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没落のトライアンフ ―部品扱いの僕が機械の彼と繋がる話―  作者: 狛犬えるす
第二章:共和国宇宙軍第三艦隊

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EP33『レフ・レヒト海戦』*Knowledge is power


 第三艦隊が巡洋戦艦一隻を砲撃している間、フスベルタは戦術データリンクで各艦の状況を見て廻っていた。

 昔はいちいち報告、連絡の繰り返しでこれをしていたのだから、技術進化というやつは偉大だと別方向への感想を抱きつつ、彼は表情を歪める。

 艦隊運用において一番目立たず、かつ後世が勘違いしがちで忘れがちなのが、艦隊というのは人間単位で換算するのが馬鹿馬鹿しくなるほどの大飯喰らいのロクデナシだということである。古来より後ろ盾のない小国の海軍国家などなく、多くは国家事業として海軍を、あるいは商業的繁栄を背にした海軍の増強で、その支出を補ってきた。


 共和国はつい半年前までは、後者の方であった。

 地球向け原子力燃料資源や鉄鋼資源の輸出は共和国の十八番であり、第三艦隊の駆逐艦《カミカゼ》などはその成果の一つだ。

 今では輸出所の話ではなく、国家としての体裁を維持するだけでも難しい有様であり、艦艇の補充などは夢のまた夢だ。

 資源惑星であるマリアネスがいくら地下資源に恵まれていたとしても、戦時にそれを遂行出来るほど簡単に採掘はできない。


 唯一、人員も支配権も設備も残っているのはレフ・レヒトを中心とする《MG04》くらいなものだ。

 それでさえこれからの対帝国艦隊とのことを考えれば、資源採掘量と加工可能上限の差が酷くつきすぎている。

 資源があっても加工する時間も人員も、設備も足りない。

 採掘すればするだけ、デッドストックが増えていく。


「こいつは兵站部門を作ったほうが良いかもしれないな」


 略帽を脱ぎつつ、フスベルタは呟く。

 モニターでは巡洋戦艦|《フランツI世》が集中砲火を受けてあちこちから爆炎を吹き出して轟沈していたが、フスベルタは興味を失っていた。

 巨体がぐらりと揺らぎ、ゆっくりと漂うに任せる中、いくつものポッドが脱出していったが、それも爆炎の中に消えていき、ほとんどは無事ではすまなかった。

 生命反応を精査する必要もない。

 床に叩きつけた生卵のようなものだ。


「………彼らが、宇宙基本理念法案を知っていたら、ここまで一方的にはならなかっただろうに」

『地球連邦発布の発布しているものですね。四条には「資源惑星・衛星への致命的攻撃、ならびに大量殺戮を伴う攻撃行為の禁止」とあります』

「その通り」


 エドワルダの言葉に、フスベルタは頷く。


「僕らの兵器の大半は地球からもたらされた技術体系のものだ。それがどのようなものか、僕ら自身が精査する必要がある。共和国はそれをやった。ブラックボックス以外を精査した結果、僕らの兵器は地球連邦の宇宙基本理念法案による攻撃制限があることが分かっていた。とはいえ、一般的に考えられる宇宙戦争においてなにかしら懸念されるものではなかったから、共和国軍でも半ば忘れられている知識だよ」

『帝国ではその知識の風化がさらに早かったというわけですね』

「他にもいろいろ準備してたんだが、まあ第一戦ですべて終わったことを喜ぶべきか」

『だというのに、機嫌は―――』

「しつこい女は嫌われるぞ、エドワルダ」

『私を女として見てくれているなんて恐縮です』

「キサラギ少佐が《カミカゼ》から君を取り外したがってたのに納得したよ、僕は」

『駆逐艦は狭いですからね』

「そうじゃないって」


 まったく、と口をもごもごさせながら、フスベルタはちらりと《フランツI世》だったものへ向けられる。

 今や真っ二つになった船体は、後部は機関の爆発などによって原型を止めることなく破壊しつくされ、艦首もただただ宙を漂うだけとなっていた。

 ついさっきまでは艦首の第一砲塔が砲塔に残された電力でかろうじて砲撃を続けていたが、それがなくなると死んだように静かになってしまった。

 主電源である機関が死んでしまえば、戦艦といえどもその末路は決まっている。

 心臓を潰された巨人が、血の巡りを止めてゆっくりと死に至るのと同じだ。

 フスベルタは、まったくもってその光景が気に食わなかった。


 彼自身にやる気がないにせよ、彼の経歴は艦隊指揮権を有する役職につくだけのキャリアを積んできていた。

 そんな彼であっても、これほどまでの巨大な艦艇が火玉を吐き出しながら轟沈する有様など、今まで見たことがない。

 彼にとってそれは高揚感を与えるものではなく、純粋に失われたものに対しての後悔と自責の念が押し寄せてくるのだ。


 宇宙空間に投げ出された若者たちや、誰かの父、誰かの夫であった者たち。

 艦を建造するために労働に従事した者たちの、純粋な安全航海の念や、建造に要した工費や資材。

 その他諸々をひっくるめて、フスベルタは自分のしたことが、たかだか独りの人間がするには大きすぎると思うのだった。


 フスベルタは戦闘の後処理をエドワルダとパンコ大佐に一任し、席を外した。

 彼はいつものように猫背気味にのんびりと、誰もいないトイレに篭り、そこで吐いた。

 してはいけないことをしてしまった、という思いが、彼の頭にちらついた。

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