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第一幕 始まりの街

 その街は、その男にとってすべての始まりと言える場所だった。

 自分の生まれ育った世界とは異なる世界、つまりは異世界。この男がこの異世界で最初に足を踏み入れた街なのだ。

 どのようにしてこの世界に迷い込んだのか、その記憶はここでの記憶に淘汰されて消えてしまった。しかし、一つだけ確かなのは、この世界が現実ではないということ。この地には重力だってあるし、二、三年にも及ぶ記憶が存在する。だというのに、自分が長い夢を見ているような気がしてならないのだ。

 しかし、その認識は徐々に薄れていくことになる。というのも理由があって、彼のここに来る以前の記憶を思い出すことができないからである。

 始めは覚えていて、忘れないようにとしていたのに寝て起きたら思い出せなくなった。

 怖くなって、それからしばらく寝ないで過ごしたが、それでも記憶は消えていく。

 いつの日か気づいた。記憶は不要なものから失われていき、自分が大事に思っているものはそう簡単には奪われないこと。

 そしてそれに気がついたとき、ようやく仕方ないと思えるようになった。最悪、元の世界に帰れば思い出すだろう。そんな、なんの根拠もないおかしなことを考えていた。

 ある日、旅の理由を失った。元の世界に帰りたかった記憶がついに消えてしまったのだ。

 どうして今この国にいるのかわからなくなり、新たな理由を探した。

 彷徨いながら適当に立ち寄った食事処はテラス席から街の外を一望できるという、山にある街ならではの売りがあった。

 初めて見る綺麗な景色の素晴らしさとそこで食べるご飯の美味しさを知り、男はこの世界に存在するすべての料理を食べたい。そして、この世界のすべてを見たい。

 この瞬間に、夢だったこの世界が自分にとって現実となった。

 そうして気の向くままに旅しているうちに、この世界に初めて男が訪れた街に来てしまった。元の世界に帰りたいだなんて思っていないが、せっかくだから行ってみたい。

 パン屋の少女との約束もあったが、その前に少しだけ行ってみることにした。


「おはようジゼル。今日も少し走ってもらうよ」


 鼻筋を撫でると目を細めて喜ぶ。男が乗ると声高に鳴いて、走り出した。

 しばらく野道を進むと、お世辞にも綺麗とは言えない街並みが見えてくる。

 ここはスラムという貧困層が居住する街で、とある二つの国のちょうど国境にある。この街に住んでいる人間は、そのどちらかの国で生活できなくなったものばかりである。

 なぜそんなことを知っているのか。それは、この男は言語を覚える間をこの街で過ごしていたからである。

 ある路地に迷い込んでしまった男は、彷徨っているうちにこの街に辿り着いたという。

 それはいつの間にかなくなっていて、帰れないのだと悟った。始めは困惑したが、最近のファンタジー小説によくある話が実際に起こったと理解し、受け入れた。そして、定石通りに元の世界に帰る手段を探そうと決意したのだ。

 会話と読み書きができるようになると、男はすぐに旅立った。世話になった人間にもなにもいわずに出ていった。

 それはミノリがこの街にやってくる前の話。

 一つの大きな人力車を見つけると、馬から降りて近づいていく。


「お久しぶりです。アルフォードさん」


ちょっと短めですね。それではまた夜に。

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