01:安定の異世界転移
今は、どんどん創作意欲が湧いてくるッ!という感じですが、いつ僕の中の○伴先生が意気消沈されるかわかりません。また、先生ほどベテランでもないので、まだまだ至らない部分があると思います。そんな時はご指摘頂ければ幸いです。
昨日、大好きだった俺の爺ちゃんが死んだ。心筋梗塞だった。
夏休みも始まったばかり、ギラギラと照りつける真夏の日差しを浴びながら、祖父の家の縁側で休み中の予定を和気藹々《わきあいあい》と話し合っていたときだった。急に胸を押さえ、苦しそうに呻く夫の姿に異常を察した祖母が受話器を手に取る頃には、爺ちゃんは動かなくなっていた。
通夜は明日、葬式は明後日。俺の都合上、葬式に出席することはできない。そのため、何も無い今日一日を過ごすのは鬱だ。八十代後半に達していたのだから、無理も無いが…。
やはり、同居人が減ると寂しいなぁ…。
すっかり静閑としてしまった祖父の家の縁側で、うちわを忙しく動かしながら空を見上げる。そこには、憎らしいほどに眩い光を放つ太陽がゆらゆらと陽炎の中で震えていた。
額を、汗が伝う。時間が長く思える。こうして休憩を始めてから一時間は経ったように感じたが、部屋の壁掛け時計を見る限り、まだ十分も経過していない。
時間を確認したせいで、見たくないものまで見えてしまった。俺がこうして休憩することになった原因。爺ちゃんが遺した『遺産』という名のガラクタども。ろくに鑑賞もしない骨董品の数々、年代物の電化製品、ところどころページが破けた成人向け週刊誌…。
「これ全部って、婆ちゃん人使い荒すぎ…」
「これっ、吟治!口ばっかり動かさないで、とっとと働けィ!」
この場面で、ヒィィィごめん婆ちゃん!なんて言葉に出そうものなら、「誰が婆じゃこのバカタレッ!」と鬼のような迫力で返すのが、俺の祖母、樹神 桔梗である。八十を超えたというのに、まだまだ元気である。
ちなみに、爺ちゃんの名前は環。二人の間に生まれたのが俺の父、森也で、その妻、仙花との間の子が俺、吟治というわけだ。はい、俺の家族構成の説明おしまい。
まあ、俺は海外出張の多いビジネスマンの二人とは離れてこの家に住まわせてもらっているので、両親とはあまり会えないのだけれど。
「吟治ィ!ちょっとあたしゃ買い物行ってくっからねェ!しっかり掃除しとくんだよゥ!」
「ヘイヘイヘーイ…」
そうして買い物袋を提げて出て行った祖母の背中を見送り、俺はリビングへと向かった。その脚の低いテーブルには、爺ちゃんが丹精込めて育ててきたであろう数々の盆栽が樹海のようにそこに繁っていた。
「これ、どーすんの…?」
まさか、生き物だし捨てるってわけにはいかないもんな?そんなこと俺にはできない。かといって、どう面倒みりゃいいかわかんねーし…、うおおめんどくせー!!
とりあえず、冷蔵庫に詰め込んだ。
「これでひとまず安心っと…、ありゃ?」
視界に映る全ての盆栽をしょぶ…保管したつもりだったが、よく見るとまだ一つ鉢が残っていた。蛇の装飾が施された豪華な植木鉢。その中に力強く根を張り生を謳歌する逞しいその幹に、俺は感動を覚えずにはいられなかった。
きっと、最も爺ちゃんが大事にしていたに違いない。自然とそれを思わせる風格を、その盆栽は漂わせていた。
そして無意識に、俺の腕が盆栽に伸ばされていくその途中で、異変は起きた。
突如、ひび割れた幹が黄金に輝き始め、深緑の葉は心臓のように鼓動を始めた。そして何より、そのサイズが肥大化していた。
あまりの急展開に声も出ず、ただただどこぞの豆の樹のように成長を続ける盆栽を見上げる俺。え、ちょっと待って、なんか屋根突き破ってんだけど!?
その時、鉢に収まりきらなくなった老木の根が大蛇のように巨大化して出てきてしまった。つーかよく今まで耐え切ってたなあの鉢!
いやいや、それどころじゃないな。荒波のように迫り来る無数の根から己の身を守るべく、俺は外への脱出を図った。もうこの際この家とかどーでもいい。爺ちゃんとの思い出とか、エロ本強制的に読ませられたことくらいしかないし。大好きとか言ったな、あれは嘘だ。
そうして光の差し込む縁側から飛び降り、真っ先に門へと向かった。無駄に豪邸なので、捨てるのは惜しいが…、許せっ!
そして、無用心に開け放たれた門が繋ぐ、我が家と公道との境界線を必死の思いで飛び越えようとしたその瞬間。
俺は爺ちゃんの盆栽と合体した我が家とともに、無事に異世界転移を果たしたのだった。