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西々駅前ランデヴー

作者: 佐藤大翔

                      1

 東京の中心とも郊外ともつかない中途半端なビジネス街に、JR西々駅という駅がある。

 この駅は半ドーム状の駅舎で有名で、駅前のバスロータリーを中心にコンビニやら郵便局やら塾やらがポコポコと建ち並んでいる。そのうちの一つ、どこにでもある喫茶チェーン店で、私は働いている。



「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか」

「氷水出し抹茶マンゴーパフェプリンで」

 …そんなメニュー初めて聞いた。だがここは冷静に対応する。

「お客様、申し訳ありませんが当店にはお取り扱いがございません。抹茶パフェ、もしくはマンゴープリンならございますが」

 その客は派手に舌打ちした。

「じゃ、アイスティー」

「では横にずれて少々お待ちください」

 腐ってもビジネス街にあるこの店にはお疲れのサラリーマンがよく来る。彼ら彼女らは不条理に上司に叱られ取引先にどやされ苛立ちながらこの店でストレスを癒しに来る。そんな人たちをうならせるようなお店作りに貢献したいと思います、というのが私の入社以来のモットーだ。

「お待たせしました、アイスストレートティーでございます」

 客はしっかりとグラスを持ちながら端の席に座った。

 まるでカウンセラーのような仕事だといつも思う。客に必要なものは助言なんかじゃない、話を最後まできちんと聞いてあげることだ。それができるのはシンプルなストレートティーしかいないと私は思う。ほかのだと少し個性が強すぎる。

「店員さん、私の注文したミルクショートケーキ、いつ来るの?」

 今度はカウンター脇の席に座っていた女性の客が催促してきた。

「すみません、もう少しお待ちください」

「もう、早くしてよ」

 バックヤードで催促すると、ちょうどできたらしく調理担当の安岡さんはできたてのそのケーキを私に渡してきた。

「お待ちしました。ミルクショートケーキでございます」

 客の席にケーキを置く。客は無表情で何も言わずにそのケーキを頬張った。

 客の事情にはあまり立ち入らないことにしている。ただ普通の、ごく普通の安穏とできる空間を作っていきたいだけだ。ただ、こちら側があまり良くないサービスを客に提供してしまうときは…。

「きゃっ」

 悲鳴の先を見ると、入社間もないバイト君、結良君が、持ってた紅茶の飲み残りを女子高生にこぼしてしまったところだった。急いでモップとちりとりを持って駆け寄る。

「お客様、お怪我はございませんか。申し訳ありませんでした。服のクリーニング代は後でお支払いいたします。結良君、それはやく持ってって掃除…」

 ああもう、散々だ。

 


 一日の勤務を終えて私は帰りの途につくと、駅前で演奏しているバンドが目に入った。全く知らない曲を精一杯ズンチャカズンチャカギターやら何やらを弾き鳴らしている。別に周囲の人もそれほど気にしている風でもない。そそくさと視線を下げて立ち去る人がほとんどだ。私は曲よりもその熱心さに惹かれてふと歩みを止めた。それでもバンドの前においてあるぼろぼろの空き缶にお金を入れる勇気はないし、ほめてあげる勇気もない。こういう時、私は小心者なんだ、って思い知る。

 私は小心者らしく視線を下にして、速足でバンドの前を横切った。

 電車の窓から外を眺めるときれいな夕日が見えた。なぜかあのバンドの曲調が夕日と重なって聞こえた。その曲調は家に帰ってからもしばらく耳にこびりついた。

 家には父が先に帰っていた。

「お前、あのバイト続けるのか?もう成人なんだし、どこかの正社員目指したほうがよくないか。高卒ってメリット生かせるのは大卒連中より早くお給料もらえるくらいしかないぞ?」

「わかってるってば。でもようやく仕事覚えてきたとこだし、今やめたらもったいなさすぎる。就活めんどくさいし…」

「思い切ってうちで働かないか?」

 父ははんこ屋を経営している。一人っ子の私に継がせるべく、昔はかなりしつこく就職を迫ってきてたが、最近若いバイトが入ってきて、しかも正社員希望で、その人に継がせることを考え始めてきたようだった。

「いーやだ。真琴さんがいるじゃん。彼女に店あげなって」

「お前もやってくれたら助かるんだけどなぁ」

 正直言って全く継ぐ気はない。漢字は見るのが好きではあるが、それを彫れとなると全くお手上げだ。工作には自信がない。不器用なのだ。



 翌日シフトに入ると、店主の笹置さんがへんにテンションが高かった。原因は何だろうと思って話しかけてみると、一枚の紙きれをくれた。

「今日駅前の反対側でね、カレー屋さんがオープンするんだよ。いやーこっち側にはなかったでしょ、カレー屋さん。さっき俺通りかかったとき余分に食券買っちゃってさぁ、よければ川崎さんもどうぞ」

 そういえば笹置さんは大のカレー好きであった。暇なときのランチメニューは必ずカレーである、と誰かから聞いたような気がする。私もカレーは好きなので一枚ありがたく受け取った。これで今日の夕飯の心配は消えた。家に帰ってもどうせカップ麺があるだけだ。

 勤務後、夕飯は食べてくると父に一報いれてカレー屋さんに入った。ガレージ風の温かい照明が店を包む、飯が進みそうな店だ。狭いわけではないのだが、なぜか立ち食い形式だった。たぶん安岡さんなんかは嫌いだろう。あの人はいつもどこかしらに座って食事をしているところしか見たことがない。

 高い割には出てきたのはちょこっとだった。しかし味はまあまあ良かった。さっぱりとした味に甘辛の隠し味が効いてる。またいつか来るかもしれない。

 カレー屋さんをでてすぐ家に向かった。我が家は駅の反対側で、駅前っていう勤務先の条件は職場では珍しく自分にはあまり有利に働かない。私は速足で急いだ。確かもうすぐ雨が降る予報が出ていたはずだ。まっすぐ帰るつもりだったから、傘なんて持ってきてない。

 空はすぐに雲で覆われた。案の定雨が降り出した。…途中で雨宿りしよう。

 私は一階がピロティになっている廃ビルに駆け込んだ。空を見る。まだ全然やみそうにない。いつ晴れるんだろう…。



                        2

「お疲れ!乙!今日これで終了!」

 やっと駅前ライブが終わった。これ、案外恥ずかしい。先輩たちはこれを足掛かりにプロ目指してる。でもそんなの絶対に無理なんだってことぐらい、この春からバンド始めた俺だってわかる。駅前でやってるのに誰も足を止めたりなんかしてくれない。まるで聞こえないふりなんだ。

 それでも週一でライブハウスを借りたりこうやって無断で路上ライブやったりする。そのために週五で大学の授業さぼってまでバンドの練習してる。それでもファンなんかいない。すべて内輪で完結してる。もう腐ってる。

 なんでこんなことやってるんだろう。親にも友達にも愛想つかされてる。大学は、休学中だ。そうやって後戻りできないように束縛して、後輩を量産する。チケットの売れ残りの販促ノルマは後輩の役割だ。俺も去年は友達を潰しまわされた。

「おい廻田!お前は今日どうする?食いに行くか!ただしお前は自分で払えよ。二年なんだからな」

「へい、行きます」

 どうせほかに行くところなんてありゃしない。



 翌朝俺は母校の高校の職員室まで行って、かつての恩師を呼んでもらった。

「おいおい、お前大丈夫か。休学してるってな。こうやってちょくちょくうちに来てもらって先生はうれしいんだがそろそろ進退考えたらどうだ?正社員だってまだ今からならなれるぞ。それともちゃんと大学行くのか?それはそれで難しいだろ。サークル連中も出入りしてんだからな。就職が現実的だろ。違うか。とりまなんか決めたら連絡くれや。俺は最近のLINEとやらは使ってないんだがこのメールなら通じる。ほれ」

「ありがとうございます、はい。連絡します…」

「お前はブラックなサークルには似合わんと思ってたけどな…。まじめな性格なんだからほどほどにしとけ。いいか、適度に受け流すんだぞ」

 俺はぼぉっとして校舎を眺めた。ふと高校生らしからぬ大人びた服装のグループが歩いてるのが視界に入った。

「あれ、角田先生、あれなんなんすか」

「あー、美術学校のワークショップだよ。最近はどこもいろんなのに生徒を触れさせるってのが盛んでなぁ。ほら、駅前の美専、お前の時も演劇のワークショップに来てたろ。それだよ。ま、お前よりずっとちゃんとした連中さ」

「ま、そうっすね…」

 俺は恩師に礼を言ってから職員室を出た。廊下を歩いてると後輩にすれ違った。

「あ!廻田先輩じゃないですか!ほら一年の時にお世話になった和瀬です。どうしてわざわざうちまでお越しになられたんですか!」

「角田さんに叱られに来たんだよ」

「なっ、先輩一番しっかりしてたじゃないっすか。怒られる要素なんてなんもないっすよ。いやー大学どうっすか」

「まあまあだな」

「ですよねー。また来てくださいよぉ。じゃ、俺これから授業なんで」

 後輩は廊下を駆けて行った。うちの大学にはくんなってこと、また言い忘れた。せめて二つ下にはいい人生歩んで行ってもらいたいものだ。一つ下には悪いことをした。

 


 母校を出て、俺は楽器屋のバイトのシフトに入った。ここだけは結構うまくやれてる。知識は全くなかったが雇ってくれた。それに楽器には毎日触れてられる。だが俺はここのことをバンド連中には伝えてない。今までの生活をやめようとしてもやめられない連中がやめることのできた成功例を目にして何をしだすかはすぐわかる。

 シフトから出て俺は帰路を急いだ。今日は雲行きが怪しい。すっかりニュースの天気情報を見忘れてた。駅へと急ぐ途中、ついに雨が降ってきた。だんだん強くなってくる。俺は近くの一階が広く空いてる廃ビルに駆け込んだ。もう雨宿りしてる人がいる。女だ。その人はこちらをちらっと見てから空に視線を戻した。この人も駅に向かってるのだろうか。俺はその人に倣ってぼんやりと空を眺めた。この雨は、いつやむんだろうか…。



                    3

「おい!起きろ柏木。授業聞いてるのか?ここ試験に出るぞ?」

「あ、角田先生…すみません」

 うっかり私は居眠りをしてしまったようだ。担任の地理の授業、私は結構好きなのに…。

「いいか、OPECはアラブ以外の産油国も加盟してるんだ。で、OAPECはアラブの産油国が加盟してるんだがイランだけは例外で…」

 私は高校で合唱部に入ってる。合唱の大会がすぐひと月に迫ってるのに全然音が合わない。自分だけがなかなかうまくいかず、焦る。家でも帰路でもこっそり周りに聞こえないように練習してるのにいざ練習室で声出しするととんちんかんな声が出てしまう。

 担任の角田先生はそういう私を気遣って合唱部の顧問の先生と相談してくれてるみたいだけど、原因は私にあるのだと思うととても心苦しい。

 毎日の合唱練が、遠く、重い…。

「桜、今日合唱練のあと駅前の喫茶店寄らない?新作のフルーツジュースでのどをいたわろうよ!」

 放課後、同期の仲間が私を誘ってくれたけど、断った。そんな金ないし、そんなところに行ったら、練習もしないで…という声が聞こえてきそうだ。第一、寄り道は校則違反じゃなかったっけ、と頭をよぎる。うちの高校は高校の割には随分と校則が厳しくて、まぁ保護者たちからは好評なんだけれども在校生からはすこぶる不評だ。

 家に帰って今日の練習のおさらいをして夕飯を食べて風呂入って寝る。勉強の時間などみじんもない。でもまだ高校入ったばっかりなんだし、といつも思うのだけれど、お母さんはもう大学受験の心配してる。中高一貫の人たちに遅れてるっていうのが最近の口癖になってきてて今日の夕飯でも飽きもせず同じ文句を繰り返されてしまった。

 でも部活はしっかりやりたい。中学のころパソコン部で幽霊部員になってしまった自分を変えるには、続けていくしかない、と思う。

 次の日はオフだったけれど練習室に入った。大会前だからか、何人かは練習に入っていた。

「あ、桜!聞いてよ昨日ね、駅前の喫茶店寄ったんだけど、店員にドリンクこぼされちゃってさぁ、まあクリーニング代もらったしドリンクタダでくれたからサービスにはけちつけないんだけど、帰ったら怒られちゃってね。校則守りなさい!ってほら厳しすぎるんだよ、校則が。合唱帰りぐらいはのどうるおすのは必要だって…。桜、とばっちり受けなくてよかったね、くそーっ」

 なるほど今日ジャージ登校だったのはそういう理由か。

 放課後、今日も私はまっすぐ帰ることにした。雨が降るとかなんとか、お父さんかニュースが言ってた気がする。傘はうっかり忘れてしまった。

 家は駅を隔て反対側にある。速足で帰る中、駅のところで雨が降ってきてしまった。それでも小雨なら、と思って駆け出す。どんどん激しくなってくる。服はびしょぬれ、たぶん昨日ドリンクこぼされた同期よりもずっと濡れてる気がする。

 もう雨宿りしよう、と思った矢先にちょうどいい感じに一階が広くなってる、誰も使ってなさそうな古いビルを横切った。二人ほど先客がいた。他人同士のようだ。こういう時は気が楽だ。私もそのじめった空間に入り込んだ。二人とも一瞬私を見てすぐ空を見上げた。私も空を見上げる。ちっとも晴れなさそうだ。いつ晴れるのだろう…。

 


                         4

「今日の指導絵自信ある?」

「いや、全然」

「えー、あんたがそんなんじゃ、謙遜しすぎよ。私がどんなにできても威張れないじゃない」

 駅前の美術専門学校、ぼくはそこの二年として学業についてる。入学式席が隣だった彼女とは以来ずっと友人として付き合っている。彼女は内心すでに絵で食っていくことをあきらめていて、まだ続けようとするぼくをうらやんでいる。本当は違うのかもしれないけど、少なくともぼくには、そう思える。

 次の時限はぼくの学科の偉い教授が生徒の絵を指導してくれることになっていた。指導といってもちょっと見て才能のありそうな人にそっと耳打ちするだけだ。ぼくはけっこう声をかけてもらっていて、それはそれで随分うれしいのだが、最近は全く見向きもされないようになっている。いいアイデアが思い浮かばないのだ。

「えー、今月の作品テーマは自然物と人工物との調和ということでみなさんに描いてもらってますが、本日は本校顧問の大野先生にお越しいただいております。みなさんに直接指導されることもあるかと思われますが、その際は失礼のないように…」

 授業が始まってすぐ、大野先生が見回りだした。何人かに声をかけた後、なぜか今日はぼくのところを素通りせず、真っ白なキャンバスを見てそっと耳打ちしてきた。

「題材を変えたらどうかね」

 そしてそのままほかのところへ行った。隣の真美がすかさず口を出してきた。

「ねぇあんた何言われたの?」

「題材変えたらどうかって」

「へ⁉まだ真っ白じゃん」

 驚く真美を尻目に、ぼくは頭にあったものをとりあえずなくして、また考えてみた。

 大野先生が一巡した後、授業はお開きになって自習時間になった。終わりごろになってもまだ全く思い浮かばず、ぼくはただ絵の具をこねるだけで終わった。

 夜ネットを使っていろいろ検索した。SNSでも何人かに聞いてみたが、そうそういい話はなかった。同じクラスの同期なんか、喫茶店で飲み物をこぼして上司に怒られた愚痴しか返してこなかった。

 また明日、探してみるしかない。

 


 次の日は午前中、地域の高校での日本画のワークショップの手伝いに駆り出された。生徒たちはさすがに学科生よりは下手だけれども普通の絵の授業では扱わないような題材を描いたりしていて、なかなか面白かった。

「どうですか、なにか構想は浮かびそうですか」

 ぼくをこのワークショップに動員した教授が、放課後心配顔で聞いてきた。

「山崎君、大野先生もあのようによく見ていらっしゃるし、随分できるほうだと思うのだけれども、描き始めるまでが大変なんだねぇ。でも白紙はまずいから、なにか、なんでもいいから描いていらっしゃい。気の乗らない題でも絵の練習にはなるからねぇ。あ、ほら、山崎君が働いているとかいう具材店でも何か聞いてみるといいんじゃないかねぇ」

 わかりました、とは返事をしたが、あそこの店の店長はあまり話をしてくれる性ではない。

 だが午後、ぼくは画材店に寄ることにした。シフトはなかったが、とりあえず聞いてみても損はないと思った。

「待てば良い。そのうちまた描きたくなる。画家とはそういうものだ」

「ひと月以内に一つ完成させなければならないんです…」

 店長は黙って外を眺めた。そしてそれっきり何も言わなかった。

 ぼくは礼を言って店を出た。やはり収穫はなしか…。

 ふと雨が降っているのに気付いた。最寄りのコンビニに駆け寄る。雑誌越しに外を眺めるが、あまりやみそうにない。これ以上待ってると帰れないかもしれない…。とりあえず駅まで着けば最寄りで降りるまでは外の心配をしなくていい。

 そのとき、ぼくは持ってきた傘を学校に置いてきたことを思い出した。こっちはすぐ回収に行かないと、誰かに使われてしまうかもしれない。そうするとたいてい返ってこない。ぼくの学校はそういうことがよく起こってしまうほど、民度が低いのだ。

 ぼくは意を決して雨の中を走った。

 雨脚は増す一方だ。

 耐えきれなくなってぼくはそばの廃ビルに飛び込んだ。そのビルは一階部分が駐車場だったのか、やけに広くつくられていて、そのせいかもう何人か雨宿りをしていた。ぼくも一緒にビル前の空き地を眺めながら雨を眺めた。…ん?雨?雨といえば…。

  


                         5

 この廃ビルは随分とニーズがあるようだ。雨が降り出して駆け込んだ後、すぐに三人も駆け込んできた。世の中には雨の日に傘も持たないで出かける人が案外多いのだ。

 楽器のような形の大きなザックを背負った学生、少し雨で濡れた女子中高生、びしょぬれでキャンバスのような形の大きなバッグを持った青年。そして全く濡れてない帰宅途中のフリーターである私。

 彼らも私も、何かの途中でこの雨にさえぎられたのだ、と思うと親近感がわいてくる。どこかで見たような、とか思ったりもする。どこかですれ違ってないか、どこかで共通点がないか、そうすれば話しかけられるのに…。

 

 ふと雨の音が遠ざかった。すぐ外の地面に日光が射し込んできた。そして顔をあげると、目の前の空き地の向こうに、きれいな虹がかかっていた。

「やった、これで描ける…」

 誰かがそうつぶやいた。

 隣の学生君と目が合った。

「やばいっすね…」

「あの、どこかで会ったことって、ありませんでしたっけ…」

「さぁ…。でもたまに駅前でライブやってるんで、ご覧になったことあるかも…」

「あ…」

 ああ、あの青年君か。グループの端でギターを弾いていた…。

「あの、なんだか私たちって縁がありそうですね」

「あ、私もなんだかそんな気持ちです!」

 横の女子中高生の子がそう言った。意外と声が透き通ってて私は驚いた。

「じゃあ、今度どこか食べに行きませんか?ほら、そこの青年君も。実は私、いいカレー屋さんを知ってるんです」


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