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アムスホルン大陸記  作者: EDA
第六章 聖戦
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Ⅱ-Ⅲ 混迷

2018.12/15 更新分 1/1

 ジョルアンの死によって、その日の審問は早々に打ち切られることになってしまった。

 神聖なる王宮の審問の場において、ジョルアンと衛兵の二名もの生命が奪われてしまったのだ。まずは王国の威信にかけて、この大罪の犯人を突き止めなければならない。王都の安寧を司る防衛兵団はもちろん、遠征兵団の長たるディラーム老も名乗りをあげて、大がかりな犯人捜しが執り行われることになった。


 そこで第一の容疑をかけられたのは、ロネックである。

 それはもちろん、ジョルアンが魂を返した際に、バウファの発した言葉にもとづいてのことであった。

 しかし、ロネックがその罪を認めることはなかった。


「どうして俺が、あんな柔弱者を毒殺せねばならんのだ? 俺が奴めを始末しようと思ったのなら、真正面から斬り伏せておるわ!」


 審問の場において、ロネックはそのように主張していた。

 そうしてその目は瞋恚の炎をたぎらせながら、バウファをにらみすえていたものである。


「なあ、俺は貴様に問い質しておるのだ、バウファ神官長よ。貴様はまるで、この俺が邪魔な人間を殺して回っているかのような言葉を垂れ流してくれたが……いったい如何なる証をもって、この元帥たる俺を糾弾しようとしておるのだ?」


 そうすると、バウファは死人のような顔色で口をつぐんでしまった。

 レイフォンがなだめても、新王が声を荒らげても、いっさい何も語ろうとしない。そのあわれげな姿を見据えながら、ロネックは毒々しく笑っていた。


「大罪人として糾弾されていたのは、俺ではなく貴様のほうであるのだ、神官長よ! 同じ泥沼に誰かを引きずり込みたいのなら、他の人間を当たることだな! 貴様のような柔弱者にいくら讒言をあびせられようとも、俺は身に覚えもない罪を認めたりはせん!」


 そうしてロネックは、罪人として捕縛されることもなく、審問の間を後にした。

 むろん、防衛兵団から監視の人間が派遣されることにはなったが、証もなしに元帥たる身を捕縛することはかなわない。死したジョルアンの代わりには、バウファとゼラのみが罪人として捕縛される段に至ったのだった。


「まったく、厄介なことになってしまったものだな」


 白牛宮の執務室に戻り、留守番をしていたジェイ=シンにひと通りの説明を終えたのち、そのように述べたてたのはクリスフィアであった。

 侍女のフラウは恐ろしげに身体をすくめており、メルセウスは思案顔で下顎を撫でている。そんな彼らの前に、レイフォンが手ずから茶の杯を並べていくと、フラウは我に返った様子で飛び上がった。


「も、申し訳ありません! 貴き御身に給仕のお仕事などを……」


「かまわないよ。熱いアロウの茶にパナムの蜜をいれておいたからね。飲めば、気持ちが落ち着くことだろう」


 レイフォンはフラウに微笑みかけてから、自分の席に戻ることにした。

 そちらでは、ティムトが杯を並べてくれている。その色の淡い瞳には、無念と後悔の光が渦巻いているようだった。


「ティムトも、大丈夫かい? ジョルアン将軍は、気の毒であったね」


「はい。……こんなことならば、新王の不興を買ってでも、水などを飲ませるのではありませんでした」


 ティムトはあの場で、何とかベイギルスを止めるための言葉を探していたのである。しかし、聡明なるティムトが妙案を思いつくより早く、ジョルアンは毒入りの水を口にしてしまった。これでまた、真実は一歩遠ざかってしまったのだろうか。


「しかし、どうして今さらジョルアン将軍が口封じされなければならなかったのであろうな。あの御仁は、まだ何か秘密を抱え込んでいたのであろうか?」


 熱いアロウの茶をすすりながら、クリスフィアがそのように発言する。

 ティムトは「さあ」と首を横に振っていた。


「何にせよ、僕たちはまた後手を踏まされてしまったのです。敵には、ジョルアン将軍の口を封じるべき確かな理由があったのでしょう。そうでなければ、あのような場で毒殺を企てるわけがありません」


「僕たちは今後、どのように動くべきなのでしょうね?」


 メルセウスの言葉に、クリスフィアが勢いよく振り返る。


「知れたことだ。神官長は敵方の一味であることがほぼ確定しているし、ロネックめもとうてい無関係とは思えん。審問が中途で打ち切られてしまったのなら、自力で真相を探る他あるまい」


 それはあまりに無謀な行いであるように思えたが、案に相違して、ティムトが「そうですね」と同意の声をあげた。


「このままバウファ神官長やロネック将軍までもが暗殺されてしまったら、真実への足がかりがすべて失われてしまいます。今度こそ、先手を打つべきでしょう」


「先手を打つって、どうする気だい? バウファ殿は『裁きの塔』に移送されるんだろうし、ロネック殿は……きっと取り巻きの武官たちに、堅く守られているんじゃないのかな」


 レイフォンが言うと、ティムトは光の強い目をこちらに向けてきた。


「まずは、バウファ神官長です。エイラの神殿の鍵をアイリア姫に届けたところまでは認めたのですから、その前後の秘密に関しても語っていただきましょう」


「うーん。しかし、審問でもないのに、バウファ殿と語ることが許されるのかなあ」


「公爵家の第一子息にして宰相の代理を果たしておられるほどの御方なら、きっと許されるはずです」


 ティムトの声は断固としており、レイフォンの反論などまったく受け付けぬ様子であった。

 すると、クリスフィアが「そうだな」と声をあげる。


「では、わたしはロネックめを受け持とう。何か適当に言いつくろえば、面談ぐらいはかなうはずだ」


「あ、あの恐ろしげな御方のもとにいらっしゃるのですか? それは、あまりに危険であるように思います」


 フラウが、主人の腕に取りすがる。

 すると、向かいのメルセウスが優雅に微笑んだ。


「では、僕とジェイ=シンがそちらに同行いたしましょう。ホドゥレイル=スドラは、レイフォン殿たちに同行するといい。そうすれば、さしあたっての危険は緩和されることでしょう」


「よろしいのですか?」と、ティムトがうろんげな目を向ける。

「もちろんです」と、メルセウスはうなずいた。


「僕にも、今こそが勝負の際なのではないかと感じられます。相手は審問の最中に毒殺を目論むような無法者であるのですから、打てる手はすべて打っておくべきだと思います」


「では、我らはさっそくロネックめの居所を――」


 と、クリスフィアが性急に腰を浮かせたとき、扉が外から叩かれた。

 小姓の声が、来客を告げてくる。その身分を耳にして、その場にいる多くの人間が息を呑んだ。


「聖教団の、ウォッツ様という御方がお目通りを願っております。如何いたしましょうか?」


 ティムトの目配せを受けて、レイフォンは「お通ししてくれ」と言葉を返した。

 扉が開かれて、暗灰色の頭巾と外套を纏った痩身の男が踏み入ってくる。それは、ゼラとよく似た陰鬱な雰囲気を有する人物であった。


「お初にお目にかかります……わたくしはゼラ様の従者で。ウォッツと申します」


「ウォッツ殿か。初めて聞く名だね。私にいったい、如何なる用であるのかな?」


「は……ゼラ様には、自分の身にもしものことがあったら、レイフォン様の手足となって働くようにと申しつけられております」


 そうしてウォッツは、外套の内側から小さな筒のようなものを取り出した。


「まずは、こちらを……ついさきほど、ダームから伝書が届きました」


「ダームから? ダリアスやトライアス殿は、すでに王都に向かっているはずだが」


 その言葉にはかまわず、ウォッツは右手を差し出してくる。

 ティムトがそちらに向かおうとすると、それを制して、ジェイ=シンが立ち上がった。


「おかしな気配は感じないが、いちおう俺が受け取ろう。……お前の主人が罪人として捕らわれたことは、もちろんわきまえているのであろうな?」


「はい……ゼラ様は本日、自由を失うことになるかもしれぬと……あらかじめ、そのようにうかがっておりました」


 ゼラはきっと、審問の場で真実を告白する覚悟を固めていたのだろう。

 ならばその前に、ティムトにすべてを語っていたならば、また別の道も開けたのかもしれないのに――と考えても、詮無きことであった。


 小指ぐらいの小さな筒を受け取ったジェイ=シンは、獣のようにその匂いを嗅いでから、レイフォンたちのほうに近づいてくる。


「とりあえず、毒の臭いなどはしないようだ。それでも用心したければ、手を使わずに開けることだな」


 ジェイ=シンの忠告に従って、ティムトは織布ごしにそれを受け取った。

 そうして筒の封印を解いて、卓に小さな書面を広げる。以前の書面と同じように、そこには虫のように小さな文字がびっしりと書き記されていた。


「差出人は、ダーム公爵トライアスとあります。ダリアス将軍の名は見当たりません」


「ふむ。なんと書いてあるのかな?」


 ティムトはちらりとウォッツのほうを見て、しばし考え込んでから、ようやく口を開いた。


「ダームの港町に妖魅が出現し、ダリアス将軍はその討伐に向かった。そちらの騒ぎが収まるまで、ダームを離れることはできない。……おおむね、そのような内容であるようです」


「妖魅? このように日の高い内から、妖魅が出現したというのか?」


 クリスフィアが大きな声をあげると、ティムトは「はい」とうなずいた。


「ダーム公爵家の章紋が捺されていますので、まずは本物と見ていいでしょう。……ダーム公爵家が襲撃されて、章紋が奪われていない限りは、ですが」


「それなら、妖魅が出現したという話を信じるほうが、まだしも心は安らぐな。……くそ、こちらでは審問の最中に毒殺で、あちらは妖魅の襲撃か」


 クリスフィアは、自分の手の平を拳でパシンと叩いていた。

 ティムトはさらにその文面を熟読してから、細く丸めて筒に戻す。


「では、こちらは王陛下に。……しかし、あなたの主人であるゼラ殿も、その主人であるバウファ神官長も、いまは罪人として捕縛されている身です。本来であれば、神官長の次に責任のある御方を通して、王陛下におうかがいを立てるべきでしょうね」


「は……ですがわたくしめは、レイフォン様のご指示で動くように申しつけられております。レイフォン様のご命令がなければ、そちらの文書をどこかに届けるわけにもまいりません」


「だけど君は、聖教団の人間なのだろう?」


 レイフォンの言葉に、ウォッツはゆるゆると首を振る。


「聖教団の末席に名を連ねてはおりますが、わたくしめはゼラ様の従者にございます……ダームに留まっているティートと同様に、聖教団ではなくゼラ様のご意向を重んずる身となります……」


「そうか。……これは、どうしたものだろうね?」


 レイフォンが目をやると、ティムトはすでに思案の表情であった。


「そうですね。そうは言っても、ゼラ殿は罪人の身です。レイフォン様が罪人たるゼラ殿と通じていると思われては、いらぬ疑いをかけられることにもなりかねません。あなたは聖教団を通さずに、この文書を王陛下のもとまでお届けすることはできますか?」


「は……それがレイフォン様のご命令であれば、如何様にも」


「では、そのように取りはからってください。バウファ神官長に大罪の疑いがかけられている現在、聖教団の中にも背信者がいないとは限らないので、王陛下のご判断を仰ぎたい、とでも言っておけば、まずは十分でしょう」


「承知いたしました……他にご命令などはございませんでしょうか?」


「いまのところは、それでけっこうです」


 ウォッツはトライアスからの文書を受け取ると、うやうやしく一礼して部屋を出ていった。

 扉が閉められてから、クリスフィアがこちらに向きなおってくる。


「せっかくだから、あやつにも何か仕事を頼めばよかったのではないか? ゼラ殿の心づかいを無駄にすることもあるまい」


「僕はクリスフィア姫ほど、ゼラ殿を信頼する気持ちにはなれないのです」


「ゼラ殿は、決して悪人ではないと思うぞ。……まあ、そのあたりのことも、自分の目で確かめてくるがいい」


 そう言って、クリスフィアは颯爽と立ち上がった。


「では、我々はロネックめの首ねっこを押さえてくるとしよう。神官長とゼラ殿は、そちらに任せたぞ」


 クリスフィアとフラウ、メルセウスとジェイ=シンの四名が立ち去っていく。

 残されたのは、レイフォンとティムト、それにホドゥレイル=スドラのみである。

 すらりとした長身で、理知的な眼差しを持つ森辺の狩人は、普段通りの沈着な面持ちでレイフォンたちを見やってきた。


「主人からは確たる言葉がなかったが、要するにあなたがたを守ればいいのだな? 頭を使うのにも少し疲れてきたところであるので、ありがたい話だ」


「ふむ。ちなみに君は、さきほどの審問で何か思うところはあったのかな?」


 好奇心に駆られてレイフォンが尋ねると、ホドゥレイル=スドラは「そうだな」と目を伏せた。


「あのバウファなる者は、虚言ばかりを吐いていたように思う。しかし、あのロネックなる者への恐怖の念は、確かなものであろうから……ジョルアンなる者を弑したのはロネックである、と信じているのであろうな」


「ふむ。ロネック殿を陥れようとして、あのような言葉を口にしたわけではない、と?」


「うむ。かといって、それが真実であるとは限らない。あのバウファなる者は恐怖に目を曇らせているだけなのではないだろうか。……これまでに聞いた話から考えるに、ジョルアンなる者を弑したのは《まつろわぬ民》という輩なのであろうからな」


 そのように述べてから、ホドゥレイル=スドラはふっと目をあげた。

 その瞳には、とても澄みわたった光がたたえられている。


「ただ、俺は……少しおかしな気配を感じている。《まつろわぬ民》というのは、本当に罪を隠す気があるのだろうか?」


「うん? それは、どういう意味かな?」


「審問の場で人を殺めれば、このような騒ぎになることは目に見えている。それに、ジョルアンなる者を弑することで、多くの人間の目がロネックなる者に向けられることになった。最終的に、陰謀に関わった人間を皆殺しにしてしまえばいい、などと考えているのなら、もっと上手いやり口があったはずだ。俺には、むしろ……秘密が暴かれることを望んでいるようにすら思えてしまうのだ」


 レイフォンは、思わずきょとんとしてしまった。


「敵のやり口が場当たり的だというのは、まあ同感だよ。しかし、自ら秘密を暴かれたいなどと考える人間はいないだろう」


「いえ。いま暴かれようとしているのは、あくまで前王殺しにまつわる秘密です。それ自体は、《まつろわぬ民》にとって、どうでもいいことなのかもしれません」


 と、ティムトが静かに声をあげた。


「《まつろわぬ民》の真の目的は、カノン王子にかけた大神の呪いを成就させることなのでしょうからね。前王殺しやそれにまつわる陰謀は、単なるお膳立てに過ぎません」


「いや、だけど……《まつろわぬ民》は、カノン王子の居場所をなくして、王国そのものを憎悪させるのが目的だ、とも言っていたよね? それじゃあ、前王殺しの真犯人が暴かれることは、やっぱり望ましくないんじゃないのかな?」


 考え考え、レイフォンはそのように言ってみせた。


「たとえばこのまま真実が明るみになって、前王を弑した真犯人が暴かれたとしよう。そうしたら、カノン王子は無罪放免だ。大罪人あつかいされなくなったら、王子が王国を憎む理由もなくなってしまうじゃないか。それでは《まつろわぬ民》にとって、都合が悪いのだろう?」


「真実が明るみになっても、カノン王子の帰るべき場所はない。そのような細工が為されているのかもしれません」


 ティムトは何者かの耳をはばかるように、いっそう声を低めていく。


「それに……本来であれば、あの赤き月の災厄の日に、カノン王子は《神の器》として覚醒していたはずであるのです。ベイギルス新王の御世がこれほど長く続くということ自体、《まつろわぬ民》にとっては計算外であったのでしょう」


「ゆえに、場当たり的な対処になっている、ということか。では、秘密が暴かれることを望んでいるように感じられるのは、俺の考え違いなのだろうか?」


 ホドゥレイル=スドラの言葉に、ティムトは「いえ」と首を振った。


「ある意味では、それは正しいのかもしれません。《まつろわぬ民》は、王国の威信が穢されていくことを望んでもいるのでしょう。セルヴァの玉座が穢れれば穢れるほど、カノン王子はこの世に絶望することになるのでしょうから」


「では、我々の行いもまた、《まつろわぬ民》の手の平の上、ということか?」


「そうだとしても、僕たちは真実を明かす他に道はありません。その上で、光のある行く末を探すしかないのです」


 ティムトがいつになく力のこもった声で言うと、ホドゥレイル=スドラは「そうか」と口もとをほころばせた。

 そうすると、東の民さながらの無表情であった顔が、とたんに優しげになる。それは、思いも寄らぬほどに魅力的な笑顔であった。


「光のある行く末のためであるのならば、俺も力を尽くしてみせよう。俺たち森辺の民は、これまでもそうやって自分たちの進むべき道を切り開いてきたのだ」


 ティムトはわずかに目を細めて、ホドゥレイル=スドラの笑顔をじっと見つめた。


「……あなたは聡明である上に、たいそうな人格者であるのですね。少し、羨ましく思います」


 ティムトが他者を羨むなどというのは、かつてないことであった。

 レイフォンが少なからず驚いていると、ホドゥレイル=スドラは「何を言っているのだ」といっそう優しげに微笑む。


「俺がお前ぐらいの頃は、この世の道理もわからぬ見習いの狩人に過ぎなかった。お前はすでに聡明であるのだから、あとはそれに相応しい心を育てていくだけだ」


「それが、難しいんです。僕の心は、すでに屈折しまくってしまっていますので」


「ふむ。何度折れ曲がろうとも、最後に正しい方向を向けばいいのではないのかな。……それにおそらく、お前は自分で思っているほど、曲がった人間ではないのだろうと思うぞ」


 ティムトはいきなり頭をかきむしると、表情を隠したいかのようにそっぽを向いてしまった。


「戯れ言が過ぎました。時が移る前に、為すべきことを果たしましょう。まずは、バウファ神官長との面談です」


「うむ。お前たちの身は、俺が守ってみせよう」


 そうしてレイフォンたちも、白牛宮を後にすることになった。

 ティムトは口を閉ざしてしまい、レイフォンのほうを見ようともしない。レイフォンの目に、それはうかうかと心情をさらしてしまったことを恥じ入っているように見えてならなかった。


(このティムトの本音を引き出すなんて、なかなか大したものだな。そんなのは、私だってひと苦労なのに)


 レイフォンは、呑気にそのようなことを考えていた。

 クリスフィアといい、ホドゥレイル=スドラといい、このたびの陰謀に関わってから、ティムトの理解者が続々と増えているように感じられる。ティムトの行く末を案じるレイフォンにとって、それは大きな喜びであるのだった。


(悪いことばかり続いているんだから、こういうささやかな喜びにひたることぐらいは許されるだろう。この災厄を乗り越えた後にも、私たちには長きの生が待っているのだからな)


 そんな思いを胸に、レイフォンは黒羊宮へと足を向けた。

 まずは新王ベイギルスに、バウファとの面談の許しを得なければならなかった。

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