Ⅱ-Ⅴ 書状
2018.7/21 更新分 1/1
「レイフォン殿、失礼するぞ」
小姓の案内で白牛宮の執務室に姿を現したのは、クリスフィアであった。
扉が閉められて小姓の姿が見えなくなるなり、クリスフィアは「おお」と笑いをふくんだ声をあげる。
「ロア=ファムにギリル=ザザもこちらであったのか。これはわざわざ訪ねてきた甲斐もあったというものだ」
その両名は、ティムトによって妖魅についての指南を受けているさなかであった。
長椅子に座していたギリル=ザザは、クリスフィアのほうを振り返って「これはこれは」と言葉を返す。
「誰かと思えば、アブーフの姫君か。姫君も妖魅についての講釈を聞きに来たのか?」
「わたしとしてはやぶさかではないが、ティムトには邪魔がられそうな様子だな」
卓の上に禁忌の歴史書を広げていたティムトは、じっとりとした目つきでクリスフィアの笑顔を見返した。
「クリスフィア姫でしたら、ご自分でこの書を読まれることも可能でしょう? ようやく半分ほどの説明が終わったところなのですから、また一から説明しなおす時間は残されておりません」
「ふむ。予定通り、二人は今日中に王都を発ってしまうのだな。何とも慌ただしい話だ」
クリスフィアは笑いながら、レイフォンのほうに歩を進めてきた。その後ろからは、フラウがしずしずと追従してきている。いつも元気な主人に対して、フラウのほうはいささか表情が沈んでいるように見受けられた。
「ようこそ、クリスフィア姫。……そちらの侍女は元気のない様子だけれども、どうかされたのかな?」
「フラウは、ロア=ファムの身が心配であるのだろう。何せ、ロア=ファムたちはこの世ならぬ妖魅を退けながら、ゼラド大公国の領土に向かうなどという話を聞かされてしまったのだからな」
その言葉に同意を示すように、フラウはロア=ファムへと切なげな視線を向けていた。
ロア=ファムは何とも言えない面持ちで頭をかき回しており、ギリル=ザザは「何だ」と陽気な声をあげる。
「お前はあちらの女人と恋仲であったのか、ロア=ファムよ? ならば、必ず生きて帰ると約束して、その心を安らがせてやるといい」
「ば、馬鹿なことを抜かすな! 自由開拓民が王国の民と恋仲になど、なれるものか!」
「そうなのか? しかし、あちらの女人はたいそう心配げな様子ではないか」
すると、フラウがこらえかねたように、ロア=ファムのもとへと近づいていった。
そうして長椅子のかたわらに膝をつくと、ロア=ファムの手を握りしめて、その顔を覗き込む。
「ロア=ファム、どうかご無事に戻ってきてください。あなたの身に災厄が訪れないように、わたくしは毎日、西方神に祈りますので……」
「お、お前まで何を言っているのだ。俺が最後に戻るのはシャーリの川辺であり、この王都ではないのだぞ?」
「ええ? まさか、使命を果たしたらそのまま姉君と故郷に戻ってしまわれるおつもりなのですか?」
フラウは思いつめた眼差しで、ロア=ファムの指先をぎゅっと握りしめている。
純情なるロア=ファムは、それでまた自身の髪よりも顔を赤くしてしまっていた。
「だ、だからそういう話ではなくてだな……おい、クリスフィア、あなたも何とか言ってくれ!」
「わたしとて、お前たちを案ずる気持ちはフラウと一緒だ。それに今のは、ロア=ファムのほうが言葉を間違えたのだと思うぞ」
そんな風に言いながら、クリスフィアはフラウの肩にそっと手を置いた。
「フラウよ、ロア=ファムはきっとわたしたちのもとに戻ってきてくれるさ。ロア=ファムもギリル=ザザもたいそうな勇士であるのだから、決して妖魅やゼラド軍などに遅れを取ることはあるまい」
「ええ、それはわかっているのですが……」
「それにな、ロア=ファムは名目上、新王の命令でゼラドにまでおもむくのだから、無事に使命を果たせたとしても、そのまま故郷に戻ることはない。ひとたびはこの王都にまで帰還して、王命が果たされたことを報告しなければならないのだ」
「ああ、それではこれが今生の別れになるわけではないのですね」
フラウはほっと息をついてから、ロア=ファムの赤い顔をまた見つめた。
「それでは、この地でロア=ファムのお帰りをお待ちしています。どうか、くれぐれもお気をつけて……」
「わ、わかったから、いいかげんにこの手を離してくれ」
フラウはその言葉に応じると、申し訳なさそうに微笑んだ。
その姿に、レイフォンは「ふむ」と小首を傾げてしまう。
「彼女はずいぶん思いつめていたようだね。それほどまでに、ロア=ファムの身が心配であったのかな?」
「それはそうであろう。恋仲というのは言葉が過ぎるが、わたしもフラウもロア=ファムのことはかけがえのない友だと思っているのだ。それがこれほどまでに危険な使命を果たさなければならないと聞かされれば、心を揺らされるのが当然であろうよ」
そのように述べながら、クリスフィアのほうは平素通りの勇ましい面持ちである。まあ、軍人と侍女では荒事に対する心の持ちようも異なってくる、ということであるのだろう。
「それでは、姫君たちの心にわずかばかりの安息をもたらすために、私からも言葉を添えさせていただこう。ロア=ファムたちは、ゼラド大公国の領土にまで足を踏み入れるわけではないのだよ。そうだったよね、ティムト?」
「……ええ。王国の兵士を引き連れたまま、ゼラドの領内にまで足を踏み入れることはかないません。こちらの両名には、ゼラド軍が進行してくるであろう王国の区域に向かってもらい、そこで待機していただく予定です」
「うむ。どんなに変装したところで、数十名や数百名もの兵士たちがゼラドの領内に足を踏み入れるのは危険なことだからね。そこまで無謀な真似はさせられないさ」
レイフォンはそのように述べてみせたが、フラウはますます心配げな面持ちになってしまった。
「それはつまり……王都に侵攻しようとするゼラドの軍を、その地で待ち受けるというお話なのですよね?」
「うん? まあ、そういうことだね」
「……ゼラドの軍というのは、数万から成る軍勢であるのでしょう?」
「それはまあ、本気で王都を侵略するつもりならば、五万を下ることはないだろうね」
フラウは深々と溜息をつくと、ほとんど涙をこぼさんばかりの様子でうつむいてしまった。
「それではとうてい、心を安らがせることはかないません。貴き御方のお言葉に逆らうようで恐縮ですが……ますます不安になってしまいました」
「レイフォン殿は存外、女心というものがわかっていないのだな」
クリスフィアは苦笑まじりに言いながら、フラウのか細い肩を自分のほうに引き寄せた。
「大丈夫だよ、フラウ。ロア=ファムたちは、講和の使者なのだ。その使命は、ゼラド軍に気づかれないように偽王子の一団と言葉を交わすことなのだから、数万の軍勢を相手に刃を交えるわけではない。ロア=ファムたちの力を信じて、お前はその帰りを待ち受けていればよいのだ」
「はい……」と応じながら、フラウはそっと主人に身を寄せた。
そこでティムトが、「もうよろしいでしょうか?」と感情を押し殺した声をあげる。
「こちらの両名が無事に戻られるには、妖魅の知識が必要なのです。彼らの無事を願うならば、どうか僕に仕事を果たさせてください」
「まったく、主従ともども、女心のわからぬことだ」
クリスフィアは肩をすくめつつ、フラウをともなって再びレイフォンのほうに近づいてきた。
「従者殿に叱られてしまったので、レイフォン殿にうかがおう。あれからダリウス殿の返事はないのだな?」
「うん。私はそう聞いているよ。まあ、伝書の烏というのは日の出ている間しか飛べないそうなので、いささか時間のかかるものなのだろう」
「ふむ。しかし、王都からダームの距離など、ひとっ飛びなのであろう? わたしとしては、昨日の内に返事が来ることを期待していたぐらいであるのだがな」
ダリアスからの伝書が届けられたのは、昨日の決起の会のさなかである。それからゼラの手によってこちらの返事も届けられたはずであるのだが、一夜が明けて今日となっても、ダリアスからの返事は届いていなかったのだった。
「次にダリアス殿からの返事が届けば、いよいよジョルアン将軍を糾弾できるという話であるのに、どうしてこうまで返事が滞っているのであろうな?」
そう言って、クリスフィアは灰色の瞳を鋭く光らせた。
「よもや……ダームのほうで、新たな変事が生じたのではないだろうか?」
「新たな変事? それは、クリスフィア姫お得意の直感であるのかな?」
「そのようにたいそうな話ではない。ただ、返事が遅いことをいぶかしんでいるだけだ」
「まあ、あちらはトレイアス殿と意見をすりあわせる必要もあるだろうからね。そこのところで、いささか時間をくってしまっているのじゃないのかな」
レイフォンはそのように答えたが、クリスフィアはまったく納得している様子もなかった。
「トレイアス殿とて、愚鈍な人間ではあるまい。ひとたび手を携えると決めたからには、このようなところで二の足を踏むことはないように思える。だかた、わたしにはいぶかしく思えるのだ」
そうは言っても、烏の伝書に頼らなければ、ダームの様子を知るすべはない。いまだ夜が明けて数刻しか経ってはいないのだから、ここはダリアスからの返事を黙って待つしかないように思われた。
「それに、ゼラ殿だな。昨日はけっきょく話も半ばで終わってしまったが、皆はゼラ殿に対する不信感をぬぐうことがかなったのだろうか?」
「いやあ、どうだろうね。私やティムトはもうゼラ殿を信頼すると決めたけれども、ディラーム老やイリテウスなどは、まだまだ納得がいってなさそうだ」
「ふむ。仲間内でもめている場合ではないのだがな。どうしてディラーム老ほど聡明な御方が、ああまでゼラ殿の心情を疑っておられるのであろう」
クリスフィアは、心底けげんそうな様子であった。
レイフォンは、ついつい苦笑してしまう。
「ならば、クリスフィア姫は何故そうまでゼラ殿を信ずることができるのかな? クリスフィア姫とて、ゼラ殿とはまだ顔をあわせて数日ていどの間柄であろう?」
「それは以前も言った通り、ダリアス殿がゼラ殿を信じていたからだ。それに、あなたの大事な賢き従者殿も、ゼラ殿は敵ではないと判じていたではないか」
クリスフィアは、心外そうにそう述べたてた。
「それに、わたし自身もゼラ殿と言葉を交わして、これは信用に値する人間と判じた。わたしの目が曇っているというのなら、レイフォン殿を信ずると決めた気持ちにも疑念を呈さねばなるまいよ」
「なるほど。クリスフィア姫からの信頼を勝ち得たことを、私は心から喜ばしく思っているよ」
レイフォンは笑いかけてみせたが、クリスフィアの表情に変化はなかった。
「それでもまあ……ディラーム老らの気持ちもわからないでもない。ゼラ殿は、何かしらの秘密を抱え込んでいるのであろうな」
「ゼラ殿が、秘密を?」
「うむ。ゼラ殿がカノン王子のために奔走しているという言葉に偽りはないように思える。ただ、それとは別の部分で、何か大きな秘密を抱えているのだと思うぞ」
「大きな秘密か。そういえば、彼が如何なる理由でカノン王子と縁を結ぶことになったかも、話がうやむやのままであったね。エイラの神殿の仕事を手伝っているさなかに顔をあわせたと述べていたが、それでもそうそうカノン王子に近づくことはできなかったはずだ。……と、ティムトがそのように述べていたのだよね」
「ああ。カノン王子は神殿の地下に幽閉されていたのだからな。長年に渡って食事を運んでいた修道女でさえ、数えるほどしか口をきいたことはないと述べていたのだから、余所から手伝いに来た人間では、なおさら顔をあわせる機会などなかったはずだ」
そういえば、クリスフィアは自らの足でその地下の部屋を訪れたという話であったのだった。
「ふむ。確かにゼラ殿は、まだ何か隠し事をしているようだね。……それでも、クリスフィア姫は彼を信じる、と?」
「うむ。ゼラ殿がカノン王子のために、このたびの陰謀を暴きたてたいというのは、心からの真情であるだろうからな。どのような秘密を抱え込んでいたとしても、ゼラ殿が我らの味方であることに変わりはあるまい」
「カノン王子のために、か……カノン王子というのは、いったい如何なる人物であったのだろうね」
レイフォンがそのように述べたてると、クリスフィアはきょとんと目を丸くした。
「わたしなどには答えようのない質問だが……カノン王子がどうしたというのだ?」
「いや、カノン王子と縁を結んだ人間など数えるほどしかいないはずなのに、それを果たした人間はことごとく心を奪われてしまっているだろう? ヴァルダヌスしかり、ゼラ殿しかり、薬師のオロルしかり……噂では、妖魅と見まごうほどの美貌であったそうだけれども、それだけでこうまで相手を魅了できるものなのだろうか」
「さてな。美貌だけではなく、中身も立派な御仁だったということなのではないだろうか。もとを質せば王家の血筋であるのだから、王の器たる人格者であったのかもしれん」
そう言って、クリスフィアは悪戯小僧のように微笑んだ。
「新王ベイギルスが失脚したあかつきには、神聖なる玉座が空になってしまう。カノン王子がご存命で、なおかつ我らの王に相応しき器であったならば、それほど喜ばしい話はあるまい」
「カ、カノン王子を新たな王に据えようというのかい? それは何とも……途方もない話だね」
「それでは、レイフォン殿がユリエラ姫を娶って新王になられるのか? まあ、あの従者殿を宰相にでも据えようというのなら、それも悪い話ではないがな」
クリスフィアは、愉快そうに声をあげて笑った。
「まあ、まずは目前の問題を片付けなければ、王位継承もへったくれもない。王国の明るい行く末のために、忠義を尽くすしかあるまいな」
「……ここ最近のクリスフィア姫は、ずいぶん楽しそうに見受けられるね。表情もずいぶん明るいようじゃないか」
「うむ。いよいよ決戦の時が近づいているように感じられて、気持ちが昂揚しているのであろう。それに、心強い仲間も増えたことだしな」
そのように述べながら、クリスフィアはギリル=ザザのほうをちらりと見やった。
「そうだからこそ、ゼラ殿のことが心配であるのだ。敵は強大であるのだから、仲間内でいがみあっている場合ではあるまい?」
「うん。まあ、根っからの武人であるディラーム老やイリテウスは、なかなかゼラ殿に心を許すことが難しいのだろうね。何せ王都では、武官と神官の仲が険悪であるから――」
レイフォンがそのように述べかけたとき、扉の向こうから喧騒の気配が伝わってきた。
扉の向こうは次の間となっており、レイフォン付きの小姓が控えている。その小姓が大きな声をあげながら、何者かを諌めているような気配であった。
「……はて、いよいよ妖魅が宮殿の内にまで忍び入ってきたのであろうかな」
クリスフィアは腰の短剣に指先をからめながら、怯えるフラウを背後にかばった。
長椅子に座したギリル=ザザとロア=ファムは、それぞれ鋭い視線を扉のほうに差し向けている。が、どちらも腰を上げようという素振りは見せない。
「お、おやめください、将軍様! レイフォン様は、ただいま来客中で――!」
「だから、その客のほうに用があると言っているのだ!」
そんな怒声が響くと同時に、扉が乱暴に開かれた。
そこからのそりと現れた大男の姿に、レイフォンは「おや」と声をあげてしまう。
「これはこれは、ロネック殿であられたか。これはいったい、何の騒ぎなのかな?」
「ふん、やはりここだったか、アブーフの姫君よ。俺の直感も、まんざら捨てたものではないようだ」
レイフォンの言葉を黙殺して、ロネックは荒っぽく言い捨てた。
その怒りに燃える双眸が、執務室に集っていた人々の姿をなぎ払うように見回していく。
「それに、思わぬ顔ぶれもそろっているようだな。そちらの小僧はディラーム老に引き取られた自由開拓民で……そちらのお前は、ジェノス侯爵の子息が引き連れてきた森辺の狩人か」
「ロネック将軍、これはいかなる騒ぎであるのだ? わたしは王都の作法などろくにわきまえていない田舎貴族の出であるが、公爵家の第一子息にこの振る舞いは、あまりに無礼であるように思えるぞ」
腰の短剣に指先をからめたまま、クリスフィアが鋭く言い放った。
ロネックは、凶悪な獣のように笑いながら、そちらを振り返る。
「俺はお前に用事があったのだ、アブーフの姫君よ。お前には、是非とも問い質したいことがある」
クリスフィアが厳しい面持ちで言葉を返す前に、レイフォンは「まあ待ちたまえ」と声をあげてみせた。
「ともかく、中に入られるがいい。君も下がっていていいよ。このたびの騒ぎは、不問とする」
真っ青な顔で立ち尽くしていた小姓の少年は、深々と頭を下げてから扉の外に消えていった。
その扉が閉められるより早く、ロネックはずかずかと室内に踏み入ってくる。
「……そちらの小僧どもは、ゼラドに身を寄せた偽王子を始末するために王都を発つという話だったな。そこでヴェヘイムの若君が、得意の悪知恵を授けているさなかということか」
「うん、まあ、そのように解釈していただいてもけっこうだよ。ゼラド軍から第四王子の威光を削ぎ落とすというのは、私とディラーム老が果たさなければならない王命であるからね」
そんな風に答えながら、レイフォンはちらりとティムトらの様子をうかがった。
禁忌の歴史書はすでに隠されており、卓の上に広がっているのは大陸の地図のみだ。外での騒ぎを聞きつけるなり、ティムトが迅速に対応したのだろう。
「それで、ロネック殿はクリスフィア姫にご用事だそうだね。たいそうな剣幕であるようだけど、いったいどうされたのかな?」
「ふん。たしか以前にも、この話をする際にはお前が立ちあっていたはずだな、ヴェヘイムの若君よ。隠すことでもないので、聞きたいのならば聞かせてやろう」
そうしてロネックは、火のように燃える眼光をクリスフィアに突きつけた。
「アブーフの姫君よ、お前は俺たちに悪さをした人間に心当たりがあると言っていたな。いまこそ、その名を明かしてもらおうか」
「なに? それはいったい、どういう――」
「姫の名を騙って、俺を寝所に呼びつけた不埒者……俺たちを罠に嵌めて、王都とアブーフの絆に亀裂を入れようと画策したのは、あのジョルアンめであるのか?」
クリスフィアは、愕然とした様子で立ちつくしていた。
長椅子に座したままのティムトは、探るような目つきでロネックの巨体を見据えている。
「ロネック将軍よ、それはいったい如何なる話であるのだ? どうして突然、そのような話を――」
「俺のもとに、書状が届けられたのだ! そこには、不埒者の正体はジョルアンであると記されていた! そして、それに手を貸したのは、つい先日『賢者の塔』で魂を返した薬師めであるとな!」
ロネックは、煮えたぎる情念をぶちまけるように言い放った。
「姫はその不埒者の正体に心当たりがあると言っていた。そして、先日には『賢者の塔』を訪れて、その薬師めの屍骸を見つける役回りを果たしたそうだな。ならば、あの書状に記されていた内容が真実であるかどうかもわきまえているのであろう。それを是非とも、この俺に聞かせてもらいたい!」