Ⅲ-Ⅴ 黒き使い魔
2017.8/12 更新分 1/1 ・8/25 誤字を修正
「うかつに近づかないようにお願いいたします、クリスフィア姫。この曲者めは、毒を使うのですよ」
十二獅子将にしてダーム公爵騎士団団長たるシーズは、低く潜めた声でそう言った。
賊の逃げ込んだ、ダーム公爵家の別邸である。今その賊は、シーズとクリスフィアとアッカムに退路を断たれて、手負いの獣のようにぎらぎらと両目を燃やしていた。
長い黒髪を奇妙な形に結いあげて、シム風のひらひらとした装束を纏った、浅黒い肌の妖艶な美女――公爵家の当主トレイアスの、侍女であった女だ。いつも主人のかたわらで優美に微笑んでいたその顔は憎々しげな形相を浮かべて、なよやかな指先には湾曲した短刀をかまえている。
「そのあやしい手管によって、わたしは三名もの部下を失ってしまいました。まずは毒の武器で相手の動きを鈍らせて、その隙に咽喉をかき切るというのが、この曲者めの卑劣なやり口であるのです」
「なるほど。さすがはシムの血筋というべきか……シムの民とて、みだりに毒の武器を使ったりはせぬものであるのにな」
クリスフィアは、左手に携えていた松明を壁にかけて、長剣の柄を両手で握りしめた。
女の足もとには咽喉を裂かれた剣士が倒れ伏しており、その手から離れた松明がぶすぶすと絨毯を焦がしている。さっさと始末をつけないと、建物そのものに火が回ってしまいそうであった。
こちらに背を向けたシーズのななめ後方から、クリスフィアもじりじりと間合いを詰めていく。
アッカムも、同じように歩を進めていた。
しかし、いくら大きな屋敷とはいえ、回廊の途上である。三人の人間が横並びで剣をふるえるような空間はない。これではなかなか多勢の利を活かせそうになかった。
曲者たる女は、回廊の真ん中で獣のように腰を屈めている。
シーズは、その正面から女と相対している格好だ。
クリスフィアは、シーズの三歩ほど後方で足を止めることにした。
これ以上前進すれば、シーズが自由に剣をふるえなくなると判断したのだ。
同じことを考えたのか、アッカムも逆側の壁際で足を止めていた。
少なくとも、女の逃げ道をふさぐことはできている。女の後方は回廊の突き当たりであり、大きな扉が設置されていたが、仮に背中を向けて逃げだしたところで、何歩といかぬ内に追いつくことはできるはずだった。
左手側の壁には窓が切られているが、位置は高いし、格子もはめられている。格子の隙間はせまいので、細身の女でも腕ぐらいしか出すことはできないだろう。
「これでは逃げようもあるまい。大人しく縄につけ。お前には、聞きたいことがいくつもあるのだ」
長剣をかまえたまま、クリスフィアはそのように述べてみせた。
湾曲した短刀を手に、女は黙りこくっている。その黒い瞳は正面のシーズだけをにらみつけながら、爛々と燃えていた。
「お前は何故、あのティートという男を殺めようとしたのだ? それは、トレイアス殿の命令であったのか? それとも……お前は、トレイアス殿をもあざむいて、この屋敷に潜伏する暗殺者であったのか?」
「…………」
「それを正直に語る気持ちがあるならば、死罪だけは免れるように、わたしが嘆願してやろう。このまま我々を相手取るよりは生きる見込みも残るかと思うが、どうだ?」
女は、やはり答えない。
「無駄ですよ、クリスフィア姫。暗殺者は、敵の手に落ちるぐらいであれば自らの死を願うことでしょう。わたしとて、三名もの部下を殺めたこの女を許す気持ちにはなれません」
普段は軽妙で、クリスフィアには浮ついて感じられるほどのシーズも、こんな場においては緊迫した声をあげていた。
「どうかわたしにおまかせください。部下の仇は、この手で取ってみせましょう」
「いや、しかし……何か陰謀があるのならば、それを究明することも肝要であろう。わたしは、この女が何故このような暴虐を働いたのかが知りたいのだ」
ティートは王都から特命を受けて、ダーム公爵家の内情を探っていたのだと、アッカムはそんな風に言っていた。
それが真実であるかは不明なれども、クリスフィアには聞き逃せない話である。クリスフィアとて、トライアスやシーズが王殺しの陰謀に加担していないか、それを探るために来訪した身であるのだ。
「あたしは……」と、女が初めて何かを言いかけた。
すると、それと同時にシーズが長剣を振りかぶった。
鋼の刃が一閃し、虚空を叩き斬る。
女は後方に飛びすさり、ぎりぎりのところで斬撃を避けていた。床に落ちた松明の火を映して、その瞳はめらめらと燃えている。
「今、この女は毒の針を放とうとしました。やはり問答に応じる気はないようです」
そのように述べながら、シーズがまた長剣をかまえなおす。
暗がりであるので、クリスフィアには女の挙動をそこまで見定めることができていなかった。
「毒の武器というのは、厄介だな。では、ティートという人物や屋敷の前で介抱されていた武官も、その毒に犯されてしまっているのであろうか?」
これは、アッカムに向けた言葉である。
アッカムは女のほうに視線を向けたまま、無念そうに首を振っていた。
「わたしが始末をつけましょう。おふたりは、どうかそのまま――」
と、シーズが言いかけたとき、いきなり女が身を起こした。
しかし、こちらに襲いかかってこようという素振りは見せず、首をのけぞらして笑っている。そのいきなりの狂態に、クリスフィアは固唾を飲むことになった。
「あんたたち、どうやら本当に何も知らないみたいだねえ! あたしが誰と誰を殺めたって? 身に覚えのない罪までおっかぶせられたら、たまったもんじゃないよ!」
「黙れ!」と、シーズが斬りかかった。
しかし女は再び後方に跳躍し、床にうずくまる。そうして舌なめずりをする女は、まるで人語を解する獣じみていた。
「確かにあたしは、三人の騎士さんの咽喉笛をかき切ってやったよ! 自分の身を守るためだったんだから、しかたないだろう? まったく、心の痛む話さ!」
「黙れと言っている! この汚らわしい暗殺者め!」
三たび、シーズが長剣を振り下ろした。
今度は横っ飛びでその斬撃から逃れて、女はまた笑う。
「暗殺者はどっちだい! あのティートっていう気の毒なお人を斬ったのは、あんただろ! それに、トレイアス様が王都に送ろうとした使者を斬ったのも、あんたとその部下たちじゃないか! あたしらが、なんにも気づいていなかったとでも思ってんのかい!?」
クリスフィアは、戦慄することになった。
しかしシーズは、剣をかまえたまま、肩をすくめている。
「言うに事欠いて、わたしが暗殺者だと? そのような戯れ言で自分の罪をごまかせるとでも思っているのか?」
「だったら、そのティートってお人の傷口を調べてみなよ! あたしの薄っぺらい半月刀で斬られた傷か、あんたの分厚い長剣で斬られた傷か、それぐらいはひと目でわかるだろ? あたしがもうちょっと早く駆けつけていれば、あのお人もあんな目にあわずに済んだろうにね!」
「戯れ言です。信じてはいけませんよ、クリスフィア姫」
さきほどは激昂したかに見えたシーズであったが、その声はもう落ち着きを取り戻していた。
ただし、クリスフィアたちに背中を向けているので、どのような顔をしているかはわからない。
「お姫さんと、包帯のあんた。あんたたち、腕は立つんだろうねえ?」
「うむ? 今度は、何を言うつもりだ?」
「あんたたちの腕は確かなのかって聞いてるんだよ! あんたたち二人が力をあわせれば、この大嘘つきの騎士さんを取り押さえることはできるのかい?」
クリスフィアは一瞬だけ考えてから、「ああ」と応じた。
「いかに十二獅子将のシーズ殿といえども、わたしとアッカムを同時に相手取ることはかなうまいな」
「そうかい。だったら、あとはあんたがたにまかせたよ」
そのように言い捨てるなり、女は短刀を床に落とした。
「お望み通り、お縄についてやるさ。あたしとそいつのどっちが大嘘つきか、思うぞんぶん確かめておくれ」
瞬間、シーズが女のもとに突進した。
しかし、その斬撃が女を襲うことはなかった。
同時にクリスフィアも足を踏み込んで、シーズの膝の裏をおもいきり蹴り抜いてみせたのである。
シーズは転倒し、クリスフィアに向きなおってきた。
その咽喉もとに、クリスフィアは長剣の切っ先を突きつけた。
「申し訳ないな、シーズ殿。あなたに後ろ暗いところがないのであれば、剣ではなく言葉で証しだてていただきたい」
「……それはお前も同じことだぞ、女よ」
くぐもった声が、横合いから聞こえてくる。
クリスフィアが横目で確認すると、アッカムも女の咽喉もとに長剣を突きつけていた。
「なんだい、あたしは武器を捨てただろ?」
「しかしお前は、毒の武器も使うのだろう? それを捨てるまでは、自由にさせることもできん」
「ちぇっ。まあいいや。その大嘘つきを黙らせてくれたんだから、まずは満足しておいてあげるよ」
トレイアスの前では妖艶かつ慎ましやかであった彼女であるが、こちらのほうが本性であるのだろうか。シム風の装束をはだけてにやにやと笑うその姿は、別人のように悪女めいていた。
「では、あなたも刀を捨てていただこうか、シーズ殿。まずは、あの女の言葉の真偽をはからせていただく」
「わたしではなく、その女の言葉を重んずるのですか? とうてい正気とは思えませんよ、クリスフィア姫」
シーズは、とても悲しげな目でクリスフィアを見つめていた。
しかし、クリスフィアは強い眼差しでそれに応じてみせる。
「わたしはどちらか片方の言葉を重んじているわけではない。ただ、真実を知る前にこの女を殺めさせるわけにはいかない、というだけのことだ」
「……その女は、危険です。隙を見せれば、三人ともに魂を返すことになってしまいますよ?」
「案ずるな。あの女が悪人であった場合は、誓ってわたしが処断してやる」
シーズは深々と溜息をついてから、ようやく長剣を手放した。
「了解いたしました。あなたの正しさと力を信じましょう。わたしは、どうすればよいのです?」
「とりあえずは、ともにティートというお人の様子を見にいこう。もしもその御仁が生き永らえていれば、それだけで暗殺者の正体は知れるであろうしな」
「わかりました。それでは、参りましょう」
シーズは、ゆっくりと起き上がった。
それから、ふてぶてしく笑っている女のほうを見る。
「しかしその前に、女の腕を縛っておくべきでしょう。その女は、懐に毒の針を隠しています」
「そうか。では、アッカムよ――」
と、クリスフィアが言いかけたとき、ふいにシーズが身をひるがえした。
性懲りもなく、また女に襲いかかろうというのだ。
その懐から護身用の短剣が引き抜かれるのを目にして、クリスフィアは長剣を振りかざす。刃ではなく、刀の腹でシーズの背中を打つつもりであった。
しかし、その刀が届くより早く、シーズは獣のごとき絶叫をあげた。
短剣を放り出し、顔面をおさえて床にへたりこむ。結果、クリスフィアの刀は空振りすることになった。
「はん! 往生際の悪いこった! まったく、こすずるい悪党だね!」
女はアッカムに刀を突きつけられたまま、ふてぶてしく笑っていた。
その足もとで、シーズは嗚咽のような声をあげている。
「い、いったい何が起きたのだ? お前は指ひとつ動かしていないように思えたが……」
「ふふん。口の中に隠していた含み針を目ん玉に突き刺してやったのさ。どうせ最後に悪あがきをするだろうと思ってね」
女はくびれた腰に手をあてて、毒蛇のようにシーズを見下ろした。
「そいつには、人間の血に反応する痺れ薬が仕込んである。しばらくは足腰が立たないだろうから、これで安心だろ」
「……シムの毒というのは、つくづく厄介だな」
アッカムがうなるような声でつぶやくと、女は流し目でそちらを見た。
「でも、あんたたちには毒針を吹きかけもしなかったろ? それで少しは、あたしのことを信用しておくれよ」
「そうだな。さきほどからわたしたちをあざむこうとしているのは、ずっとシーズ殿のほうであるようだ」
クリスフィアはシーズの襟首をつかみ、その身体を引き起こした。
しかし立ち上がる力はないようなので、そのまま壁にもたれさせる。
「シーズ殿。医術師を呼ぶ前に、ひとつだけ聞かせていただこう。ティートなる人物を殺めようとしたのは、本当にあなたであったのか?」
シーズは右目のあたりをおさえたまま、がくがくと震えていた。
シムの毒草の効果であるのか、その顔は醜くひきつり、鼻汁やよだれをこぼしてしまっている。女泣かせの貴公子の面影は、もはやどこにも残されていなかった。
「答えよ、シーズ殿。しかも、トレイアス殿の使者まで殺めていたと、この女はそのように述べたてていたが、それも真実であるのか?」
「ふふん。こっちから出そうとした使者だけじゃないよ。王都からこっちに向かってきていた使者も、そこで転がってる部下のほうが殺めていたね」
女が、笑いをふくんだ声でそう言った。
「ちょっと前に、姫さんあてに使者が来てただろう? あれできっと、顔を覚えられちまったんだよ。それがまた二日前ぐらいに姿を現したもんだから、まんまと斬り捨てられることになっちまったのさ」
「わたしあての使者まで殺めただと? シーズ殿、それはいったいどういうわけであるのだ?」
クリスフィアは、もう一度シーズの首に刀を突きつけてみせた。
シーズは顔を歪めたまま、ぽろぽろと涙をこぼしている。
「し、しかたがなかったんだ……わたしが命令に背いたら……王都に残した妹が、どんな目にあわされるか……」
「妹君を、人質に取られているのか? いったい誰が、そのように悪辣な真似を?」
シーズは、ぶんぶんと首を振った。
「それを話せば、妹は助からない……クリスフィア姫、どうかわたしの魂をセルヴァに返してくれ!」
「なに? それは、どういうことだ?」
「わたしが死ねば、あいつらが妹をつけ狙う理由はなくなる! わたしさえいなくなれば、妹が危険にさらされることはないんだ! それなら、いっそのこと……」
「馬鹿を言うな。あなたが何を語ろうとも、秘密は決してもらさぬと約束しよう。そうすれば、妹君に危険が及ぶこともないはずだ」
クリスフィアは刀を引き、シーズのもとに屈み込んだ。
シーズは子供のように、ひくひくとしゃくりあげている。
「いや、駄目だ……わたしの手は、罪なき人間の血にまみれてしまった……これではもはや、誰にも顔向けはかなわない。大いなる西方神とて、決してわたしを許すことはないだろう……」
「ならば、少しでも贖罪できるように、正しき道を探すべきではないか? わたしとて、力を貸すにやぶさかではない」
シーズの涙に濡れた瞳が、クリスフィアを見つめてくる。
その瞳には、深い自責と恐怖の光が浮かんでいるように感じられた。
「妹君も、わたしが必ず守ってみせよう。あなたは今からでも、正しき道に戻るのだ。……あなたにこのような運命をもたらしたのは、いったいどこの何者であるのだ?」
「そ、それは……」
「うむ。それは?」
「わ、わたしにこのような陰謀を持ちかけたのは、ジョ――」
「危ない!」という女の声が響くなり、いきなりクリスフィアの身体が突き飛ばれた。
横合いに倒れ込んだクリスフィアの耳に、恐ろしい断末魔の絶叫が響く。
剣をかまえて立ち上がると、壁にもたれたシーズが全身をのけぞらして雄叫びをあげていた。
その首筋に、何か黒くて小さな影が蠢いている。
「おのれ!」とクリスフィアは長剣を繰り出した。
それを回避した黒い影が、ひたりと床に着地する。
それは、うつつのものとも思えぬような、不気味な存在であった。
全身が漆黒の毛皮に覆われており、緑色の目が鬼火のように燃えている。人間の赤児を毛むくじゃらにしたような、頭でっかちの奇っ怪な姿だ。
身の丈は、クリスフィアの膝にも届かないぐらいしかない。しかし、その矮小な身体からは凄まじいばかりの力感が発散されており、クリスフィアはシャーリの大鰐に向かい合ったときにも劣らぬ警戒心をかきたてられることになった。
「そいつは、使い魔だ! 噛まれるだけで、生命は助からないよ!」
床にへたり込んだ女が、わめき声をあげている。おそらく彼女が、クリスフィアを突き飛ばしてくれたのだろう。
「使い魔だと? いったいこやつは、どこから現れたのだ!?」
「そこの窓から、飛びかかってきたんだよ! 刀で殺せるとは思うけど、そいつの血しぶきが肌に触れるだけでも危ないかもね!」
女はへたりこんだまま、ずりずりと後ずさっていく。
すると、それを飛び越えるようにして、アッカムが使い魔に刀を振り下ろした。
背中に目でもついているのか、使い魔は跳躍して斬撃から逃げる。
逃げる先には、クリスフィアがいた。
クリスフィアは、横なぎに刀を一閃させた。
その一撃で、使い魔の小さな身体は真っ二つに寸断される。
それで飛び散った血漿に触れてしまわないよう、クリスフィアは剣の勢いのままに横手へと転がり込んだ。
使い魔の亡骸は、べしゃりと床に飛散する。
そうしてその亡骸は、しゅうしゅうと黒煙をあげながら跡形もなく消滅していった。
「シーズ! おい、しっかりしろ!」
アッカムが、シーズに取りすがる。
しかしシーズは、凄まじい恐怖の形相で息絶えてしまっていた。
「なんてことだ……どうしてこんなことに……」
「こいつは最初っから、呪いをかけられてたんだね。命令に背いたらすぐに生命を奪えるように、あんな妖魔を憑けられてたのさ」
女はふてぶてしい表情を取り戻して、シム風の魔除けの印らしきものを切っていた。
「まったく、周到な話じゃないか。こいつからはずっと嫌な気配を感じていたんだけど、まさか使い魔を憑けられていたとはね。……ま、主様を危険な目にあわさずに済んだんだから、よしとするか」
「主様というのは、トレイアス殿のことか?」
まだこの惨状をどのように受け止めるべきかも判断がつかぬまま、クリスフィアがぼんやり尋ねると、女は「当たり前じゃないか」と口もとを歪めて笑った。
「ギーズのどぶねずみよりもみじめな生活を送っていたあたしを救ってくれたのは、トレイアス様なんだ。あんたたちがトレイアス様に刃を向けるつもりだったら、遠慮なく毒針を仕込ませていただくよ」
「おそらく、そうはならぬであろう。わたしにとっての敵は、おそらくこのシーズ殿を操っていた何者かであるのだ」
クリスフィアはぶんぶんと頭を振って雑念を払いのけてから、不敵に笑う女の姿を見た。
「では、ティートなる者の容態を確かめたのち、トレイアス殿にこのたびの凶事を報告させていただこう。それまでは、シーズ殿の告白は内密にしておくべきだと考えるが、どうだ?」
「さてね。大事なことを決めるのは、主様のお役目さ。あたしは主様のお言葉に従うよ」
クリスフィアはうなずき、まだシーズのもとに屈み込んでいるアッカムのほうにも目をやった。
アッカムは、まるで数年来の盟友を失ったかのような眼差しで、無念そうにシーズの死に顔を見つめていた。