おんらいんげーむ(上)
俺は打ちひしがれた。
なんでこうなったのか……。
ことの始まりはこうだ。
オンラインゲームの世界に行けると聞いて「YES」をクリックしたのだ。
確かに、ゲームで作った俺の庭や家などは完璧に再現されている。
そして苦労して育て上げたペットもいる。
そこに何の不満はない。
ただ、ただ。
「何で俺の姫がいないんだー!!」
つい絶叫してしまった。
俺の愛した姫(ゲーム内でのパートナー)。
俺がそれこそこっちに来るのに躊躇わずにクリックした要因だった。
そこに姫が居ればこその選択だった。
毎日、それこそここ五年、寝る時間を削ってまで育てた姫。
そこに俺の諭吉くんが何人、いやなん十人と飛んだことか。
おいおい、そこが一番大事だろ!
察しろと文句を言ったが、「どの世界に合体する姫がいるんですか?」と普通に返されてしまった。
まあ確かに合体する姫が現実世界だったらバイオレンスでホラーになることだ。
言っている意味もわかる。
でも4時間で農作物が出来てしまう畑や寿命が来たら転生をするペット。
そして無限に卵を産み続ける鶏は許されるのか?
俺はこの事を口に出して言いたいところだったが、「そういえばそうですね。回収しないといけませんね」と言われるのが怖いからグッと言葉を飲み込む。
もしそれを回収されたら、生きていくのが困難だからだ。
俺は諦めて(超泣く泣く)姫なしで生きていく道を選んだというか選ぶしかなかった。
と、その事をゲームのリンク(剣姫を愛でようというグループ仲間)にチャット(会話)したら思い切り慰められた。
このリンクには俺と同じく姫をこよなく愛した変態仲間がいるのだ。
リンクは上限である20人。
中には「ペロペロしたい」や「叱って欲しい」という者(ほとんど……いや俺も含め全員)がいるが、ほとんどはコッソリ人に迷惑をかけないで生きている社会人なのだ。たぶん。
ちなみにこっちの世界に来たのは俺一人。
俺宛てにメールで招待されたのだ。
システム(運営)からの招待だったが、まさかのバグだとは。
ちなみにバグは「姫がいないことである」、それ以外は許せる。
で、何故かこっちには俺のノートパソコンがあり、ここで普通にゲーム出来るのだ。
現在も絶賛ゲーム中である。
(ゲームには無論、俺の愛しい姫が居る。傍にはいないがね!)
で、こっちの世界の嬉しいところは、ここに居ればあまり働かずとも生きていけそうなのである。
まあ働いていた会社の人達には多少犠牲になってもらったが、これも俺が楽に生きる為の代償である。
俺の為に諦めてほしい。
無責任だと罵られようが、甘んじて受けよう。
だってこの世界の方が楽に生きられるのだから。
ちなみに俺は宝くじで一等を当てたら、翌日から無断欠勤するタイプの人間である。
仕事の引継ぎなど億の前では些細な出来事でしかないのだ。
俺がどうにか生活出来る一カ月分の給料など億の前には霞んでしまうのだ。
で、もしそこで人生全ての運を使い切って一銭も遣わずに死んでしまったら、それこそ目も当てられない事態である。
よく物語で「立つ鳥跡を濁さず」という諺の通りにする主人公もいるが、人は人。自分は自分なのである。昔だったら違かったかもしれないが、俺も年を重ねて変わったのだ。
もう派手な生活にはそこまで関心は向かないが、一年中ゴロゴロだらだら生きる生活には憧れる。
何もせずに二年プー(金が尽きた)をしていたが、働く気には一切ならなかった。
よく一年も働かないと仕事をしたくなると言われることもあったが自分には当てはまらないようだ。
そういえば両親もいるが、ここ最近というかもう五年ほど帰ってなかったし、兄と弟二人が結婚して孫もいるので俺が海外にでも行ったと思ってくれたら問題なかろう。
家族愛がいっぱいならまだしも、生憎と自分の家はそんな感じではない。みんなほとんど無関心だからな。
現に二つ離れた兄とは十年近く声すらも聞いてないし。
まあ生きていれば問題ないのだ。
人によってはそれが問題あるかもしれないが、十人十色なのだから仕方ない。
今さら家族愛には飢えていないのだ。
姫愛には飢えているがね。
で、こっちに来て半年近くまったりゲームをしている。
ちなみにこのゲーム。もうゲームが開始されて五年くらい経つが、まだ半分近くくらいしか実装(簡単にいうと出来上がってシステムに組み込まれることを指す)されていないので、あと五年は最低でも遊べそうだ。
プレイ人数も増えているらしく激レア以上(一番上のランクとその次のランク)を召喚した人の名前が全表示にしているとひっきりなしに流れてくる。(俺的にはシステムで激レアを当てた人の名前を流す機能には意味がないと感じている)
でそんな最近だが、ある事に気付いた。
どうやら俺はリンク内の仲間にこちらの世界に「招待」が出来るらしい。
ちなみにギルド(急に出てきた単語)とリンクは少し違う。
ギルドはゲームで協力していく事が前提で、リンクは自分の好きな趣味やら初心者向けのアドバイスなどをするような所で主に雑談する場所であり特にゲームとは何の関わりのない話もされているものだったりする。
ちなみに全茶(全体チャット)で、余計なことを書くとブロックされるので主な話はリンク内でされるのがほとんどだ。
で、話は戻る。
「招待」についてだが、俺が招待を送れば相手をこっちの世界に呼ぶことが出来る。
今の生活に足りない物を持ってきて貰えるチャンスであるということだ。
当然、招待なのだから相手がその申請を「受ける」ことも「断る」ことも出来る。
招待をしたからといってリンク内の仲間を一方的にこっちの世界に呼びつけられることもないのである。
だからこそ、こっちの世界の魅力(もう半分はゲームで体感していると思うが)を来て協力をしてもらわなければならない。
ただこちらに大いなるデメリットがある(姫がいない)ので、説明は慎重に。
尚且つ、リンク内の人間しか出来そうもないのでMAX19人(自分を抜かして)しかいないのである。
その中で、何人が現実の生活を捨てられるかが焦点となる。
……何か、こっちにみんな来たがっている。
そういえば、リンクは変態さんの巣窟だったし。
「仕事? 俺が居なくても問題ないよ」とか「倒産しちまえー」とか「ボーナス欲しかったが、もう金自体いらないしね」とかあっさりした物だった。
とはいえ実際には、すぐ来れる人間が五人。
一か月以内が十二人。
超迷っている人が二人という結果になった。
ちなみに全員が独身だった。(バツは二人)
でバツの人は、すぐ来れる五人だった。
そんなこんなで、リンク内ではゲーム内での家の改造工事が始まっている。
この家なのだが、訪問できるので一軒一軒のぞいて野菜やらペットが極力かぶらないようにしている。
ちなみに家での置き物は百個、ペットは三種類が上限となっている。
必要な物を入れて作っている。
よくゲーム内だと部屋に畑を作る人も結構いる(うちにもいた)が、無論そのような無謀な家はリセットされ各々頭をひねって作っている。
ゆるい、それこそ趣味で家の中が空っぽという人が珍しくないゲームで、一日に十時間も掛けて家を改造している奇特なリンクは俺たちだけだろう。
でも仕方ないのだ。生きていく為だからだ。
だが、もし……もしこっちの世界に招待する機能が正常に働かなかったら……。
やべ。
その時はリンクから俺は脱退しよう。(除籍されるともいう)
もうそんな事を思っても言えないで、ドキドキしていた俺が見守って五日。
とうとう招待機能を使う日がやって来た。