Ⅰ-Ⅲ 魔なるもの
2016.12/23 更新分 1/1
そしてまた、三人で迎える何度目かの夜だった。
相も変わらぬ夜の森で、へこんだ鉄鍋を火にかけている。さすがにこれだけ日を重ねると、リヴェルもだんだん恐怖の念が麻痺してきてしまっていた。
(これでいったい何日目になるんだっけ……まだ十日は経っていないはずだけど……)
ぐつぐつと煮える鍋の中身をかき回しながら、リヴェルはぼんやりと考えた。
最初の夜以来、晩餐の支度はリヴェルの仕事と定められてしまったのである。
もちろんそれで不満などあろうはずもない。日中の苦難はすべてナーニャたちが肩代わりしてくれているのだから、このていどの仕事ではとうてい恩義を返せるわけもなかった。
特に昨日などは、再び野盗に襲われることになってしまったのだ。
どうやらこの辺りには危険な獣も少ないようで、そうなると、今度は同じ人間が旅人にとっては脅威となってしまうのだった。
きっと野盗はこの森に潜み、石の街道に旅人が通るのを待ち受けているのだろう。リヴェルも家を放逐された当日には、そうしてとぼとぼと街道を歩いているところを野盗に襲われて、森に逃げ込むことになってしまったのだ。
そんな野盗たちと、昨日は森の中で出くわしてしまった。
人数は七名もいたが、しかし、ゼッドの前では何ほどのものでもなかった。あれだけ全身に深手を負いながら、やはりゼッドの剣技は生半可なものではなかったのだ。
野盗どもは森に朽ち、リヴェルたちはまたいくばくかの銅貨や食料を得ることになった。これではどちらが野盗かもわからなかったが、ナーニャたちはまったく悪びれる様子もなかったし、リヴェルも罪悪感を重んじて飢え死にするわけにもいかなかった。
(わたしの魂は、本当にセルヴァに許されるのだろうか?)
聖なる誓いを破った人間や重い罪を犯した人間は、死後に魂を裁かれることになる。そうして西方神セルヴァに許されなかった魂は粉々に打ち砕かれて、虚無の海にばらまかれてしまうのだ。
そうなったら、神々の楽園に住まうことも、また地上に生まれ変わることもできなくなってしまう。魂の消滅こそが、人間にとっては最後に訪れる本当の死であるのだ。少なくとも、リヴェルはそのように教えられ、育てられていた。
「だけどさ、死んだ後のことなんて誰にもわからないじゃないか? たとえ魂の転生というやつが真実であったとしても、前世の記憶なんかはまったく覚えちゃいないんだから」
いつだったか、ナーニャはそのように言っていた。
「少なくとも、僕は前世の記憶なんてこれっぽっちも持ち合わせていないよ。君はそうじゃないというのかな、リヴェル?」
「い、いえ、わたしもそのようなものは覚えていませんが……」
「それじゃあ真実はどうあれ、君という人間の記憶は肉体の死とともに途絶えてしまうんだ。だったら死後の心配をする甲斐もないんじゃないのかなぁ?」
とうてい巡礼者とは思えぬ言葉である。
というか、ナーニャがもう正しい意味での巡礼者でないということは、いいかげんにリヴェルにだってわかりきっていた。
巡礼者というのは俗世への執着を捨て、世界を巡り、西方神セルヴァの教えを説き、そして魂を返す存在であるのだ。自分の身を守るために他者を害し、その金品を奪って生きながらえるなどというのは、神に身を捧げた巡礼者に許される行いではなかったのだった。
「何にせよ、僕たちは金品を奪うために他者を害しているわけじゃない。自分の生命を守るために刀をふるい、その結果として、目の前に転がった金品を得ているだけなんだ。せっかくの銅貨や食料を森の中に朽ちさせたって、誰の得にもなりはしないだろう? それなら、僕たちが生き抜くために使わせてもらったほうが、より正しい形なんじゃないかなぁ」
言っていることは、わからなくもない。たとえば戦場などでは、死んだ兵士から刀や鎧を剥ぎ取って銅貨に換える輩も存在するのだという。それは決して褒められた行いではないが、かといって法で禁じられている行為でもなかった。刀や鎧が敵軍の手に落ちるよりはましだということで、セルヴァにおいては黙認されているのである。
王国の法は、神の法だ。セルヴァというのは王国の名であり、神の名でもある。国王というのは神の代理人であるし、国王の定めた法は神の定めた法に等しい。それで、死人の懐をさぐるという行為が王国の法で罪とされていないなら、死後に魂を砕かれる道理もないはずであった。
「君は物事を生真面目に考えすぎているんだよ、リヴェル。君は北の血を継いだということで散々な目にあってきたはずなのに、どうしてそこまで世の道理なんてものを重んじているのかなぁ」
そのような言葉を述べるとき、いつもナーニャはぞっとするほど冷たい表情になり、そして、その後はたちまち無邪気な顔で笑うか、あるいは慈母のような眼差しでリヴェルを見つめてくるのだった。
「でも、そういう君が、僕は好きだよ。僕はそういう真っ直ぐな心を生まれてすぐに失ってしまったからさ」
十日近くが経過しても、やっぱりナーニャの存在はリヴェルにとって大いなる謎そのものであった。
そんな風に考えながら、リヴェルはかたわらに置いておいた木の椀を取り上げた。
「お待たせしました。鍋が煮えたようです」
今日の鍋には、日中に摘んだ山菜や香草がふんだんに入れられていた。ここしばらくは開拓民の住処にも行き当たらなかったので、萎れる前に使ってしまおうと決めたのだ。
なおかつ、昨日の野盗どものおかげで、また干し肉を手に入れることができた。今度はカロンの牛ではなく、キミュスの鳥の肉だ。キミュスはカロンの足肉ほど筋張っていない代わりに、脂気も少なく味気ない。だが、野菜だけの鍋に比べれば、肉が入っているだけで旨みはまったく異なってくるのだった。
そして、ここ数日はポイタンを切らしてしまっていた。
ポイタンは痩せた土地でも育てることのできる便利な穀物であるが、反面、野生ではほとんど見かけることもない。どこか人里に下りるか、野盗などから奪ったりしない限り、なかなか手に入れることはかなわないのである。
生のポイタンは、湯に溶かしても泥水のような仕上がりになってしまうので、正直に言うと、ないほうが美味しい食事に仕上げることができる。しかしまた、肉や野菜だけではなかなか補いきれない大事な滋養を含む穀物であるのだ。それを数日口にしていないだけで、リヴェルは何となく日中の行軍で身体を重く感じるようになってしまっていた。
「そりゃあそれだけ大事な食べ物だからこそ、みんな毎日ポイタンを食しているんだよ。特に生のポイタンなんて、美味しくも何ともないんだから、食べなくていいなら誰も好きこのんで食べたりはしないさ」
煮汁を注いだ椀を受け取りながら、ナーニャは皮肉っぽく笑っていた。
「ま、明日か明後日にはレイノスの町に辿り着けるはずだから、そうしたらきちんと練って焼きあげた美味しいポイタンを口にできるよ。何なら奮発して、焼いたフワノを買ってもいいね」
「はい……」
力なくうなずくリヴェルを横目に、ナーニャは煮汁をすくった木匙をゼッドの口もとに届けた。
長剣を抱えて座り込んだゼッドは、普段とまったく変わった様子もなく、不自由そうに口の中身を咀嚼する。
続いて自分も煮汁をすすったナーニャは「うん!」と瞳を輝かせた。
「言っちゃ悪いけど、ポイタンがないほうがリヴェルの料理も格段に美味しいよ! 干しラマムの甘さに頼らなくても、この美味しさだもん!」
「ポイタンがないなら、甘くする必要もないかと思って……色々と香草も手に入りましたし」
しかし、この辺りに生えている香草は、名前のわからないものばかりであった。お味のほうも、苦かったり辛かったりで、リヴェルの知るものとはまったく似ていない。それでもこれは口にしても問題ないものだと教えられ、首を傾げつつ鍋に投じたものなのである。
最初の数日は、それを組み合わせるのがとても難しかった。しかし、使っている内にだんだんと感覚がつかめてきて、使う分量や熱を入れる時間にも見当がついてきた。今日の鍋では、その知識を総動員させたつもりであった。
干したアリアもだんだん数が心細くなってきてしまったので、そのぶん山菜をたっぷり使っている。その山菜も、苦みや渋みが強かったりしたので、それを打ち消せるように辛みと風味の強い香草を多めに使っていた。
煮汁をすすると、ぴりっとした辛さが舌を刺してくる。
だが、その辛さが心地好い。
肉や山菜の出汁とあわさり、とても食欲を刺激してくれる。
これで焼いたポイタンの一枚でもあれば、何の不満もないのにな……と、リヴェルは満足と不満の複雑に入り混じった吐息をつくことになった。
「うん、美味しいなあ。リヴェルと巡りあうことができて、僕たちは本当に幸運だったよ」
ゼッドと自分の口に交互に木匙を運びながら、ナーニャは笑顔でそのように述べてきた。
「ねえ、レイノスの町に着いたらさ、リヴェルは食堂か何かで働けばいいんじゃないのかな?」
「……え?」
「見知らぬ山菜や香草でこれだけの料理を作れるんだもん。きっとリヴェルには料理人としての資質があるんだよ。それを活かさないのは勿体ないだろう?」
「いえ、そんな……料理人なんて、とんでもないです。わたしはただ、家でも食事を作らされることが多かっただけなので……」
「別に、貴族お抱えの料理人を目指せなどと言っているわけじゃないさ。宿場町の食堂なんかで旅人のための料理を作るぐらいだったら、十分な腕前なんじゃない? ゼッドはどう思う?」
ゼッドは無表情のまま、こくりとうなずいた。
それは何となく、この厳しい眼差しをした青年にしてはずいぶん子供っぽくも見える仕草であった。
「でも……わたしはひと目で北の血が入っていることが知れてしまいます。こんな人間に厨を任せる食堂なんてないでしょう」
「そんなことないよ。北の血が入っていたって、リヴェルはまぎれもなく西の民なんだから。疑うやつには、何度だって西方神に誓う姿を見せてやればいいじゃないか」
「それでは……わたしとの旅も、レイノスまでということですか? わたしの運命は、わたし自身の手で選ばせていただけるのではなかったのですか?」
涙がにじんでくることを、リヴェルはどうしても止めることができなかった。
ナーニャはびっくりしたように目を見開く。
「どうして泣くのさ? 何度も言っている通り、僕だってリヴェルと離れたいわけじゃないんだよ? ただ、そうしたほうがリヴェルのためなんだろうなって思ってるだけでさ」
「…………」
「だって、一生僕たちと一緒にいるわけにもいかないじゃないか。僕たちは、レイノスにだって一日しか留まるつもりはないんだよ? そうしたら、翌日からはまた流浪の日々さ。いいかげん、リヴェルもこんな生活にはうんざりしているところなんじゃないのかな?」
「……それではナーニャたちは、いったいどこに向かって旅を続けているのですか?」
こらえようもなく、リヴェルは問うてしまった。
優しげであったナーニャの面に、すうっと酷薄な笑いが浮かんでくる。
「知らない」
「知らないって……どこか目的地はあるのでしょう?」
「あるんだろうけど、それがどこかは僕たちにもわからない。僕たちが目指しているのは、ここではないどこかさ」
「ここではない、どこか……?」
「少なくとも、西の王国に僕たちの居場所はないだろうからね。いっそのこと、マヒュドラでも目指してみようか? そうしたら、リヴェルも少しは生きやすくなるのかな? ……ただしそうなると、今度は言葉も通じない北の王国で、北の民として生きていくことになっちゃうけどね」
そんなことが、西の民に許されるはずもなかった。
リヴェルは自分がセルヴァの子であるという誓いを立てることで、生きながらえることを許されているのである。北の民として生きるには、西方神を捨て、北方神の子として生きるという新たな誓いを立てなければならない。それは取りもなおさず、この大陸においてもっとも忌避される、神を乗り換えるという行いに他ならなかった。
「それは別に、絶対の禁忌ではないだろう? たしかセルヴァの東の果てには、南方神を捨てて西方神に神を乗り換えた狩人の一族ってのが存在したはずだし」
「で、ですが、仇国であるマヒュドラに神を乗り換えるだなんて……」
「そんなおかしい話かなあ? 君には半分マヒュドラの血が流れてるんだから、どちらの神を選ぼうと君の自由なんじゃない? むしろ髪や瞳なんかは、北の民としての色合いが出ちゃってるぐらいなんだからさ」
そのように言って、ナーニャはくすくすと笑い声をたてた。
「そう考えたら、僕は君が羨ましいぐらいだよ、リヴェル。生粋の西の民がマヒュドラに神を乗り換えるなんて、そんなのはとうてい許されないだろうからね。神が許しても、その民が許さない。僕たちがどんな宣誓をしたところで、蛮なるマヒュドラの民たちはふざけるなと怒鳴り散らして鉄斧を振り下ろしてくるんじゃないのかな」
「ナーニャ……あなたはいったい……」
リヴェルはまた魂をつかまれて、ナーニャの妖しい美貌に魅入ることになってしまった。
そのとき、ゼッドがやおら立ち上がった。
「うん? どうしたのさ、ゼッド?」
ゼッドは答えず、腰の長剣を抜き放った。
ナーニャは溜息をつき、木の椀を敷物に置いてから、リヴェルに腕を差しのべてくる。
「こっちにおいで、リヴェル」
「い、いったい何だというのですか?」
「わからないよ。でも、ゼッドが刀を抜いたってことは、そういうことだろう?」
ゼッドの視線は、あらぬ方向に向けられている。
のろのろと同じ方向を見やったリヴェルは、思わず悲鳴をあげそうになってしまった。
闇の向こうに、鬼火のごとき眼光が燃えている。
それも一対ではない。数えきれないほどの、鬼火の群れだ。
それは血に飢えた、森の獣どもの眼光であった。
「さ、こっちにおいでってば。あいつらがどれだけ炎を恐れているか、知れたものではないからね」
同じものを見たのだろう。ナーニャがそのように呼びかけてくる。
しかしリヴェルは恐怖で身体がすくみ、指一本動かすことができなかった。
何か、異様であったのだ。
これほどの大群ではなかったものの、夜の森で獣の眼光が閃くのを見るのは初めてではなかった。しかし、それとは異なる異様な気配が、闇の向こうからひしひしと伝わってくるのである。
それに、何かおかしな臭いもした。
肉の腐ったような、おぞましい臭いだ。
空気は、妙に凍てついている。
単なる夜の涼気ではない。衣服の内側にするすると忍び込んでくる、奇怪な毒虫のごとき冷気であった。
「しかたないなあ」という言葉が響くと同時に、ふわりと温かいものがかぶさってきた。
それはナーニャの纏っている革の外套であった。
音もなくこちらに近づいてきたナーニャがリヴェルに寄り添って、その外套で身体をすっぽりくるんでくれたのだ。
「僕から離れるんじゃないよ、リヴェル? ゼッドのそばにいれば、何も心配はいらないからね」
つくりもののように美しいナーニャの身体は、むしろ誰よりも強い熱を持っていた。
まるでその体内に焼けた鉄でも流れているかのように、ぽかぽかと温かい。その温かさが、リヴェルにほんの少しだけ人間らしい感情を思い出させてくれた。
しかし、その後の様相は悪夢そのものであった。
獣どもは、恐ろしいうなり声をあげて、リヴェルたちに襲いかかってきたのである。
青い眼光が、凄まじい勢いで迫ってくる。
その姿が闇から飛び出して、ついに露わになるかと思われた瞬間、ゼッドが長剣を振り払ってその黒影を斬り捨てた。
青黒い体液を撒き散らしながら、獣は闇の向こうへと吹き飛んでいく。
すると、吐き気をもよおす異臭がいっそう強まった。
血の臭いではない。
やはり、肉の腐ったような臭いだ。
ゼッドの刀も、はっきりと青く濡れている。赤くない血をした獣など、リヴェルは見たことも聞いたこともなかった。
「ふうん。どうやらはこいつらは野の獣ではなく、魔物みたいだね」
「ま、魔物? こんな街道からも遠くない森で、どうして魔物なんて……」
「さてね。僕らの凶運が招き寄せてしまったのか……あるいはこの世界が狂いつつあるのかな」
ナーニャは、うっすらと笑っていた。
ナーニャの身体はこんなに温かいのに、その横顔は悪神のように酷薄で冷たく見えた。
「まあ、何がどうでもかまわないさ。僕たちは生き抜くと決めたんだ。邪魔をするやつは、人間だろうと魔物だろうと――四大神だろうと邪神だろうと、すべて滅ぼしてやるんだ」
神を滅ぼすだなんて、冗談でもそのような言葉を口にしてはいけない。
リヴェルはそのように叫びたかったが、また新たな魔物が闇の向こうから飛びかかってきたので、そうすることもかなわなかった。
ナーニャの腕が、ぎゅっとリヴェルの身体を抱きすくめてくる。
ゼッドの長剣が、再び魔物を叩き斬った。
すると今度は、焚き火のすぐ近くにその遺骸が落ちることになった。
ようやく光のもとにさらされたその姿を見て、リヴェルは意識を失いそうになる。
その魔物は、ずんぐりとした胴体に大きな頭、それに奇妙に細長い四肢を持っていた。
顔は横に大きくて、鼻面は潰れている。三角の大きな耳が頭のてっぺんに生えており、口にはぞろりと牙が生えそろっている。
それは、腐肉喰らいのムントであった。
空腹になれば人間をも襲う、危険な獣である。
しかし、ムントであれば何も珍しくはない。
夜の森であれば、なおさらだ。
だから、リヴェルが自分の正気を疑ったのには、別の理由があった。
そのムントは、生きながらにして腐り果てていたのである。
腐肉を喰らうというムントそのものが、腐肉に成り果てている。褐色の毛皮はあちこちがすりむけて、その下から青黒く変色した肉を覗かせており、胸の辺りからは白いあばらが突き出してしまっていた。
それに、ゼッドの刀で断ち割られたのだろう。短い首は半分がたもげかけて、そこから腐った青黒い体液をどろどろと流している。
そうであるにも拘わらず、そのムントは小さな目を青い炎のように燃やし、腐汁を撒き散らしながら、がちがちと牙を噛み鳴らしていたのである。
それに気づいたゼッドが、強靭な足でその頭を踏み砕いた。
それでようやく、腐肉の塊は動くのをやめた。
たまらない異臭が辺りにはたちこめてしまっていた。
「こいつはまぎれもなく魔物だね。死んだムントに憑依してるのか。……憑依されたのが人間じゃなくて幸いだ」
ナーニャの笑いを含んだ声とともに、魔物どもは次々と襲いかかってきた。
十頭を数える、おぞましき魔物の群れである。
ゼッドは長剣を振りかざし、それらの襲撃者を確実に屠っていく。
それもまた、人外のごとき凄まじさであった。
「こんなていどでは、僕たちを滅ぼすことはできないよ。僕たちを滅ぼしたいなら、怒りの雷でも下してみるがいいさ。……本当にこの世界に神なんてものが存在するならね」
リヴェルはもう、ナーニャがどんな表情をしているのかも確かめる気持ちにはなれなかった。
そして、このような場で神に救いを求める言葉を吐いていいものなのか、それもわからぬまま、ただかたわらの存在に取りすがる。
炎の化身のように熱い身体をしたナーニャは、その華奢だが力強い腕でぎゅっとリヴェルを抱きしめてくれていた。
ゼッドの刀は、魔物の最後の一匹を斬り捨てるまで、その動きを止めることはなかった。