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EP9『即製歩兵陸戦用マニュアル ―0901―』

『たかが練習機風情・・・・・が我が家名に泥を塗りおって……』



 エーベルなんとか家のチンカス野郎が、片足立ちしている友軍機に四十ミリ機関砲の銃口を向けた。

 このさき僕が人生において目標とするところは、僕たちニートを侮り蹴散らし、人間扱いをしようともしなかったこのエーベンなんとか家の家名に泥を塗りたくって痰を吐き捨ててやることになる。当面の目標はそれで十分だし人生設計としては申し分ない。

 僕は片足立ちして、まるで鉄屑から出来た案山子ティンマンのような外見の友軍機を信じることにした。

 巨人たちの墓場を作り出したのがなのだとしたら、一瞬でも隙を作ってやれば、あのエーデルなんとか家の馬鹿くらいはやっつけてくれるはずだ。

 

 勝算はそれで十分あると僕は考える。

 もう一機、エーデルなんとか家とは別にシミュラクラがいたけれど、そいつは僕らニートたちに注意を向けて片手間で案山子の警戒をしているから、僕はともかくとして彼は助かるはずだ。


 ―――そう。

 即製歩兵陸戦用0901マニュアルと僕が導き出した道は、そこから不明瞭にぼやけている。

 鉄屑から出来た案山子ティンマンは隙を逃さずに勝利して、わずかに生き残ったニートたちはなんとか生き残るだろう。

 じゃあ、お前はどうなるんだと、疑問が浮かぶはずだ。


 簡単なことだ。

 僕は賭けたんだ(・・・・・・・)

 身心一つずつをオールインして、なけなしのチップを倍以上に増やすために。

 鉄屑から出来た案山子ティンマンは僕が作った一瞬の隙を利用して、あっという間に敵をやっつけてくれるっていう方に。


 冷たくなり強張ったヤクザな男の影に隠れ、血塗れになりながら僕はスマートライフルを持ち上げる。

 照準器と連動しているレーザー測距・目標指示装置をどちらも起動させているため、共和国軍機は基本的なシステムが無事ならこの敵シミュラクラが「爆撃目標」としてマークされているのが分かるはずだ。


 本来、これは空軍の攻撃機が健在で歩兵が航空支援攻撃を要請するときに使うものなのだが、僕と戦闘マニュアルはまったく別の方法にこれを転用することにした。

 正規の戦闘マニュアルなら、こんな使い方を僕に導き出させるはずがないが、0901は僕にその道を指し示した。

 使い捨てである僕は、つまり他のために生きている。

 他のために自分を犠牲にする戦術は自己犠牲行為以外のなにものでもない。

 本来、それは戦術というべきものではないのだろうが、今の僕にとって、それが最善の道だったのだ。


 レーザー目標指示は、文字通りレーザーを照射して敵をマークする。

 このレーザーは視認できないが、レーザー検出装置を装備している敵機ならばレーザーが照射されているその方位と、レーザーの種類がおおよそ判別できるようになっている。

 距離と位置までは分からないが、方位さえ分かればあとはシミュラクラの優秀なセンサー群が対象を見つけ出して排除するだろう。



 ―――ああ、そのセンサー群が(・・・・・・・・)無事であるのなら(・・・・・・・・)、だがな?



 いきなりレーザー照射警報がビービーと鳴り響いたことに驚いたのか、エーデルなんとか家のシミュラクラはよろめいて銃口を一瞬、鉄屑から出来た案山子ティンマンから外した。

 メインセンサーを損失してサブで埋め合わせている状態のシミュラクラが、市街地戦においてどこからレーザー照射を受けているのかを知るのは困難を極めるだろう。

 なんたってビルは数百室もある鉄筋コンクリート製の城塞で、道路から屋上まで多種多様な空間に歩兵は展開できる。

 そして歩兵は、その多種多様な空間からあらゆる火力を敵にもってぶち込むことに長けているのだ。

 さあ、ゴミ扱いした歩兵の恐怖に脅えろよ、と僕は口元に邪悪な笑みを浮かべる。

 

『何だと? いったいどこから―――』

『主人、いけません!!』

 

 四十ミリ機関砲の銃口が外れた瞬間、鉄屑から出来た案山子ティンマンが身じろぎした。

 エーデルのシミュラクラが慌てているのを感じたもう一機の敵は、エーデルのシミュラクラを蹴り飛ばして四十ミリ機関砲と対人用六.五ミリ機関銃を案山子目掛けて掃射しようとした。

 HESHと徹甲焼夷弾の雨が案山子をずたずたに粉砕すればと、そいつはそう思ったに違いない。

 だが、鉄屑から出来た案山子ティンマンはもっと速いのだ。


『ぐぅぅぅっ………!!?』


 交通事故でも起きたんじゃないかと思えるような轟音と共に、片足のシミュラクラが忠実な臣下の乗るシミュラクラに突っ込む。

 突っ込む寸前、片足のシミュラクラの手に銀色に煌くナイフが握られていたのが見えた。

 予備のナイフがあったのかと戦闘マニュアルが考え出し、甲高い破砕音が鼓膜をビリビリと震わせる。ナイフが折れたらしい。


『アルフレッド!? ええい、練習機風情の貴様が、私の顔にどれだけ泥を塗れば―――』

『泥であるうちは安堵することだ。己が血でないだけマシと思え』


 蹴り飛ばされ、姿勢を崩したエーデルのシミュラクラが再び四十ミリ機関砲を構えようとするとき、片足立ちのボロボロのシミュラクラが低く掠れた声で言った。

 そしてそう言うと同時に、は敵から奪い取った四十ミリ機関砲をエーデルのシミュラクラに向けてぶちまける。


再び轟音が響き渡り、発砲音が市街地に反響して鼓膜を割らんばかりの独奏を奏でた。


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