004.一歩踏み出しましょう 後編
まだ日が昇っている最中だったけど丘から結構離れていることもあり、この幼い体では走っても早くつけないだろうと思って平たい地面を駆け足で走り抜け、ようやく都市の門にたどり着いた。門には見上げると首がつらくなるような大きな扉と人が二、三人同時に出入りできる程度の大きさの門の二種類があり、大きな門には左右に二、三人ずつ兵士らしき人たちがおり、小さい門には二人の兵士らしき人が盾や槍、剣などを装備して立っている。
小さい門の前にいた兵士さんがもう一人の兵士さんに声をかけてから私の方に駆け寄ってくる。
これだけ見晴らしのいい平原だ。私がこっちに走っているのはずいぶん前から気づいていたのだろう。
そして近づいて分かったけど、結構若い兵士さんだ。短い茶髪で、スポーツ系の好青年って感じ。
「お嬢ちゃん、こんなところでどうしたんだ。両親はどこにいるんだ?」
まぁ、当たり前の疑問だろう。
いくら魔物の出現率が低かろうと、ここは街の外。危険はある。
そんな場所に親の影も見当たらない幼い少女がいれば不審に思うのもしょうがないだろう。
「……わか、りません……」
私は不安そうな声を出しうつむき、泥や草が付いたワンピースを小さな手でギュッとつかむ。
実をいうと丘に駆け上がるとき、異世界に来て実際に魔法が使えるという事実に興奮した状態で走ったため、いきなり小さくなった体に精神が追い付かず、足が絡まって何度かこけてしまったのだ。
そのため今の私は薄いベージュ色のワンピースがところどころ泥や草がついているという残念な状態だ。でもそれが今の私の手助けになるということが、丘の上で自分の身の上をどうやって話せばいいのか考えた時にわかった。
兵士さんはうつむいた私の上で何か察したように考え込んだのが何となくだけど気づいた。
汚れた服で街まで走ってきた一人のまだ幼い少女。何かわけありなのは十分に考えられる状況だと。
「……お嬢ちゃん、ご両親の名前や、住んでいたところはわかるかい?」
「……」
私は兵士さんの言葉に顔をあげ、何かを考えるように上空を見つめるが、少しして首を横に振れば難しそうにする兵士さん。
そんな兵士さんに不安そうな顔を見せれば、兵士さんは慌てて笑顔を私に向けてくれる。
うぅ、わかって演技してるから、罪悪感が胸を痛めるなぁ。
「その、気付いたらあっちの方にいて……、どこにいたとか、なんでいたのかがよくわかんなくて……」
そう言ったら兵士さんは小さな声で何かを呟いた。どうやら私に起きたことを考えているんだろうけど、つぶやいた言葉に、記憶喪失、という単語があったことで私は自分の演技がうまくいっていることが分かった。
そう、私が考えた話は私自身が記憶喪失となるような出来事に巻き込まれたということ。
もちろん私自身の記憶はあるけど、それはこの世界に来る前の話だから話せない。ここら一帯は魔物が少ないし、たぶんあまり強い魔物はいないだろうからこの町に来る途中で魔物に襲われたっていう話には無理があると思う。
だから何か辛いことがあって、その結果記憶喪失になったというストーリーを察してもらえれば、あまりこちらから話を深く聞こうとすることはないかな、と楽観的に考えたのだ。
多分人攫いにあったとか思ってるんじゃないかな。
もしも元いた世界だと情報伝達が発達しているから、写真をテレビなんかで報道して親を探すだろうけど、この世界ではそういった技術はないだろうと予想しての作戦だ。
予想通りだったらとりあえず街の中に入れてくれるだろうし、働くと言えばどこかで雇ってもらえるかもしれない。もちろんこの考えが楽観的なのは分かってるけど、可能性があるならとりあえず行動あるのみだ。
「それじゃぁ、ちょっとお兄さんについて来てもらえるかい? お嬢ちゃんが街で住めるように手続きがいるんだけど……」
「……はい。えっと、よろしくおねがいします」
「ううん、これも仕事だからね。気にしなくてもいいよ」
どうやらうまくいったようで、私は兵士さんに手を引かれて門まで連れて行ってもらう。
そこから兵士さんに小さい門をくぐり、街に入ってすぐにあった詰所に連れて行かれる。
詰所の一室にある椅子に座るけど、部屋の中は殺風景でちょっと不安がわいてくる。やっぱ嘘をついたという後ろ暗さがあるからかな。それを隠すように私は服についた泥や草を払い落とす。
「まず、お嬢ちゃんの名前を聞きたいんだけど……わかるかな?」
「イズミ、です。イズミ・ユーリシュトル」
「うん、名前は分かるんだね。それじゃぁ、イズミちゃんがここに入れるように身分証を造るんだが……これはお金がいるんだよね。規則だからそうそう例外を作れないからなぁ……」
「……お金を用意するには、どうしたらいいですか?」
私がお金を持っていないのが分かっていたのだろう。渋い顔をする兵士さんに、私はお金を稼ぐ手段はないか聞いてみる。
「ん~~。手っ取り早いのは冒険者ギルドに所属して依頼をこなすことだけど……あっちもあっちで所属の為にお金いるし……イズミちゃんは今何歳かな」
「10、歳になります」
「そっか、それだと後見人がいるね」
「こうけんにん?」
「そ、冒険者ギルドは実力に合った依頼を斡旋するんだけど、やっぱり危険なものが多いからね。成人していない15歳未満の子が冒険者ギルドに所属するには冒険者ランクD以上の人が後見人に就く必要がある。ある程度衣食住を世話する義務も後見人にはあるから探すのはちょっと難しいかな。って、イズミちゃんが冒険者になると決めたわけじゃないのに――」
「いえ、なります!」
急に私が声を張ったからか、はたまた冒険者になるといったから、兵士さんは目を丸くする。
「いいのかい? 冒険者は確かに最初だと危険性は少ないけれど、それでも街の外に行く依頼は低ランクからもある。結構気性の荒い奴もいるからあまりお勧めできないよ」
「でも、私に何も持ってないです。お金だって持ってないから、だれかのお世話になっても迷惑しかないです」
あえて拙い言葉づかいで訴えれば兵士さんは難しそうな顔をするけど、何かを考えてから私に問いかけた。
「じゃぁ、イズミちゃんは何かスキルを持ってるかな。有用そうなスキルを持ってれば、信頼できる冒険者にイズミちゃんの後見人になってもらえるよう頼んでみる」
あいつなら君みたいな子供は放っておけないだろうしね、と笑う兵士さんに、ちょっとうまくいきすぎじゃないかと私は戸惑う。
結構無茶を言っているつもりはあったし、こんな風に気のいい兵士さんに面倒見のいい冒険者さんを紹介してもらえるなんて運が良すぎる気がする。
そう思って戸惑っていたら兵士さんは何か気にづいた風に声をかけてきた。
「あ、今まで自分のステータスを確認したことなかったかな。『ステータス』と念じれば、自分のスキルを確認できるよ。」
「あ、はい。『ステータス』」
浮かんだステータスはさっき自分で確認したのと変わりない。
とりあえず冒険者として使えそうなものをいくつか言ってみるか。
「えっと、『鑑定』『採取』『探索』、あと『魔力感知』に『魔力操作』です」
子供でもできそうなのは採取系の依頼かなって思って活用できそうなスキルをあげてみる。
それと魔術も使えるようになりますよ~、と伝わるようにそっちのスキルも伝える。
そしたらなぜか兵士さんに仰天したかのような表情を向けられた。
(あれ、何かやばかったかな?!)
「この年でこれだけのスキル持ち……それも魔術師の素養2つ持ちかよ。……記憶を失ったのもこれを知ったやつのせいか?」
ぼそぼそと口元を抑えてつぶやく兵士さんに、何となくだけど理由は分かった。
(もしかしてスキルってそう多く持ってないのかな? いや、年齢にそぐわないスキルの数、ってことか)
兵士さんがはっとしたようにこっちを見てくる。
「ああ、ごめんな。それだけスキルがあれば最初の冒険者ランクの依頼は十分にこなせられるから、さっき言ったとおり、おすすめの冒険者を紹介してやるよ」
兵士さんはそういうと優しく微笑み、私の頭を撫でてくれる。
ううん、もともとが結構な年齢だったからドキドキしちゃう。この人絶対女性からの人気高いんだろうなぁ。
赤くなった頬を抑えながらうつむくと上から小さく笑い声が聞こえる。むぅ。
「と、いまさらだけど自己紹介な。俺はキース・オリシュオン。普段はこの門で立ってるから、何かあったら相談に乗るよ」
「はい!」
そして来ました冒険者ギルド。
この街はユーグシー王国の王都であるユグラシルであり、そのため色んなギルドがあるらしい。
冒険者達が集う冒険者ギルド。
商人達が集まり、物価の乱れを抑制するために立ち上げられた商業ギルド。
魔術師達が集まり魔術の研究を目的とする魔術師ギルド。
様々な分野の職人さん達が集まり、互いに切磋琢磨することを目的とする生産ギルド。
他にもいくつか存在するそうだけど、代表的なのはこの4つ。
冒険者ギルドは小説で描かれているみたいに木製の二階建て。奥行きは結構あるけれど、半分もしないところでカウンターがずらりと並び、奥は職員しか入れないっぽい。
入ってすぐに大きな掲示板が3つ並び、あれにランクごとに分けられた依頼が張られているらしい。と言っても常時依頼やそうでなくとも期限がそう早くない、緊急性の低い依頼だけが掲示板に張られていて、それ以外の危険度が高かったり期間限定の依頼はカウンターの受付で職員さん達が冒険者ランクに合わせて斡旋するらしい。
カウンターにも目的ごとに種類がいくつかあって、依頼を受ける、依頼達成の報告、アイテム鑑定依頼、パーティを組むための相談・依頼を目的とした4つに分かれているらしい。今はそこまで冒険者がいないらしく、ちらほらと掲示板を眺めている人や依頼を受けたり報告するカウンター前に並んでいる人ぐらいだ。
「ああ、いたいた。おいカイル!ちょっと来てくれ!」
キースさんが声をかけた先にいたのは薄い金色の髪をした男性で、歳はキースさんと同じぐらいに見える。
キースさんに声をかけられて男性――カイルさんは首を傾げながらもこちらに近づいてくる。
近づいてきてわかったけど、キースさんよりも体はがっしりしていて顔つきもなかなかに男前といった感じだ。イケメンよりもハンサムって感じ。
「どうしたんだよキース。まだ勤務時間だろ?」
「これも仕事だよ。ちょっと話があるんだ、イズミちゃん、ちょっとここで待っててくれるかな」
たぶん私のことを説明するんだろうなと思い、素直にうなずくいて近くの椅子に座る。
大きな木を半分に割ったような椅子は意外と温かみがあり、気分が盛り上がる。
キースさんはカイルさんを連れてギルドの隅の方に向かって話をする。
話の内容は聞こえないけど、やっぱり私についての説明らしく、カイルさんは話を聞いている間ちらちらと私を確認するように見てくる。
どうやら私の身の境遇とスキルを話しただろう時は結構驚いた顔をした後、神妙な顔をしていた。多分人がいいんだろう。まだ会話もしていない少女の境遇を真剣な顔で考えてくれているように私には見える。
ようやく話が終ったらしく、キースさんとカイルさんは私の方に歩いてくる。
「またせたね。暇じゃなかった?」
「大丈夫です」
「そっか。彼はカイル・ディード。冒険者ランクはCで、同じ年代では結構な出世頭だね」
「カイルだ。イズミ、だな。冒険者は危険なこともあるが、いいのか?」
「はい。私、何にも持ってないから、お世話になるしかないんだろうけど、それは嫌だから……」
「しっかりした嬢ちゃんだな。ま、わからないことがあれば俺に何でも聞けばいい」
「カイルがイズミちゃんの後見人になってくれるんだ。気のいい奴だから、頼っても大丈夫だよ」
私の視線に合わせてしゃがみこんだキースさんはそう言って私の頭を撫でてくれる。
思わず猫みたいに目を閉じてキースさんになされるまま頭を撫でてもらったけど、ふと思い出したことがあって声を出す。
「あ、でも登録のためのお金……」
「ああ、それなら俺が出す。正直ギルドで仕事受けてたら大した額じゃねぇしな」
「でも……」
「あ~、じゃぁ、嬢ちゃんが依頼を達成したら、そこから少しずつ俺に返してくれりゃいいさ」
「ある程度仕事に慣れるまではカイルが付き添ってくれるからね。それに簡単な依頼でも、基本的に街の外に出てこなす依頼が多いからお金もすぐに貯まるだろうしね」
「ああ。じゃ、これから俺と冒険者登録するか。キース、お前は門に戻っとけ」
「はいはい。じゃ、イズミちゃん、またね」
そう言ってキースさんはもう一度頭を撫でてギルドから出ていく。
ちょっと心細いけど、カイルさんがいてくれるからそんなに不安にならなかった。
カイルさんは受付の一つ、端っこの方に行くので私はそれを追う。
「おい、メアリーの奴いるか」
「はいはーい、カイルどうしたのさ。こっちは冒険者の新規登録やらギルドカード更新の受付だよ? あんたこないだ更新したばっかじゃん」
カイルさんお声に応えたのはふわふわとウェーブがかかった金髪を肩まで伸ばし、丸い大きなの眼鏡をかけた綺麗なお姉さんだった。
カイルさんは私をメアリーさんに見えるように体をずらす。
「俺じゃねぇよ。俺、こいつの後見人になることになったからこいつの新規登録を頼む」
「ちょっ、まだちっさいじゃん。しかも女の子!」
「わけありなんだよ。しばらくは俺が一緒に依頼こなすから別にいいだろ」
「あんたが一緒にいるならまぁ、でもこんな子がねぇ……ちなみに親は」
メアリーさんがカイルさんに耳打ちしたため最後の方は聞こえなかったけど、カイルさんが首を振ったことは分かった。
「そっか、じゃぁあたしは≪オーブ≫持ってくるから、あんたはそこらから椅子持ってきなよ。この子の背じゃ届かないでしょ」
「あいよ」
そう言ってメアリーさんはいったんカウンターの奥に引っ込んでいった。カイルさんは適当に椅子を持ってきて、私をそこに立たせる。
テーブルの上で物を書ける程度に椅子の位置を調節し終わったら、ちょうどタイミングよくメアリーさんが戻ってきた。
「う~ん。こんなかわいい子が冒険者になるとは、世の中世知辛いわねぇ。それじゃぁ、これからユーグシー王国王都ユグラシル支部冒険者新規登録を行います。よろしいですね」
先ほどまでの明るい調子ではなく、びしっと背筋を伸ばしたような気分にさせる声色でメアリーさんが話し始めたため、私は緊張しながらも首を縦に振る。
そんな私にメアリーさんは優しく微笑みながら二枚の書類と私の顔ぐらいの水晶玉のような透明な球を出す。
「まず、こちらの書類をお読みください。冒険者新規登録において、成人前の場合冒険者ランクD以上の冒険者の後見を得ることで登録が可能ですが、すでにカイル・ディードの後見を得ているためそちらの説明はカットさせていただきます。カイル・ディードにおきましては新規冒険者の後見を担うにあたって新規冒険者のランクが一つ上がる、または成人するまでの身の安全の保障を義務とさせていただき、もしも依頼中に後遺症が残るほどの大怪我、または死亡となれば冒険者ランクの格下げと金貨10枚の罰金となります。よろしいですね」
「ああ、問題ねぇ」
後見人となる冒険者へのペナルティが思ったよりも大きく、私はあわててカイルさんを見上げる。確かに後見人には義務が発生するとは聞いてたけれど、これはカイルさんにとってかなりの負担になるはずだ。
なのにカイルさんはまるで心配するなと言わんばかりに私に笑いかけるだけだ。
「ま、近場で受ける依頼だったらそうそう問題はねぇよ」
「軽く言わないようにね、カイル。これ、未成年者が無茶をしないようにっていう意味で作られた規則なんだから。コホン、冒険者として働くにあたって、ギルド内ではランクを設けることでより円滑かつ安全な依頼の斡旋を行っております。新規冒険者は皆様ランクGからスタートしていただきます。また、受けられる依頼は冒険者ランクの一つ上までとされておりますが、未成年の冒険者は冒険者ランクと同ランクの依頼しか受けることはできません。ですので、本来新規登録の冒険者であってもGランクとFランクの依頼を受けられますが、あなたは冒険者ランクが上がるまでGランクの依頼しか受けることはできません。よろしいですね」
まっすぐこちらを見てくるメアリーさんに、私は背筋を伸ばしながら「はい」と頷く。
それを見てメアリーさんはほほ笑みながら次の説明に移る。
「また、後見人を必要とする間、依頼達成の報酬の半額は後見人が受け取ることになっています。これは後見人が未成年冒険者を保護し、導く対価であり、一人前になるまでの護衛依頼の報酬とみなされますが、よろしいですね」
「はい」
「では最後に、冒険者ギルドでは失せ物探しから魔物退治と幅広く依頼を斡旋しておりますが、これらを受けることを判断するのは冒険者の皆様方自身であります。よって、依頼を受けた後の被害や負債は冒険者の自己責任でありますので、もしも依頼を受けた結果死亡したとしても当ギルドはその責任を一切負いません。よろしいですね」
「はい」
「はい。それでは冒険者ギルドカード発行に移らせていただきます。まずは発行料金として銀貨5枚――5000シルをいただきます」
シルとはこの国、ユーグシー国の通貨単位だ。
最小単位である1シルは赤銅貨一枚で、銅貨一枚が赤銅貨10枚、大銅貨一枚が銅貨10枚であり、銀貨一枚が大銅貨10枚と他にも硬貨は複数種類ある。
今回の金額は私にはどれほどの価値かピンとこないけどそう安くない額だと思う。
カイルさんは銀色の硬貨――銀貨を5枚取り出してメアリーさんに渡す。
それを受け取ったメアリーさんは銀貨をカウンター内にしまい、今度は水晶玉のようなものを私の目の前に置く。
「これは≪オーブ≫と呼ばれるマジックアイテムです。このアイテムに手をかざしながら名前やレベル、職業にスキル名を言うことで作成されるギルドカードにそれらが記載されます。特にレベルやスキルは請け負う依頼の基準となるため偽装できないようになっており、もしも偽りを述べた場合、≪オーブ≫が赤く光るので心得てください。なお、レベルは『ステータス』で確認できる御自身の名前の横に表示される基礎レベルをおっしゃってください」
「えっと、イズミ・ユーリシュトル。Lv.1。魔術師。スキル『鑑定』『採取』『探索』『魔力感知』『魔力操作』」
私がキースさんに言ったスキルを全部言い終わったらふわりと緑色の光がオーブから放たれ、オーブから四角い名刺ほどの何かが浮かんだ。
……なんかカイルさんとメアリーさんが若干驚いた気配を感じた。
「はい。偽証はありませんね。これでギルドカードが作成されました。それでは次にギルドカードの説明に移らせていただきます」
そう言ってメアリーさんは私に≪オーブ≫から出てきたカード――ギルドカードを渡す。ギルドカードは鉄の板のような感じで、縁が青っぽい銀で縁取りされている。
ギルドカードには私が言ったとおりに名前とレベル、職業にスキルが記載されていて、左上にGと記されている。
「作成されたギルドカードは役所で作成される身分証明書同様、マジックアイテムで作成されておりますため、もしも手元から離れたとしても自動で魔力に霧散して手元に戻る仕組みとなっておりますので紛失することはありません。また、それぞれ固有の魔力波長が記録されておりますので、だれかが別人のギルドカードを使用することはできません」
(なるほど、それなら盗難されることもないってことか~。魔力波長って、指紋みたいなもんかな。でも指紋より安全そう)
「冒険者ランクを上げる方法ですが、依頼を受ける時と達成報告をする時にギルドカードを提示してもらい、冒険者ギルドが定めたギルドポイントが達成報告の際に付与され、それが一定数までたまれば自動的に冒険者ランクは上がります。ただし、ポイントがたまっでもDランク以上になる場合ギルドがだす試験をクリアする必要があります。また、ギルドカードは年に一回更新する必要があり、更新されない場合はギルドカードは自然消滅して記録されていた冒険者ランクも白紙となりますのでご注意ください。ギルドカードの更新は全ギルドどこでも行え、もしも長期依頼をこなすにあたって更新が難しい場合でしたら依頼を受ける際におっしゃれば最大3年間分の更新が行えます。更新期日はギルドカードの裏面右上に記載しておりますので、ご確認ください」
ギルドカードを裏返すと右上にシーグルア紀24年4月2週間目風の日と記載されている。これは更新期日を記しているため、今はシーグルア紀23年4月2週目風の日、ということだろう。
「なお、ギルドカードの更新にあたって手数料1000シルいただきますのでご了承ください」
「わかりました」
「また、依頼を受ける場合は主に冒険者ギルドに入ってすぐの掲示板に張られている依頼書をあちらの依頼受託専用の受付にて提出する制度となっております。その他の方法では常時依頼に分類されている依頼は毎回受託せずとも規定提出物を依頼達成報告専門の受付に提出することで依頼達成とみなされます。そしてもう一つ、あなた方冒険者の実績とランクを吟味した上でこちら、ギルド側から直接依頼することもございますので、ご了承ください。では、これで冒険者新規登録を終了します。イズミ・ユーリシュトルさんの冒険が健やかであるように」
メアリーさんはそう言い切ると肺の中の空気をすべて吐き出すように大きく息を吐く。
「はー。最近は未成年者の冒険者登録とかなかったのに~。しかもこんな可愛い子が~」
「基本的に未成年がなるのはわけありなんだから、仕方ねぇだろうが。それはいいから、さっさと依頼を紹介しやがれ」
「はいはい。といっても、今は街の中で勧められそうな依頼ないんだよね~、力仕事ばっかりで。せっかくの『採取』スキルに『鑑定』スキルあるんだったら、薬草の採取依頼がいんじゃない? シューラ平原だったら早々心配はないし」
「あー、イズミ、お前はどうしたい」
カイルさんは私の目を見て聞いてくれる。
ペナルティーが発生する可能性がある以上、カイルさんが主導した方がカイルさん自身は安全なのに。
「受けます。私ができること、何でもやって、カイルさんの負担を早くなくしたいです」
まっすぐカイルさんの目を見ていると、カイルさんは仕方がないと言わんばかりに息を吐く。
「そこらはあんまり気負わない方がいいぞ。無理に背伸びしてたら潰れちまうからな」
「そうそう。無理をしてあなたがつぶれたら意味がないもの」
カイルさんもメアリーさんも子供を見守るように私を見る。
外見は確かに子供なんだけど、中身が大人な分どうしてもくすぐったい。
「それにしても、この年からこれだけスキル持ってたら将来有望ねー」
「だな。職業が魔術師だが魔術関係のスキルが2つすでにあるのか……」
「あの、それっておかしいんですか? キースさんも驚いていたんですけど……」
問いかけるとカイルさんが悪いと言いながら説明してくれる。
「いや、スキル自体は俺達冒険者は結構持ってるやつは持ってるんだよ。依頼達成してたら気づいたら増えてたとかよくあるしな」
「特に『採取』に『探索』はねぇ。採取依頼が多いからこの辺り持ってるやつは多いわよ。相性が悪い奴は頑張っても取れないけど。私達が驚いたのは年の割に多い、ってこと。冒険者達のスキルが増えていくのは、それだけ経験を積んだからだけど、子供は親の手伝いとかじゃなかったら先天的なスキルってことでしょ?後天的に身についたスキルよりも先天的にあるスキルの方が威力や効果は高いから重宝されるの」
「あとは魔術師関連のスキルだが、こっちも職業が魔術師だからと言って最初から持っているスキルじゃないんだよ。親や周りにいるのが魔術師で、その影響を受けて魔術師の職業を持ってるやつはいるけど、『魔力感知』も『魔力操作』も鍛錬しなきゃ身につかないやつが圧倒的に多い。だからお前は魔術師としての才能がかなりあるってことになるな」
「将来は引っ張りだこじゃない? この子」
「だな」
うーん。無難なやつを教えたつもりだったんだけど、そもそもスキルがこの歳にしては多いことで驚かれたのか……。
でも才能がある将来有望な子供、って印象だけだったら問題ないかな……。でも他の冒険者にパーティ誘われるのは遠慮したいかも。