ぶらぶら街歩き
衣料品店を出ると、俺は出店を見ながら歩く。呼び込みや値段交渉、おばちゃんたちの日常会話、男の子らの遊ぶ声、色々な音が聞こえてきた。
「この世界にも歯ブラシがあるんだな。これは買い」
銅貨十枚を渡し五本組の歯ブラシを買って収納カバンに放り込む。
「小腹が空いてきたな」
時計を見ると十六時過ぎ。時計が合っていないとしてもこの世界に四時間強しか滞在していない。
「この四時間、内容濃すぎだろう」
独り言が出てしまった。
とりあえず軽く食べようと周囲を探すと、一軒の屋台からいい匂いがしてくる。何の肉かはわからないが、串焼きだった。
「おいちゃん、これいくら?」
屋台のおいちゃんに声をかけると
「一本二リル」
と、いうことだった。二百円か……。
「五本もらえるかな?」
俺は銅貨十枚を出す。
「ホイ、五本な」
おいちゃんは串焼きを何かの葉っぱに包み渡してくれた。包みの隙間からいい匂いがする。俺は包みを開き、串焼きを一本取り出し食べ始めた。
うまっ。これで塩かけて焼いてあるだけか? 香草がアクセントになっていい味出してる。肉もいいよな。ちゃんと下処理して筋を切って叩いてある? これはビールが欲しいね。
「ビール」って言ってみて悲しくなった。キンキンに冷えたビールなんて出会えるのだろうか。
おっと、視線を感じた。視線は俺じゃなく串を見ている。見てみると小学低学年ぐらいの小さな男の子がこっちを見ていた。髪は肩まで伸びボサボサ、汚れた服を身に着け垢まみれだ。
臭いで引き付けてしまったかな?
「いるかい?」
俺が包みを差し出すと恐る恐る近寄ってくる。見ているものは俺じゃなく串焼きだ。俺と男の子の距離が五十センチぐらいになった時、男の子は包みにゆっくりと手を出してきたが、俺と目が合うと急に怖くなったのか手を引いた。
「ほれ、食え」
俺はもう一度包みを差し出す。男の子は俺の顔をチラッと見てもぎ取るように包みを取ると、少し離れたところで脇目も振らず串焼きを食べだした。何日もまともなものを食べていなかったのか、残りの串焼きが全て無くなるのにそう時間はかからなかった。
急いで食べたせいで男の子の口の周りが油まみれになっている。
「ちょっとおいで」
男の子に手招きする俺。
恐る恐るではあるが男の子は俺の方へ近づいてきた。
「ちょっと待ってろ、えーっと、おおあった」
俺はスーツを漁りポケットから、ヨレヨレになった口の開いたポケットティッシュを取り出す。二枚ほどティッシュを取ると、そして男の子の口の周りの油を拭き取った。
男の子はじっと俺を見ていた。
「お前、父ちゃん母ちゃんは?」
と、何となく聞いてみる。
男の子はブンブンと首を振る。
「居ないのか?」
コクリと頷く。
親無しか、大変だろうな。
「飯まだ要るか?」
遠慮なく男の子はコクリと頷く。
屋台でもいいんだが、男は飯屋でガッツリの方がいいように思う。しかし、飯屋で食べさせるには、この子の姿は汚すぎだ。
「このままじゃ店には入れないから、ちょっと綺麗にするぞ?」
男の子はコクリと頷く。
イメージは服のクリーニングと体の清拭だな。清拭は念入りに。洗髪もして髪を乾燥。水は温水で……。
「よし!!」
俺はイメージに合わせて魔力を使った。男の子の周りに水が舞い洗い始める。その水はすぐに汚れるが次々と新しい水が現れ男の子を洗った。見る間に体の汚れが落ち、髪の毛はきれいなエメラルドグリーンに変わり、肌は真っ白になった。
この子が体を洗ったのはいつ振りなんだろう。
男の子は自分の体を見て、ビックリしていた。
「綺麗になったな、見違えたぞ?」
でも、あれ? なんか違う……。
「お前女か?」
女の子はコクリと頷く。そして、俺の目を見る。目を見開き逃げるように身を庇う。
俺が子供を女の子と認定から、目を見て俺の性嗜好を読み取り、そして俺が女の子からロリコン認定って流れか? それ、違うから……。
「おい、俺は君を襲ったりはしない。俺はロリコンじゃない!」
でも怯える女の子、言うだけ怯える気がする。
「はぁ、また面倒な。変な勘違いしないでくれ」
焦った俺は女の子を抱き上げ走る。女の子はバタバタと暴れるが、俺のステータスが許さない。
あぁ、これじゃ人さらいだよな。
「俺は男だから、お前といると変に疑われる。だから、女たちに任せる」
変な言い訳をしながら、俺は衣料品店に走った。