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EP3『シミュラクラ ―Simulacra― 』


 

 二脚歩行型自律支援兵器シミュラクラ。

 それは通常、脳神経直結方式あるいは機材で遠隔操作を行い運用される。機械仕掛けのロボット歩兵だ。

 基本的に低コストで生産する為に武装、装備、部品に至るまでが完全に互換性を持つようになっており、この惑星ではすべての勢力において普及している。

 地球じゃ御伽噺の域をでていなかったものが、僕らの目の前にある。

 僕ら発電機たちは口々に「ガン×ムだ……」とか「ガサ×キ」とか「ガングリ×ォン」とか「最低野郎」と呟きながら、控えめに言って絶望し切っていた。

 

 ああ、ただの歩兵が防弾装備の充実した遠隔操作されているロボット歩兵に勝てるなんてことはない。

 僕の頭の中にある共和国軍即製歩兵陸戦用0901マニュアルは九十%の確立でインペラール・フョードル大隊の全滅を予見している。

 けれど僕らは歯向かえない。共和国軍基本形態プロトコルがそれを許さない。

 狂気の軍律は僕らの意識とは別によって統制され、今の僕らはアミール・ラダン大尉に戦死を強制させられている立場にある。



「………ぃ、っ」



 くそったれ、などなどの罵詈雑言は共和国軍基本形態プロトコルによって飲み込まれる。

 プロトコルの最終更新日時が数十年前というあたり、このプロトコルは本来なら一端の兵士に強制インストールするようなものではないのだろう。

 僕の周囲にいるパッとしない男たちも悪態がつけないことに気がつくと、もはや諦観に似た笑みを浮かべて口々に語り始めた。


 

「……俺、この戦いが終わったら可愛い女の子見つけて結婚するんだ」


「じゃあ俺はこの戦いが終わったら、花屋になるよ……。母の日はカーネーションをばんばん売るのさ」


「………ここは俺に任せてお前たちは先に行け?」


「観念するんだな、俺たちにもう逃げ場はないぞ! はっはっは!!」


「冥土の土産に聞かせてやろう。俺が、俺たちが……異能穀潰し生存体、その名もNEETだ!!」


「クックック……、俺のシャーリーンなんかあのブリキ野郎をぶちのめしたいなんて語りかけてきてるぜ」


「おいくそったれ! 死なば諸共だ! 俺と一緒に死ねこのブリキ野郎!」


「おまいらやめろ! なんだこれは! 死亡フラグのオンパレードじゃねえか!」



 ああ、うん。

 そうなのだ。はっきり言ってそんな感じだ。

 あまりにも死ぬってことが明白すぎて、いざやりたいことをやろうとすると、僕らはこういう馬鹿なことしかできない。


 アニメの台詞を吐いて見たりとか、今やっているみたいに、どうせ死ぬんだから死亡フラグを積み立てて死んでも仕方ないと割り切ろうとするやり方なんて、第三者からしたら馬鹿どころか狂ったと判断されてもおかしくはない。

 ひとえに恐慌状態にならないのは、なれないからだ。

 共和国軍基本形態プロトコルは僕らの感情から恐怖を奪い去ってしまった。

 僕らは恐怖らしきもの(・・・・・・・)は感じているが、それが意識に作用することはない。



「………どうせなら、あれに乗ってみたかったな」



 スマートライフルMK-17Mod1の初弾を薬室に装填するため、僕はコッキングレバーをぐっと引く。

 カチャリ、カッチャン、と音がなり、スマートライフルは発砲可能状態になる。

 共和国軍即製歩兵陸戦用0901マニュアルが頭にあるから、僕は戦える。僕らは戦える。

 そう、戦えてしまうのだった。


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