飯を食おう
俺は、衣料品店に入り二人に声をかける。
「おーい、終わったか?」
「はーい、終わったわよ?」
暴れる女の子を小脇に抱えた俺を見て、先に出てきたクリスが固まる。
「ロリコン? 幼児偏愛者? 人さらい?」
クリスから変質者を見るような目で見られた。
「違うって!!」
「マサヨシ様は年が離れた子でも大丈夫なんですか?」
フィナがうきうきしている。
「だから違うって!!」
女の子との顛末を2人に説明した。
「食事に誘うために綺麗にしたって? 私にさえ手を出さないのに」
クリスが疑いの目で見る。と言うか話が変わってる。
「俺は誰にも手を出していない! 串焼きだけじゃ腹がいっぱいにならないって言うから。店に入れるにはちょっと汚れ過ぎていたから、洗ってやったんだ。元々見れないくらい垢まみれで汚れていたんだぞ?」
「マサヨシ様は優しいですから。そのうち手を出してくれますよ」
フィナがフォローにならないフォローをする。
はあ、泥沼だ。普通に二人で食べに行けばよかった。
「とにかく、服を買ったら食事だ!」
店員たちは苦笑い。
「で、お代は?」
俺が店員に聞くと
「はい。金貨二枚で、少し超えましたが、サービスさせていただきます」
「はい、金貨二枚」
店員にさっさと渡した。
「それじゃ行くぞ!」
服の入った袋を収納カバンに仕舞い、俺は強引に三人を連れ、店を出た。
さて、美味い店はどこだろう。
じーっと女の子を見る。
「ところで、美味い飯が食えるところは知っているか? というか、お前名前は?」
「覚えてない。名無し」
女の子は俯いて小さな声で答えた。
俺はしゃがみ込み、女の子に目線を合わせると、頭をワシワシと撫でた。そして、
「俺が名前付けていいか?」
女の子に問う。
コクリ
女の子はいつもより大きく頷く。
こいつの髪の毛がエメラルドグリーン。思い付くのは……。
「そうだ、アイナでどうだ? 俺の中では美人になりそうな名前だ」
女の子は、自分がアイナと呼ばれることをシミュレーションしているのか、何度も小さな声で「アイナ」と呟いていた。そして納得したのか、
「うん、アイナでいい」
そう言うと、アイナはにっこりと笑った。
「よし、アイナ。お前は、この町のことが詳しいか?」
コクリ
アイナが頷く。
「頼みがあるんだが、今までで一番いい匂いがした店に連れていけ!」
するとアイナは少し考えパタパタと歩き出した。そして色々な裏路地を通り抜けると、少し開けた場所に着く。そこにはいい匂いが漂っていたた。
「ここ」
アイナが指差す。
うーん、結構さびれた店っぽい。ちょっと傾いてるし。今は無きバラエティーの汚いが美味い店登録できそうだ。
「ごめんください、食事はできますか?」
俺たちは店に入る。おぅGが走ってる。すると腰が曲がった老婆が現れた。
「お客さんかい? そこの机に座っておくれ」
汚い円卓を勧められた。4つの椅子があり、俺の正面にクリス、右にアイナ、左にフィナという具合に座った。
「メニューは一つ! 出たものを食べな。とりあえず一杯十リルだ」
しばらくすると、ドンブリいっぱいの何かが現れた。それぞれの前に並ぶ。指が汁に入っていたのはご愛敬。
「ほら、食べろ」
と老婆が言う。見た感じモツ鍋? ちゃんと臭み取りがされてある。出汁は何だろう? いい匂いがする。油を抜く処理もされているのか、ギトギトしていない。フォークで一口食べるとコリコリとした触感。出汁とのバランスが絶妙だった。何のモツかは怖くて聞かなかったが……。
「「「「美味い!」」」」
四人の声が揃う。
「アイナ、お前の鼻は正しかった」
俺はワシワシと頭を撫でた。
アイナは気持ちよさそうに目を細める。
フィナが俺とアイナを羨ましそうに見ていた。
「お前も撫でてほしいのか」
「ハイです!!」
頭を出してきたフィナをワシワシと撫でる。
クリスの目が痛い。きっとして欲しいんだろうなぁ。ただ、対面に居るため届かない。
「クリスは後でな」
そう言ったら。
「撫でてほしいなんて思ってないわよ!!」
怒られた。
仕方ないので食事に励む。しかし、美味い。でもご飯が無い。これとご飯があれば……。もしくは日本酒かビール。
「おばちゃん、ここに酒ってあるの?」
「エールかワイン」
「エールをもらえるか?」
「五リルね」
「了解。クリスとフィナも要る?」
二人とも頷く。ちなみに、この世界で、飲酒可能年齢は十二歳かららしい。
「おばちゃん、エール二つ追加ね。あと、子供が飲めるものがあれば」
「あいよ」
そう言うと老婆は奥に行った。
俺とフィナとクリスの前にエールが並ぶ。アイナには、果実水が来た。ビアサーバーなんかには入っていないから、エールがぬるい。うーん、冷えろ、0℃。
冷えたのか、ジョッキが結露しだした。
「うーん、エールが美味い。冷え冷えだ!!」
さっき、冷えたビールを思い出し、今キンキンに冷えたエールを飲む。うーん幸せだ。
そんなエールに呆けた俺の顔を見たのか、
「何やってんの?」
クリスが興味津々である。
「魔法でエールをキンキンに冷やしてみた。飲んでみる?」
クリスが頷いたので、俺のジョッキを渡す。
「何これ! エールって冷やすとこんなに美味しいの?」
冷えた飲み物がないのだろう、旨さに驚くクリス。
「前の世界ではこんなふうにして飲んでたんだ」
「私のにも魔法かけて」
「うい」
クリスのエールに魔法をかける。ついでにフィナのエールとアイナの果実水にも魔法をかけた。
「「美味しい」」
調子に乗ってもつ鍋のお代わりをし、俺とクリスとフィナで一人当たりエールを二桁になるほど飲んだ。クリスとフィナはフラフラだ。酔っ払い完成。
「おばちゃん、お勘定」
奥からおばちゃんが出てくる。
「あんたら、よく飲み食いしたね。お代は銀貨三枚だ」
「はい、丁度」
銀貨三枚をおばちゃんに渡す。
ニコニコのおばちゃん。
「まいどありー」
俺たちは、そんなおばちゃんの声を背に店を出るのだった。