックワームの糸を染料に一日浸け、糸を乾燥させると見事に発色する。
そして、その糸を使って機を織り布を作ると、見事に三色の布ができた。
「好きな色を作りたければ、それぞれを混ぜればいい。好きな色が作れる。混ぜ具合を覚えておけば、同じ色を何度でも作れる。これで、儂が教えることは終わりだ」
と婆さんが言葉を締める。
俺と染色を見に来ていた子供たちが、
「どうもありがとう」というと、婆さんはまた鼻の頭を掻きながら、
「よせやい」
と言って杖をつき去っていった。
カールに出来上がった布を見せると、
「これは見事な……。このような布は滅多に手に入りません。マジックワームについては数を諦めていますが、シルクワームは卸してください。これなら十分な利益が出ます」
そう言いながら布を眺めていた。
「それは約束だから問題ない。でな? カール」
「何でしょう?」
「砂糖って高い? 余剰が出てきたようなんだが……」
「あっ、マサヨシ様の屋敷で使っている真白な砂糖ですね? あれを商品にするんですか?」
「そのつもりだが……」
「私たちが独占しても?」
カールは俺の様子見る。
「そうだなここで買うか、リンミカで買うかだな。と言っても有る分しか出せないが」
「それで結構です。砂糖の重さは金の重さに匹敵します。南領から来る砂糖は茶色い砂糖。あれはあれで味わいがあるのですが、マサヨシ様のところの砂糖は雑味がなくて甘味が強い。ですから、間違いなく高く売れるでしょう。それも王宮や貴族に……」
カールの目が弗マークになっているように感じた。
「ついでに、蜂蜜も扱ってくれるか?」
「はい?」
「蜂蜜だよ。養蜂の準備もできている。蜜がとれたら確認してもらうからそれで判断してくれ」
「畏まりました、期待しておきます。しかし、マサヨシ様と居れば、儲け話に事欠きませんね。ブロル様もマサヨシ様のお陰で収入が上がったと喜んでおられました」
「俺は知識を持っていても、販売するノウハウを知らないからな。商人に任せっぱなしだ。まあ、また何かあったら頼むよ」
そう言って支店の外に出た。
次は仕立てだね
というか、場所どうしよう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




