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アムスホルン大陸記  作者: EDA
第二章 ねじれゆく世界
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Ⅴ-Ⅱ 修道女と東の商人

2017.1/30 更新分 1/1

 夜が明けて、太陽神の最初の恵みが峡谷の下にまで差し込んできていた。

 荷車の窓からそれを感じ取ったメナ=ファムは、「ううん」と伸びをしてから身を起こす。


 メナ=ファムのかたわらには、偽王子――いや、シルファが横たわっていた。

 メナ=ファムのほうに身体を向けて、ぐっすりと眠っている。朝日にきらめく銀灰色の髪は、その一本一本がシムの硝子でできているかのように美しかった。


 幼子のようにあどけない寝顔である。

 王子のふりをしているときの、あの凛々しいたたずまいが嘘のようだ。

 そして、彼女がこのように無防備な姿をさらすことができるのは、この世にメナ=ファムとエルヴィルしか存在しないのだった。


(つくづく、救われない話だねえ)


 メナ=ファムはシルファを起こさないように気をつけながら、その銀灰色の短い髪をそっとすくいあげた。

 メナ=ファムの赤くてごわごわした髪とは、まるで質が違う。

 その白い頬も、磨かれた陶磁器のようになめらかだ。

 メナ=ファムが手荒に扱ったら、それだけでこのつくりもののように美しい少女を壊してしまいそうであった。


(これがおんなじ生き物とは……ましてや、おんなじ女だとは、とうてい思えないね。ま、普通じゃないのはおたがいさまだけどさ)


 メナ=ファムは、並みの男よりも背が高い。西の民ならば、メナ=ファムよりも大きな男はそうそういないだろう。しかも長身なばかりでなく、狩人として鍛えぬいている。腕や肩には筋肉が盛り上がり、腹にもくっきりと線が浮かんでいた。


 顔立ちも、まあ勇ましい部類だろう。こんなに乳が膨れていなければ、それこそ男と見間違えられてもおかしくないぐらいかもしれない。黄色い肌も嫌というぐらい日に焼けて、あちこち擦り傷だらけである。


 グレン族の集落でも、女衆の身で狩人になる人間はほとんどいなかった。しかしメナ=ファムは子供の頃から身体が大きく、たいそう力も強かったため、自然に狩人になる道を進むことになったのだった。


(あたしは自分で選んだ道なんだから、後悔なんてしやしない。しかし、人様からの言いつけで女としての幸福を捨てるってのは、いかがなもんかねえ)


 そんなことを考えながら、メナ=ファムはシルファの頭を軽く撫でさすった。

 シルファは「ううん……」と可愛らしく声をあげて、寝返りを打ってしまう。

 その華奢な身体に毛布をかけなおしてやってから、メナ=ファムは音もなく立ち上がった。


 布の肌着と下帯しか身につけていなかったため、大鰐の鱗で作られた装束をひとつずつ纏っていく。外套だけは手をつけず、腰には半月刀を下げ、メナ=ファムは荷車の扉に手をかけた。


「よお、ずいぶん早いな。まだ太陽が出たばかりだぜ?」


 守衛よろしく扉の脇に立ちはだかっていた傭兵たちが、気さくに笑いかけてくる。彼らは交代で寝ずの番をつとめていたのだ。


「狩人の習わしでね、この刻限には目が覚めちまうのさ。団長殿はあたしより早起きだったみたいだけど、どこに行ったんだろうねえ?」


「団長殿なら、シム人のところだよ。俺たちのことを言いふらさないよう、念を押しにいったんじゃねえのかな」


「へえ」とメナ=ファムは視線を巡らせる。

 メナ=ファムたちが休んでいた荷車の隣には、そのラムルエルという東の民の荷車が置かれていた。

 二台の荷台を連結された、とても大きな荷車だ。

 けっきょく彼はなぶり殺しにされることもなく、この陣に留まることを許されたのである。


(というか、偽王子の正体を知る人間を野放しにはできないから、ここに留まるよう言いつけたんだろうな)


 メナ=ファムもまだ彼とは話し足りない心境であったので、そちらに足を向けることにした。

 すると、見張り役の一人が「あ、おい」と声をかけてくる。


「お前に一言、言っておきたかったんだよな。あのさ、お前が王子殿下のお気に入りってことはわかってるけど……あの御方は、玉座を取り戻すために、こんな無謀な戦いを仕掛けてるんだ。だからその、お前もいちおうは身のほどをわきまえておけよ?」


「あん? あたしぐらい身のほどをわきまえてる人間はそうそういないと思うけどねえ」


「だったら、いいけどよ。セルヴァの王子が開拓民の女を嫁にできるはずはねえんだからさ」


 一部の人間は、王子が女狩人に夜伽を申しつけていると誤解しているようなのである。

 メナ=ファムは苦笑して、「ご忠告ありがとさん」とだけ答えておいた。


(ま、あたしのほうが男だったら、まんざらでもないけどさ)


 まだ何か言いたげな男たちをその場に捨て置いて、メナ=ファムはラムルエルの荷車のほうに近づいていった。

 後部の荷台の扉を叩くと、「どうぞ」という低い声が返ってくる。


 扉を開けると、そこではラムルエルとエルヴィルが差し向かいで座していた。

 ただし、シムの商人の荷車であるので、荷台にはぎっしりと荷袋や木箱が詰め込まれている。なんとか中央に場所を作って、膝を突き合わせている格好だ。


「何だ、ずいぶん狭苦しいところに閉じこもってたんだね。ま、外で話せるような話じゃないんだろうけどさ」


 しかたないので、メナ=ファムは立ったまま二人を見下ろすことにした。

 ラムルエルは無表情で、エルヴィルは不機嫌きわまりない面持ちで黙りこくっている。


 いちおう、ひと通りの話は昨晩の内に済ませていた。

 ラムルエルとシルファはどういう関係であったのか、という話である。


「私、セッツの町、シルファ、出会ったのです」


 昨晩は隣の荷車の中で、ラムルエルはそのように語っていた。

 両者が出会ったのは、三年ほど昔のことである。その頃からラムルエルは商人として世界中を放浪しており、シルファのほうはセッツという町で暮らしていた。


 セッツというのは、シャーリの流れの果てに存在する、バルドの内海の港町であるという話であった。

 そのセッツの町で、シルファは修道女として過ごしていたのだという。


「そこはミザの女神を祀る修道院で……彼は、旅の安全を祈るために、その修道院を訪れてきたのです」


 シルファは、そのように語っていた。

 ミザというのは、四大神の子である七小神のひとつで、星々の運行を司る運命神であった。占星の技を重んじるシムの民は、特にこのミザの女神を大事にする習わしを有しているのだ。


「その頃、わたしは胸を病んでいて……この御方が、大事な薬を分けてくださったのです」


「ふん。強欲なシムの民が銅貨も受け取らずに薬を分け与えるなどとは、聞いたこともない話だな」


 昨晩も、きわめて不機嫌そうな面持ちでエルヴィルはそのように述べていた。

 いっぽうラムルエルは、気分を害した様子もなく「はい」とうなずいていた。


「シルファ、とても苦しそうだったので、薬、必要と思いました。ミザの子、捨て置く、よくないと思いました」


「ですが、顔をあわせたのはそのとき限りであったのに、よくわたしをひと目で見分けることがかないましたね。失礼ながら、わたしはあなたのお名前すら失念してしまっていたというのに……」


 泣き笑いのような表情を浮かべるシルファに、やはりラムルエルは「はい」とうなずいていたものである。


「あなた、瞳、印象的でした。また、その姿、ミザのよう、思ったのです。ミザの女神、白い指先、運命を紡ぎます」


 かたや、シルファが彼を見覚えることは難しかっただろう。切れ長の目に高い鼻梁、薄い唇に肉の削げた頬、黒い瞳と黒い肌、グリギの棒のような長身痩躯、というシムの民は、ときおり髪の色が異なるぐらいで、たいてい同じような風貌をしているものなのだ。

 特にこのラムルエルは一番ありふれた黒い髪をしているものだから、他のシム人とまぎれてしまったら、メナ=ファムでも見分けられる自信はなかった。


「あなたは、わたしの恩人です。あなたの助けがなかったら、わたしは三年も前に生命を落としていたかもしれません。……そんなあなたにこんな非礼な真似をしてしまい、本当に申し訳なく思っています」


「非礼、思いません。私、身体、荷物、すべて無事です」


「それでも刀を向けたわたしたちを恨むことなく、あの場で秘密を守ってくれたことにも、大変感謝しています」


 そう言って、シルファはラムルエルの手に取りすがっていた。


「どうかお願いいたします、ラムルエル。これからも、わたしの正体を決して口外しないでください。わたしは……わたしたちは、西の王国を正しい道に引き戻すために、このような真似をしているのです」


 シルファが王国の第四王子の名を騙っているということは、すでに打ち明けていた。傭兵たちはみんなシルファを殿下呼ばわりしていたので、まずはそこを打ち明けないことには話を進められなかったのである。

 シルファの白い指先に黒い指先を握られたラムルエルは、「はい」とあっさりうなずいていた。


「秘密、守ります。私、シムの子ですから、セルヴァの争い、無関係です。シムの民、争いごと、好まないのです」


「ふん。その言葉を信じることができたなら、俺も憂いなく眠ることができるのだがな」


 エルヴィルがそのように口をはさんでも、ラムルエルはやっぱり無表情のままであった。東の民は、人前で感情をさらすことを恥と考えているのだ。


「秘密、明かしても、私、得にはなりません。また、シムの子、他者との絆、重んじます」


「……王子の名を騙って叛逆行為に及ぼうとしている人間を、お前がそこまで重んじる必要があるのか?」


「はい。絆、そういうものです」


 エルヴィルはまったく納得がいっていなそうであったが、昨晩の会見はそこで終わりを迎えることになった。

 しかし、やっぱり納得がいっていなかったので、こうして早朝からラムルエルの荷車を訪れることになったのだろう。今日もエルヴィルは、激情のくすぶる眼差しでラムルエルのことをにらみつけていた。


「……お前はこれから、どの方角に向かう心づもりであるのだ?」


 どうやらメナ=ファムのことは黙殺すると決めたらしく、エルヴィルはそのように述べたてた。

 頭巾を外して黒い髪と黒い顔をあらわにしたラムルエルは、不思議そうに小首を傾げている。


「本当は、王都アルグラッド、向かうつもりでした。でも、あなたがた、戦を仕掛けるなら、危険なのでしょうね」


「ああ、これからの王都ほど危険な場所はないだろうな」


「では、南、向かいたいと思います。王都、世情、不安定ならば、ゼラド大公国、商売したい、思います」


 エルヴィルは、いっそう物騒な感じに目を光らせる。


「ゼラドはジャガルとゆかりが深い。仇敵たる南の民がうようよとしているゼラドで、東の民が商売をしようというのか?」


「セルヴァの領内、シムとジャガル、争うこと、禁じられています。ゼラド大公国や、ジェノスの町、南の民、多いですが、商売、可能です。私たち、セルヴァの法、重んじています」


 しかしエルヴィルは、最終的にゼラド大公国の武力をあてにしているのだ。そんな場所でまたラムルエルと顔をあわせるというのは、なるべくなら回避したいはずであった。


「……お前たちは、マヒュドラの連中とも商売をしているのだろうが? 今はグワラムでの戦いを終えて、しばらくマヒュドラとは戦端が開かれる気配もない。南よりも、北のほうが安全であるだろうな」


「この場所、マヒュドラ、遠いです。また、私、マヒュドラよりも、セルヴァ、縁が深いです。しばらく、セルヴァ、商売を続けるつもりです」


 エルヴィルはがりがりと頭をかきむしった。

 その様子を見つめながら、今度はラムルエルのほうから口を開く。


「私、ひとつ、質問あります。あなたたち、何故、このようなこと、していますか?」


「……何だと?」


「シルファ、争い、好みません。なのに、虚言を吐き、戦、しようとしています。私、不思議です」


 エルヴィルは、眉間に激しくしわを寄せることになった。


「そのようなことを、お前に話す義理はない。異国人には関係のない話だ」


「そうですか。でも、私、シルファ、心配です。彼女、とても、不幸に見えます」


 エルヴィルは無言のまま、腰の刀に手をのばそうとした。

 それを見て、メナ=ファムは「やめておきなよ」と声をあげる。


「そのお人は何も間違っちゃいないだろ? あたしの目から見たって、あの娘っ子はとてつもなく不幸さ」


「貴様! やはり貴様も、あいつのことを――!」


「あいつのことを、何だってんだい? あたしもこのお人も、あの娘っ子の行く末を心配してるだけだよ。どうしてあの娘っ子がこんな馬鹿げたことに身を投じることになったのか、その理由すら知らされていないんだからね」


 エルヴィルは刀の柄に指先をからめつつ、半ば腰を浮かせていた。

 しかしメナ=ファムは、あえて棒立ちのまま、それと相対する。


「こういう話になると、あんたはいつも逆上しちまうよね。ってことは、あんた自身もあの娘っ子に申し訳ないと思ってるんだろ。あんたはそんなにあの娘っ子を大事に思っているのに、自分の復讐心ってやつを捨てる気にはなれないのかい?」


「捨てられるわけがあるか! 俺は……俺はあの下衆どもを斬り捨てるとセルヴァに誓ったのだ!」


「だから、そいつはどうしてなのさ? あんただって、しょせんはどこぞの小さな町で生を受けた傭兵なんだろ? どっからどう見たって、貴族様なんかには見えやしないからね。そんなあんたが、どうして王家の跡目争いなんざに首を突っ込もうとしてるのさ?」


 エルヴィルは答えず、ただ憤怒に両目を燃やしていた。

 メナ=ファムは、小さく溜息をつき――

 それと同時に、「敵襲だ!」の声を聞いた。


 エルヴィルは、眼光を燃やしたまま、立ち上がる。

 それよりも早く、メナ=ファムは荷車の外に飛び出した。


 傭兵たちが、右往左往している。

 昨晩とは逆の側、西の方向で変事が勃発したようだった。


「何事だ! 状況を報告しろ!」


 メナ=ファムを突き飛ばすようにしてエルヴィルが進み出ると、傭兵の一人が駆け寄ってきた。


「敵襲です! 方角は西! その数、およそ二百!」


「二百名だと……ただの巡回の兵ではないな」


 そのようにつぶやいてから、エルヴィルは怒号をほとばしらせた。


「応戦しつつ、退避だ! 東の側から峡谷を出る! 第一班と第二班で敵の進軍を食い止めろ!」


「おいおい、それで大丈夫なのかい? 東の側までふさがれてたら、完全に挟み撃ちにされちまうじゃないか?」


 メナ=ファムが述べたてると、エルヴィルは火のような目つきでにらみつけてきた。


「狩人風情が余計な口をはさむな! あの岩山を迂回して峡谷の東側にまで回り込むには、半日近くの時間がかかるはずだ! 挟み撃ちにされる恐れは薄い!」


「だから、夜を徹して回り込んだもんだから、こうして朝方に襲いかかってきたんじゃないかと思ったんだけどね。ま、戦争屋がそう言うなら文句はないさ」


 メナ=ファムはひとつ肩をすくめてから、シルファの眠る荷車へと足を向けた。


「戦争は戦争屋にまかせるよ。あたしは王子様を守らせていただくからね」


「なに?」


「相手が野党ならともかく、王国の兵士なんざを切り捨てちまったら、あたしも大罪人の仲間入りだろ? あいにく、そこまで腹は据わっちゃいないんだよ」


 通りすぎざまに、メナ=ファムは押し潜めた声でエルヴィルに言い捨てた。


「これが負け戦に終わるようなら、あたしが王子様を連れて逃げてやるよ。あたしにできるのは、それぐらいのこった」


 エルヴィルは怒りの形相で肩を震わせていたが、何も言い返そうとはせず、腰の刀を抜き放った。


「第三班が、先頭を走れ! 第四班と第五班は王子殿下の警護! トトスのない者は峡谷を抜けたのち、散開! 集合場所は、『鬼の口』だ!」


 そうしてエルヴィルは、自分のトトスのもとに走り去っていった。

 荷車のほうに足を向けようとしたメナ=ファムは、ふっと後方を振り返る。

 ラムルエルは、すでに自分の荷車の御者台で手綱を握っていた。


「私、おそらく、あなたがたの一味、思われることでしょうね」


「だろうねえ。せめてこの峡谷を抜けるまでは、兵士たちに姿を見られないよう、せいぜい頑張りな」


「はい。メナ=ファム、ご武運を」


 このような場所で武運を使うつもりはない、と内心でこっそり思いながら、メナ=ファムは荷車に乗り込んだ。

 とたんに、シルファが取りすがってくる。


「メ、メナ=ファム、いったい何の騒ぎですか? 敵襲という声が聞こえてきたようですが……」


「ああ、聞き間違いではないようだよ。いよいよ王国の兵士たちが押し寄せてきたみたいだね」


 シルファは真っ青な顔になりながら、可憐な唇をきゅっと噛みしめた。


「団長様は、逃げ出す準備を始めてるよ。そいつが上手くいくように、あんたもミザだかセルヴァだかに祈っておきな」


 そのとき、御者台の側から男の蛮声が響いてきた。


「出発します! ちょいと揺れるんで気をつけてください、王子殿下!」


 同時に、ガタガタと足もとが揺れ始めた。

 メナ=ファムの胸もとに取りすがりながら、シルファが悲壮な面持ちで声を搾り出す。


「着替えます。申し訳ありませんが、手伝っていただけますか?」


「着替えるって、甲冑にかい? そんなもんを身に纏ったら、自分が王子でございと名乗るようなもんだよ?」


「だからこそです。わたしはそのためにこの場所にいるのです」


 メナ=ファムとしては引き止めたいところであったが、シルファの不思議な色合いをした瞳には、すでに覚悟の光が灯っていた。

 青いのに、奥のほうには血の色が透けている、妖しい宝石のような瞳である。

 メナ=ファムはがりがりと頭をかきながら、揺れる荷台の中でシルファを座らせた。


「わかったよ。準備をするから、そこで座っときな。……ったく、こっちはなるべく人目を避けたいってのにさ」


「はい? 何でしょうか?」


「何でもないよ。甲冑はこっちの木箱だったよね」


 この分では、たとえ傭兵団が全滅しようとも、シルファは偽王子としての運命に殉じてしまいそうであった。


(ま、いよいよおしまいってぐらい追い詰められたら、ぶん殴ってでも大人しくさせてやるさ。どうせこんな茶番は、いつまでも続きはしないんだ)


 いっそのこと、こんな傭兵団は壊滅してしまったほうが話は早いのかもしれない。

 半月も生活をともにした百名もの男どもには申し訳なかったが、それがメナ=ファムの本心であった。


(あんな大馬鹿の大嘘に乗せられちまったのが運の尽きさね。まったく復讐心なんてのはロクなもんじゃないよ)


 そんなことを考えながら、メナ=ファムはぴかぴかに磨かれた白銀の兜や白革の甲冑を木箱の中から引っ張り出した。

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