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02:女神が適当すぎる

 ズザァァァーッ!!


 熱血高校球児並みのヘッドスライディングを華麗に決めて、俺は家の敷地内から脱出を果たした。しかし、そこでふと冷静になる。


 ここが公道だったら、俺の額は今頃アスファルトで削れて血まみれだ。


 ゆっくり顔を上げると、そこには見覚えのない草むらが広がっていた。驚き、急いで立ち上がる。


 そうして見ることとなった家の外の全貌は、まさに異郷とでも言うべき代物だった。アスファルトの海は緑の絨毯へと変わり、そしてその草原は我が家を中心に円状に広がっていた。その草原を縁取るのは、幻想的な雰囲気を醸し出す見たこともない異形の木々…。


 まさか、異世界…?


 そんな考えがふと頭をかすめたが、それ以前に確認しなければならない事項があった。ハッと思い出し、振り返る。


 そこには、巨木、いや、もう城と言ったほうがいいやもしれない。我が豪邸を取り込んで異形の建造物と化したその樹木は、摩天楼の如く、はたまた魔王城の如く、天空を貫き、大地に君臨していた。


 うへー、まじですかー。


 あまりの出来事に呆然としていると、どこからか声が聞こえてきた。なんかありがちな展開…!


「あらあら、神聖なる世界樹様の麓に、汚い虫けらが一匹…」

「え、虫けら?」


 思わず聞き返した俺に放たれたのは、謝罪の言葉ではなく強大なエネルギー。迫り来るパワーに危機を感じ、反射的に飛び退く。


「あらあらあらあら、やたらに身体能力が向上しておりますわね。これも世界樹様の恩恵なのでしょうが…」


 言葉を言い終えると同時に、空中で何かが激しく渦巻くような音が聞こえた。それも、無数に。


「この数は、避けられますかッ!」


 浮遊する風の弾丸が、一斉に発射された。


「無理無理無理無理ッ!避けられない!」


 両手を顔の前に出し、俺は必死に白旗を上げる。いや、白旗も何もないけどね?一方的に喧嘩振られただけだけど!


 そんな理不尽な状況に早速死を覚悟したが、間一髪、風の弾丸は俺の体を撃ち抜く前に形を失い、つむじ風となって解けるように消えた。


「あらあら、よく見てみれば、貴方、別世界の住人ですわね?うふふ、こりゃまた失礼…」


 そう言って俺の前にふわりと舞い降りたのは、青色のロングヘアを風にたなびかせた一人の女性。なんだろう、俗に言う天使に近いような格好をしている。


「私はこの世界の女神です。そして、貴方のご自宅?なのかしら、あの建造物を内側から破壊していったあの樹木は、世界樹様です」

「すみません、意味が全然…」

「黙ってて?」

「酷い!」

「世界樹様は、この宇宙をその御身体で形成されておられます。しかし先日、世話係の不注意により世界樹様のその御身体は朽ち果ててしまいました…。そのため、別世界にてご隠居されておられた前世話係長の育てていた世界樹様の予備の御身体をこちらの世界へ転送したのですが…」

「…その世界樹様とやら、俺の爺ちゃんのなんだけど…」


 言うなり、女神を名乗る女はニヤリと笑った。嫌な予感がする。


「そうですか、貴方が!かの大魔導士ゼクセル様のお孫さんでありましたか!」


 …?大魔導士?


 俺の爺ちゃん、大魔導士だったのおおおおッ!?


「うふふ、知らずに攻撃してしまいすみません。そうですね、ゼクセル様は素晴らしい魔術の使い手でした。貴方を見ると、その才能は受け継がれてはいないようですが」

「ち、ちょっと待て!頭の回転が追いつかん!つまり俺は…これからどうすれば?」

「どうすればって…」


 女神は斜めに首をかしげながら、考え込んだ。


「今まで通り、普通に暮らしていただければ…」

「出来ねぇよ!断じて普通なんて出来ねぇよ!この状況で、どうやって普通に暮らせばいいんだよ!」

「でも見てください、貴方の家はまだ原形を保っていますよ。それに、世界樹様のご加護があるので、簡単には滅ぼされませんし」

「え、滅ぼす…?」

「なんでもありません。それよりも、どうですか、世界樹様のお世話係になってみるというのは?」


 女神が話を変えるために持ち出した提案に、俺は一瞬興味を引かれた。この世界樹とやらの世話?俺の爺ちゃんの仕事か…。


「あの事件があってから、世話係がみんな辞めてしまって…。困っていたんです。どうです、どうせ元の世界には戻れないんですし、やってみません?」

「え、今なんて…」

「やってくれる!やってくれるのですね!ありがとうございます!これがマニュアルです、活用してください。じゃあ私は他に仕事がありますので、ここらで失礼します」

「えっ、えっ、ちょ、待って!待ってくれ!」

「バイ!」


 女神は消えた。煙のように。ついでに、いろいろなことを煙に巻かれた気がする。


 なんかもう、どうせどうすることもできないし、マニュアルとやらを読んでみるか…。


『女神の簡単ガーデニング〜世界樹編〜』


 えー、大丈夫かなこれ、明らかに手刷りなんですけど。修学旅行のしおりじゃないんだから…。半ば呆れながら、仕方なくそのページをめくる。


 最初のページは、目次。それぞれのページにどんな内容が書かれているかが簡単に記されている。ズラッと目を通すと…。


「なっ、『妖精の栽培方法』…だとッ!?」


 妖精て栽培できんの!?栽培するもんなの!?急に興味が湧いてきた。そもそも、俺が今いるのは異世界なんだぞ?よく考えれば、興味を引かれるものしかないじゃないか。


 妖精とやらが、可愛い女の子だったらいいなー。そんなことを、素で考えてしまった俺であった。



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