宿をとろう
「アイナ、どうする? お前、父ちゃんや母ちゃんは居ないんだっけか?」
コクリ。
「これも縁だ、俺たちと来るか?」
コクリ。
俺はちょっと酔ってたのもあるのか、気分が大きくなっていたようだ。
「よし決まり。一人部屋一部屋と二人か三人部屋が一部屋だな。宿を探すぞ」
「えー、みんなで泊まろうよぉ」
クリスの息が酒臭い。もたれ掛かってくる。重くはないんだが、鬱陶しい。
「クリス、お前、酔ってるだろ?」
聞かなくてもわかるが聞いてみた。
「酔っ払ってないわよ! でも抱っこぉ……、抱いて運んでくれたでしょお?」
クリスが甘えてくる。
ん? こいつ甘え上戸か?
「そーーーでしゅ。みんなで泊まるのでしゅ」
俺の腕に抱きついてくるフィナ。
「フィナ、おまえもか」
頭が痛くなる。とにかく宿屋を探さねば。
アイナが、目の前に来た。
「しゃがんで」
言うとおりにすると、アイナが背中をよじ登る。
「クリスが左腕、フィナが右腕、私は首。これでヨシ」
何がヨシなんだ?
「私が宿を案内する」
アイナが進行方向を指さす。
「クリスとフィナがめんどくせえ……」
クリスとフィナを脇に抱えて、アイナが示す宿屋を目指した。
「アイナ、今から行くところ風呂あるか?」
俺がアイナを見上げるとアイナがコクリと頷く。
「よし、任せた。この街はお前が一番知っているだろうからな」
アイナに誘導されるがまま移動すると、目の前に二階建ての小綺麗な宿屋が見えてきた。
思ったより大きい。ロ(ろ)の字になって中庭がある感じだった。
「マサヨシ、ここ」
「わかった」
俺はクリスとフィナを脇に抱えたまま宿に入る。
「すみませーん」
カウンターの奥から主人らしき女性が出てきた。
「木漏れ日亭にようこそ、私は女将のルーザです」
結構なお年かな? 細身で白髪。背はクリスくらいか。
「宿取りたいんですけど空き部屋はありますか?」
「何人様でしょうか?」
「四人です。できたら、一人部屋と二人部屋か三人部屋の二部屋でお願いしたいのですが……」
俺は要望を伝える。
「今、奴隷市でほぼ部屋が埋まっておりまして、四人部屋が一部屋なら用意できますが?」
それを聞いた二人が抱えられたまま俺を見て……つか、お前ら意識あったんだ。
「いいじゃない、みんなで泊まりましょうよぉ」
「そうでしゅそうでしゅ。クリスさんの言う通り」
アイナが、俺の袖をひっぱる。
俺が上を見ると
「みんなで一緒」
アイナが言った。なんか、この女性陣の中で一番しっかりしてるのはアイナのような気がする。
「わかったよ、みんなで泊まろう。四人部屋でお願いします」
「はい、それでは一泊銀貨八枚になります。朝夕の食事を付ける場合には追加で銀貨二枚いただくことになります。食事の際の果実水、ワインやエールについてはサービスになります。ご自由にお飲みください」
一泊四人で十万円、高いととるか、安いと取るか……。
「風呂があると聞いたのですが?」
「四人部屋には内風呂がありますので、そちらを使用してください。魔石に魔力を通せば温水が出てきます。もし魔法が使えない方が居れば、宿のスタッフに魔力を持つ者も居ますので申しつけください」
安いな。
「わかりました。とりあえず、朝夕の食事付きで、十日間分の料金を渡しておきますね」
俺は、金貨一枚を女主人に渡す。
「はい、確かに。追加で、何か料金が発生する場合には、事前に報告させていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
「それでは、ここにお名前を」
宿帳を出してきた。
四人の名前を宿帳に書く。
「お風呂の掃除やシーツの交換でお部屋に入ってもよろしいでしょうか? 洗濯物も部屋に据え付けの洗濯籠に入れておいてもらえれば、洗濯しておきます。当然、事前に確認は行いますが」
綺麗な風呂とシーツ、洗濯をしておいてもらえるのは助かる。
「よろしくお願いします」
「マサヨシ様、クリス=オーベリソン様、フィナ様、アイナ様、しばらくの間ですが、ごゆっくりしてください」
「わかりました」
「それでは、お部屋に案内しますね」
俺は、二人を抱え……「いい加減歩け! !」とか思いながら、部屋に向かった。
「こちらの部屋になります。鍵はこれです、お渡ししておきますね。外出の際には鍵をカウンターへお渡しください」
二階の角部屋だった。四人用ということで非常に広い。中に入るとリビングがある。一人掛けのソファー二つと、二人掛けのソファーが一つ。その間に簡易のテーブル、壁には大きめのクローゼットが据えられていた。南面には窓があり日差しが差し込む。東側にドアが二つあり、それぞれにクイーンサイズだろうか? ベッドが据えてあった。ちゃんと真ん中で分かれるようになっているからツインでも使用可能だ。西面に扉が二つ、開けると洗面台と洗濯籠、奥に扉があり、そこは風呂。浴槽は二人ぐらいまでは十分入ることが可能になっていた。そしてもう一つはトイレ。クリスとフィナを二人掛けのソファーに放り出す。
俺は一人掛けのソファーに座る。
「当たりだな。さすがアイナ」
アイナが無い胸を張っている。
「おいで」
アイナが来ると、ワシワシと頭を撫でる。
「ん」
アイナは気持ち良さそうにしていた。